Side.遊星
失っていた記憶。
今となっては何故忘れていたのかが不思議でならない。
過去、道筋、絆。
そして…デュエル。
使い方の分からなかったカードの束。
それが今、全てのカードを鮮明に思い出せる。
手足のように使いこなせる。
共に戦える。
それが分かる。
みんな…すまなかった…
もう一度、俺と一緒に戦ってくれ!
「来い!《スピード・ウォリアー》!!」
Turn.5「記憶」
「《スピード・ウォリアー》で攻撃!」
宣言するだけでも肺に、喉に、体に激痛が走る。
だが、それでも!
「《スピード・ウォリアー》は召喚されたターンのバトルフェイズ中、攻撃力が2倍になる!ソニック・エッジ!!」
《スピード・ウォリアー》ATK900→1800
ギャイインッ
ドゴンッ
ローラーブーツから火花を散らし、《スピード・ウォリアー》は奴に攻撃を仕掛ける。
なのはに襲いかかろうとしていた『影』は《スピード・ウォリアー》の足技をまともに喰らい、遠く吹き飛ばされる。
『影』は無警戒だった俺と、新たな存在を敵と認めたのか、その双眸を怪しく輝かせ、睨みつける。
ガアアアアアアアアアッ
再び迫りくる『影』。
ビュシッ
グサッ
『………!』
闇で形作られた触手のような物に貫かれた《スピード・ウォリアー》から、苦悶の叫びが聞こえた気がする。
貫かれ、光となって砕け散る《スピード・ウォリアー》。
そしてデュエル特有の、モンスターが破壊された時の、そしてダメージを受けた時の衝撃が体に響く。
「…っ!」
普段であればなんてことは無い衝撃だろうが、今のこの体では激痛に変わる。
だが…
良くやってくれた、《スピード・ウォリアー》…
「そして、不屈の心は。」
「そして、不屈の心は…」
「「この胸に!」」
なのはを守ってくれて。
そして。
「「この手に魔法を!」」
この『時』を守ってくれて…
「「レイジングハート、セットアップ!!」」
『Stand by ready, setup.』
《スピード・ウォリアー》が守ってくれた数秒。
それが生んだのは、一つの奇跡。
辺りを照らす桜色の輝き。
そこに降臨したのは…
俺は生まれて初めて、『天使族』では無く、『天使』を見た。
Side.なのは
遊星さんを助けられるなら、どんな事だってしてみせる。
わたしの力なんかいくらでもあげる。
今度はわたしが守る番だと思ったのに…
「来い!《スピード・ウォリアー》!!」
また、守られちゃったな。
ありがとう、遊星さん。
でも、今度こそ。
わたしが…守ります!
「「レイジングハート、セットアップ!!」」
『Stand by ready, setup.』
桜色の光に包まれ、わたしは白い服を纏い、杖を携えて化け物…『影』と相対する。
フェレット君が教えてくれた通りにイメージして、戦う。
わたしを守ってくれた、遊星さんのように。
ちらりと、遊星さんを見る。
彼は笑っていた。
微笑んでいた。
その笑顔が、わたしに何よりも力をくれた。
「リリカル、マジカル、ジュエルシード、封印!」
『Sealing mode, set up.』
魔法の杖から溢れ出る光。
それがリボンのように『影』を拘束する。
『Stand by ready.』
「リリカル、マジカル、ジュエルシード、シリアル21…封印!」
『Sealing.』
光のリボンが今度は『影』を貫いてゆく。
光が治まると、そこには青い宝石しか残っていなかった。
杖を近づけると、それは杖の赤い宝玉部分に吸い込まれるように消えて行った…
「! 遊星さん!!」
戦いは終わったのか。
今の化け物はなんだったのか。
魔法とはなんなのか。
さっきの《スピード・ウォリアー》は何だったのか。
そんな事よりも、わたしの中にあるのはあの人の安否だけだった。
「遊星さん! 大丈夫ですか!!」
未だ傾いている電柱に背中を預ける遊星さんに駆け寄る。
「ああ…問題ない。」
「絶対嘘です! すぐに病院へ…」
「落ち着いて。僕に任せてください。」
「えっ?」
フェレット君が目を閉じると、淡い光が遊星さんを包みこんでいく。
すると遊星さんの傷が、破けた衣服が元に戻って行く。
「………」
ぱたり
「フェレット君!?」
遊星さんはもう大丈夫だと思ったら、今度はフェレット君が倒れちゃった!?
