Turn.8「決意」

 

 

 

Side.フェイト

 

先日貰ったこのカード。
今でも正体は分からない…のだが。
子供達が同じようなカードを持って入って行った店。
そこに私も付いていくように入って行く。
そこには大量のカードが並んでいた。

「凄い…」

思わず漏れた呟き。
それは店内に響く子供達の声によって掻き消された。
あの人からもらった1枚のカード。
何故か無性に気になった私はこのカードが何であるかを調べている。
この店に並んでいるカード達を見ると、所謂一種のトレーディング・カードゲームと言う物だろうか…


「いらっしゃい。」

 

ビクッ

 

「驚かせたかい? こりゃ悪かったね。」

「い、いえ…こっちこそごめんなさい。」

「いやいや、謝る必要は無いよ。」


突然の声に驚いてしまった事に謝罪をするが、全く気にしていないように謝罪を拒否する。

「さっきからショーケースを眺めてるけど、探し物かい?」

「えっと…」

「ああ、申し遅れた。俺はこの店の店長だ。何か欲しい物が有るなら案内するぜ?」

「店長さん…」

どうやらこの人はこの店の店長らしい。
この人ならこのカードの事を知っているだろうか…

「あの…このカードと同じカードってどこにありますか?」

あの人から受け取ったカードを差し出して尋ねる。


「どれどれ…? む…」

「?」

「ああ、このカードならこっちだよ。」


カードを私に返すと、店長さんは背中を向けて歩いていく。
私もそれについていく。
…このカードを見た時に店長さんの表情が一瞬変わったように見えたけど気のせいだったのかな…?

 
「こいつなら…ほら。これだ。」

「………」

案内されたショーケースの中には確かに今私の持っているカードと同じカード…《クリボー》が並んでいた……の…だが……

「可愛くない…」

「ははっ。こりゃ手厳しいね。」


思わず言ってしまった一言。
でも仕方が無いと思いたい。
今私の手元にある《クリボー》は目がクリクリしてて、何と言うかほわほわしてそうなのだが、ショーケースの中にある《クリボー》は目がギョロっとしていて、何か恐い。
隣に並んでいる《屋根裏の物の怪》と見分けがつかないよ…
確かに文面を読む限り、名前も攻撃力・守備力も、(内容の意味は分からないが)効果も同じなのだが…

「譲ちゃん。こっちのカード見てみな。」

「えっと…《青眼の白龍》に《ブラック・マジシャン》…あ、こっちもイラストがたくさん…」

「そう。こいつらは所謂イラスト違いのカードでな。人気の高いカードはこうやってイラストを変えて何度も作られてる。
 それに従って、別々のイラストごとにファンがいるし、レア度も違うのさ。
 残念ながら譲ちゃんの持ってる《クリボー》は今はウチには無いようだね。申し訳ない。」

「いえ…」

同じカードが無かったのは正直に言えば少し残念だったが、こうやってカードを見ているだけでも何故か楽しい気持ちになれた。
カッコいいカード。可愛いカード。綺麗なカード。
ちょっとグロテスクだったり恐いカードもあったけど…
何と言うか、こうやって絵を見ているだけでもゲームの中の世界にいるような気分に浸れるのだ。

「ふむ…譲ちゃんはデュエルモンスターズは初めてかい?」

「デュエル…モンスターズって言うんですか?」

「初めてなんだね。」

カードの名前と言う初歩の初歩の質問を答えられない私を見て店長はそう結論付けた。
勿論間違って無いので反論はしない。


「どうだい? 君さえ良ければ向こうでルールを教えるけど?」

「そんな…迷惑では…」

「なんのなんの。デュエリストを育てるのも店長の仕事さ。」

「……それじゃあ、少しだけ。」


興味が有ったのは事実なので、素直に教えてもらう事にする。
それに、ひょっとしたら…
のゲームに携わっていたら、彼にもう一度会えるかもしれないと言う期待もあったから。

