Side.遊星
カチャカチャ…パタン
「これでいいだろう。」
「助かったわ。ありがとう、遊星君。」
「この程度ならお安い御用だ。」
すずかの家で彼女にジュエルシードを渡してから数日。
あの日からなのはは毎日頑張っている。
家族や友人との時間は大切にしながらも、レイジングハートやユーノと共に魔法の練習を行い、更に時間が空いていたら俺や美由希と体捌きの鍛錬を行う。
なのはは少しやりすぎる所があるため、そこは美由希や桃子さんがカバーしてくれている。
俺はと言うとD・ホイールのメンテナンスはかかさず行っているが、それと同時にこの世界で新たに手に入れたカード達を活かす、
そして俺の本来のデッキと共存させる構成やコンボを常に考えている。
何時ジュエルシードが発動するかも分からないため、俺もなのはも常に万全を心掛けている。
……可能であれば彼女との戦闘は避けたい。
実力や戦力など、そう言う事では無い。
彼女は誰かを不幸にするために動いているのではないと言った。
俺にはその言葉が嘘だとは思えない。
ならば俺達は協力し合えるのではないか?
いや、きっと協力し合える筈だ。
ピンポーン♪
「あら、お客さんかしら。」
「俺が出よう。」
「そう? じゃあお願いね。」
「ああ。」
玄関へと向かい、扉を開ける。
「こんにちは。」
そこにいた客は4人。
薄紫を基調とした服を纏った女性。
ベージュ色の民族衣装とも思える服装の女性。
そして…
「こ…こんにちは…」
「やぁ。」
《クリボー》が選んだ少女と、その少女と共にいた女性だった。
Turn.10「協力」
「ゆっくりしていってくださいね。」
「ありがとうございます。」
場所は変わって離れ。
なにしろ全く予想していなかった客人がやって来たのだ。
道場の方で美由希と鍛錬をしていたなのはも呼び、今この離れにはユーノを含め7人がいる。
桃子さんはお茶とお茶受けを持って来てくれて、空気を察してくれたのかすぐに退室している。
「突然訪ねて来てごめんなさい。だけど、なるべく早く会いたかったの。」
「い、いいえ。大丈夫です。」
「………」
「そんなに警戒しないで。……と言っても無理でしょうね。お互いに事情が事情だもの。」
「いや…そうだな。まずは話を聞かせてもらおうか? 何故此処へやって来たのか、そして俺達の事をどうやって調べた…」
「うわっ! ヤバい! このシュークリーム滅茶苦茶美味い!!」
「ちょっ、アルフ…」
「…アルフ。行儀が悪いですよ。」
「ああ、ごめんごめん。だってすっごい美味いよこれ! フェイトも食べなって!」
自分でも無意識のうちに尋問のような口調になっていた事を恥じる。
張り詰めた空気を壊してくれた女性に感謝しつつも、見る限りは年下である少女に窘められている光景に笑みをこぼす。
「訂正しよう。まずは名前を聞かせてくれないか? 俺は不動遊星だ。」
「ふふっ…高町なのはです。」
「ユーノ・スクライアと言います。」
俺からの威圧感が消えた事を察したのか、それとも少女達のやりとりを見てか、向かいの女性も笑みをこぼす。
「プレシア・テスタロッサよ。この子の母親です。」
「私はフェイト…フェイト・テスタロッサ…です。」
「アルフだよ。フェイトの使い魔さ。」
「プレシアの使い魔をやっているリニスです。」
何日越しかで彼女…フェイトの名を知る事が出来た。
「まずは貴方…遊星君の質問に答えましょう。フェイトと戦った魔導師…なのはさん。貴女の魔力を辿ってこの家を探し当てたの。ここに来た理由は…和解よ。」
「「和解?」」
俺となのはの疑問の声が重なる。
「ええ。この子がなのはさんを傷付けた事は事実。それを許してとは言わないわ。
だけど私達は、可能であれば極力争いは避けたいの。そして、これも可能ならば、貴方達と協力関係でありたいと思っているわ。」
「「「………」」」
こちらは3人とも無言。
だがなのはとユーノはともかく、俺は別の意味で無言だった。
