Side.遊星

 

猫の多い家。
それがすずかの家…と言うより邸宅の第一印象だ。
猫の事は詳しくないが、模様や毛色を見ると様々な種類の猫がいるのだろう。
その猫にユーノが追いかけられ、あわや大惨事と言う出来事もあったのだが…それはともかく。
ネオ童実野シティにいた時も猫を見た事はあった。
だが、初めてだ。

「にゃお〜〜〜ん♪」


『大きな子猫』と言う物を見たのは。

 

 

 Turn.9「対峙」


 

 

「ジュエルシード……だな?」

「です……よね?」

育った環境によっては幼くとも多少のサイズの違いはあるだろう。
だが……  


「にゃ〜お?」


地縛神……までとは言わない物の、これは猫と言うサイズを大きく超えている。
庭にある林、そこから頭が見える。
獣族のシンクロモンスター、《ナチュル・ガオドレイク》でも此処まで巨大じゃなかったぞ… 

「とりあえず急いで封印しよう。体が巨大化しているなら、力も増している筈。暴れられると厄介だ。」

「ですね。でもすずかちゃんのお家の猫だから…」

「あまり手荒な事はしないように、だな。」

「はいっ!」  

とは言った物の…傷つけずに封印するとなるとどうする?

……いや、出来る…かもしれない。  

「なのは、俺に考えが有る。アレは俺に任せて…っ!?」  

ヒュンッ  

ヒュンヒュンッ 

「! レイジングハート!」

『protection.』  

ドンッ  

恐らく猫に向けて放たれたであろう攻撃。
それはなのはとレイジングハートが防いでくれたが…今のは一体…  

「魔法…!? なのは、遊星さん! 気を付けて! 近くに魔導師がいます!」  

ユーノの声に俺もなのはも警戒心を強める。
猫の方は何も無かったかのようにしているが、そちらへの警戒も怠らない。

やがて、一つの人影が姿を現した。

それは…  

「君は……」

「……こんにちは。それと…お久しぶりです。」

以前出会った…《クリボー》が選んだ少女だった。  

「遊星さん? 知り合いですか?」

「ああ。以前街でな。……今の攻撃は君か?」

「はい。」

「何故?」

「恐らく貴方達と同じ理由です。私も…ジュエルシードが必要なんです。」

「「「!!」」」  

彼女が魔法使いだと言う事には驚いたが、それ以上にジュエルシードの危険性を傍で見て来たからこそ、それを求める彼女の言葉に驚いた。 

「ジュエルシードは凄く危険な物なの! なのにどうしてジュエルシードが欲しいの!?」

「理由は言えない。でも…邪魔はさせない。」 

シャキンッ… 

斧のようにも、鎌のようにも見える武器。
それが恐らく彼女のデバイスなのだろう。  

「……ジュエルシードはともかく、こいつは俺達の仲間が大切にしている猫だ。それを傷つけさせはしない!」

「……ごめんなさい。必要なら戦い…傷つけます。」

「………」  

彼女の瞳には強い意思が見える。
きっと本当にこいつと戦うだろう。

 

「……遊星さん。猫さんを任せて良いですか?」

「お前はどうするんだ?」

「あの子を…止めます!」

「……分かった!」

 

ザッ  

俺は彼女に背を向け、猫と対峙し。

 

ふぉんっ

 

なのはは飛翔し、彼女と空中で対峙する。

なのは…信じているぞ。  

「デュエル!」  

俺の言葉にモーメントが輝きを放つ。  

「俺は《トライクラー》を召喚!」  

考えが有るとは言ったが、正直確証は無い。 だが、やってみるしかない!  

「にゃ♪ にゃ〜!」  


どんっ 

「くっ…」  

猫にとっては動く物にじゃれた程度なのだろうが、巨大化してる分、威力も増大している。
《トライクラー》はあっさりと破壊される。  

「《トライクラー》が破壊された時、《ヴィークラー》を特殊召喚する!」

こちらから攻撃が出来ない分、守りに徹するしかない。
あのカードを引くまで…頼むぞ、カード達よ!  

 

 

Side.なのは

 ザンッ  

「くっ…うう…!」  

この子…強い!
攻撃もスピードも…そして何より、巧い!
明らかにわたしよりも戦う事に慣れている。
ふと視線を向ければ、ユーノ君は大きな狼と向かい合っている。
時々こちらを見ている事から考えると、この子の友達なのかもしれない。  

「はぁっ!」  


ぎんっ

「くっ!」  

遊星さんからも、ユーノ君からのサポートも期待は出来ない。
わたし達だけでこの子を止める!
レイジングハートが一緒のわたしならともかく、あの猫さんがこんな攻撃喰らったら…すずかちゃんが悲しむ。それはダメ!  


