Side:美由希


「保護責任者ってなに?」

「え〜っと…保護責任者って言うのは、何て言うのかな…ヴィヴィオを保護する最高責任者と言うか…」

「???」


ヴィヴィオを六課で保護して数日、私はヴィヴィオの保護責任者に成る事を決めていた。
ヴィヴィオは六課の皆と直ぐに馴染んだけど、私に一番懐いてくれてる――その次は冥沙かな?或はよく遊んでくれる雷華かもね。

兎に角、あまりに懐いてくれるから、私もヴィヴィオに物凄く情が湧いたのは事実。
勿論何度も自問した……人の命を奪った事がある自分が、この子を引き取って育てても良いのかってね…。

だけど、それは酷く馬鹿な問題だった。
やるかやられるかの状況だったら、生きる為にはやらなきゃならない――私はまだ死ぬ心算は毛頭ないんだから。

其れにそのときやられていたら、ヴィヴィオと出会う事すらなかった……だからかな、自然とこの子を引き取る決意をする事が出来た――


――
んだけど、やっぱり小さい子に保護責任者云々を説明するのは難しいなぁ?
あ〜〜あ、ヴィヴィオの頭の上に大量の『?』が浮かんでるのが幻視出来るわ…


「つまりね、美由希さんがヴィヴィオのママに成るって言う事だよ♪」

「ママ?」

「そう、ママ♪」

「……美由希ママ♪」

「へえ!?」

ある意味ナイスなんだけど、スバル、其れはちょっと…


「間違ってないですよね?…其れにヴィヴィオも理解したみたいだから良いじゃないですか♪」

「其れは……まぁ、確かにそうね。」

やれやれ…まさか未婚の母になるとはね……でも良いか――いっそヴィヴィオと養子縁組する事も視野に入れといた方が良いかもね。











魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福96
『嵐の前の静けさで…』










それから更に数日が経って、世界は極めて平穏無事。
ヴィヴィオを保護したあの日から、事件らしい事件は殆ど起きていないし、ガジェットの襲撃もない。



『嵐の前の静けさ』



と、そう言えなくもないけど、出動が無いのは正直にありがたいわ――その分ヴィヴィオと一緒に居られるからね。


「ふっふっふ…さぁヴィヴィオ、僕の手札のうち1枚はジョーカーだ…君の手札が1枚でも、其れを引いたら未だ分からない!!」

「ん〜〜と…じゃあこっち!!」

「あぁ!ちょ、ちょっと待って其れは〜〜〜!!」

「はい、上り〜〜〜♪」

「そ、そんな〜〜〜〜〜〜。」


で、只今皆で『ババ抜き』の真っ最中。
今回は雷華とヴィヴィオが最後まで残ったんだけど、あからさまな雷華のトラップじゃヴィヴィオには通じないよねぇ…この子頭いいから。


「なぜだ〜〜!何で僕の完璧な作戦が読まれるんだ〜〜!!」

「戯けが。これ見よがしにせり出したジョーカーなど大概の者が見切るわ。」

「まぁ、ヴィヴィオは喜んでいるようですし良かったのでは?
 雷華、貴女は試合に負けて勝負に勝ったんですよ……ヴィヴィオのアノ嬉しそうな笑顔は勝利以上の価値があるでしょう?」

「星奈ん?……確かに。
 じゃあ、勝って嬉しいヴィヴィオを更に喜ばせてあげても良いよね!」

「良いと思います!寧ろやるべきです!!」


星奈お見事。
雷華は、こう言っちゃなんだけど単純なところがあって優しいから、自分以外の誰かが喜んでるのを見るのも好きなのよね。

だから、ヴィヴィオが喜んでると、自分が負けた事なんて何処かに蹴っ飛ばしちゃうんだろうなぁ。


「僕に勝つなんて凄いぞヴィヴィオ〜〜!だけど次は負けないからな〜〜♪」

「次も私が勝つも〜〜ん♪」


ヴィヴィオを持ち上げて飛んだり跳ねたり……普通だったら『いい歳して』って言われそうだけど、雷華だと全然そう感じないね。
ヴィヴィオも嬉しそうだし、此れは此れで…


「とりゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」

「わ〜〜〜〜〜い♪」


「「!?」」

「おやおや…」

「す、凄いですぅ…」


ちょっと待って…雷華は、一体今何につかまって空中移動したの!?明らかに何もない場所の『何か』を掴んでたわよね!?
って言うか、よくよく見ると何もない筈の場所を足場にしたりバネにしたり……魔法を使ってる訳でもないのに何で!?


