Side.遊星

 

「「「「管理局?」」」」

 

場所は高町家の離れ…現在は俺の居住スペースに、アリサとすずか、そしてフェイトが来ている。
今日の放課後、フェイトが話があるとのことで、なのはがこの場所を提案したと言うわけだ。
そして、そのフェイトの口から聞いた言葉は、何やら聞き覚えの無い単語だ。  

「そう。世界が一つじゃないって話は前にしたけど、そのたくさんの世界…次元世界の規律を守ったり、犯罪者を捕える仕事をしている人達。」

「つまり、ちょっとスケールの大きい警察みたいなものね?」  

ネオ童実野シティで言うセキュリティのようなものか。  

「うん。それで、その管理局に所属している母さんの昔からの友達が今度こっちに来るらしいんだ。
 ただ……どうやら遊びにってわけじゃなくって……なのはや遊星にも話を聞いてもらった方が良いかと思って。」

「分かった。」

「ジュエルシードの事…かな?」

「詳しい事は…だけど良い人だから、なのはや遊星を悪いようにはしないと思う。」

「フェイトちゃんがそう言うなら安心なの♪」

「ねえ、それってあたし達も行って良いの?」

「うん。二人も無関係じゃないから。母さんも連れてきなさいって。」

 

プレシアの友人… どういった人物かも気になるが、ジュエルシードを集めだして一ヶ月…どんな情報が齎されるのか、それが気がかりだった。      

 

 

Turn.12「進展」

 

 

 

時の庭園。

世界と世界の狭間を移動する『城』。
フェイトやアルフ達、テスタロッサ家の面々が拠点としている場所。
アリシアの事もあり、俺達は時々ここを訪れている。
そこで俺達は、ある来客と対面していた。 

「一つ良いか?」

「何かしら、遊星君?」  

この場にはアリシアの所にいるリニス以外の全員が揃っている。

初対面のこの3人が、フェイトの言っていた管理局であり、プレシアの友人なのだろう。

だが…

「日本茶は砂糖を入れて飲むものじゃない。」

「仮に入れるとしても、明らかに多すぎるの…」

「だって〜…苦いんですもの…」  


だったら最初から苦くない物を飲むべきだろう…  

「何と言うか…すまない…」

「この子の味覚の異常さは筋金入りなのよ。許してあげて。」  

女性の隣にいる少年が頭を下げ、プレシアが解説してくれる。  

「満タンだったシュガーポットがほぼ空になってる…」

「見てるだけで胸焼けしそう…」  

横ではすずかとアリサも言葉を失っている。  

「取り敢えず話を始めるわね。この子がクロノ君。そしてそこの味覚馬鹿を挟んで隣側の子がエイミィちゃんよ。」

「プレシアちょっと酷くない!?」

「クロノ・ハラオウンです。管理局で執務官をやっています。」

「エイミィ・リミエッタです。管理局の通信主任と、執務官…クロノ君の補佐をやってます。」

「二人ともスルー!?」

「ほら味覚馬鹿。貴女も自己紹介しなさい。」

「その呼称止めてってば! もう…リンディ・ハラオウンです。プレシアの友人でクロノの母親。巡航艦アースラの艦長です。
 念の為言っておきますけど、私の味覚は正常です!」

「「「ダウト。」」」

「皆酷い!」

 

……取り敢えず、3人とプレシアは気の置けない仲だと言う事は分かった。

 

「それで連絡はしておいたけど、ジュエルシードの件で協力してくれているのがこの子達よ。
 高町なのはちゃん、アリサ・バニングスちゃん、月村すずかちゃん。それとユーノ・スクライア君に、次元漂流者の不動遊星君。」  

プレシアの紹介に合わせ、軽く頭を下げる。  

「話は聞いているわ。ロストロギア、ジュエルシードが貴女達の世界に散らばった事。
 そしてなのはさん達がそれを集めようとしてくれている事。
 プレシアとフェイトさんは、様々な世界を渡り歩いてアリシアさんを目覚めさせる方法を探していた。
 そして偶然にもジュエルシードの膨大な魔力を察知して、回収を申し出てくれたの。
 ジュエルシードの魔力を使ってアリシアさんを目覚めさせた後に受け渡す、という条件付きでね。」 

フェイトはアリシア…家族を取り戻す為に必死だった。
だからこそ俺達との対決も辞さなかった。
俺達はそれを聞いて、見て知っている。
その理由は咎められる物じゃない。
戦ってなのはが傷付いたのは事実だが、それはもう済んだ事だ。  