「傷が塞がっている…そいつの力なのか…?」
「力…もしかして、魔法? じゃあ、疲れて眠っちゃっただけ…なの?」
「それは分からないが…」
……うぅーーーーーっ……うぅーーーーーっ……
遠くの方からサイレンが聞こえる。
「もしかしてわたし達、このまま此処にいると大変アレなのでは…」
「とりあえず、落ち着いて話せる場所に移動しよう。」
「はいぃっ!」
わたしはフェレット君を抱え、すっかり元気になった遊星さんと一緒に遊星さんのバイクに駆け寄る。
わたしも乗った事を確認すると、遊星さんはバイクを発進させた。
……何だか遊星さん…雰囲気が変わった…?
Side.遊星
俺達は俺の愛機であるD・ホイールに乗って少し離れた公園にやってきた。
夜なので人通りは少なく、サイレンの音も遠い。
ここなら大丈夫だろう。
「すみません……」
弱々しい声がフェレットから発せられる。
「気が付いた? 怪我、痛くない?」
「怪我は大丈夫です。」
シュルシュルッ
フェレットは自分で包帯を取って行く。
「助けてくれたおかげで、残っていた魔力を治療に回せました。ありがとうございます。…まだ尻尾が少し痛みますが…」
「……ゴメンナサイ。」
「?」
なのはの謝罪の意味を知っている俺としては苦笑するしかない。
「いや、礼を言うのはこっちの方だ。俺の怪我を治してくれてありがとう。」
「いえ、そんな! 元々は僕が原因なのに…」
フェレットは消え入りそうな声で言う。
詳しい事は分からないが、お前のおかげで俺が助かった事は事実だと言うのに…
「ねえ? 自己紹介しても良い?」
「あ、うん…」
暗くなった雰囲気を察知してか、なのはが明るい声で言う。
これは俺には出来ない芸当だ。
正直ありがたい。
「わたし、高町なのは。小学校3年生。家族とか、仲良しの友達は『なのは』って呼ぶよ♪」
家族…友達…何故なのはは最初に俺が『高町』と呼んだ時、『なのは』と呼ばせたんだ…?
いや、それもきっとなのはの優しさなのだろう。
「それで、この人が…」
「不動遊星だ。俺も『遊星』で構わない。」
「僕はユーノ・スクライア。『スクライア』は部族名だから、ユーノが名前です。」
「ユーノ君か〜。可愛い名前だね。」
「………」
フェレット…いや、ユーノは俺達に向かって頭を下げる。
「すみません……貴方達を巻き込んでしまいました……」
「えっと……」
「気にするな。」
「えっ…」
返答に、あるいは重い空気に困った顔をするなのはだったが、横から口をはさむ。
「お前が俺達を巻き込んだんじゃない。俺達が自分から巻き込まれに行ったんだ。お前が気にする事じゃない。」
「遊星さん……うんっ! そうだよユーノ君っ。わたし達は大丈夫だから。ねっ?」
「なのはさん……遊星さん……」
その後、ユーノは事情を話してくれた。
世界はこの世界だけでは無く、複数の世界があり、その中には『魔法』が当たり前に存在する世界もあると言う事。
ユーノの一族であるスクライアは遺跡を発掘・調査する部族であること。
ある日、『ジュエルシード』と呼ばれる指定遺失物、ロストロギアが原因不明の事故により、この街周辺にばらまかれたと言う事。
ロストロギアと言うのは、俺の世界でいうところのオーパーツやオーバーテクノロジーの類だろう。
先ほどの『影』はジュエルシードの暴走した姿…らしい。
そしてユーノは自分でそれを回収しようと試みたが、封印するには至らず、疲労で倒れた所をなのはに発見され。
後は俺達の知っている通り。
「さっきのアレって、あの綺麗な宝石が原因だったんだ…」
なのはの驚きももっともだが…まずは確認しなければならない。
「ユーノ。『ばらまかれた』と言ったな? つまりジュエルシードとやらはアレ一つでは無いと言うことか?」
「あぁっ!? そう言えばさっきの宝石、えと、21って!」
「……はい。ジュエルシードは全部で21個。僕が封印に成功したのは一つだけ。
そして先ほどなのはさんが封印したもので2個目と言うことになります。」
