Side:雪奈


あふ……今日も今日とて一日のはじまりだな――今日も目覚ましが鳴る前に目覚めた事を考えると、アタシに目覚ましが必要なのかは甚だ疑問
ではあるが、まぁあって困るもんじゃないから不問にしておこう。

でもって何時もの登校路――そろそろアイツと会う所だな。

「よう、おはようさんマユ。」

「おはようございます雪女さん。」



今日もバッチリ何時もの場所で合流だな――って、お前今日は朝食登校かマユ?



「お恥ずかしい事ですが少し寝過ごしてしまいまして、朝ごはんを食べている暇がなくなってしまったので、駅前のパン屋さんで朝食を調達した次第
 です。」

「成程な……で、そのパンは何だよ?可成りヤバそうな感じなんだが。」

「新作の『抹茶クリームスパゲッティサンド』ですね。」

「……美味いのか其れ?」

「とっても微妙な感じですが、コアなファンが付く可能性は否定できませんね。」


その感想だけで、ドンだけヤバい物なのかってのが分かったぜアタシは……名前からしてヤバいとは思ってたが、如何やらアタシの予想以上にヤ
バイモンだったみたいだな――尤も、其れを普通に買うコイツに驚きだけどよ。









ヤンキー少女とポンコツ少女とロリッ娘とEpisode2
『此処に集いしは3つの雪みたいだ』










そんなこんなで登校した訳なんだが、正門前で嫌な奴に会っちまったなぁ……まさか、正門前で張ってるとは思わなかったぜ委員長さんよぉ?
一体何の用だってんだ――シンプルに述べな。



「一体何の用かですって?貴女自身が良く分かって居るんじゃありません事?」



コイツはアタシのクラスの級長『小和泉花音』。通称『委員長』。
長い黒髪を一本の三つ編みにして、更に眼鏡装備で微妙な丁寧語と言うか、委員長口調で話す、ちょいと時代錯誤な女子高生。噂では両親は大
企業の重役……同じような両親を持ちながら、アタシとは全く対極の存在って奴だな。

「はいはい、覚えがあり過ぎて分かりませんなぁ?
 今日は何だ?昨日授業サボった事か?其れとも帰りに他校の生徒と喧嘩してぶちのめしちまった事か?或は、商店街でたむろってたチンピラ共
 を野郎オブクラッシャーした事か?」

「どれも違います!と言うか、他校の不良は兎も角、チンピラを叩きのめさないで下さい!
 コホン――貴女……昨日公園で、小学生位の子供からクレープ貰ってたらしいじゃありませんか?……小学生を脅して奢らせるだなんて恥ずか
 しいと思わないんですか!!」



……は?
なに言ってんだコイツは?アタシがガキを脅してクレープ奢らせただと?……あのガキンチョとの事言ってやがんのか若しかしなくても?
ちぃ、迂闊だったなぁ?アレを見てたうちの生徒が居たって事かよ――だが、今のコイツの言い方からして見てた奴から直接聞いたってよりは、見
てた奴が世間話的な感じで話題にしたのを聞いて、テメェで勝手な解釈したって感じだな……面倒くせぇ。



「全く貴女と言う人は、授業はサボる、喧嘩はする、挙げ句の果てに子供を脅すと、ホントに碌でもない不良ですねぇ?
 黙ってないで何とか言ったらどうなんです!!!」

「やだ。っつーか、アタシが何か言った所でテメェはアタシが嘘ついてるってハナッから決めつけんだろ?一緒に居たマユが話しても同じだ。
 テメェの中では、アタシがガキ脅したって事は決定事項なんだろ?
 なら、アタシが何を言った所で無駄じゃねぇか。――真実がどうであれ、テメェは最初っからアタシを『悪』と決めつけて、その前後に何があったか
 を確かめずもせずにモノ言ってやがるからな。」

「委員長さん、一つだけ言わせて貰うのならば、雪女さんはその少女を助けたのであり、クレープは彼女からのお礼です。」



ハッ、言っても無駄だマユ。
そいつにとって、アタシは『絶対悪』であり、そのアタシと一緒居るお前も『要注意問題児』になってるだろうからな!……正義の味方を気取るのは
テメェの勝手だが、テメェの価値観だけでモノ見てんじゃねぇ、クソ委員長。

