Side.遊星

 

テスタロッサ家との協力関係を結んでから1週間。
この同盟はお互いに良い方へと働いている。

まずはなのは。
プレシアが管理する時の庭園での、フェイトとの模擬戦闘。
魔法の才能があるとはいえ、なのははまだ魔法を使えるようになってから日が浅い。

その不足した経験を補うと同時に、フェイトの技術をどんどん吸収している。

そしてフェイトも、そんななのはに追い越されまいと日々腕を磨いている。

次にアリシアを目覚めさせる魔法式。
これは俺がプレシアやリニスから魔法に関する知識を学び、俺の中の知識と合わせて式を改変している。
この世界の魔法は学んでみると科学的であり、俺自身が実際に使用することは出来なくとも、こう言ったプログラムの改変は大分形になって来た。
最近ではレイジングハートやバルディッシュのプログラムの進化を考えたりもしている。

そしてフェイト。
プレシアとリニスはアリシアを見守る必要があるので、あまりこちらへは来ないのだが…以前フェイトを送り届けたマンションに、フェイトとアルフは引き続き住んでいる。
加えてなんと、フェイトもなのは達と同じ学校に通う事になった。
アリサやすずかとも打ち解けたようで、楽しく過ごせているようだ。
肝心のジュエルシードはと言うと、先日の子猫の時以来出現していない。
曰く、魔力を打ち込んで強制的に発動させることも可能との事だが…街や人々に危険がある作戦は論外だ。
これは俺だけじゃなく、全員同じ意見なので、やはり自然に発動するのを待つしかない。
今出来る事は、何時発動しても良いように力を高める事だけだ。

だが、あまり張り詰めると弦が切れる事も事実。


……と、言うわけで。  


「「「着いたーーー!!」」」  

海鳴温泉到着だ。        

 




Turn.11「温泉」       

 

高町家は連休を利用して家族旅行に出かける事も多く、今回はその一つ。
参加しているのは高町家、アリサとすずか、すずかの姉の忍、すずかの家で働いているノエルとファリン、そしてフェイトとアルフとプレシアだ。
当初プレシアは不参加のつもりだったようだが、アリシアの事は自分に任せろと言うリニスの言葉もあり、今回の旅行に参加している。
そのためリニスは不参加だ。

俺もD・ホイールでは無く、士郎の運転する高町家の車に乗せてもらった。

……自分が運転しない乗り物に乗ると言うのは久々だな。
最も、車の運転は一応できると言っても、無免許なんだが。

「それじゃあ、荷物を置いたら各自自由行動にしようか。」

「「「はーい♪」」」  

士郎の号令になのは、アリサ、すずかが元気に答えた。  

 

 

〜〜〜男湯〜〜〜 

 

「遊星さん。」

「何だ?」

「ありがとうございます…」

「気にするな。」

 

なのは達に誘われて、早速温泉へ入る事になった。
その際、なのはに連れて行かれそうになったユーノを引き取っている。
なのは達にとってユーノは、魔法使いとはいってもフェレットと言う認識なんだろう。  

「「………」」

「どうした?」

「いや、遊星君…」

「改めて思うんだが、お前の世界はどんな世界だったんだ…?」

「……? 普通の世界だが?」

「普通の世界じゃそんな傷は付かないだろ…」

「ああ……まあ、命がけのデュエルも何度かあったからな。それが無くても、ケンカが避けられない場所で育ったからな。」  

チーム・サティスファクション時代は肉弾戦を挑んでくる奴らも多かったし、闇のデュエルで負ったいくつかの傷は、確実に残るだろう。
特にダークシグナーとなった鬼柳との一戦で負った腹部の傷は、未だに生々しく残っている。
生活に不便は無いから気にしてはいないが。  

「……改めて君を凄いと思ったよ。」

「同感だ。」

「です。」

「?」    

 

〜〜〜女湯〜〜〜

 

Side.なのは

 