つまり、後19個。
最悪の場合、あの化け物が19体いると考えられるのか…
「…今日はありがとうございました。残りのジュエルシードは僕が必ず回収します。
お二人は今日の事は忘れて…」
「そんなのダメ!!」
「……なのはさん?」
「ふっ…」
思わず笑みがこぼれてしまう。
なのはならそう言うと思ったからだ。
「もう関わっちゃったもん。学校や塾の時間は無理だけど、わたしにもお手伝いさせて?」
「でも…さっきみたいな危険なことに巻き込まれることになるかも知れないんですよ?」
「それでも…だよ。ユーノ君、この世界では一人ぼっちで、他に助けてくれる人、いないんでしょ? 一人ぼっちは…寂しいもん…」
そういうなのはの顔は、少し辛そうだった。
だから…
スッ…
なでなで
「あっ…」
「今は一人じゃない。」
それはユーノに対する言葉であり、なのはに対する言葉でもある。
「俺も手伝おう。アレを放っておいたらこの街の迷惑だ。」
「そんな! 遊星さんはダメですよ! さっきもあんな怪我をしたのに…」
「『仲間とは、互いに互いを守り、支え合える存在』…なんだろう?」
笑顔でそう尋ねると、なのはの顔が驚きと喜びに染まる。
だが、やはり俺の身を案じているのか、僅かに葛藤が残るようだ。
「あの…すみません。遊星さんももしかして、魔法使いじゃないんですか?」
「いや、俺は……そうだな。話しておいた方が良いだろう。」
これはユーノにと言うよりも、なのはに聞かせるべき話だ。
俺はなのはの方を向いて告げる。
「俺はこの世界とも、ユーノのいた世界とも違う。異世界からやってきた。」
Side.なのは
え?
えっ?
ええっ!?
「ゆ、遊星さん? それってどういう…」
「俺も思い出したのはついさっき…さっきの奴との戦闘中だ。俺はこの世界とは別の世界の人間だ。」
化け物と戦って。
魔法を使って。
喋るフェレット君と会って。
色んな事があったけど、これが一番驚いた。
遊星さんが別の世界の人だったなんて…
それを疑うなんて選択肢はわたしには無い。
遊星さんの目は嘘をついている人の目じゃないから。
「……順を追って説明しよう。」
遊星さんはわたしとユーノ君に自分の事を話してくれた。
遊星さんのいた世界の事。
その世界は、この世界ではただのカードゲームであるデュエル・モンスターズが中心となっている世界と言う事。
友達の事。
仲間と一緒に色々な人と、大切な物の為に戦ってきた事。
途中、言葉を濁す所もあったけど、それは多分遊星さんの優しさ。
わたしに聞かせるべきじゃない事を話さないようにしたんだと思う。
そして…
「そんな……友達と命がけのデュエルなんて……」
遊星さんの、元の世界での最後の記憶。それは友達…仲間との、仲間と信じて疑わなかった人との命をかけた勝負。
「……俺はアイツと…ブルーノとのデュエルに勝利し、ブルーノの手助けもあって、あの異空間から脱出できる筈だった。
だが、気付いた時には俺はこの世界に辿り着き、記憶を失っていた。
あの空間は崩壊直前の不安定な状態だったため、次元の歪みに巻き込まれたのかもしれない。
そして、その歪みを渡る際のショックで記憶を失った…と言う事だと思う。」
遊星さんはいつもと変わらず冷静だった。
だけど、その奥には今まで見た事のない深い悲しみが宿っているように見えた。
「いや、あるいは……」
グイッ
遊星さんは右腕の袖をまくる。
話にも出てきたシグナーの痣が露出される。
「赤き竜が俺をこの世界へと導いたのかもしれない。俺をあの空間の崩壊から守ると同時に、俺がこの世界で成すべき事を成すために。」
今まで痣が消えていたのは、異世界へと渡った影響か、俺の心と共にある存在故に、何かのきっかけが無ければ痣すら顕現出来なかったのかもしれない。
と遊星さんは続けた。
この人は…本当に強い。
もし…
もし自分がアリサちゃんやすずかちゃんと命がけの戦いをして、二人の犠牲で生き残って、別世界で『成すべき事』の為に行動できるだろうか…?