「罠カード《聖なるバリア-ミラーフォース-》を発動します! これで店長のモンスターは全滅です!」

「おっと。だがこの瞬間、《E・HERO アブソルートZero》の効果発動。このカードがフィールドを離れた場合、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!」

「えぇっ!?」

「これでお互いのフィールドはがら空きだね。ターンエンド。」

練習用のデッキを使って、ルールを教えてもらいながらのデュエル。
やってる途中も思ったけど、改めて思う。
このゲーム…楽しい!
色んなカードがあって、色んな戦術が有る。
1枚1枚は弱いカードでも、組み合わせる事でとてつもない力を発揮することだって出来る。
この瞬間は、彼に会えたらと言う気持ちを忘れていた。
ただ純粋にこのゲームを楽しんでいた。
店長は手加減しているのかもしれないし、お互いに練習用のデッキとは言え…勝ちたい!

ただそれだけだった。

LPは私が1200、店長が3000。

お互いのフィールドにカードは無し。
店長は手札も0枚。
私の手札には《切り込み隊長》と《戦士ダイ・グレファー》。
《切り込み隊長》の効果でこの2枚を揃えても、ダメージの合計は2900。
ギリギリで届かない。

なら、次のドロー次第…

「私のターン、ドロー!」

引いたカードは……

っ……

ダメだ…攻撃力1200…

なら、せめてこの2枚で出来る限りのダメージを……?

ううん! 違う!
ありがとう!

「私は《切り込み隊長》を召喚! そして効果によって…《コマンド・ナイト》を召喚します!」

「ほう…ここでそいつを引くか…」

「《コマンド・ナイト》の効果によって、私の場の戦士族モンスターの攻撃力はそれぞれ400ポイントアップ!
 《切り込み隊長》と《コマンド・ナイト》の攻撃力は共に1600ポイントになります!2体でダイレクトアタック!」

「お見事。ライフゼロ。俺の負けだ。」


やった…!
勝った!

「楽しかったかい?」

「はい! とっても!」

「そりゃ何よりだ。」

「でも…」

「?」

「勝てたのはこの子達のおかげです。この子達が力を貸してくれたから何とか勝てました…」

「………」

「?」

アレ? 何か変な事言ったかな? 

「はははははっ! 成程、カードに選ばれただけはあるってことかい。」

「?」

「良し! 譲ちゃん、そのデッキやるよ! 持って行きな!」

「ええっ!?」 

いきなり笑いだしたと思ったら何を言うんだろうこの人は。
やるって…これも売り物じゃないの?

「そ、そんな、貰うなんて…」

「気にすんなって!」

「気にします!」

「そうかい…じゃあ…こうしようか。俺に勝ったご褒美だ。そのデッキの中から5枚選びな。プレゼントだ。拒否権は無い!」  


無いんだ…
予定外すぎるけど、楽しかったのも事実だし…それに、貰わないと帰してくれそうにないし…良いよね?

私は自分に言い訳をし、5枚のカードを選んでいく。

「えっと……それじゃあ……」  

勝負を決めてくれた《切り込み隊長》と《コマンド・ナイト》。
イラストの可愛い《荒野の女戦士》と《サイバー・チュチュ》。

後1枚…何にしようかな……ん?

「《ギルフォード・ザ・ライトニング》…」 

雷を纏った剣士…私の戦闘スタイルみたい…

うん、決めた!  

「じゃあ、この5枚で。」

「はいよ! じゃあこいつはおまけだ!」

ひょいっ

「わっ…」

そう言って投げ渡されたのは包装されたカードの束。
これってデッキよりも多そうなんだけど…?