遊星さんにユーノ君連れて行かれちゃった…
こっちでも良かったのに…

……ひょっとして遊星さんヤキモチ……は無いね。うん。
これがお兄ちゃんなら有り得るんだけど…

まあ良っか。  

「フェイトちゃん、髪結んであげるね。」

「あ、うん、ありがとう。じゃあなのはのは私がやってあげる。」

「うんっ、ありがと〜♪」  

わたしもだけど、髪が長い子が多いから、ちゃんと纏めないとね。  

「フェイトちゃん綺麗だから、そのまま下ろしても似合いそう♪」

「そ、そう…かな?」

「うん!」

「あり…がとう…。なのはだって可愛いから、色んな髪型似合うと思う。」

「そう? ありがとっ!」  

そう言えばずっと前から…アリサちゃんやすずかちゃんと友達になった頃にはもうこの髪型だっけ。
前にサイドテール…サイドアップだっけ? に挑戦してみたけど、重かったので断念しました… もうちょっと大人になったら大丈夫になるのかな…?

それに……  

「忍さん肌綺麗〜。」

「美由希ちゃんだって〜。」

ぺたっ…  

ぺたっ…  

………こっちも大人になったら大きくなるのかなぁ………

 

「…なのは?」

「フェイトちゃん、後で一緒に牛乳飲もう?」

「良いけど…?」  

遊星さんは大きいのと小さいのどっちが好きなんだろ…    

 

Side.遊星

 

俺もだが、皆温泉旅行を満喫しているようだ。
ノエルとファリンは服装こそ浴衣だが、お茶を用意したりと色々働いている。
本人達はのんびりしていると言う事だったので、そう言う性分なのだろう。
なのは達と一緒に旅館の中を見て回ったりして過ごしていると、時間はすぐに過ぎて行った。
夕食を終え、俺は一人で夜風に当たりに来ている。
穏やかな風、静かな夜、温かな月の光。
似ても似つかない筈なのに、俺はネオ童実野シティの夜を思い返していた。

拳を握りしめる。

ブルーノから受け取った思いをゾーンに伝える。

そして皆がこうやって、穏やかに暮らせる未来を作ってみせる。

必ず!

ふっ…と拳から力を抜き、そのために今この世界でやるべき事に思いを巡らせる。

この世界を離れるのが何時になるかは分からない。

だが、だからこそ。

俺に出来る事。そしてなのは達にしてやれることは全てやって行こう。

そう決意を新たにして再び月を見上げる。

すると。  

「!?」  

ぐにゃり。と月が歪む。
立ちくらみ等では決してない。
その証拠に月だけでは無く、周囲の風景も歪んでいる。

発動したのか…

「ジュエルシード!!」    

 

Side.なのは

 

晩ご飯を食べ終わったわたし達は部屋でくつろいでいた。

ふと部屋を見渡すと、遊星さんの姿が見えない。

キョロキョロと視線を巡らすわたしに気付いたのかお姉ちゃんが。  

「遊星さんなら外に行くって言ってたよ。」  

と、教えてくれた。
教えてくれたのは嬉しいのだが、わたしってそんなに分かりやすいのかな…

散歩ついでに遊星さんを探しに行く事にする。

途中で席を外していたフェイトちゃんと合流して、2人で外に出る。  

「風が気持ちいいね〜。」

「うん。そうだね。」

「フェイトちゃんは今回の旅行、楽しい?」

「うん、とっても。」

「なら良かった♪」  

二人でそんな事を話しながら、適当に外をブラつく。  

「遊星って凄いね。」

「ふぇっ?」 

フェイトちゃんはそう切り出した。  

「強いだけじゃない。優しいだけじゃない。賢いだけじゃない。本当に…凄い。」

「うん……」  

遊星さんの事を褒められると、何だか嬉しくなる。  

「私自身がこの世界とは別の世界の人間だから、遊星が異世界の人間だって聞いた時はそこまで驚きはしなかったけど…
 何の知識も無い異世界で、その世界の為にあれだけ頑張れるのって凄いと思う。」  