…分からない。と答えるしかない。
きっと遊星さんは、わたしなんかでは想像も出来ないくらいの過去を背負っているんだ…
でも。
だからこそ。
守りたい。
支えたい。
前々から思っていた気持ち。
それが更に強くなるのを感じた。
「それじゃあ、さっきの人? いえ、召喚獣? えっと…」
「このカードの事か?」
パラッ
ユーノ君の問いに1枚のカードを見せる遊星さん。
それはさっきわたしを助けてくれた《スピード・ウォリアー》のカード。
「俺は魔法使いじゃないし、このカード達もただのカードだ。だが、直感したんだ。戦えると。
赤き竜の力なのかは分からないが、俺はこの世界でもカード達と共に戦えるらしい。」
遊星さんは少し嬉しそうに語っている。
それは遊星さんが本当にカード達を大切に思っている証だと思う。
「話を戻そう。今の俺ならお前と一緒に戦える。お前を守ることも出来る。
なのは、お前が戦うと言うのなら、俺も一緒に戦おう。」
「遊星さん…」
「『俺はなのはを、お前たちを守りたい。これが今の俺の、嘘偽りない本心だ。』」
遊星さんは…ずるい…
あの時と同じ言葉を使うなんて…
そんな事言われたら、わたしもこう返すしかない。
「……『ありがとうございます。』……『よろしく、お願いします。』」
わたしの中にあった僅かな不安。
それは、記憶を失っていた間の記憶は遊星さんに残っているのか。
『今の遊星さん』にとって、『高町なのは』はどんな存在なのか。
それが不安だった。
だが遊星さんは、そんなわたしの臆病な心も全部吹き飛ばしてくれた。
『昔の遊星さん』も『今の遊星さん』も、『遊星さん』なんだから。
「そういうわけだ、ユーノ。俺達はお前を手伝うことに決めた。」
「うんっ!」
「遊星さん…なのはさん……ありがとう、ございます…!」
Side.遊星
互いに話もまとまり、高町家に戻る俺達。
きょろきょろ
なのははしきりに辺りを警戒している。
自分の家だと言うのに何を…そこまで考え、理由に思い至った。
「こんな時間まで、どこにお出かけだ?」
「ひゃあっ!?」
やっぱり気付いていたか。
流石だな、恭也。
「遊星もだ。お前達一体何をしていたんだ?」
「えぇ〜っと…そのう…」
なのはは恭也に威圧され、上手く言葉を紡げないでいる。
「恭也、すまない。理由は後で話す。いや、恭也だけじゃない。士郎、桃子さん、美由希。全員に話さなければならない事がある。」
「………分かった。説教は後にしておいてやる。」
「助かる。」
場所は高町家のリビングに移る。
そこで話す事は二つ。
俺の記憶が戻った事。
そして魔法の事だ。
ユーノに確認したところ、魔法の事を知られても別にリスクなどは無いとのこと。
なのはが自由に動ける時間にジュエルシードが暴走する。と言う都合の良い事になる可能性は低い。
なのはの事だ、家族に心配をかけまいと、また家を抜け出すことになりかねない。
この家族に限ってそんな事にはならないと思うが、万が一家族の絆に何かあったらそちらの方が問題だ。
そして…なのはは優しい子だ。
理由がある、事情があるとは言っても、家族や友達に嘘を吐き続けるのは辛いだろう。
ならば最初から事情を説明し、なのはの心の負担を可能な限り減らしてやった方がこれから先、色々と楽だろう。
「「「「………」」」」
説明が終わっても、暫くの間は4人とも無言だった。
「とりあえず…は、記憶が戻った事、おめでとう。良かったね。」
「ありがとう。貴方達には本当に感謝している。」
「いや、記憶が戻った云々はともかくとして、異世界に魔法だと? そんな馬鹿な事が…」
「それについては説明するよりも見せたほうが早いだろう。」
俺はソファから立ち上がり、説明の為に持って来ていたデュエルディスクを構える。
「デュエル!」
きぃぃぃぃんっ
掛け声と共にモーメントが輝きを放つ。
「来い!《スピード・ウォリアー》!《ロード・ランナー》!《ボルト・ヘッジホッグ》!」
デュエルディスクに3枚のカードをセットすると、それらが実体化して現れる。
「なっ!?」
「ほう…」
「あらあら。」
「うっわぁ〜! 可愛い〜!」
恭也の正面に《スピード・ウォリアー》が。
美由希の所には《ロード・ランナー》が。
そして士朗と桃子さんの間に《ボルト・ヘッジホッグ》がそれぞれ向かう。
ぺたぺた
さわさわ
なでなで
「触れる…どうやら本当らしいな…」
「可愛い〜〜!」
「ホログラムでも無い。もしそうだとしても、少なくとも今の科学では不可能な技術だね…」
「うふふ♪」
反応はそれぞれだったが、とりあえずは信じてもらえたようだ。
………ん?