っち、朝っぱらから最悪な気分になっちまったぜ。



「ちょっと、何処に行くんですか!」

「今日は全時限出る心算だったが、テメェにいちゃもん付けられて気分が最悪になったからサボる!
 序に、テメェの顔を見たくもねぇから無断欠席だ馬鹿野郎!!」

「では、私も本日は失礼します。」

「西行寺さんまで!?貴女はサボらなくてもいいでしょう!!」

「……今日は化学の実験がある日ですよね?
 学校が爆破炎上して無くなっても良いと言うのならば授業に出ますが?……自分で言うのも何ですが、雪女さんが居ない時に私が化学の実験
 に参加するなんて、放火魔に火炎放射器持たせるような物ですが……」

「う゛……」

「と言う訳で失礼します。」



……かなり強引だなマユ。
其れなら其れで、化学の時間は保健室で休んでりゃいいだけじゃねぇのか――アタシに付き合ってサボるとか、あんまし感心できねーぞ?
そもそもお前、アタシとつるんでるって事で山ちゃん以外の先公の評判はあんまりよくないみたいだし。……まぁ、如何言う訳か英語と歴史と音楽
だけは滅茶苦茶成績いいから、その担当教師からは高評価みたいだけど。



「偶には、ですよ。
 其れに、私としても雪女さんがあのように言われたのはあまり気分が良い物ではありませんので、今日一日は委員長さんの顔を見たくない気分
 なので。」

「……ムカついた?」

「ありていに言えば。」



お前でもムカつく事があるんだな……表情が殆ど変わらねぇから分からねぇけどよ。
だが、仲良くサボりなら今日はこのまま街に繰り出すか!制服姿ではあるけど、今時学校をさぼってぶらついてる程度じゃ、余程の問題を起こさな
い限りは補導はされないだろうからな。



「えぇ、行きましょう。人生初のサボり生活、満喫させて貰います。」

「お前……まぁ、確かに楽しまなきゃ損損だな。」








――――――








つー訳で、駅前までやって来たんだが……マユ、お前何処か行きたいとことか有るか?
アタシはサボる時は、大抵の場合ゲーセンかカラオケボックスをフリータイムで入って入り浸るか、或いは映画館でだら~~っと、何本か映画見る
んだが。



「そうですねぇ……特に行きたい場所は無いのでお任せします。只、昼食だけは今日は美味しいハンバーガーを食べたい気分です。
 正直、抹茶クリームスパゲッティサンドは微妙過ぎた上にその微妙な味が舌に残ってしまったので美味しい物を食べて舌をリセットしたいので。」

「あんな明らかにヤバそうなもんを買うからそうなるんだっての。
 まぁ、口の中が気持ち悪いのは良くねぇから、取り敢えずガムでも噛んでスッキリしろや。ブルーベリーのガムじゃ、スッキリ感に欠けるかも知れ
 ねぇけどさ。」

「いえ、有り難く貰っておきます。」



ったく、コイツは新商品だと、かなり微妙な感じの物でも先ず買っちまうんだよなぁ……辛いの嫌いな癖に新商品で『超激辛ハバネロミートパイ』と
か見るととりあえず買ってるからな。――今更だが普通に変人だなコイツは。



「変人とは心外ですね?個性的と言って下さい。」

「微妙に心読んでんじゃねぇ、このスットコドッコイ。」

そんじゃまぁ、先ずはゲーセンでも行くか?
確か今日は新作の格ゲーのベータテストやるって言ったから運が良けりゃ、発売前のゲームを遊ぶ事が出来るかも知れないからな!って、ん?

アレは、昨日のガキンチョじゃねぇか?



「あ~~!昨日のお姉ちゃん達!!」



っと、アタシ等に気付いたか。
おうガキンチョ、こんな所で何やってんだ?見た所ランドセルも背負ってないみたいだが……小学生で学校をサボるってのは感心できねぇなぁ?



「今日は創立記念日で学校お休みなんです――お姉ちゃん達こそ、サボりでしょ?」

「サボりとは心外だな?
 今日は全時限出る気だったのに、委員長に難癖付けられて気分を害されたから自主休校する事にしただけだ。」

「同じく、其れに付き合っての自主休校です――まぁ、彼女が居ない状態で化学の授業に出たら、冗談抜きに学校が吹っ飛ぶかもですので。」

「ようはサボりだよね?」



要約すればな。
そんでガキンチョ、創立記念日ってのは分かったが、こんな駅前で何してんだ?友達と待ち合わせしてるって感じでもなかったし、子供が一人で居
る場所でもないだろ?
何してたんだお前?