自分がもしそう言う立場だったなら、不安でしょうがないだろうし、その世界で何かをしようと思えるのか。

答えは出ないからこそ、遊星さんは凄い。
それはきっと、遊星さんの心の強さなのだろう。  

「それと…」

「?」

「何回デュエルしても勝てない…」

「あはは…」  

フェイトちゃんがデュエルモンスターズを知ったきっかけは遊星さんが渡した《クリボー》と言う事だった。
わたしやアリサちゃん、すずかちゃん、そして勿論遊星さんと一緒にデュエルするようになったんだけど…
未だに誰も、遊星さんに勝てない。
遊星さんの世界のシンクロ召喚を使わないデッキだと言うのに、それを自分の手足のように使いこなす…
店長さんが言う所の、『本物の決闘者』の証と言う物なんだろうか…

 

さぁぁぁっ…

 

風が木々を揺らし、わたし達の髪をなびかせる。
その風の行き先を向くと、目的の人を見つけた。

遊星さん。

遊星さんは月を眺めていた。
それは陳腐な表現かもしれないけど、本当に映画のワンシーンのようで、一瞬声をかけるのを躊躇った。
どうやらそれはフェイトちゃんも同じようだ…が。

次の瞬間、遊星さんの目付きが鋭くなる。
それと同時に、周りの風景が歪んでいく。  

「「ジュエルシード!」」

 

わたし達は顔を見合わせ、走り出す。  

「遊星さん!」

「遊星!」

「なのは! フェイト! 行くぞ!」

「はいっ!」

「うんっ!」 

他に言葉は必要なかった。

すぐにわたし達はバリアジャケットを展開し、ジュエルシードの反応の元へと向かう。
一直線に向かうと、木々の開けた空間と、その中央に有る池が見えた。
普段なら綺麗な景色なのだろうが、今はそれを楽しんでいる余裕は無かった。  

「……? まだ発動して…無い?」

「ううん。この感じは…来る!」  

ばしゃっ

 

フェイトちゃんがそう言った直後、池の中から2つの光が飛び出す。

それは本来空に有るべきもの。

月と太陽が出現した。  

「ジュエルシード2つ…だよね?」

「うん。何かを取りこんだわけじゃなさそうだけど…」

「お日様とお月様…それに池…ひょっとして、あの池に映ってた月と太陽のイメージをジュエルシードが再現してる…?」

「そうかも。2つ同時はちょっと大変だけど、私達なら……あ。」

「?」

 

しまった。という顔をするフェイトちゃん。

何かあったのだろうか?

 

「アルフがいない…結界が無いと、この森壊しちゃうかも…」

「あぁ!? たいへ…ユーノ君もいないよ!?」  

結界の重要さは今までの戦いで十分分かってる。
このままじゃわたし達は大丈夫でも、温泉が…  

「俺は手札から永続魔法《フィールド・バリア》を発動する!」  

ぉんっ

 

後ろから聞こえた声と同時に、周囲に淡い光が満ちて行く。 

「遊星さん!」

「《フィールド・バリア》は本来フィールド魔法を守るカードだが…これでこの場所を壊す事は出来ない筈だ。」  

そう言う遊星さんの腕にはデュエルディスクが装着されていた。

……あれ?  

「あの、遊星? どこにそれを持ってたの? それにデッキも…」

「デッキとディスクを持ち歩くのは決闘者として当然の事だろう?」

「「答えになってない…」」  

浴衣ってそんなに収納スペースあったっけ?

……もう良いや。遊星さんなら何があっても不思議じゃないし…  

「来るぞ!」

「「!!」」

 

どごんっ

 

遊星さんの声に気を引き締め、こちらへと向かって来た月の体当たりを躱す。

 

「フォトンランサー!」

 

ばちぃっ

 

避け際に放たれたフェイトちゃんの魔法は見事に月に命中…したのだが、効いている様子は無い。

 

「ディバインシューター!」

それを見ながらも、太陽に向けて誘導弾を放つ。

5発の誘導弾は太陽に命中して粉塵が舞うが、こちらも傷一つ付いてはいない。

堅い…? ううん。何となくだけど、そうじゃない気がする…

 

