Side.???

 

「ありがとうございましたー♪」

 

カランカランッ

 

荷物を抱えて店を出る。

少し買いすぎたかもしれない。

この店は雰囲気は良かったが、この量でこの大きさの紙袋は合って無いんじゃないだろうか…

恐らく前から見たら私の口元まで隠れているだろう。

紙袋の口は閉じておらず、何かあったらこぼれてしまいそうだ。

あの子を連れてくるべきだったかと思い、すぐにその考えを打ち消す。

あの子はあの子で部屋のお掃除をやってくれているのだ。

無理は言えない。

きっとあの子は無理だなんて思わないだろうけど、だからこそ言わない。

あの子は優しい子だから…

 

ぐらっ…

 

「あっ…」

 

崩れる荷物。

なんとかバランスを立て直すが一瞬遅く、荷物が一つ、宙に置き去りになった。

落とした。

そう思ったが…

 

パシッ

 

「随分な大荷物だな。」

 

不思議な空気を纏っている青年の手がそれを受け止めた。

 

 

 

 

 

Turn.7「邂逅」

 

 

 

 

 

「ほら。」

 

カサッ

 

青年は受け止めたそれを私の持っている荷物の上に置く。

 

「………」

 

ひょいっ

 

「あ…」

「俺が持とう。どこに運べば良い?」

 

お礼を言わなければ。

そう思っていたのだが、彼は数秒考えた後に私の荷物を奪い取ってしまった。

どうやら自分が運ぶと言うことらしいが、何故こんな事をしてくれるのだろうか…

 

「あ、あの、何で…」

「気にするな。ただのおせっかいだ。」

 

返って来た答えはそれだけだった。

普通なら泥棒かと疑うのかもしれないが、この人からは全くそんな気配を感じなかった。

本当に100%の善意でやってくれているのだろう。

 

「それで? どこに持って行くんだ?」

「あ…あの、こっちです…」

 

私が彼の事をそう評価している数秒、全く動かなかった私を彼は促す。

そのまま彼と一緒に歩いた。

私は無言。

彼も無言。

だが、気まずいとは感じなかった。

いや、初対面の人に気まずいも何もあったものではないのかもしれないが、不思議と彼との無言の時間は心地良かった。

 

「ここか?」

 

無言のまま歩き続け、辿り着いたのは私が住むことになるマンション。

お礼に上がって行ってもらおうかな…

あれ?

 

「おっかえり〜。」

 

あの子が外に迎えに来てくれていた。

何かあったのだろうか?

 

「アンタもわざわざすまないね。この子を手伝ってくれてありがと。」

「いや、問題無い。俺が勝手にした事だ。」

 

彼は彼女に荷物を渡すと、背を向け歩きだそうとした…が、立ち止まり、懐から1枚のカードを取り出した。

 

スッ…

 

「……えっ?」

「お守り…のようなものだ。君に持っていてほしい。」

「………」

 

そのカードを静かに受け取る。

見た事は無いが、この世界のゲームだろうか?

可愛いイラストに目が惹かれた。

 

「それじゃあな。」

「あっ…あの!」

「?」

「ありがとうございました!」

 

私は自分のツインテールが大きく揺れるほどに、お辞儀をする。

 

「ふっ…またな。」

 

彼は小さく微笑むと、今度こそ振り向かずに立ち去って行く。

 

「…どうして外にいたの?」

「いや〜。何かそっちの感情が何となく伝わってきてさ〜。」

「それなら…」

「アイツが良い奴そうなのは私にだってわかるさ。けど、そうホイホイと男を家にあげるもんじゃないと思うよ?」

 

そう言われると何も返せない。

さっきの私は珍しく積極的だったのだろうか?

あの人の…あ。

 

「どうしたんだい?」

「あの人の名前…聞くの忘れた…」

「あー…まあ、また会えるでしょ。きっと。」

「…うん、そうだね。色んなドッグフード買って来たし、家に戻ろう。アルフ。」

「あいよ。フェイト。」

 

次に会えたら自己紹介をしよう。

そして次に街に出かけたら、このカードの事を調べてみよう。

この子の…《クリボー》の事を。

 

『  〜♪』

 

不思議な声が、聞こえた気がした。

 

 

 

Side.遊星

 

あのカードはあの子を選んだのか…

決闘者のオーラとも言うべき物は感じなかったが、それでもカードがあの子を選んだんだ。

きっと意味があるのだろう。

龍可がいれば何か分かるのかもしれないが、無い物ねだりをしても始まらない。

店長の言っていた通り、俺は俺の感じた通りに動くことにしよう。

 