「ちょっと傷付きだったりするカードだけどな。綺麗じゃないカードは要らないかい?」

「……ううん。貰います。なんだか…この子達を使ってみたいから…」

「やっぱり真の決闘者か…」

「?」

「毎度ありっ! またいつでも来てくれよ!」 

店長さんは何を言ったのだろうか?
とりあえず当初の目的は果たせたし、また来よう。

「おっかえり〜フェイト〜。」

「ただいま。アルフ。」

部屋に戻るとアルフが出迎えてくれた。

「随分嬉しそうだね。あのカードの事分かったのかい?」

「うん。」

「そりゃ何よりだ。」

私が嬉しがっている事を自分の事のように喜んでくれるアルフ。
本当に良いパートナーに恵まれた。

「おっと、そうだ。リニスから連絡が来たよ。バルディッシュの調整が終わったから取りに戻ってきてくれってさ。」

「ホント? 分かった。準備したら行こう。」  

私のもう一人…一機?のパートナーを迎えに。
次に帰ってくるのは2〜3日後かな?
帰ってきたら、その時こそ始まる。
ジュエルシードを集める日々が。    

 

Side.遊星

「僕が使う魔法の一つに結界魔法と言う物が有ります。なのはが最初のジュエルシードの封印に成功した時に空間の色が変わったと感じた筈です。」

「槙原動物病院の時のアレだね。」

「あの結界にはいくつかの効果が有って…大きく分けると人払いと結界内の破損の修復の二つ。」 

俺達は今ユーノから魔法についての説明を受けていた。
これまでは何とか出来たが、これからも上手くいくとは限らない。
可能な限りの知識は必要と判断したためだ。
なのはは実際に前線で戦う事になるし、俺は俺で魔法の事を知らなければサポートも出来ないからな。  

「一度結界を張れば結界の外から結界の中の事は認識されなくなりますし、結界内に入ろうと言う意識を無くする事が出来ます。
 それと、周りに人がいる場所で展開した場合、自動的に結界外に転移させます。記憶や意識などは不都合のないように修正が入りますが…」

「えと…結界を作れば人が怪我する心配をしなくて良いって事かな?」

「大体はその認識で大丈夫。だけど例外もある。なのはや遊星さんみたいに力を持っている人は結界を通り抜けたり、転移させる事が出来なかったりするし…
 後は魔法の力…魔力に耐性があると簡素な結界じゃ効きにくかったりする事もある。」

「それが有るからと言って油断は出来ないと言うわけか。」

「はい。それに強すぎる力の傍は結界の力が届きにくいんです。」

「強すぎる力?」

「なのははまだ魔法に関しては初心者だけど、自分の力はある程度コントロール出来てる。だけど、コントロール出来ないほどの大きな力が暴走したら…」

「つまり…ジュエルシードが暴走した場合、その近くほど危険と言うわけか。」

自分が未熟なせいでもある、とユーノは続けたが、思っていたほど万能な力と言うわけでもないらしい。  

「破損の修復と言うのは?」

「結界を張る者の魔力を使って結界内の破損を修復します。時間がさほど経っていなければ壊れてから結界を張っても修復が可能です。
 ただ、これもあらゆる破壊を全てと言うわけでは無いんです。状況によっては怪我や破損が残ってしまう場合があります。」

「それって、槙原動物病院の辺りみたいに?」

「いや、あの時は僕の意識や魔力が限界だったから…空間の切り離しが精一杯で、修復に回せる余裕が無かったんだ。」  

あの時はユーノも俺や自身の怪我の治療に力を使っていたのだから仕方ないだろう。

「えっと…じゃあやっぱり、ジュエルシードが発動したら可能な限り早くそこに行って、被害が出る前に封印…しか無いんだね。」

「うん…ジュエルシードと言っても発動前の力は微弱だからよほど近くないと気付けないから、結局は発動してからになっちゃうかも…」 

毎回後手になってしまうと言うのは好ましくないが…

「それでも、俺達は一人じゃない。」

「遊星さん…」

「仲間がいればどんな事だって乗り越えられる。今は俺達が出来る最大限の事をするしかない。」

「…はいっ! 頑張りましょう!」

 