《調律》を発動! デッキから《ジャンク・シンクロン》を手札に加えて、デッキの上から1枚を墓地へ!
 《ジャンク・シンクロン》を召喚! 蘇れ、《ドッペル・ウォリアー》!」  

遊星さんの場に2体のモンスターが並ぶ。
呼び出されたモンスター達の意味も、今なら分かる。  

「レベル2の《ドッペル・ウォリアー》に、レベル3の《ジャンク・シンクロン》をチューニング!
 集いし星が、新たな力を呼び起こす。光射す道となれ!シンクロ召喚! 出でよ!《ジャンク・ウォリアー》!!」

「凄い魔力…あれが…シンクロ召喚…」

3つの緑のリング。それを貫く光の柱。
何度見ても綺麗で、そして今だからこそ、その力の強さも分かる。  

「《ドッペル・ウォリアー》がシンクロ素材となった時、場にドッペル・トークンを2体特殊召喚!
 更に《ジャンク・ウォリアー》の効果、パワー・オブ・フェローズ!自分の場のレベル2以下のモンスターの攻撃力分、《ジャンク・ウォリアー》の攻撃力がアップする!」

《ジャンク・ウォリアー》ATK2300→3100

 

「更に魔力が上がった!?」

「《ジャンク・ウォリアー》の攻撃! スクラップ・フィスト!」

 

どごんっ

 

《ジャンク・ウォリアー》の拳が月を撃ち抜き、吹き飛ばす。
その拳の威力はわたし達の放った魔法弾より遥かに上の威力。

これなら……!?  

「効いてない…?」  

吹き飛ばされはしたものの、月は元の形を保ったまま、平然と宙に浮いている。

そして。  

ぐんっ

 

「! 迎え撃て!」

 

どごんっ

 

今度は《ジャンク・ウォリアー》へと体当たりを行う太陽。それを拳で迎え撃つ《ジャンク・ウォリアー》だったが…  

「ぐあああっ!!」  

《ジャンク・ウォリアー》は拳から炎に包まれ、光となって消えた。  

「くっ…! ドッペル・トークンで攻撃!」  

遊星さんの命令と共に、小さなモンスター達は持っていた銃を構え、各々攻撃する。
それは《ジャンク・ウォリアー》とは比べ物にならず、わたし達の魔法弾1発にも劣る威力だった…が。  

ぱちんっ

 

「「「!?」」」

 

一瞬。

ほんの一瞬だったが、月と太陽の動きが止まった。

月に至っては、僅かに表面が欠けた。

一体何で…?

そう思案したのも本当に一瞬で、次の瞬間、2体の体当たりで2体のトークンは破壊された。  

「……まさか……なのは! フェイト! 一旦退くぞ!」

「「!」」  

その声を聞いて、不思議に思いながらも遊星さんの元へと向かい、林の中へと進む。  

「……どうやら追ってはこないようだな…近づく物を攻撃する。『この場所を荒らすな』と言う願いかもしれないな…」

「遊星さん、何か気付いたんですか?」

「ああ。恐らくだが、あの太陽と月…2つのジュエルシードは1つの願いを2つで叶えている、繋がった状態。いわば2つで1つのジュエルシードと言えるだろう。」

「それで…?」

「あれは2つで1つ。つまり月と太陽に同時に攻撃して初めてダメージを与えられると言う事だ。」

「「!」」  

それなら合点がいく。

わたし達の魔法でも、《ジャンク・ウォリアー》の攻撃でもびくともしなかったのに、ドッペル・トークンの攻撃だけが通用したのも辻褄が合う。  

「2体のトークンと月と太陽の位置から考えると、それぞれの攻撃の威力は違った筈。
 つまり、威力は多少異なっても良いから、同時に攻撃を叩きこめば良いと言う事だ。」

「月と太陽を…」

「同時に…」  

わたしとフェイトちゃんは顔を見合わせる。
そして遊星さんは自分の手札を確認する。  

「俺があいつらの動きを止める。2人は同時にあいつらを攻撃して欲しい。…出来るか?」

「はいっ!」

「うん。」

「良し…行こう!」

 

 

Side.遊星

 

二人は空中へと飛び立ち、隙を窺っている。
この手札ならあの2体を止める事が出来る。

そして、後を任せられる仲間がいる。

ならば、迷いは無い!  