まさかあちら側も同じことを考えていたとは…
「私達がジュエルシードを欲する理由は一つ。私の娘であり、フェイトの姉。アリシアを蘇生させる事。」
「蘇生……だと……?」
「ええ。今から数年前の事よ…」
プレシアは自身の過去を語った。
自分が魔法科学に携わる研究者であった事。
ある研究が失敗・暴走し、それが原因で『一人娘』であるアリシア・テスタロッサを失った事。
だが自身のこれまでの知識を総動員し、アリシアを蘇生させる方法を組み上げた事。
話を聞く限りではアリシアは『死んだ』訳では無く、強大すぎる魔力に当てられ、まるで毒に蝕まれたようになり、眠り続けているのだろう。
その毒を浄化し、目覚めさせるためには、それこそ暴走した魔力以上の、膨大な魔力が必要となる事。
そして…先の研究の過程で生まれた『プロジェクトF』の事。
「「「「「「………」」」」」」
プレシア以外誰も口を開かず、ただ黙って話を聞いていた。
「私自身、少しは名の売れた魔導師だった。だけど暴走した魔力を少しでも抑えようとして…結果、私は娘と魔力の大半を失った。
私は魔導師だったからこそ命までは失わずに済んだけど、その際にリンカーコアに多大なダメージを負ったわ。今では並の魔導師クラスの魔力もあるかどうか…
そしてあの子は魔導師としての力…魔力には恵まれなかったために、今も眠り続けている。」
「………」
「あの子の肉体を完全に治療するための魔力は今の私の中にはない。なら、あの子の全てを違う器にコピーする事を思いついた。それが…『プロジェクトF』。」
「………」
プレシアの横にいるフェイトの顔が僅かに暗くなった。
「結果は失敗。計算上は上手く行くはずだった。だけど完成したのはアリシアでは無かった。 ……当然よね。この世に同じ人間なんていないのだから。」
プレシアの顔は自嘲めいた表情だった。
「そして私は膨大な魔力の当てに辿り着いた。それがジュエルシード。だけど今の私にそれを回収するだけの力は無い。
だからこそ…完成したアリシアでは無い少女を使った。
アリシア以外は私の娘では無い。そう思っていたから私はその子に意味のある名前を付けようとは思えなかった。
そして付けたのはプロジェクト名をそのまま、『フェイト』。」
「「「………」」」
これは今俺達の前にいる4人にとっては何よりも辛い記憶なのだろう。
4人とも、そしてプレシアが一番辛そうに話を続ける。
「アリシアであってアリシアでは無い。私はその子に辛く当り続けた。だけど、それでもこの子は優しかった。温かかった。
そして気付いたの。私はどうしようもなく、これ以上なく愚かな人間だと。」
ぎゅっ…
プレシアは笑顔で隣にいる『二人目の愛娘』を抱きしめる。
「記憶も、利き腕も、魔力資質も魔力光も関係無い。この子は私の娘。あの子の妹。
許してもらえるとは思っていなかった。この子の刃が私を貫いたとしても私は受け入れるつもりだった。だけど、この子は許してくれた。
こんな私を…母と言ってくれた…」
「………」
気恥ずかしそうにしながらも、『母』の腕の中でフェイトは微笑んでいた。
「だからこそ、私は取り戻したい。私だけの為じゃない。今度こそ間違わない。本当の家族の為に、私は…私達の家族を取り戻したい。」
誰も何も言わず、プレシアは静かにフェイトを抱きしめ続けた。
するといつの間にかリニスが俺達の後ろに回って耳打ちしてきた。
「プレシアは最初、『フェイト』の名を改めようとしていたんです。だけど、フェイトはそれも受け入れた。
だからプレシアはその名に意味を持つようにした。『フェイト』…その意味は『運命』。
自分とフェイトが出会ったのはまさしく運命だと、プレシアはいつも言っているんです。」
自分以外には言いませんけど、とリニスは最後に付け加えて戻って行った。
「ふふっ…遊星さん。」
「?」
「わたし、初めて会った時からあの子と…フェイトちゃんと友達になりたいって思っていたんです。」