一人だったら折れてしまうかもしれない。
だが俺達には仲間がいる。
ならば何も恐れる事は無い。

……いや、恐れている事は…ある。

だが、其れを言うとなのはは其れを隠そうとまた気丈に振舞うだろう。

ならば俺も、俺に出来る最大限…いや、最大以上の手助けをするだけだ。

その夜、なのはの通っている学校。

「ジュエルシード、封印!」

桜色の光がジュエルシードの暴走体を覆い、光が収まった時に残されていたのは青い宝石が一つだけだった。

「お疲れ様。」

「ありがとうござ…ふぁ…」  

欠伸を噛み殺すなのは。
無理も無い、現在の時刻は0時を回っている。
一度寝てから起こされての戦闘だと言うのに、戦闘そのものは鮮やかだった。
俺が今回した事はなのはをD・ホイールで送り届けた事だけだ。

それまでは良かったが、無事に封印を施した事で緊張の糸が切れてしまったのだろう。

「あ、ご、ごめんなさい…」

「気にするな。戻ってゆっくり休むと良い。」

「ふぁい…」

 

ユラッ…ユラッ…  

ふらっ… 

「っと…」

ぽすっ

 

本当に限界だったのだろう、なのはの身体が揺れたと思ったら傾いた。
なのはが倒れる前に背中で受け止める。  

「あ、す、すみません! わたし…」

「良い。そのまま掴まっていろ。」

 

ひょいっ

 

そのままなのはを背中におぶる。

 

「あ、あの、遊星さん、わたし、大丈夫ですから…/////」

「なのはも疲れているだろう。そこのD・ホイールまでだ。これくらいはさせてくれ。」

「……それじゃ…あ……少し…だ…け……」

 

なのはもほんの数十秒だけのつもりだったのだろう。

だが。

 

「すぅ……すぅ……」

僅か数秒後に背中からなのはの寝息が聞こえて来た。
俺の足は校門の近くに停めてあったD・ホイールを通り過ぎ、そのまま高町家へと向かう。  

「ジュエルシードに時間を考えてくれ…と言っても無理な話ですからね…」

「ああ…だが目撃者や怪我人がいない事を喜ぶべきなのかもしれないな。」  

なのはの肩から俺の肩へと移って来たユーノは沈んだ声で言う。
出来る物ならなのはに負担がかからないようにして欲しい物だが…それは叶わぬ願いだろう。  

「あのバイク…D・ホイールは良いんですか?」

「後でもう一度取りに来るさ。」  

元々今のなのはを乗せるつもりは無かった。
運転中に眠られて手を離されでもしたら大変だからな。

それに今は…
D・ホイールに乗っていなければならない数分すら、安らかに休んでほしかった。

 

 

からっ…

 

出来るだけ静かに高町家の玄関を開ける。

 

「お帰りなさい。」

「! …ただいま。」

正直に言って驚いた。
誰もいないと思っていたが、そこには桃子さんがいたのだから。

 

すっ…

 

さらっ…

 

「むにゅ…」

「お疲れ様。」  

なのはの髪を優しく撫でる桃子さん。
なのはは誰も起こさないようにそっと出て来たと言っていたが、きっとこの人は気付いていて、気付いた上で寝たふりをして待っていてくれたのだろう。  

「桃子さん、すまな……ありがとう。」

「よろしい。」  

色々な意味を込めて謝ろうとしたら目付きが鋭くなったので言葉を変える。
どうやらこっちは気に召したようだ。  

「さ、早くベッドに寝かせてあげましょう。」

「ああ。」

 

 

 

次の日。

昨日なのはを寝かせた後、俺はもう一度学校へ行きD・ホイールの回収を行った。
それでなのははと言うと… 

「すぅ……すぅ……」

「………」

 

ぱたんっ

 

離れに戻るとユーノが迎えてくれた。  

「遊星さん。なのははどうでしたか?」

「ゆっくり眠っている。顔色も良かったし問題ないだろう。」

「そうですか。良かった。」

 

なのははしっかりしていて、それでいて強い。
だがそれでも、あの子は9歳の女の子だ。
せめて休めるときはゆっくりと休んでほしい。
俺が恐れている事が有るとしたら、それはなのはが無理をする事だ。
なのはは色々な事を自分一人で抱え込んでしまう。
それで何か良くない事にならなければ良いんだが…