「知らぬわ!!如何なっているのだ一体!?あ奴がつかんだ所に手を翳してみても何もないぞ!?」

「まぁ、雷華ですから……最早何が起きても驚きません。10年前に健康ランドで、何もない場所の何かにぶつかっていましたからね。


そう言えばそんな事も有ったわね…(汗)
何がどうなってるのかはサッパリ分からないけど、雷華は楽しそうだし、何よりヴィヴィオも喜んでるから問題なしって事で良いよね。




…時に、ヴィヴィオを引き取るのは良いとして――未婚の母となったら、煩そうだなぁ……主に恭ちゃんが。
お父さんとお母さんは何も言わないだろうけど、恭ちゃんは絶対暴走するよね…『相手は誰だ〜〜!!!』とか言って…


「言うであろうな……アレだけの美人妻が居るのだから、いい加減シスコンは卒業すべきだ。そもそも、もう三十路であろうが…

「きっとあぁ言うのを『残念なイケメン』と言うのでしょうね……シノブが居なかったら独身は確実でしょう。」


一切否定できないなぁ………ん?

「如何したのヴィヴィオ?」

「ママ、これ読んで〜〜♪」


本?随分なハードカバーね?
読むのは良いけど、その前に何の本か見せてくれる?


「うん!」

「ドレドレ………ヴィヴィオ、貴女この本を何処から持って来たの?」

「前に星奈お姉ちゃんが貸してくれた。」


成程納得したわ……。
星奈、ヴィヴィオに本を貸してくれたのは感謝するけど、6歳児に此れはちょっとハードルが高いんじゃないかしら?
何よ『新説・此れが相対性理論だ!!』って!こんなの子供どころか一般人にだって良く分からないし、読み聞かせする本じゃないわよ!?


「お気に召しませんか?
 かの天才が導き出した理論を、全く別の観点から捉えた新しい発想の理論解釈で、非常に興味深い内容なのですが…」

「如何感じるかは人夫々だけど、流石に此れは子供が読む本じゃあないと思うなぁ…」

「そうですか…では、此方の『それ行け猫玉少女』は如何でしょうか?物凄く親近感を覚える内容でした。


…何処から出版してるのよその本は?
まぁ、こっちなら良いかな?ありがたく貸してもらうね。
ヴィヴィオ、星奈が別の本を貸してくれたからこっちにしましょうか?


「は〜〜い♪ありがとうございます、星奈お姉ちゃん♪」

「いえいえ、此れくらいは…」


……って言うか、こんな本を持ってるなら、最初からこっち貸してくれれば良かったと思うのは私だけじゃないわよね?
けど、ヴィヴィオが喜んでるみたいだから良いか。

六課の皆もヴィヴィオには優しいし、陸の方から偶にメガーヌさんもルーちゃんと一緒に来てくれるしね。



……絶対に護り抜かないとね――この子を最高評議会になんか渡してなるもんですか。


「美由希ママ〜〜、早く読んで〜〜。」

「はいはい♪え〜と…『昔々、あるところにやたらと猫に懐かれる女の子がいました…』。」

『娘』を護るのは『母親』の役目だしね。








―――――――








Side:はやて


「公開意見陳述会で?」

「うむ。
 ワシはその場で機動六課の有用性と、質量兵器禁止と魔法の非殺傷設定の危険性を訴える心算でいる。
 可能ならば、最高評議会の実態と、その裏側での悪事も『限りなく真実に近い可能性』として話す心算だ…連中が喰い付いて来れば僥倖だ。」


確かに言えてます。
閣下の指摘に反論してきたら、それを更にこれまでに掴んだ証拠を基に叩き潰せば良いんと違います?
幸いこっちには連中が裏で行って来た悪行の証拠はぎょーさんありますから、連中は反論すればするほど墓穴掘る結果になるんやないかと思います。


「そうなってくれれば御の字だが……そう言う事態になった時に奴等がどんな手を打って来るか分からん。
 警備の方は陸と六課の合同任務で行うから、外からの襲撃には万全だとしても、会場内部でテロ行為でも働かれては対処しきれん。」

「一応サイバー関係の方はレティ提督直属のマリエル・アテンザと六課のシャリオ・フィニーノでファイヤーウォールの強化を行っとります。
 緊急時の輸送体制も新型の輸送ヘリ『JF−704』を10機配備するように手配したので大丈夫やろうとは思うんですけど…」