「本来ならこう言った事件…特にロストロギアに関連した事で、管理局ではない人の応援を認めるのは御法度ではあるんだけど…家族を失う辛さは、良く分かっているから…
 プレシア達は嘱託魔導師…民間人の協力者として力を貸してもらっているわ。」  

プレシアとリンディはともかく、フェイト、そしてクロノはまだ子供だ。
という事は管理局…あるいは魔導師に年齢はあまり関係ない。
実力さえあれば管理局との連携を取る事も可能という事だろう。  

「なのはさん。後で検査とか実力の測定をするつもりだけど、貴女にも嘱託魔導師として力を貸してもらう事は可能かしら?」

「はいっ! 勿論!」

「良かった。」  

巻き込まれたからじゃない。
なのはは自分の意思でユーノ、そしてフェイト達の為に戦うと決めていた。
もし危険だからもう関わるなと言われていたら、真っ向から対立するつもりだっただろう。

そう言う意味では互いの利害が一致して何よりだ。 

「遊星君、君の事も聞いているわ。管理局では君の世界を探しています。発見し次第貴方を元の世界へと送るつもりです。
 出来れば私達と一緒に本局へ来て貰って、発見するまでそこで生活して欲しいのだけど…」

「っ……」  

横でなのはが息を飲むのが聞こえた。 いや、なのはだけじゃ無く、アリサやすずか、フェイトも表情を暗くしている。 

「悪いが、断らせてもらう。」

「あら。」

「えっ!? 遊星さん、どうして…」

「確かに俺は元の世界へと戻らなければいけない。だが、それは『今』じゃない。
 俺もこの事件の当事者だ。残りは全部任せて…なんて出来る筈が無い。
 どうなるにせよ、自分の目で見届けてからでなければ俺は帰るつもりは無い。」  

俺の言葉になのは達は驚いているが、同時にホッとしているようでもあった。  

「ふふっ…プレシアから聞いていた通りね。分かりました。こちらでも何か分かり次第、プレシアを通して連絡する事にします。
 なので…遊星君もなのはさんと一緒に嘱託魔導師として力を貸してもらえるかしら?」

「ああ、勿論だ。」 

俺もこうして関わってしまった以上、最後まで関わり抜くつもりだ。
全てが決着し、元の世界へ戻るその時まで…な。  

「ありがとう。それじゃあ改めて本題ね。ジュエルシードはこの世界の皆の街…海鳴を中心に散らばっている。
 私達も積極的に赴くつもりだけど…どうしても時間差が出てしまう。そしてその僅かなタイムラグが大惨事となる可能性だってある…
 これまで通り、恐らく最も早く現地に赴けるのは貴方達の方でしょう。そうなると必然的にこちらはサポートが主となる筈…これは良いかしら?」

「「はいっ。」」

「ああ。」  

こちら側で戦える人間であるなのはとフェイト、そして俺の言葉にリンディは微笑みで返す。

「当然、無関係な一般市民を危険に晒すわけにはいかないから、休眠状態のジュエルシードを無理矢理暴走させるのは却下。
 受け身になってしまうけど、暴走…あるいはジュエルシードの覚醒を察知し次第、封印を行っていく。」

「こちらからもジュエルシードの探査は継続して行い、発見したらすぐに情報を渡そう。
 だが休眠状態のジュエルシードはただの宝石と大差ない…情けないが、あまり過度な期待はしないでほしい。
 目覚めかけの状態であれば発見は可能なんだが…」

「高望みをしても仕方がない。今まで通りで良いと言う事だろう?」

「そうなる。」  

全てが察知出来るわけではないとはいえ、残るジュエルシードの内、いくつかでも暴走する前に封印出来れば、なのは達の負担は一気に少なくなる。  

「それとジュエルシードに限った話じゃ無いが、ロストロギアは様々な力を発揮し、時に予期しない影響を世界に与える。
 この世界にジュエルシードが散らばった時、すでに何らかの力が発動してしまった可能性も否定できない。」

「……? どういう事?」

「一番考えられるのは…さっきも言ったが、『発動していないだけ』なら問題は無いが、そもそもジュエルシードが存在していない場合がある。」

「……は?」

「……時間…か?」

アリサが理解できないと言う声を上げる。

いや、アリサだけではない筈だ。
クロノの矛盾した言葉に自分の考えを告げてみる。

「正解だ。21個のジュエルシードの内、今この瞬間も21個全てが存在するとは限らない。」

「未来へ飛んじゃったから…?」

「そう言う事だ。最も、それも小さな暴走と言えるから、精々数ヶ月から長くて1年程度しか飛べていない筈。
 つまり、遅くとも次の冬か春までには決着がつくと見て良いだろう。 ……時間移動が発動しているならだけど。」