「……しまった。」

 

あの子の…いや、あの子達の名前を聞いていない。

そして名乗ってもいない。

だが…

きっとまた会える。

そう結論付けて俺はまた歩き出す。

 

 

 

カランカランッ♪

 

「いらっしゃ〜い。あら、お兄さん。今日はお一人?」

「ああ。」

 

俺は以前もやって来たジャンクショップに来ていた。

彼女はなのは達の事を言っているんだろうが、なのはは今アリサの家だ。

俺も士朗から休みを言い渡されたので、なのはから誘われてはいたんだが…

やるべき事を思いつき、ここへやって来た。

 

カチャ…カチャンッ

 

以前と同じようにパーツを物色していく。

 

「ねえねえお兄さん?」

「ん?」

「最近この辺りを走ってる赤いバイクってお兄さんでしょ?」

「……恐らくはな。」

 

確証は無いが、この街で過ごしている間、D・ホイー…いや、バイクを見た事はほとんど無かった。

珍しければそれだけ印象には残るだろう。

 

「やっぱり! もしかしてあのバイクってお兄さんが自分で修理したの?」

「そうだが…何故分かったんだ?」

「えっへへ〜。前に買って行ったパーツ、あれって車とかバイクとかに使うパーツが多かったし、中にはバイクにだけ使われてるパーツも混じってたしね。
 それにお兄さん、自分で気付いて無いかもしれないけど、結構有名なんだよ?『喫茶翠屋のイケメンウェイター』ってね♪
 流石にそんな人が工場との掛け持ちってのは考えにくいから、あのパーツはお兄さんが個人的に使うパーツ。どう? 当たってる?」

 

凄い洞察力だな…

それに、こういった店に勤めているとは言っても、それ相応の知識が無ければそんな事には気付けない筈…

たとえ若くても、店を任されているだけはあると言う事か。

……それにしても、『イケメン』とはどういう意味だ?

 

「隠す理由も無いな。その通りだ。あれは俺が自分で修理する為に買って行ったパーツだ。まあ、全てのパーツじゃないが…」

「ってことは直ったんだね。おめでとう!」

「……ああ、ありがとう。」

 

まるで自分の事のように喜ぶ彼女。

 

「物が壊れて、捨てられる。それは当たり前の事かもしれないけど…きっと悲しい事だから…」

 

そう語る彼女の瞳には悲しみの色が見えた。

彼女に何があったのかは知らないが…

 

「本職の人間に言う事じゃないが、何か壊れた物があるなら喫茶翠屋に連絡してくれ。」

「え?」

「俺に直せる物なら必ず直してみせる。絶対に。」

「………」

 

俺に出来る事なら手伝いたいと思えた。

 

「………ふふっ。お兄さんはウェイターさんをやりながら、修理屋さんでも始める気?」

「ふっ…それも良いかもしれないな。」

 

 

 

店で買ったパーツを持ち、高町家に戻る。

…予定だった。

 

「よう、兄さん。」

「ん? 店長か。」

 

以前もこんなやりとりをした記憶があるが…

 

「どうだい兄さん。ちょっと寄って行かねえかい?」

「何かあったのか?」

「い〜や。ちょっと面白いもんが見れると思うぜ。」

「?」

 

店長に促され、俺は店内へと歩を進める。

 

 

 

《堕天使エデ・アーラエ》で守備モンスターに攻撃や。更に墓地から蘇った《堕天使エデ・アーラエ》には貫通能力があるで。」

「だーーーーー!! また負けたーーーーー!!」

 

案内されたのは、店内にあるデュエルスペース。

そこではちょうどデュエルが終わった所らしい。

負けた少年は悔しさを隠せず絶叫し、周りの友達がなだめている。

そして勝ったのは…車椅子に乗っている少女。

膝には鎖で封印されているような…不思議な本が置かれている。

 

「はやて姉ちゃん! 次はゼッテー負けねえからな!」

「私も負けへんよ。いつでもおいで。」

 

バタバタバタ…

 

少年達は少女にそう言い残し去って行った。

 

「お疲れさん。」

「あぁ、店長。別に疲れてへんよ。私も楽しかったし。」

「そりゃ何よりだ。」

 

どうやら少女はこの店の常連らしい。

店長とも砕けた口調で話している。

だが俺にはそれよりも気になった事があった。

 

スッ…

 

デュエルテーブルに近づき、彼女が使っていたカードの1枚を手に取る。

 

「あの…どないかしたんですか?」

「ああ、すまない。このカード達が少し気になってな。」

 