「えっとね、此処に行こうと思ってたの。」

「何だこりゃ?遊園地の広告か?」

「その様ですね?……如何やら本日オープンの新しい施設の様です。」

「成程な……だが、一人で行くってのは如何かと思うぜガキンチョ?」

「一人じゃなくて、本当はパパとママと一緒に行く筈だったの!
 でも、今日になって行き成りパパは大事なお仕事が入っちゃって、ママも其れに付き合う事になっちゃって……でも如何しても行きたかったから
 一人で行こうと思ったの……お金、足りないかも知れないけど。」



あ~~……お前も親の都合で割り食ってる口か。
ったく、仕事が大事なのはわかるけど、娘との約束位守れってんだ……ってか約束の日には仕事が入らない様に年休とか取っとけって話だぜ。

まぁ、其れは兎も角、此のガキンチョの有り金は高が知れてるから、電車の片道と入園料だけで金が吹っ飛ぶ可能性がある――如何に子供料金
とは言ってもガキの小遣いで賄い切れる範囲じゃねぇだろうからな。

「おいマユ、お前今いくらぐらい持ってる?」

「福沢さんが1枚と、野口さんが5枚、あとは500円玉以外の小銭がジャラジャラと。雪女さんは?」

「樋口さん3枚と、野口さんが3枚だ。」

2人合わせて3万3000円ちょっと……金額的には充分だな。
おいガキンチョ、良ければその遊園地、アタシ達と行かねぇか?アタシ達もサボって何しようかと思ってた所だからよ――全乗り物フリーパスの入
園料と昼飯代はアタシとマユ持ちって事で。



「え?で、でも……」

「ガキが遠慮すんなっての。
 なけなしの小遣いはたいてでも行きたかったんだろその遊園地――だったら、思い切り楽しまねぇと損じゃねぇか。
 ガキの小遣いじゃ、片道分の足代と通常の入園料で吹っ飛んでお終いだ……遊園地に入って、何にも乗れねぇとか、そんなの詰まらねぇじゃん
 かよ――遊園地ってのは楽しまなきゃ損だしな。」

「私も雪女さんに同感です……遊園地は楽しむ、これは基本です。そして迷路で迷った挙句に鏡の間に突入して出られなくなって、インターホンで
 救助に来て貰うのは基本です。」

「そんなのお前だけだタコ。」

「褒め言葉と受け取っておきましょう。タコは実はとても知能が高いらしいので。」

「あ、其れじゃあ撤回。ダチョウだ。ダチョウの脳みそはオレオビスケットよりも軽いらしいからな。」

「ダチョウ肉は、赤身でヘルシーで刺身でも美味しいらしいですね?」

「そうだな……って、そんな話してねぇし!!」

ったく、お前は話しを迷走させる名人だなマユ……こう言っちゃなんだが、此の特技で委員長を何とか出来たんじゃねぇかと思うんだが、其れと此
れは、また別問題なんだろうな。

んで、如何したガキンチョ?



「ぷ……あははははは!!
 お、お姉ちゃん達……まるで漫才見てるみたいだよ!!とっても面白かった!!」

「其れは良かったです……いっその事漫才ユニット組んでM-1出場でも目指してみますか?」

「いや、止めとく。お前とコンビ組んだら。アタシが突っ込みとして大変そうだからな。」

んで、如何するガキンチョ?遊園地、行くか行かねぇか。



「えっと、行きます!!」

「おし、そう来なくちゃな!」

一度アタシの家に戻って、スクーターで3ケツすれば電車代も浮くしな。――って、そう言えば自己紹介が未だだったな?
アタシは早乙女雪奈。マユがそう呼んでるから知ってるかもしれないが、周りの奴等からは『雪女』って呼ばれてる、多分この辺の界隈じゃ最強の
ヤンキーだ。



「西行寺真雪と言います。以後お見知りおきを。」

「えっと、磯野崎愛雪です。」



愛雪って事は、メユだな。
そんじゃまぁ、行くぜマユ、メユ!今日は一日遊園地で遊び倒すとしようじゃねぇか!そんでもって、遊園地で遊び倒した其の後は、カラオケで歌い
まくって晩飯は駅前のラーメン屋でだ!異論は有るかテメェ等!!



「ありません。」

「ないでーす!」



なら、決まりだな!
へへ、委員長の物言いにムカついてサボっちまったが、今日は存外いい日になりそうだぜ!










 To Be Continued… 



キャラクター設定



・小和泉花音

雪奈と真雪のクラスの級長。
典型的な真面目タイプの学級委員長で、常に己の正義に基づいて行動しているが、それ故に主観による先入観がとっても強く、雪奈の事もヤンキ
ーだと言う事実だけで敵視している。(雪奈は基本相手にしないが。)
只、時には雪奈と意見の合う事も有り、雪奈と意見があったその時はとてもいい結果を齎すので、『雪女と委員長が組んだらマジ最強』との噂もあ
るらしい。