全く、恭也の気持ちが良く分かる。 

「自分に出来る事をするだけ。そう言っておいてなんだが、俺にも封印の力があればな…」 

無い物ねだりをしても始まらない。
そう頭では分かっていても考えずにはいられない。  

「こればかりは資質の問題ですから…」

「ああ。分かっている…分かってはいるんだが…な。」  

俺に出来る事は少ない。
あまりにも少ない。

せめて願おう。
なのはが少しでも長く、少しでも安らかに眠っていられるように…

 

 

 

Side.なのは

 

「大丈夫なの? なのはちゃん。」

「うん、大丈夫。その分ゆっくり眠ってたから!」

 

わたしは結局お昼まで眠っていた。
正直昨日、遊星さんにおぶってもらった辺りから記憶が無い…D・ホイールに乗った筈なんだけど…危なかったかもね…  

「ジュエルシードも時間帯考えなさいってのよね。」

「あはは…」  

今日はお昼過ぎからお父さんが監督をやっている少年サッカーチームの練習試合があったので、わたし達3人はそれの観戦兼応援をしていた。
こっちのチームは見事勝利。それで今は翠屋でご褒美のおやつタイム。
わたし達もついでにお茶を楽しんでいる。

ちなみに遊星さんは試合の観戦はしておらず、ずっと翠屋で働いてくれていた。

当然、今も。

 

「お待たせしました。季節のフルーツケーキ3つです。」

「ありがとうございます、遊星さん♪」  

遊星さんはいつもの上着では無く、白いYシャツに翠屋のエプロンを重ねた格好。
相変わらず良く似合ってるの♪
そう言えばお母さんが遊星さんに執事服はどうかしらって言ってたような…

遊星さんが執事……

お母さん、わたしは全力で支持します!  

「なんていうか…遊星も大分接客が上手くなってきたんじゃない?」

「うん。もう本当のウェイターさんみたい。」 

二人の意見にはわたしも同感だ。
最初にあったぎこちなさはもう見る影もない。
勿論、遊星さんが記憶を取り戻したと言うのもあるんだろうけど。
やっぱり元から器用なのかな?  

……ぃぃん……

 

「?」

「なのは?」

「なのはちゃん?」

「う、ううん。何でも無い。」

 

何だろ、今の変な感じ…気のせい…かな…?

 

妙な音。
不思議な感覚。
気のせいで片付けるべきでは無かった。
わたしがそれを思い知るのはほんの数時間後の話でした。

 

 

 

Side.遊星

 

「まるで植物族のモンスターだな…」

 

其れを見た時の第一声はそれだった。

今俺達の前には巨大な樹。

確認しておくが俺達は山などにいるわけではない。

街中のど真ん中に樹木が出現したのだ。

勿論ただの樹では無く、時々地表に這い出した根がゆっくりと動いている。

すでに結界はユーノによって張られているのだが…

問題はその樹の中心…いや、内部と言うべきか。

 

「あの子達…お父さんのサッカーチームの子です…」

 

なのはの探索魔法で見つけた力の源。

樹の中心部には少年と少女が捕えられていた。

まるでコアのように、細い枝が彼らを捕えていた。

ジュエルシードの…暴走した力の最も近くにいるために、ユーノの結界の力も上手く届かないのだろう。

…ん?

 

「………」

 

横を見るとなのはが唇を噛んでうつむいている。

 

「どうした?」

「……わたし、気付いていたんです…あの男の子から不思議な力を…なのに、気のせいで片付けちゃって…それでこんな事に…」

「………」

 

責任感の強いなのはらしい言葉だった。

なのはは自分で全てを背負うつもりでいる。

だからこそ…

 

ぽんっ

 

なでなで…

 

「過ぎた事を悔やんでも仕方ない。失敗は次に活かせば良い。それはお前の様子に気付いてやれなかった俺達も同罪だ。今は今の、やるべき事をやろう。」

「……はいっ!」

 

