Side.なのは
わたし達は今、皆でカードショップKIRAに来ている。
カードの補充も勿論だが、色々な人と対戦して腕を磨くのが主な目的だ。
そりゃあ、子供のお小遣いじゃそんなに大量にはカードを買えないって言うのもあるけど、
それ以上にお金に任せたようなデッキは使いたくないって言う思いがある。
これはアリサちゃんやすずかちゃんも同意見で、わたし達は皆、『自分の好きなカードをどう活かすか』と言う共通の理論を持っている。
掘り出し物があれば嬉しいけど、やっぱり自分で当てた方がもっと嬉しいし。
それに、カードの力に頼ったようなデッキじゃ、絶対に遊星さんには勝てないから。
「モンスターでダイレクトアタックです。これでわたしの勝ちですね!」
「あっちゃあ…やられた…強いね君、楽しかったよ、またやろう!」
「はい!」
そんなわけでショップに来ていた名前も知らない人との対戦を勝利で終え、あたりを見回すと人だかりが出来ていた。
人の壁の中には見覚えのある髪も並んでいる。
何かあったんだろうか?
Turn.13「閑話」
人だかりを掻き分けて何とか前に出ると、そこではデュエルが行われていた。
その内の一人が…
「遊星さん?」
「なんか、店長から頼まれたみたいよ?」
「それで皆、面白そうだからって集まってきて…」
隣に出て来たわたしに気付いたアリサちゃん達が説明してくれた。
相手は知らない人…デッキは…うわぁ…【ライトロード】…ちょっと苦手…
手札は0枚で、場には《裁きの龍》だけだけど、ライフは3000もあるから、まだ効果は使える…
「《裁きの龍》の効果を遊星が《禁じられた聖杯》で無効にして、普通の攻撃で壁モンスターが破壊された所でこれから遊星のターンよ。」
そっか、それじゃあ…ちょっとマナー違反だけど…
わたしはちょっと移動して遊星さんの手札を覗き見る。
「………………………え゛?」
え、えーーーっと…遊星さん、マジですか?
場には3枚のリバースカード。 そして2枚の手札は…まさかの同名カード…しかもアレは…
「俺のターン。」
アリサちゃん達の補足を聞くと、相手のデッキは純粋な【ライトロード】で、墓地で発動するカードは送られてないと言う事。
つまり、《裁きの龍》を何とかする事が出来れば…
……『あのカード』で。
そんなの、いくら遊星さんでも…
「魔法カード、《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、手札の闇属性モンスター1枚を除外する。」
遊星さんは墓地ゾーンの上に1枚のカードを伏せた。
本来ならあのカードは公開しなきゃいけない筈だけど…相手も、審判役の店長さんも何も言わないから、演出みたいなものかな?
相手は勝ちを確信してるから何も言わないのかもしれないけど。
「更に《召喚師のスキル》と《古のルール》を発動する。
これによって俺はデッキからレベル5以上の通常モンスター1体を手札に加え、そのまま特殊召喚する。」
「へっ! 《青眼の白龍》でも出して相討ち狙いか?」
「来い! 《モリンフェン》!」
「「「「「!?」」」」」
遊星さんの言葉と、場に出されたカードに対戦相手も、周りも、アリサちゃん達も絶句する。
「……ねえ、なのは、あのカードってそんなに凄いカードなの?」
まだDM歴が浅いフェイトちゃんがそんな質問をしてくる。
「凄い…事は凄いんだけど…」
「お世辞にも可愛いとは言えないイラスト、レベル5の上級モンスターなのに攻撃力がたった1550…
その中途半端な50って端数のせいで大多数のリクルーターから呼び出す事も出来ない上に、
1500を基準にした大抵のロックやカウンターに引っ掛かる、ある意味伝説級のカードよ…」
「一部では熱狂的な愛好家もいるらしいんだけど…」
「遊星ってあんなカード持ってたっけ…?」
「ううん、あのデッキ、店長さんから渡された物だから…」
「店長…無茶しすぎでしょ…」
それについては全くの同意見。
「バトルフェイズ! 《モリンフェン》で《裁きの龍》に攻撃!」
「血迷ったか? そんな雑魚じゃ…」
「この瞬間、リバースカード、《ライジング・エナジー》を発動!
手札を1枚捨てる事でモンスター1体の攻撃力を1500ポイントアップ!」
「な…! これで攻撃力は3050…《裁きの龍》を超えただと!?」
《裁きの龍》撃破…!
流石遊星さん、力に頼ったプレイングじゃない。
カードを組み合わせる事で強力なカードだって倒す、技のプレイング…
……あれ?遊星さんが手札に持っていたカードって…
「ちっ…だが《裁きの龍》が破壊されても、俺のライフはまだ…」
「残る2枚のリバースカードオープン! 《闇次元の解放》! 《正統なる血統》!
この効果で《闇の誘惑》によって除外された闇属性モンスターと、《ライジング・エナジー》のコストとして墓地へ送られた通常モンスターを特殊召喚する!