「負けない! レイジングハート!」  

一緒に戦って!  

 

 

Side.遊星

 

「くっ…《ヴィークラー》が破壊された時、《アンサイクラー》を特殊召喚!」 

なのはもユーノも、それぞれ苦戦している。
あの少女も狼も、かなりの強さだ。
今はまだ均衡していても、いつそれが崩れるかは分からない。

頼む、カード達よ…応えてくれ!  

「俺のターン! ドロー!!」 

引いたカードを確認し、思わず笑みがこぼれる。  

「俺は速攻魔法、《融合解除》を発動! 融合モンスター1体の融合を解除する!俺は…お前とジュエルシードを分離させる!」  

パシュンッ  

《融合解除》から放たれた光は猫へと向かって行き…

 

「にゃ?」 

腹部に命中。
痛がっている様子は無く、ひとまずは安心した。

そして、異変はすぐに起こった。

光が命中した部分が歪み、やがて大きくなったその歪みは巨大な猫をも取り込むほどに大きくなった。

そして、だんだんと小さくなっていく歪み。
そこには大きな猫はもういなかった。
歪みはどんどん小さくなっていき、俺の背の高さまで降りてくると光となって消滅した。  

「にゃあ?」  

タッ

 

その光の中から現れ、地面に着地したのは普通サイズの猫だった。
猫はそのまま走り去って行き、光が治まるとそこには青い宝石…ジュエルシードが残された。    


 

Side.フェイト

 

『あの男…今何をしたんだい!?』

アルフからの念話が聞こえる。
彼女と戦いながらだから全てを見れたわけでは無かったが、あの人は猫を全く傷つけずにジュエルシードだけを取り出した。

あの人からは魔法の力を全く感じないのに…どうやって……!  

「くっ…」

とっさに張ったシールドで桜色の魔力弾を相殺する。
さっきまでは戦闘経験が皆無な少女だった…のに。
目の前にいるこの子は恐いくらいの勢いで成長している。
もちろん、まだ私に攻撃が届くほどじゃない…けど、油断は出来ない。

一気に勝負を…!?

「行くよ! レイジングハート!」

『All right, my master.』  

デバイスの形状が変化した!?
この感じ…マズイ!  

「バルディッシュ!」

『Yes sir.』  

こちらも構える。

「ディバイーーーン……バスターーーーー!!」

「サンダー……レイジッ!!」

 

どぅんっ

 

ぶつかり合う双方の砲撃。

それが結界内の空気を揺るがしているのが肌で分かった。

…?

魔力の揺らぎ…此処だけじゃない……!

ジュエルシード!!

 

 

 

Side.遊星

 

「くっ……何だ!?」

《融合解除》によってジュエルシードは此処にある。
だが、なのはの手によって封印はされていない。
いわば剥き出しのエネルギーの塊。
まさかそれが、なのは達の攻撃に反応して、暴走しようとしているのか!?  

「ぐっ……」  

魔力を持たない俺でも分かる。
途方も無いほどのエネルギーが爆発しようとしているのが。
なのははまだ動けない…このままでは……?

 

こぉぉぉぉぉ……

 

「これは……赤き竜……?」

……!
そうだ、赤き竜はその力を持って地縛神を『封印』していた!
完全に封じる事は出来なくても、暴走を鎮めるくらいなら…!  

「力を貸してくれ! 赤き竜よ!!」

 

バッ

 

手を伸ばし、ジュエルシードを掴む。  

バシュンッ

 「っ!?」

 

体が、特に腕が内側から切り裂かれたように傷付く。
血が流れるが、それでも拳を握りしめる。  

「止まれ……ジュエルシード!!」    

 

Side.フェイト

 

「遊星さん!?」

「! はぁっ!」

「えっ…きゃあ!!」

「なのは!」

 

彼女の動揺の隙を突き、射撃魔法を直撃させる。
彼女の使い魔が魔法で彼女を受け止める。  

「……ゴメン……」  

小さくつぶやき、すぐにあの人の元へと向かう。
横には追いついてきたアルフもいる。  

しゅおおおんっ

 光が治まり、揺らぎも感じなくなった。  

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」  

衣服が所々裂け、その隙間からは赤が見える。
普通なら倒れても、気を失ってもおかしくない。
それでも彼は立ったまま、こちらを振り向いた。  

「………」

「………」

「……あの子…なのはは…?」

「使い魔君が傍にいます。非殺傷設定にしているので怪我は無い筈です。暫くは動けないかもしれませんが…」

「そうか…」  

彼はこちらをじっと見ている。
私も目をそらさずに、彼の澄んだ瞳を見つめる。  

「君がこれを集めている理由は…やはり教えてはくれないか?」

「……ごめんなさい。」

「謝らなくて良い。だが…これだけは答えてくれ。」

「?」

「それは…誰かを不幸にするものか?」

「違います!」 

即答する。

 「彼女を傷つけた、猫を傷つけようとした私が言っても信用は出来ないかもしれません…
 でも、それが…ジュエルシードが必要なんです…ある人を取り戻すために…」

「……そうか。」

 