なのはの目に強い光が戻る。

そうだ。

俺達は仲間だ。

辛い事は共に背負おう。

そして後悔するのは全てが終わってからだ。

 

「近づくとあの根が攻撃してきます…危険だけど封印するには近づくしか…」

「……ううん。出来るよ、きっと。お願い! レイジングハート!」

『Shooting Mode Set up.』

 

レイジングハートの赤い宝玉がなのはの声に答えるように輝くと、杖の形が変化した。

穂先が長く鋭く。

狙い撃つ事に適した形…俺は直感的にそう思った。

 

「ほ、砲撃魔法!?」

「遠距離攻撃か…なら俺が囮になろう。根は俺が引き付ける。なのははコアを狙い撃てる位置に移動して、チャンスが来たら俺に構わず撃ち抜け。」

「はいっ!」

 

なのはは飛び立ち、近くのビルの屋上に向かう。

俺もデュエルディスクを構え、宣言する。

 

「デュエル!」

 

きぃぃぃん…

 

モーメントが輝き、デッキから5枚のカードをドローする。

……この手札は……

確かに、これだけの数の根を相手にするには、俺も遠距離攻撃が可能なモンスターを呼ぶべきだな…

力を貸してくれ!

モンスター達よ!

 

「俺は手札から《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札を1枚捨て、デッキからレベル1の《チューニング・サポーター》を特殊召喚!
 更に手札から《ハイパー・シンクロン》を通常召喚!
 そして墓地のこのカードは場にチューナーが存在する時、フィールドに特殊召喚出来る! 蘇れ!《ボルト・ヘッジホッグ》!」

 

俺の場に3体のモンスターが並ぶ。

合計レベルは8!

 

「《チューニング・サポーター》はシンクロ素材とする時レベル2として扱う事が出来る!
 俺はレベル2となった《チューニング・サポーター》と、レベル2の《ボルト・ヘッジホッグ》に、レベルの《ハイパー・シンクロン》をチューニング!
 集いし願いが、新たに輝く星となる。光射す道となれ!シンクロ召喚! 飛翔せよ!《スターダスト・ドラゴン》!!」

 

《ハイパー・シンクロン》が4つのリングとなり、それをくぐる2体のモンスター。

リングを光の柱が貫いた時、そこに降臨したのは俺のエースモンスター、星屑を纏った白銀の竜。

《スターダスト・ドラゴン》だ。

 

「《チューニング・サポーター》の効果で1枚ドロー。
 頼むぞ!《スターダスト・ドラゴン》! 響け! シューティング・ソニック!

『〜〜〜〜〜〜〜!!』

 

《スターダスト・ドラゴン》が羽ばたき、一際大きく咆哮すると、その口から不可視の音波が放たれる。

 

めきっ

 

ばきぃっ

 

当然、樹はそれを根を使ってガードする。

だが攻撃の威力は治まらず、次々と根を破壊していく。

根を貫き、コアの下部へと着弾し、樹木を大きく揺らす。

狙いは成功だ。

根を引き付け、可能であれば破壊。

それでなのはの攻撃するスペースが広くなる。

そして《スターダスト・ドラゴン》ならば奴の根の防御を貫けるであろうことは予想していた。

だからこそ、彼らを傷つけないように本体を狙う。

《スターダスト・ドラゴン》は俺の思惑に見事に応えてくれた。

なのはの方を見ると、杖の先に桜色の光が集まって行くのが見える。

封印の準備は整ったのだろう。

後はタイミング……っ!

 

こぉぉぉぉぉっ…

 

突如痣が輝きだす。

別のジュエルシードが近くにあるのかと思ったが、そういう感覚では無かった。

不意に痣から声のような物が頭に響いた。

 

『ずっと…』

『ずっと…』

『一緒に…』

『一緒に…』

『彼女と…』

『彼と…』

『『ずっと一緒にいたい…』』

 

「!!」

 

今のはまさか…

俺は樹の中心に目を向ける。

俺達はてっきり、今回のジュエルシードは樹と融合し、彼らはそれに巻き込まれただけだと思っていた。

まさか、ジュエルシードとは…

願いや思いを…純粋な心すら…歪んだ形で叶えてしまうと言うのか!?

