Side:雪奈


アタシこと、早乙女雪奈は世間的に言って不良……と言うかヤンキー娘なのは間違いないと思う。
銀髪と蒼目は生まれつきの遺伝だからどうしようもないが、中学の頃からお世辞にも素行が良いとは言えなかったし、街の不良共との喧嘩は日常
茶飯事だったからな。

とは言え、アタシだって元からヤンキーだった訳じゃない――自分で言うのも何だが、こう見えて小学校の頃は学年一の優等生だったからな。

そんなアタシがヤンキーになった理由は只一つ、溜めに溜め込んだストレスが爆発した結果としか言いようがねぇ。

アタシの両親は大企業の重役だから、子供のアタシにも色々期待してたらしく、小学校の頃は冗談抜きで遊ぶ暇もない位の習い事をさせられてた
んだが、格闘技系の習い事以外はアタシに合わなかったみたいで、知らず知らずのうちにストレスをためてて、それが小学校卒業と同時に爆発し
て、親に盛大に喧嘩を売って、でもって勝っちまって習い事を全部やめた後に、後はアウトローの道をまっしぐらだ。


とは言っても、アタシにはアタシの理念がある。
アタシは確かにヤンキーだが、自分の拘りとして『堅気の連中に迷惑はかけない』って決めてる――まぁ、だからこそ、堅気の連中に迷惑をかけて
るボケ共は、アタシの滅殺対象なんだけどよ。

まぁ、その理念を貫いた結果、中学の頃には幾多の不良グループやチーマーを単身でぶっ倒しまくって、そんな中で何時の頃からか、名前をもじっ
て『雪女』なんて、仇名が付いちまったが、まぁ悪くねぇか。
二つ名持ってのは、迫力があるみたいだしな。

けど、アタシは決して何処かの不良グループやチーマーには属さなかった……群れるのは好きじゃないかなら。

だが、群れずに中学を過ごして分かったのは、群れないのは楽だが存外つまらないって事だ……群れなければ、面倒な事は確かにないが、逆に
楽しい事も滅多にないからな。

其れでも、温い友達ごっこはガラじゃねぇから高校でも一匹狼でいる心算だったんだが――



「雪女さん、いい加減に起きてはどうですか?」



高校に上がってからは、そんな事も無くなっちまった――ま、こう言うのも悪くねぇと思うけどさ。









ヤンキー少女とポンコツ少女とロリッ娘とEpisode1
『初めまして早乙女雪奈です!』










あ、ふあ……何だよマユ、もう昼休みか?



「放課後です。そんなに寝てばかりいると、目が腐ってしまいますよ?」

「目が腐る……そいつは大変だ、直ぐに目薬を打たないと――否、もう手遅れか?」

「いえ、まだ大丈夫みたいです。」



授業サボって屋上で昼寝してたアタシに話しかけて来たのは、同じクラスの『西行寺真雪』――去年の入学直後に、不良にナンパされてた所を助
けてやったのが縁で、何かと一緒に居る事が多い。
黒目黒髪って言う抜群の大和撫子なんだが、滅多に表情が変わらない上に色々とポンコツだから正に『残念な美少女』って奴だぜ。
体育では跳び箱に特攻して鉄棒から落っこちて、バレーボールは顔面レシーブ上等で、家庭科では自分の指縫うわ、調理実習で指詰めかける事
数回で、鍋が黒炎弾した数は数えるのも面倒クセェって感じだからな……そのフォローをするせいで体育と家庭科だけは出席率100%なんだけど
なアタシは。

にしても、もう放課後か……我ながらよく寝たもんだ。



「えぇ、マッタクです。
 2時限目の体育の後で姿を消してから今の今まで寝ていた訳ですから……数学の山崎先生が『俺の授業をサボるなんざ、100年早ぇんだよ!』
 とキレていましたよ?」

「山崎……アイツ絶対選ぶ職業間違えたろ?
 見た目的にもキャラ的にも教師は向かねぇ……つーか普通にヤクザだってのアレは。」

担当教師が嫌いな授業は、最低出席日数をオーバーしないレベルでサボるのが基本のアタシだが、山崎の授業だけは追試になっても良いから
受けたくねぇ……幾ら名前が同じだからって某格闘ゲームのキレたヤクザになり切らなくても良いと思うんだがな。
あんなのが教師をやってるとか、大丈夫かこの学校はマジで……此れで割とレベルの高い学校だってんだから驚きだが。

「まぁ、何だ、放課後ってんなら帰んぞマユ。」

「はい、その心算で呼びに来ましたので。」

「成程……ってか、よくアタシの居る場所が分かったな?」

「雪女さんのサボる時の指定席は、屋上か中庭の大樫の木の枝か仮病を使っての保健室のいずれかで、屋上の確率が大体70%ですので。」

「……お前、色々とポンコツのくせに見る所は見てんだな?」

「はぁ、褒め言葉として受け取っておきます。」



褒めてねぇけどな。
にしても只まっすぐ帰るってのもつまらねぇな?どっか寄ってくか?