彼女の使っているカード達の多くは傷や汚れが付いている。

使いこんで擦り減った…とも考えられるが、それにしては不自然な傷もあるように見える。

 

「失礼な事を聞くが、このカード達を…そうだな、道路にでも落とした事があるのか?」

「……はぁ…お兄さん凄いなぁ…」

「?」

「いや、実はな? この子達は家の近所のゴミ捨て場に捨てられとった子達なんよ。」

「………」

「要らなくなったから捨てたんか、傷や汚れが付いたから捨てたんか、捨てられてから傷や汚れが付いたんか、それは分からへん。
 でも、どんな理由があるにせよ、捨てて良い理由にはならへん。
 気付いたら、そこにいた子達全員持ち帰っとった。ルールも分からんかったけど、店長に色々教えてもろうて、今ではこの店の常連や。」

 

そういうことだったのか…

店長に視線を向けると彼は笑っている。

成程。

面白い物とはこの子の…決闘者(デュエリスト)の事だったのか。

確かにこれは…面白い。

 

「なあ君、俺とデュエルしないか?」

「お兄さんと? ええよ、大歓迎や!」

 

俺は腰のデッキケースからデッキを取り出し、お互いのデッキをシャッフルする。

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

Side.はやて

 

この人…強い…

ううん。それだけじゃない。

この人とのデュエルは…楽しい!

最初見た時は恐い人かと思ったけど、そんなことは無かった。

声は優しくて、まるで私の胸に沁み込んでいくようやった。

それに、彼もカードを大事にしているのが動作や言葉から感じられる。

良く見ると、彼のカードも傷付きのカードばっかりや…

使い込んでそうなったのか、それとも手に入れた時から傷付きだったのか。

そんな事はどっちでもええ。

彼は『傷が付いているのに使っている』んや。

さっきデュエルした子達は違うけど、デパートのカードコーナーに行くと、ゴミ箱にカードを大量に捨てて行く子達もおる。

弱い、汚い=要らない。

それ自体は理解出来る…理解したくはないけど、出来る。

けど、この人は、このカード達に本当に愛着を持って使っている。

店長風に言うならこの人も『真の決闘者』なんやろな。

だからこそ、精一杯楽しんで、全力で行くで!

 

「私のターン! ドロー! …よっしゃ! 私は手札から永続魔法、《神の居城-ヴァルハラ》を発動!
 この効果で手札から《堕天使アスモディウス》を特殊召喚!《堕天使アスモディウス》の効果でデッキから天使族モンスター1体を墓地へ。
 そして魔法(マジック)カード《死者蘇生》! 今墓地へ送った《堕天使スペルビア》を特殊召喚や!
 更に《堕天使スペルビア》が墓地から特殊召喚された時、墓地から天使族モンスター1体を特殊召喚出来る!《堕天使エデ・アーラエ》を特殊召喚!!」

 

これが私の全力!

3体の堕天使達や!

相手の場にはセットモンスターが1体、リバースカードが2枚。

私のライフは500、相手は800。

何が出てくるかは分からへんけど、恐がってても始まらん!

 

「《堕天使エデ・アーラエ》で守備モンスターに攻撃! 墓地から蘇ったこのカードは貫通能力を得る!」

「罠発動!《ガード・ブロック》! この戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージを0にし、カードを1枚ドローする!」

「あちゃ。でも戦闘は続行や!」

「破壊されたカードは《トライクラー》だ。このカードが戦闘によって破壊された時、デッキから《ヴィークラー》を特殊召喚!」

 

限定的なリクルーター…でも攻撃の手は緩めへん!

 

「なら、《堕天使スペルビア》で攻撃や!」

「破壊された《ヴィークラー》の効果により、《アンサイクラー》を特殊召喚!」

「《堕天使アスモディウス》で追撃!」

 

これで相手のモンスターは全滅や!

 

「カードを1枚セットしてターンエンドや!」

 

あのリバースカード…ブラフやったんかな…?

 

「俺のターン! 俺は魔法(マジック)カード《蜘蛛の糸》を発動! 1ターン前にお前の墓地へ送られたカード…《死者蘇生》を手札に加える!」

 

マズ!

《死者蘇生》を盗られた…

けど墓地のカードに《堕天使アスモディウス》を上回るカードは…!

違う!

 

《死者蘇生》を発動! 俺の墓地から《クィーンズ・ナイト》を復活させる!」

「!」

「更に手札から《キングス・ナイト》を召喚! そしてキングとクィーンが場に揃ったことにより、デッキから《ジャックス・ナイト》を特殊召喚!」

「絵札の三銃士…!」

 

やけど、攻撃力は私の場のモンスター3体のどれよりも下や…

こっから何を見せてくれるんやろ…

ワクワクしてきた!