俺は2体の《モリンフェン》を召喚!!」
「「「「「!!」」」」」
遊星さんの手札には2枚の《モリンフェン》があった…それを魔法・罠と組み合わせて、デッキ・墓地・除外ゾーンから一気に《モリンフェン》を呼び出すなんて…
こんなの、よっぽどデッキを手足のように使いこなせなきゃ…ううん、そうじゃない。
これが遊星さんの言う、『デッキが応えてくれた』って事なんだろう。
「2体の《モリンフェン》でダイレクトアタック!」
「ライフ…0…こんな事が…」
湧き上がる歓声。
無理もない。
『強力なデッキ』と言われたら上位にあるであろう【ライトロード】をあんな…って言ったら失礼だけど、《モリンフェン》を軸にしたデッキで倒すなんて…
「何も不思議な事じゃない。デッキが勝ちたいと思った。俺はそれに応えただけだ。」
「そんな精神論なんかで…」
「一つ聞きたいが、お前はそのデッキを使っていて楽しいのか?」
「え…」
「デュエル中のお前からは楽しい気持ちを全く感じなかった。勝たなければ、倒さなければ。
そんな気持ちに固執していたように感じた。」
「………」
それは…ちょっと分かるかも。
さっき対戦した人だって、負けても楽しそうにしてた。
勿論悔しそうにもしてたけど、対戦そのものに満足していたようだった。
デュエルで想いが伝わるって言うのはこんな感じなのかな?
「……なぁ。」
「なんだ?」
「いくら弱っちいカードでも…価値が低くて誰も使わないようなカードでも、信じて使い続けたら、アンタみたいに楽しいデュエルが出来るのか…?」
「ふっ…ああ、必ず、な。」
その言葉を聞いてか、それとも遊星さんがそう答えるのが分かっていた上での確認だったのか。
彼は小さく微笑むと勢いよく立ち上がる。
「次は俺が勝つからな!」
「ああ、楽しみにしている。」
遊星さんを指差し、大声で宣言する彼に、遊星さんも笑って応える。
きっと次は、もっと楽しいデュエルになるね。
Side.遊星
「お疲れさん。」
「大したことはしていない。」
対戦前に渡されたデッキを返しながら応える。
「ショップ荒らし…とまでは言わねえが、ああいう勝つ事だけにこだわった奴ってのは場の空気を悪くするからな。
かと言って俺…店長が出張るわけにも行かない。ちょうど兄さん達が来てくれて助かったよ。」
「気にしないでくれ。俺のデュエルが役に立ったのならこっちも嬉しい。」
「……に、しても、店長。あのデッキはやり過ぎじゃない?」
横から聞こえた声に視線を向けると、一緒に来た連れ…なのは達が揃っていた。
「ちょっとした遊び心って奴さ。生半可な、中途半端に強いデッキじゃ、あの坊主の考えは変わらない。
やり過ぎだったからこそ意味があるのさ。」
「それはそうかもだけど…」
「だがそれも、それを使いこなせる決闘者がいてこそ、だがな。」
「「「「確かに。」」」」
なのは達が揃って頷く。
俺は何もしていないと言うのに…
その後皆は再び散らばって、他の客とのデュエルを始める。
「なあ兄さん。」
その様子をぼんやりと眺めていた時、ふいに声をかけられた。
心なしか店長の声は先程よりも重い。
「最近、八神の嬢ちゃんと会ったか?」
「はやてと? いや、ここしばらくは見かけていないな…」
そう言えば今もはやては店内にはいない。
常連だと言っていたが、あれからたまたま時間がずれているのだろうか?
「まあ事故にあったとかそういう話は聞かないから大丈夫だと思うが…
見かけたら伝えてくれ、嬢ちゃんと戦いたがってるチビ共が楽しみにしてるってな。」
「ああ分かった。伝えよう。」
Side.???
闇の書の呪い…守護騎士システム…魔力蒐集…どれも穏やかな単語じゃねえな…
「もし、このままなら…あとどのくらいだ?」
『――――――――――』
「長くて半年…か。」
全く。
何故それを必要としない者の所へ『力』はやってくるのか…
いや、逆か?
『力』…闇の書が嬢ちゃんを必要としている?
……考え過ぎか。
『――――――――――』
「俺は何もしねえよ。俺に出来る事なんて、たかが知れてる。」
俺は大切な親友を守る事も、共に逝く事すら出来なかった。
そんなちっぽけな奴に出来る事なんて…
「だが、常連の危機を見て見ぬふりが出来るほど、利口になった覚えもない。」
ほんの少しの『繋がり』と、世界の英雄をけしかける事くらいだ。
『――――――――――』
「分かってるよ。彼ならきっと、俺が何もしなくたって、最高の結果になるさ。」
だから精々勝手に願わせてもらうさ。
彼に渡した…いや、彼女達に渡ったカードが、小さな光となる事を。
To Be Continued… 
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