「カードを2枚伏せてターンエンド!」

その宣言と同時に襲い来る月と太陽。

それを避けずに…  

「手札から《速攻のかかし》を墓地に送ってバトルフェイズを終了する!」  

手札の《速攻のかかし》を捨て、その攻撃を防ぐ。

今なら2体を止められる。 だが、それじゃ駄目だ。

なのはとフェイト、2人の魔力は恐らくかなり高い部類に入るのだろう。

その魔力があまりにも近い場所で炸裂した場合、先日のすずかの家の時のように、ジュエルシードが暴走する危険もある。

なるべく2体を引き離した上で動きを止めなければ…

カード達よ…応えてくれ!

「俺のターン!」  

ドローしたカードを確認し、思わず笑みがこぼれる。  

《死者蘇生》を発動! 蘇れ!《ジャンク・ウォリアー》!」  

再び場に舞い戻る戦士。

特殊召喚ゆえに効果は発動しないが、それで構わない。

とどめをさす事が俺達の仕事では無いのだから。  

「スクラップ・フィスト!!」

 

どごっ

 

《ジャンク・ウォリアー》の一撃は月に命中し、吹き飛ばす。

それによって月と太陽の間にかなりの距離が出来た。  

「リバースカードオープン!《デモンズ・チェーン》《闇の呪縛》!!」

公開された2枚のリバースカード。

2種類の鎖がそれぞれ月と太陽を捕縛し、動きを止める。

今だ! ……と、言う必要はない。

あの2人なら心配はいらない。

きっと… 

「「行くよ…レイジングハート!」

『Starlight Breaker.』

「バルディッシュ!」

『Photon lancer phalanx shift』  

俺が2人を信じているように、2人も俺を信じてくれていると確信しているから。  

「全力全開! スターライトーーーーー……」

「フォトンランサー・ファランクスシフト!」

「ブレイカーーーーーーーーー!!!!!」

「ファイアッ!!」

 

桜色と金色の輝き。
それが治まった後に残されたのは、元の静寂と、2つの宝石だけだった。    

 

2人がそれぞれ一つずつをデバイスに収納すると同時に、ユーノとアルフが現れた。
2人はなのは達に謝っていたが、当然なのは達には気にした様子は無かった。

全員無事。

被害も無い。

封印は完了。

まさに完全勝利と言う奴だ。

特になのはの方は、フェイトとの模擬戦を通じて編み出した技が実戦で通用した事もあって嬉しそうだった。  

 

 

部屋に戻ると、すでにアリサとすずかは眠ってしまっていた。

士郎曰く、つい先ほどまで起きていたそうだが… はしゃいで疲れてしまったのだろう。

時間はまだ早いが、俺も早めに寝るとしようか…  

「遊星君、ちょっと良いかい?」

「?」  

 

 

Side.なのは

 

「こんな所に露天風呂があるなんて凄いねー♪」

「うん。」  

部屋に戻ったわたし達は、アリサちゃんやすずかちゃんの隣で眠ろうかと思ったのだが、お母さんとプレシアさんにこの露天風呂の事を教えてもらった。
此処に着いてすぐに入った場所から少し離れた場所に、すごく見晴らしの良い露天風呂があるって。
温泉は何回入っても気持ち良いし、さっきの戦いで軽く汗をかいちゃったから、さっぱり綺麗にしてから寝ようと言う事で、わたしとフェイトちゃんはここを訪れた。

 

ちゃぷっ…

 