すっ…  

ふわん…

 

彼はこちらへと腕を差し出し、拳を開く。
すると手の中にあったジュエルシードが手のひらの上に浮く。  

「持って行くと良い。」

「……え?」

「こっちが言うのも何だけどさ…アンタ、今の話を信じたのかい?」

「! ……彼女は嘘を吐いていない。それで十分だ。」  

獣型のアルフが喋った事に驚いたようだが、彼はそう返してくれた。

 

「それに実際…俺は封印したわけじゃない。ただ鎮めただけだ。このままではいつ暴走するかも分からない。
 なのはが魔法を使えるようになるまで待っている間に手遅れになってからでは遅い。
 俺は君を信じる。君に預かっていてほしい。」

「………」  

すっ…

 

「バルディッシュ。」

 

キンッ  

バルディッシュのコア部分にジュエルシードが吸い込まれる。  

すっ…

 

バルディッシュを待機状態に戻し、空いた両手で彼の手を優しく握る。

 

ホゥ……

 

微かな光が彼の身体を包み、消える。

 

「ごめんなさい。私は治療系の魔法があまり得意じゃなくて…」

「いや、痛みは無くなった。ありがとう。」

「………」  

彼の笑顔につられて私も笑みをこぼす。  


「アンタ…変な奴だけど、良い奴だね!」

「ふっ……」

「……それじゃあ、私達はこれで。」

「ああ。またな。」

「! ………はい。また、必ず。」

 

ひゅんっ

 

空を飛び、その場所から離れる。

「色々予想外の事があったけど…まあ、結果オーライって奴かい?」

「うん………あ。」

「どうしたんだい?」

「あの人に名前…聞くの忘れた…」

少しだけの後悔をしながら、私達は結界の外へと出た。

 

  

Side.なのは

 

「うん……ん…?」

「目を覚ましたか、なのは。」

「遊星さん…? ……! 遊星さん! 怪我は!? 大丈夫ですか!?」

「それはこっちのセリフ何だが…」  

遊星さんは困ったように笑っている。

ふと気付くとわたし達を囲うように魔法陣が描かれている。

「ユーノ君?」

「無理はしないで。今治癒魔法を使ってる所。」

「怪我は…多少したが、もう問題無い。ジュエルシードはすまない。相手に渡した。」

「そう…ですか。」

 

『盗られた』では無く『渡した』。
つまり遊星さんは戦って負けたわけじゃ無く、渡すべきだと判断したって事。
きっと封印の力が関係している。

あの子もジュエルシードが目的みたいだから、封印魔法を使える可能性は十分にある。
戦って時間を長引かせるよりも、一刻も早く封印を施した方が良い。遊星さんはそう判断したのだろう。  

「ごめんなさい…」

「お前が謝る事じゃない。」

「でも…」  

ついこの間、決意を新たにしたばかりなのに…  

「…なのは。知っているか?」

「?」

「弱いと言う事は、弱い事を知ることは、強さに繋がる。」

「???」

「弱いと言う事は強くなれると言う事だ。未熟ならまだまだ伸びると言う事だ。
 それに気付いた時こそ、人は強くなれる。どこまでもな。」

「遊星さん…」

「俺は以前、幼馴染のライバルに手も足も出ずに負けた事がある。」

「遊星さんが!? デュエルでですか!?」  

信じられなかった。
わたしやアリサちゃん、すずかちゃん。
3人が何度デュエルしても全く勝てる気がしないほどの決闘者、それが遊星さんだから。  

「ああ。
 だがそのデュエルで俺は敗北を知った。己の弱さを知った。そのデュエルで得た物すべてをバネにして、俺は強くなろうと思った。
 そして、今もそう思っている。」

「………」

「デュエルに限った話じゃない。俺達はまだまだ強くなれる。きっと…な。」

「……はいっ!」 

そうだ。

自分の弱さを嘆いていても始まらない。
強くなりたいなら強くなれば良い。

今回負けたのなら、次に勝てばいい。

必ず、強くなって見せる!
















 To Be Continued…