今の俺達の封印ペースが遅いか早いかはともかく、そもそも存在していないなら封印のしようがない…か。  

「ロストロギアは何が起こっても不思議じゃないわ。ジュエルシードはそれだけの魔力を秘めている…そして、それだけじゃないの。」

「「「「「?」」」」」

「これはまだプレシアにも言っていなかったわね…今日私達がこっちに来たのも、ある意味ではこちらの方が重要なの。ロストロギア……『闇の書』。」

「闇の書ですって!?」  

静かに話を聞いていたプレシアが突然声を荒げる。  

「闇の書…って何ですか?」

「あ、ああ、大声出してごめんなさい。闇の書は…史上最悪のロストロギアと言っても過言じゃない闇の魔導書の事よ。
 闇の書の主となった者は1個師団以上の力と魔力を得て、その力でいくつもの世界を何度も揺るがしたわ。」

「何度も…?」

「ええ。闇の書は主がその命を終えた時、新たな主の下に転生する、旅する魔導書なの。
 加えて闇の書に魔力を蒐集する事で、どんな願いをも叶える力を得る…とも言われているわ。
 私も知っているのはその程度…本物と出会った事は無いし、どう贔屓目に見ても曰くつきのロストロギアだったから…あまり詳しく調べもしなかったし…」

「大体はプレシアの言う通りよ。管理局のデータベースにもあまり詳細なデータが無くって…不自然なくらい…ね。」

「……まさかリンディ…」

「ええ、そうよ。この街に新たな闇の書の主がいるらしいの。」

「なんてこと……」  

どうやら闇の書と言う物はかなりとんでもない代物のようだ。
だが、そんなとてつもない力の持ち主があの平和な街にいるなんて、正直信じられない。  

「それは確かな情報なのか?」

「ああ。100%とは言えないが…最近僕達が保護した人物がそういう技術に長けた人間で…ここからは少し気分の悪い話になる。」  

クロノは苦虫を噛み潰すような顔で続けた。

 

「彼はその技術で僕達に協力してくれているんだが…その彼が、本局のデータベースを調べていて違和感を覚えたらしい。
 そしてデータベースの奥深くに封印されていたデータを発見した。 それが、闇の書の新たな主が海鳴にいると言う事。
 そして……その主を、闇の書が完全に覚醒する前に主ごと封印すると言う計画を企てている事。」

「そんな!」

「封印って…」  

リンディやプレシアの口ぶりから察するに、闇の書と言う物はとても危険なロストロギアなのだろう。
だが、それを封じるために一人の命を犠牲にすると言うのか…!  

「いや……封印だけならまだ良い。いや、良くは無いんだが…闇の書の危険性を考慮すると、その選択も決して間違ってはいないんだ。」

「問題はその先よ…」

「「「「「先?」」」」」

「闇の書とその主を凍結、封印した上で、闇の書の力だけを自分達の意のままに操ろうとする計画…そこまでが一部の上層部の狙いだ…」

「「「「「!!」」」」」

「管理局が聞いて呆れる…ただ欲望に呑み込まれた連中がトップに居座っているなんてな…だからこそ、そんな腐った連中の思惑を叩き潰したいんだ。
 無理を承知でお願いする…力を貸してほしい。」

「分かった。」

「勿論!」

「うん。」

 

俺達は即答する。

これにはクロノも、リンディもエイミィも驚いた顔をした。

「良いのか…? 君達は…ジュエルシードはともかく、闇の書にも、管理局のゴタゴタにも本来は関係の無い人間だ。それなのに…」

「海鳴はわたし達の街だから。わたし達の育った、あの優しい街で、そんな悲しい事は起きて欲しくないから。」

「管理局を信用は出来ないけど…クロノには色々とお世話になってるからね。」

「それに、お前もこのままで終わるつもりは無いんだろう? 管理局の闇を見て、それでも所属していると言う事は、管理局を内側から変えるつもりだから。じゃないのか?」

「……ああ、その通りだ。必ず管理局は生まれ変わる。だから…協力、感謝する…」  

そう言ってクロノは、いや、リンディ達も深々と頭を下げた。

 