「そうですねぇ……なら湖の畔の公園に寄って行きませんか?
 今日は水曜日なので、とても美味しいクレープの屋台が店を出していますから食べて行きましょう――なんでもSNSでも話題の屋台らしく、『一口
 食べたら、此処のクレープ以外のクレープは食べられなくなる。』との事です。」

「其れは些か言い過ぎなような気もするが、取り敢えずめっちゃ美味いって事だけは良く分かったぜ。」

んじゃまぁサクッと帰っか。
生活指導の棚部とか、級長の花音なんかに見つかると面倒だからな……つーか、アイツ等はアタシの事を一方的に敵視してるから色々と面倒臭
いんだよなぁ?
他校の生徒との喧嘩は確かにしてるが、アタシがぶっ倒したのは一般人に迷惑かけてるボケ共だってのに、其れを考えもせずに『他校の生徒と喧
嘩した』って事実だけで説教しやがるからなアイツ等は……一歩間違ったら、ブチ切れて殴り飛ばしてるぜマジで。



「山寺先生は雪女さんの味方みたいですけどね?」

「山ちゃん先生はマジでな。
 まぁ、あの人はアタシがガキの頃から色々世話になってからな……まさか、教師になってるとは思わなかったけどさ。」

山ちゃん先生ってのは、本名『山寺里美』って言うアタシとマユのクラスの担任で、生徒からの人気も高い英語教師。24歳、独身。
子供の頃は勉強見て貰ったりとか色々と世話になってたんだが、高校に上がってからまた世話になるとは思ってなかったぜ――5年ぶりに再会し
た時には、アタシの豹変ぶりに驚いてたけどな。

けどよ山ちゃん、アタシももうガキじゃねぇんだから『雪ちゃん』って呼ぶのは止めようぜ?――プライベートは兎も角、授業中はアタシだって『山寺
先生』って呼んでるんだからさ。



「呼び方と言うのは、存外変えられないのかも知れませんねぇ?――私が貴女を『雪女さん』と呼ぶように。」

「微妙に否定できねぇな其れは。」

そんな事を話してる内に昇降口について、靴を履き替えて外にだ。
因みに、この学校は一応学校指定の靴は存在してるが、其れは強制じゃなくて基本靴は何でも良い事になってる――ので、アタシは某有名ブラン
ドのスニーカー、マユは本革製のレディースブーツを使ってる。

そんなこんなで、雑談をしながら公園に向かってたんだが……運が良いのか悪いのか、胸糞が悪くなる現場に出くわしちまったなオイ?



「へっへっへ……お嬢ちゃんよ、ぶつかっておいて何も無しってのは良くないよなぁ?
 お兄ちゃん達ちょ~~~っと、腕痛めちゃってさぁ……病院に行かなきゃならないみたいだから、お金くれると助かるんだよねぇ?出来れば一人
 につき10000円ほどさ。」

「キッヒッヒ、払えないって言うなら身体で払って貰うだけだけどねぇ?」

「……」



小学生と思われるガキンチョをナンパだか恐喝だか分からねぇ事をしてるクソッタレ共を見つけちまったからな。
ったく、ガキ相手に何してやがんだか……其れともロリコン趣味の変態不良か?――何にしても、見つけた以上は無視する事は出来ねぇよな。

オイ、何してやがる此の戯けモン共!!!



――ガスゥ!!!



取り敢えず背後から近寄って、一番後ろに居た馬鹿に踵落とし一閃!……うん、我ながら見事な踵落としを、ネリチャギをかましたモノだな。
んで、ネリチャギをかましたクソッタレはそのままKO!良い夢見ろよ~~。



「な、テメェ行き成り何しやがる!!」

「あぁん?ガキンチョ相手にクソッタレな事をしてる馬鹿を叩きのめしただけだ……なんか文句あんのかあぁ?」

「粋がってんじゃねぇぞアマ!
 正義の味方気取りか?――不意打ちで一人倒したからって調子に乗るなよ?……五人に二人で勝てると思ってんのか?」

「あ、コイツは頭数に入れんな。
 テメェ等をボコるのはアタシだから。コイツは、そのガキンチョを此処から連れ出す役目だから。」

「と言う訳で、行きましょう。」

「ふぇ?でも……」

「大丈夫です、雪女さんなら、あの程度の輩には負けませんから。」



……普段は何かとポンコツなのに、こう言う時はテキパキ動くなマユは。
クソ共の意識がアタシに向いた瞬間にガキンチョを救出して即座に離脱だからな……其れを普段の生活で発揮できれば、ポンコツにはならねぇと
思うんだが、其れは言うだけアレって奴なんだろうな。