 

ガギ…ギィィンッ!

 

バキィ!

 

もし彼らの心がエネルギーになっているとすれば、マズイ。

人の心はいつだって大きな力となる。

それを証明するかのように、破壊した筈の根は驚くべきスピードで再生していく。

 

うぉんっ

 

びゅいんっ

 

そしてその根は《スターダスト・ドラゴン》を狙うわけでもなく、ただ暴走を始めた。

だが、この街を壊させはしない!

 

「ヴィクティム・サンクチュアリ!!」

『〜〜〜〜〜〜〜!!』

 

しゅぅぅんっ

 

《スターダスト・ドラゴン》が消滅し、残された星屑の光が根に絡みつき、破壊活動を止める。

それにより、樹の動きも止まった。

 

「なのは!」

「お願い! レイジングハート!!」

 

ドンッ

 

レイジングハートから放たれた桜色の光は樹の中心部を真っ直ぐに撃ち抜き、樹は何事も無かったかのように地中へと戻って行った。
これで終わりだな…

 

 

 

Side.なのは

 

「ジュエルシードは願いを叶える宝石…とも言われていますが、実際には違います。
 正確に言えば、『コントロールさえ出来れば大抵の願いを叶えるほどのエネルギーを有している宝石』…それがジュエルシードです。
 逆に魔法の力を持たない者や心の弱い者だと、エネルギーを制御できずに暴走してしまいます…」

 

わたし達はビルの屋上から、ユーノ君の魔法ですっかり元に戻った街並みを眺めながらユーノ君の言葉を聞いていた。

元に戻らなかったのは二人だけ。

あの二人はジュエルシードに最も近かった為に、全ての傷を治す事は出来なかった。

軽い打撲程度の話だとユーノ君は言っていたけど…

 

「………」

「……ユーノ。すまないがあの二人が無事に家に帰れるか付いて行ってくれないか?その後は直接家に戻ってくれ。」

「わ、分かりましたっ。」

 

ユーノ君はビルを出て、足を引きずって歩く二人を追いかけて行く。

それを確認してから口を開く。

 

「……わたし…ダメですね…」

「………」

「遊星さんの、あの綺麗なドラゴンの力があったから、街はあれ以上壊れずに済んだ。

 ユーノ君がいたから、被害は最小限に戻せた……わたし…本当にダメです…」

「……なのは。」

「えっ?」

 

こつんっ

 

軽く、本当に軽く頭を小突かれた。

 

「……え、えっと…?」

「アリサ達ならもっと怒っていたぞ。」

「え?」

「自分の仲間が…大切な人が馬鹿にされて怒らない奴はいない。」

「遊星…さん…」

 

視界が霞む。

何でだろう。

遊星さんの前だと、自分が弱くなったように感じる。

…ううん。

これがきっと本当のわたし。

遊星さんはいつだってわたしの弱さを受け止めてくれた。

だから安心して、弱くいられるんだ。

 

ぎゅっ…

 

「うっ…ふぅっ…」

「一人で抱える必要なんてない。いくらでも分けろ。最初は俺にだけで良い。
 ……一人で出来る事なんてたかが知れている。座っても良い。いくらでも泣いて良い。二人でもっと強くなるためにな。
 …何度でも受け止めてやる。」

 

遊星さんの言葉を聞きながら、声を押し殺して涙を流す。

今の自分の精一杯じゃ足りない。

もっと…もっと頑張らなきゃ。

だから今は…

 

「わああああああんっ!!」

 

思いっきり泣こう。

大切な人の胸で。

明日は自分の足で立てるように。

今日の自分よりも強くなれるように。

ユーノ君のお手伝いで始めたジュエルシード集めだけど、これからは自分の意思で、こんな事はもう二度と起こさせないと強く思う。

遊星さんと一緒に、絶対に成し遂げて見せると決意した。

 

 

 

 

 

 To Be Continued…