 

「俺は手札から魔法(マジック)カード《ブレイブ・アタック》を発動! 自分の場の攻撃表示モンスターを3体まで選択し、そのモンスターの攻撃力を1つに束ねて攻撃する!」

「なっ!?」

「俺は絵札の三銃士を選択し、3体の攻撃力を一つに!」

 

3体の攻撃力の合計は…5000!?

 

「絵札の三銃士で《堕天使スペルビア》へ攻撃!」

「速攻魔法!《神秘の中華なべ》!《堕天使エデ・アーラエ》をリリースしてライフを2800まで回復する!」

 

攻撃は成立し、これで私のLPは残り700。

でも…

 

「危なかったで…でもこれで、《ブレイブ・アタック》のデメリット効果でバトルフェイズ終了時、絵札の三銃士は破壊される!」

「ああ…だがそれは、『バトルフェイズ終了時にこいつらが残っていれば』の話だ。」

 

確かにまだバトルフェイズは続いて……!

そうか!

 

「リバースカードオープン! 速攻魔法《超融合》! 手札を1枚捨て、自分または相手のフィールド上のカードを素材としてモンスターを融合召喚する!
 俺は絵札の三銃士を融合し、《アルカナ ナイトジョーカー》を融合召喚!」

 

ははっ…

この人、ホンマに強いなぁ…

けど、最っ高に楽しかったで!

 

「《アルカナナイトジョーカー》で《堕天使アスモディウス》を攻撃!」

「ライフ0…私の負けやね。」

 

 

 

「はぁーーーっ……負けても、こんなに清々しい気分になれるものなんやね…」

「俺も楽しかった。」

 

スッ…

 

「?」

 

彼は私に向かって右手を差し出す。

 

「不動遊星だ。遊星で良い。」

「…そう言えば、まだ名乗ってへんかったなぁ。八神はやてや。はやてって呼んでや。」

 

きゅっ…

 

差し出された彼の…遊星さんの手を握る。

手袋越しやけど、なんやろ…あったかい…

思わずずっと握っていたい衝動に駆られたけど、名残惜しく手を離す。

 

「………」

 

スッ…

 

「……?」

「はやて、お前にこれを持っていてほしい。」

「私にこのカードを…?」

 

差し出された1枚のカードを手に取って眺める。

このカードの事は知っている…けど、この子のリボンは金縁の赤いリボンの筈やのに…

この子のは金縁の黒のリボンや…

けど、これはこれでかっこええなぁ…

 

「何で私に?」

「カードがお前を選んだんだ。そして俺も、お前に持っていてほしい。」

「ふふっ。」

 

向こうでは店長が笑っとる。

なんかあるんやろか?

まぁ…

 

「良く分からんけど…うん、大事にする。ありがとうな、遊星さん。」

 

遊星さんは笑顔で頷いた。

今日はホンマにええ日や。

ひょっとしてこの子達が私を遊星さんに会わせてくれたんやろか?

ふふっ。

そんなおとぎ話みたいな事を期待してもバチは当たらへんやろ?

まあそれはともかく。

これからよろしくな、《クリボン》。

 

『  〜♪』

 

不思議な声が、聞こえた気がした。

 

 

 

Side.遊星

 

カチャ…

 

カチャカチャッ…

 

キッ

 

コトッ

 

「ふぅ…」

 

作業が一段落し、工具を置いて息を吐く。

 

ガラガラガラッ

 

「ん?」

 

ぴょこっ

 

「遊星さん。今大丈夫ですか?」

「なのはか。ちょうど良かった。」

「?」

「いや、何でも無い。どうしたんだ?」

「授業で分からない所があって…教えてもらえませんか?」

「俺に?」

「はい。」

「恭也達はどうしたんだ?」

「お兄ちゃんは道場で、お姉ちゃんはユーノ君と遊んでて…」

「そういう事か。分かった、こっちへ来い。」

 

机を片付け、なのはの持ってきた問題を教えながら解かせていく。

他の科目はともかく、理数系ならば俺でも教えられる。

だが元々なのはは頭の良い子だ。

基礎が出来ているため、教える側としても楽だ。

今回も少し意地の悪い応用問題で躓いただけで、ちょっと問題を整理したら簡単に解き終わった。

 

「ふぅ…ありがとうございます。遊星さん♪」

「ああ、お疲れ様。」

 

俺が何かしたわけではないが…

それを言った所で返ってくる言葉が予想できるため、言わない事にする。

 