「………」
「それもあるんですけど…わたしも、協力し合いたいって言うか、仲間になれたらって思うんです。遊星さんはどうですか?」
「……ああ。俺も同じだ。」
互いに小さな声で会話を交わし、笑い合う。
目的が同じなら戦う理由は無い。
きっと俺達は仲間になれる筈だ。
「ユーノ。聞いても良いか?」
「はい、何でしょう?」
「ジュエルシードの魔力は、使えば無くなってしまうような物なのか?」
「断言は出来ないんですが…ジュエルシード…ロストロギアには謎が多いので…
ですが現時点で分かっている限りでは、ジュエルシードは膨大な魔力を宿し、そして発し続ける宝石です。
何らかの外的要因で破壊される事はあっても、魔力を消費して消滅すると言う事は無い筈です。」
「そうか…なら、お前の故郷にジュエルシードを持ち帰るのは、彼女達の目的の為に魔力を使った後でも問題無いか?」
「そう来ると思っていました。はい。ジュエルシードその物が残っているなら全く問題ありません。」
こちらも協力する事に障害は無い。
きっと家族は蘇る。そして、ジュエルシードも全て揃う。
俺は心の中でそう断言した。
Side.なのは
場所は変わってわたしの部屋。
今此処にいるのはわたしを入れて2人。
遊星さんはプレシアさんとリニスさん、それにユーノ君と一緒にアリシアちゃんの為の魔法を再構築している。
遊星さんなら、プレシアさん達が組み上げた式も更に改良してしまうんじゃないかと言う自信があった。
アルフさんは離れの屋根で日向ぼっこ。
そして…
「お、お邪魔します…」
この部屋ではわたしとフェイトちゃんの二人っきり。
「そんなに畏まらなくても良いってば。」
「…ごめん。」
「いや、謝らなくても…」
「ううん。そうじゃない。この間の事…」
「?」
「君を傷付けて、本当にごめん…」
何となく。
根拠も何も無かったけど、フェイトちゃんはあの日からずっと悩んでいた。
そんな気がした。
「そうだねー。怪我は無かったけど、すっごく痛かったなー。」
「ううっ…」
わざとらしく言ってみるが、どうやらわたしが怒っていると思ったのか、フェイトちゃんはさっきよりも縮こまってしまった。
「なのは。」
「?」
「わたしの事、『なのは』って呼んでくれたら許してあげる。」
「……へ?」
「わたしね、フェイトちゃんに謝ってほしいなんて思ってないよ。ただ、友達になりたい。だから、その第一歩。名前を呼んでほしいの。」
「………」
フェイトちゃんは暫くキョトンとしていた。
「えっと…な、なのは…」
「うん。フェイトちゃん♪」
「なのは。」
「フェイトちゃん!」
「……ふふっ……」
「えへへっ。」
すずかちゃんやアリサちゃんと一緒にいる時と同じ。
優しい空気を感じた。
それからフェイトちゃんといっぱいお話をした。
家族の事、友達の事、学校の事。
後、これから絶対に必要になる事だから、魔法の特訓も手伝ってほしいと頼んだら快く承諾してくれた。
だけどその中でも、遊星さんの話が一番多かったと思う。
びっくりしたのが、フェイトちゃんもデュエルモンスターズをやってるって事なんだけど、そのきっかけがイラスト違いの《クリボー》で、遊星さんから貰ったって事。
何だか、わたしとフェイトちゃんの間の空白を、遊星さんが繋いでくれたみたい。
ううん。フェイトちゃんだけじゃない。
プレシアさん、リニスさん、アルフさん。
アリシアちゃん、そして多分、これから先も。
遊星さんは人と人の間に絆と言う橋を繋いでくれるのだろう。
そんな遊星さんと出会えた事を誇らしく思いつつも…
「そっか…遊星ってそう言う人なんだ…」
遊星さんの話で目を輝かせている少女を見ながら強く思った。
ライバルは多そうだ。と。
To Be Continued… 
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