「闇の書の主さんが誰かは分かっているの?」

「いや、そこはまだ分かっていない。引き続き調べてもらっている。何か分かり次第連絡しよう。」

「なら…闇の書の詳しい情報は無いのか? 少なくとも俺達が知る限り、海鳴で大きな災害は起こっていないが…」

「そっちも調べてはいる…が、闇の書のデータは尽く消されているから、正直成果は芳しくない。」

「……クロノ君、あそこにはあるんじゃないかしら。『無限書庫』なら。」

「「「「「『無限書庫』?」」」」」  

また聞き慣れない単語が飛び出してきた。
俺達の疑問の声にプレシアが答える。  

「管理局が関わっている全ての次元世界の全ての情報・書物が名前の通り無限に増え続ける図書館の事よ。
 データじゃなくて本…アナログな情報媒体だから、書き換えとかは出来ない筈…
 と言うか、長年増えに増え続けて碌に整理されてない場所だから、目的の本を探すのがまず大変なんだけど…」

「全部…無限…」

「凄い場所があるんだな…」

「確かにあそこなら…人員をそちらにも割いてみましょうか…」

「あ、あの…それなら僕に手伝わせてもらえませんか?」

「ユーノ君?」  

ユーノがおずおず、と言った感じで発言する。  

「僕、無限書庫の司書資格持ってますから。歴史調査で何度も潜った事もありますし…
 ジュエルシードの事はなのは達に任せる事になっちゃうんだけど…」

「ユーノ君…大丈夫だよ。フェイトちゃんも遊星さんも、アリサちゃんもすすかちゃんもいるんだし。だからユーノ君も頑張ってね!」

「なのは…うん、ありがとう。」

「話はまとまったようだな…こちらとしてもその申し出はありがたい。…時に、君はいつまでその姿でいるんだ?」

「あ、それもそうだね。」  

ユーノはなのはの肩から降りると、小さく何かを呟く。

するとユーノの体が淡い光に包まれ…光が治まった時、そこには少年がいた。  

「えっと…皆の前でこの姿になるのは久しぶりだったっけ…?」

「「「「………」」」」

「……あれ?」  

なのは達は無言。

そう言えば俺だけがユーノは人間で、それも男だと聞いていたんだったか…  

「ずっとなのはちゃんの肩に乗って…」

「遊星が阻止したらしいけど、なのはの部屋に寄生する気マンマン…」

「え? あの…?」

「挙句の果てには女湯に堂々と入場未遂…」

「……レイジングハート……」

『Restrict Lock.』

「ちょっ…!?」

桜色のリングがユーノの動きを封じる。

助けに入ろうかと思ったが、アリサとすずかに腕を掴まれた。

……ユーノ、すまない。  

「クロノ?」

「既に結界魔法は張りました。外からは攻撃出来ますが、内からは一切の衝撃を漏らさない結界を…あのフェレットもどきに対して。」

「容赦ない!?」

「フェイト、なのはちゃん、一応あっちの方角なら壊れても大した事ないからね。」

「はい、分かりました♪」

「ありがとう、母さん。」

「逃げ道無し!?」  

既に二人ともバリアジャケットを展開している。

……まあ、非殺傷設定なら大丈夫だろう…多分。  

「ディバイィィィン…バスタアアアアア!!」

「サンダー…レイジッ!!」

「みぎゃあああああああああああっ!?」  

二人の砲撃は、クロノの結界の容量を遥かに超えたらしく、あっさりと内側から砕け散り、そのまま壁を貫き、大穴を開けた。

「……貴重な労働力を失うわけにはいかない。」  

いつの間にかクロノの傍らに魔法陣が浮かび上がっており、そこから伸びている鎖は壁に空いた大穴の向こうに向かっていた。

砲撃の前にユーノに繋いでいたのだろう。 

「さて、僕達も僕達のすべき事に戻るとしよう。……で、これは連れて行くが…何か要望はあるか?」

「給料不要。」

「年中無休。」

「強制労働。」

「不眠不休。」

「了解した。」

了解して良いのか?

ユーノ…取り敢えず、死ぬなよ。

 

 

Side.Out

 

遊星達に新たな仲間が出来た。
それはこれからの戦いを有利にしてくれる筈だ。

だが、良い事ばかりではなかった。

 

「んぅ……」

海鳴にある一つの家。
ベッドで安らかな寝息を立てる一人の少女。
その部屋の隅で、明らかにこの部屋に不釣り合いな武骨な一冊の本が、微かに暗い光を放っていた。

それに気付く者は、今はまだ、誰もいない…














 To Be Continued…