「それで遊星さん。ちょうど良かったって何のことですか?」

「ああ。なのは、今携帯電話を持っているか?」

「? はい。」

 

なのはがポケットから携帯電話を取り出す。

 

「この番号にかけてみてくれるか?」

「はい……?」

 

番号を書いたメモを渡す。

 

ピップッペッ…

 

「??? 090でも080でも無い…?」

 

ピッ

 

番号を打ち終わり、発信ボタンを押して携帯電話を耳に当てるなのは。

その1秒後。

 

ピリリリッ ピリリリッ

 

「ふぇっ?」

「良し。完成だ。」

「え? あの、遊星さん? これは…」

「通信機……いや、携帯電話と言うべきか。俺が今作った。」

「作った!?」

「アリサやすずかに何かあったら連絡をと言ったのは良いが、俺への連絡手段が無かったからな。
 高町家か翠屋に連絡すれば大体通じるとは思うが…100%では無いからな。
 今日パーツを買ってきて作ったんだ。明日にでも2人にその番号を伝えておいてくれるか?」

 

あの店はジャンク品と言っても良いパーツが置いてある。

小型モーメントも搭載したし、これで連絡が繋がらない事も無くなるだろう。

 

「ゆ…遊星さん? 普通携帯電話なんて作れませんよ?」

「大したことじゃない。D・ホイールに比べれば簡単だった。」

「D・ホイール……」

 

ちらっ…

 

なのはは俺のD・ホイールに目を向ける。

 

「これって遊星さんが作った物だったんですか!?」

「…言って無かったか?」

「聞いてませんよ!?」

「そうだったか。仲間たちと一緒にパーツ集めから全て自分達で組み上げたんだ。」

「パーツ集め……って、まさか全部ジャンクパーツですか!?」

「ジャンクパーツが手に入ればマシな方だったな。ほとんどゴミ山に捨てられていたガラクタを調整して作った。」

「………」

「……なのは?」

「遊星さんは何者ですか!?」

「ただの決闘者(デュエリスト)だ。」

 

俺の返答になのはは呆然としている。

 

「確かに今まで、こんな形のバイク見た事も無かったし、遊星さんの修理の技術は凄いと思ってましたけど、まさか自作品だとは思いませんでした…」

「…と言うよりも、こう言った技術が自然と身につく環境だったからな…」

「? どういう事ですか?」

「俺の育った場所…サテライトでは…」

 

 

 

Side.なのは

 

「凄い…所だったんですね…」

 

『酷い』

その言葉を使いたかったが、なんとか呑み込んだ。

 

「なのはに聞かせるような事じゃ無かったな…あの場所には罪を背負った人間や、シティから弾かれた人間が集まる場所だった。

 たとえ子供でも、生きるための力が必要だったんだ。」

 

それが運動能力、知識、技術と言う事だろう。

 

「確かに環境は決して良いとは言えなかった。だが、悪い事だけでも無かった。」

「?」

「かけがえのない友、同じ夢を分かち合える仲間と出会えた。D・ホイールの完成だって、極論を言えば生きるためには不要な事だ。
 だがこいつが…俺達のD・ホイールが完成し、走る姿。それが俺達の夢でもあった。
 夢は…想いは、どんな絶望の中でも光に向かって歩き続ける力になる。」

 

もしも夢が無かったら、俺達も誰かの何かを奪う側になっていたかもしれない。と遊星さんは続けた。

 

「もちろん今は違う。今は街が一つになって未来へ向かって進んでいる。」

「そう…ですか…」

 

遊星さんの過去…

それは平和なこの街で生きているわたしにとっては現実離れしていて、でも、遊星さんにとっては現実の話で。

この人は…どれほどの道を歩んで来たのだろうか…

でもきっと、その過去があるからこその遊星さんなのだろう。

だからこそ、今があるのだろう。

 

ぽんっ

 

なでなで…

 

「あ…」

「そんな顔をするな。俺は自分を不幸だとは思わない。さっきも言った通り、大切な仲間と出会えた。そして…」

「?」

「お前とも出会えたからな。」

 

ぼっ

 

急に顔が赤くなるのを感じた。

だから…

 

ぽすっ

 

遊星さんに気付かれる前に、心配される前に、彼の胸へ頭を預ける。

遊星さんは驚いたようだったけど、何も言わずに頭を撫でてくれた。

たまにはこうやって、甘えても良いよね?

遊星さん…あったかい…

………?

 

くんくん

 

「遊星さん。わたしやアリサちゃんやすずかちゃん以外の女の人と会いました?」

 

仕方ないよね?

わたしだって、女の子なんだもん♪


















 To Be Continued…