「ふぅ…」

「気持ち良い…」 

温泉が温かい分、夜風が冷たくて、それがとっても心地良い。
さっき外で見たのとはまた違った星空が夜空に広がっていた。

わたしはもっと良く見ようと、お風呂の中を進んでいく。

そんなわたしに…

「こっちは少し深いから気を付けた方が良い。」

「あ、ありがとうございます………?」

 

そんなわたしにかかる声。
とっても聞き覚えのある声。

わたしはゆっくりと声の方向を確認する。

さっきまでわたし達のいた場所からは死角になっていた、岩の陰。

それに背を預けていた人。

それは遊星さんだった。  

「〜〜〜〜〜!?」

「なのは、どうし……!?」  

絶句するわたしとフェイトちゃん。
声にならない悲鳴とはこういう事を言うのだろうか。

さっきよりも身体の…特に顔の温度が数度上がっているのは勘違いじゃないだろう。

と言うかどうして此処に遊星さんが!?

思わず本当に悲鳴を上げそうになったけど、そうしたら遊星さんが捕まっちゃうかもしれないと思いつつ、なんとか絶句状態を保つ。  

「2人も来たのか。」

「「………(コクッ)」」

「と言う事は…桃子さんとプレシアから聞いたのか?」

「「………(コクッコクッ)」」

「………? 2人から聞いていないのか?」

「「………?」」  

2人とも絶句したまま首を傾げる。

 

「この露天風呂は混浴だそうだ。」

「「!?」」

「俺は士郎からこの時間なら誰もいないから入ってくると良いと言われてこっちへ来たんだが…」


わたし達の頭の中で、お父さんとお母さん、そしてプレシアさんが凄く良い笑顔で微笑んでいた…  

「それなら俺は先に戻ろう。2人はゆっくりしていくと良い。」

「「だ、駄目!」」 

図らずも声が重なった。 

「わ、わたし達なら大丈夫ですから…」

「う、うん…遊星も一緒に…」

「2人がそう言うなら…分かった。」  

遊星さんは浮かしかけた身体をもう一度湯船へと沈めた。

わたし達はゆっくり、遊星さんの両隣に腰を下ろす。
お風呂としてはちょっとマナー違反だけど、体にタオル巻いてて良かった…
さっきはかなりパニックになってて気付かなかったけど、良く見ると遊星さんの身体はかなり傷が付いていた。
遊星さんが前に話してくれた、『命がけの戦い』で負った物だろうか…  

『フェイトちゃん、魔法って…』

『ううん…傷付いてすぐなら治癒魔法で治せるけど、古傷になっちゃってる傷は消せない…多分リニスでも無理…』

『そっか…』  

念話で遊星さんの傷について話す。

遊星さんは気にしていないようだけど、わたしに出来る事ならしてあげたかったんだけど…  

「……気になるか?」

「えっ?」

「俺の傷だ。」

「あっ……」

遊星さんはわたし達の視線に気付いたようで、其れについて質問してきた。 

「二人には話したが、これは俺の世界の戦いでついたものだ。ユーノも言っていたが、古傷は魔法でも治せないらしい。」

「「………」」

「だが、俺は別に気にしていない。」

「「え?」」

「生活に支障は無いし、何より、これらの傷は全力でぶつかりあった事の証。戦いの記憶だ。
 ぶつかる事が避けられなかった、いや、ぶつかり合ったからこそ繋がった絆もあった。
 傷が消えたらそれも消えると言うわけじゃないが、今となってはこれも思い出の一つだ。」  

お父さんやお兄ちゃんが『傷は男の勲章』とか言ってたのと同じ事かな…?  

「……それより。」

「「?」」  

遊星さんの話を聞いて少し暗くなっていたわたし達に遊星さんは話を続けた。  

「せっかく温泉旅行に来ているんだ。悲しい気分になるのはもったいないと思わないか?」

「ふふっ…はいっ。」

「うん。」  

わたし達はその後しばらく、綺麗なお月様を眺めていました。
大変だったり、恥ずかしかったり、心配だったりしたけれど。

この旅行を締めくくるなら、こうでしょう。

とても、楽しい温泉旅行でした。
















 To Be Continued…