てってって…
「あ、あの、《スピード・ウォリアー》…さん? で良いのかな?」
『………』
「さっきは助けてくれて、ありがとうございました!」
《スピード・ウォリアー》に頭を下げるなのは。
本当に真面目な子だ。
『………』
ふるふる…
ふいっ
《スピード・ウォリアー》はゆっくりと首を振ると、俺の方を見る。そして視線をなのはへと戻す。
「ふふっ。そうですか。」
てってって…
「遊星さん。さっきはありがとうございました!」
「………」
『気にするな。』と、『礼なら俺に』と言う意味だと言うのは何となく分かったが…
「礼は要らない。なのはも俺を助けてくれただろう。こちらこそ、ありがとう、だ。」
「じゃあ、これでおあいこですね♪」
「ふっ…そうだな。」
異世界の存在、そして厳密にいえば俺の力は『魔法』ではないが…まあ、『魔法』の存在も信じてもらえたところで、話を元に戻すとしよう。
「それでなのはは、ユーノ君を助けたいんだね?」
「うん。わたしにその力があるのなら、助けたいの!」
「…本気か? 危険な目に遭うかもしれないんだぞ?」
「それでも…助けたいの!」
本当に温かい家族だ。
本当の意味での『家族』をほとんど知らない俺でも、それが感じられる。
「遊星君。貴方はどうするの?」
「俺もなのはと一緒に戦う。安心してくれ。この身に代えてもなのはは必ず守…」
「ダメ!!」
「それはダメだね。」
「ええ、ダメね♪」
「ダメだよ、遊星さん。」
「ダメに決まっている!」
「………?」
いきなり連続攻撃を喰らった。
なんだと言うんだ一体。
「自分がどうなっても、なんて考えてはダメ。遊星君、なのは、それにユーノ君。約束して。必ず『全員で』帰ってくるって。」
「桃子さんの言う通りだね。」
「少なくとも、それが最低条件だよね♪」
「家族を心配しない奴なんているわけがないだろう。」
「………」
『確かに、わたし達と遊星さんは血は繋がっていないかもしれないです。
でも、そんなこと関係有りません! 遊星さんはこの家の一員です! 家族です!』
いつかのなのはの言葉が思い出される。
全く、記憶が戻っても情けない事には変わりない、か…
「分かった、訂正する。安心してくれ。必ず全員で帰ってくる。」
「うんっ!」
「よろしい♪」
「ただし、これだけは約束してくれないか。無理はしない事。何かあったらすぐに相談する事。」
「分かった!」
一件落着、か。
「俺にもそんな力があれば、なのはを助けられるのに…」
「…恭也、適材適所と言う言葉もある。俺はたまたま戦える力を持っていただけだ。
それに…『いってらっしゃい』と『お帰り』を言ってくれる家族がいる事。
それはなのはにとって、これ以上ない力になるんじゃないか?」
「………」
「お前は俺じゃない。そして俺も、お前じゃない。俺は俺の、お前はお前のやるべき事をするだけだろう?」
「…ふっ。そうだな。」
こちらも一件落着、だな。
「それじゃあ、そろそろなのはは寝なさい。明日も学校でしょ?」
「あ、そうだね、お休みなさーい。」
「…なのは、ちょっと待て。」
「ほえっ?」
ユーノを連れて行こうとしたなのはを引きとめ、なのはからユーノを受け取り、小声で尋ねる。
「ユーノ、お前は…魔法使いなんだったな?」
「…? はい。」
「お前は動物か? それとも人間か?」
「あ、この姿は魔力の節約のためで、本来は人間です。」
「……性別は?」
「男ですが?」
「ユーノは俺の部屋に連れて行こう。」
「ふえっ? 遊星さん?」
何か無性に不安になったが、確認しておいて良かった。
「遊星さん、どういう事ですか?」
「ユーノ、お前は女の子の部屋に寝泊まりする気か?」
「!! 助けてくれてありがとうございます…」
「気にするな。」
ユーノも無意識だったらしい。
まあなのはもまだ子供だし、意識してないと言ってしまえばそれまでだが…
もしユーノの事がばれた時、惨劇が起きる可能性もあるからな。
全く、妹思いなのは良いが、限度があるぞ、恭也。
「遊星さん、何でですか?」
「そうだぞ遊星。なのはも魔法についてはそいつから聞いた方が良いんだろう?」
「なのはの顔に爪痕が付く可能性があってもか?」
「ユーノの部屋は遊星の部屋に決定だ。異論は認めない。」
「お兄ちゃんまで!?」
恭也が妹思いで助かった、と思うことにしておこう。
To Be Continued… 
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