「何時の間に!!だが、一人で五人を相手に出来ると思ってるのか?」

「言葉を返すようで悪いが、テメェ等こそたった五人程度でアタシに勝てると思ってんのか?
 この天下無敵のアウトローである雪女様によぉ?」

「「「「「!!!」」」」」



おおっと、雪女の雷名は効果抜群だな?
不良やってるなら、雪女を知らない筈ねぇからな……アタシが雪女だと知ってもやる気かテメェ等?



「お前が雪女だと……ハ、ハッタリに決まってる!!
 囲って叩きのめすぞ!!」

「オウよ!其の後は……たっぷりと楽しませて貰うぜ、中々良い身体してるみたいだしな。」



はい、コイツ等馬鹿決定!
アタシの異名を聞いてもビビらないのは評価してやらない事も無いが、其れをハッタリと決めつけてってのは駄目だな……そして、何とも下半身に
忠実な奴等だぜ――誰がテメェ等なんぞにやらせてやるかってんだ!!

取り敢えず一番前に居た奴に一足飛びで近付いて、渾身のアッパーカット!!



「んな!?」

「驚いてる暇があるのか?」

「!!!」



其れで一撃KOしたアタシに驚いてる奴を捕まえて、今度は卍固めで絞め上げて意識を刈り取る!!……燃える闘魂が編み出した必殺技は伊達
じゃないぜ!!
更に、そばに居た奴を飛び膝蹴りからのジャンピングアッパーカットでKOし、その流れで次の相手に飛び蹴り→飛び回し蹴り→空中回転踵落とし
を喰らわせてKO!!

さぁて、残るはテメェだけだな?



「あ、あぁ……でも、俺は負けない!!お前を倒して俺は!!」



最後の一人は、錯乱してナイフを出して来やがったか……ったく、そんなモン出したなら責任は取れよ?――こっちは素手で、テメェの方が凶器携
帯ともなれば、テメェの重罪は免れねぇからな。



「ナイフに素手で勝てると思ってるのか?……ひん剥いてやんぜ!!」

「アタシに限っては、ナイフと素手なんてのはハンデにもならねぇんだよ!!」

ナイフを振りかざして来た相手の背後に回って、腰をホールドすると同時に、全力全壊のジャーマン・スープレックス一閃!!プロレスのマットの上
ででも必殺となるジャーマンを固い地面で繰り出したとなれば喰らった相手は戦闘不能必須だぜ。



「たわば!!」



アタシのジャーマン喰らったクソッタレは白目剥いて泡拭いて気絶しちまったからな……ったく弱すぎるにも程があるだろ?
不良やるなら、相応の実力を身に付けて来いってんだ。
取り敢えず、コイツ等の本名と顔は記録しておくか――罪状と共にネットにアップしたら非難は免れないだろうしな。……ま、今回は相手が悪かっ
たって事で諦めるんだな。



「「「「「……」」」」」」

「聞こえてるとは思わねぇけどよ。」



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・・・



取り敢えずクソッタレ共を撃退して、湖の畔の公園まで来た訳なんだが……おいマユ、何だってこのガキンチョが居やがるんだ?
家に送り届けたんじゃないのかよ?



「私もその心算だったのですが、雪女さんへのお礼がしたいと聞かなかったモノですから。」

「お礼って、別にいいんだけどな?」

「其れだと私が良くないんです――お姉ちゃん、助けてくれてありがとう。此れ、お礼だよ。」



さっきのガキンチョ……お前さんが買ったのかこのクレープは?
水曜限定の屋台のクレープなんだろうが、決して安い値段じゃねぇ……其れをアタシに寄越すとはな――随分と大枚をはたいただろうに。
ありがとよガキンチョ、有り難く頂くぜ。



「はい、召し上がれです♪」



5人相手にした報酬がクレープ1個ってのは割に合わないのかも知れないが悪い気はしねぇ。
――まぁ、偶にはこう言うのもアリなのかも知れないないな。

まぁ、まさかこの時の事が切っ掛けで、このガキンチョとこれからも付き合ってくことになるなんてのは、マッタク予想もしてなかったけどな――本当
に人生ってのは何が起きるか分からねぇもんだぜ。








 To Be Continued… 



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