相手は己の欲望の為なら平気で他者を犠牲にする反吐が出る程の外道――油断できへんのが正直なところやな。
此れだけの防衛線張っても張りすぎ言う事は無い筈や。


「うむ…細心の注意を払いながらだな。
 此度の公開意見陳述会は間違いなく最高評議会に対して此方から『攻め』に転じる事の好機となる筈だ。
 ワシはワシに出来る事を120%やり通そう――八神司令、君も…」

「皆まで言われんとも分かっとります――全力で警備その他に当たります。」

閣下の理想は私等が目指すモノでもありますから。
せやから、私等は全力で会場を護り通す――最高評議会からの襲撃者なんて纏めて塵に返したりますよ。

閣下、恐らく此処が大きなターニングポイントになる筈やと思うんです。
カリムの予言は無視できへんけど、予言は絶対やないから防ぐ事は出来る筈やと思います――陸と六課の崩壊はさせへん心算です。

ううん、心算やない――絶対にさせへんし、やらせへん!!
事と次第によっては、多少――否、可也荒っぽい事になるやろうと思うんですけど…


「構わん…必要なら派手にやってくれて結構!
 可能ならば、襲撃掛けて来た連中を一方的に叩き潰すくらいして、最高評議会に身の程と言うモノを分からせてやればよい。」

「そうします!」

なのはちゃんの方にも秘密裏にデータやら送っとるから、多分当日は来てくれるはずや。
なのはちゃんとルナさんが居れば、戦力は更に数倍に膨れ上がる……其れこそ負けは無い筈や。





せやけど何やろうか……この胸に去来する『言い様のない不安』は?
まるで、此れだけの戦力を揃えても、それを嘲笑うかのような事態が発生してしまいそうな漠然とした不安は一体…


アカン、止めや止め!
正体の分からん不安を気にしても埒が明かんし、そないなモンに気を取られたら要らん失敗してまいそうや。

大丈夫や、絶対大丈夫!
来るなら来いや最高評議会!この機動六課総司令『夜天の冥王』こと八神はやてと、最強の仲間達が相手になったるわ。

更に援軍として『白夜の聖王』も来るやろしなぁ?――覚悟しとけやアホンダラ共!!


「中将、八神司令の髪が夕日色に染まっているように見えるのですが…」

「安心しろオーリスよ、ワシにもそう見える。」


おぉっと…思わず冥王モードになってたみたいやな。
まぁ、そんだけヤル気に満ちてる言う事や。


覚悟しとけや最高評議会――なのはちゃんとルナさんを討とうとした代償は、キッチリ払うて貰うからな!!








――――――








Side:ルナ


公開意見陳述回当日、はやて嬢からの依頼を受けて、私達も公開意見陳述会の警備に当たる事となった。
まぁ、私達『リベリオンズ』は表立った組織ではないので、あくまでも『有事の際の緊急戦力』としての意味合いが強いんだがな。

なので、管理局とは接触せずに、彼等の警備の外縁から更に100m離れた位置で待機している。

「クアットロ、会場内部にサイバーサイドからの侵入者は?」

『今のところ在りませんわお姉さま。
 ファイヤーウォールも今しがた強化しましたので、此れを突破するのは困難ですわよ?』


ならば安心だな。
サイバー関連はドクター達に任せておけば問題ないだろうから、私達は外の警備に集中だ。

最高評議会は、先ず間違いなく襲撃を仕掛けて来る筈だからな――来たら手加減なしで叩きのめすぞ。


「言われるまでもない…纏めてぶっ潰してやるさ。」

「白夜の聖王と夜天の冥王、そしてその騎士と仲間達に敵は無いって教えてあげないとね――物覚えは悪いみたいだけど。」


確かにな。
此れまで六課と私達に一度も勝ったことが無いのに襲撃を仕掛けて来る心算なのだからな………正直言って馬鹿だろう?

所詮は欲に溺れた脳味噌だ……いい加減眠らせてやるさ。





さて、そろそろ始まるみたいだな。

ドゥーエは既にライアーズマスクで姿を変えて内部に入り込んでいるから、そちらは大丈夫だろう。
つまり、私達が此処を通さなければ何事も起きずに陳述会は終わると言う事だ。


私は勿論、なのはとサイファーにも隙は無い。
いや、そもそも六課と陸の合同部隊にだって隙等無いだろう――お前達の思い通りにはさせんぞ、最高評議会!!















 To Be Continued…