Side:冥沙
うむ…大儀であったな小鴉――矢張り星光の殲滅者はナノハであったか…
そして、ナノハとルナはエクリプスドライバーとやらになって限りなく不死に近い存在だと…我等の力が上がったのはその影響か。
ふぅ…壮絶な8年間を過ごしてきたのだなナノハもルナも…
「うん…ホンマに壮絶やった…ダミーの任務で殺されかけて、その手を血で染めて…人でなくなって…ホンマに…
普通やったら発狂して、心が壊れて廃人になっとってもおかしない状態やのに…それでもなのはちゃんはなのはちゃんのままやった。
自分達が生きてる言う事を私等に伝える事も出来へんで、自分の存在をひた隠しにして最高評議会に反抗して――辛かったやろな。
そんで、そのなのはちゃんが折れてしまわない様に、壊れてしまわない様に支え続けたルナさんはもっと大変やったと思う…」
「そうであろうな……」
マッタク…其れだけの重荷を1人で背負おうとしよってからに…馬鹿者が。
我等とて、其れを共に背負う事くらいは出来るのだぞ?……まぁ、我等を気遣っての事だろうがな…
まぁ良い、ナノハ達が我等と同盟を結んだと言うならば、其れだけで大きな収穫よ。
それに、あの鉄くず共に対する切り札も手に入れたのだろう?……漸く受け身の状態から、攻めに転じる事が出来そうであるな?
「せやね。
なのはちゃんから貰ったAMFキャンセラーのデータはマリーさんに渡してあるから、3日もあれば六課全員のデバイスに搭載が完了する筈や。
やけど、直ぐに動く事は出来へんやろ?…保護した女の子の事や、最高評議会の動向――把握しとかなアカン事は山積みや。」
「ふむ…急いては事を仕損じるであったか?
なれば我等は『期』を見て、『機』を待ち、『気』を持って戦えばいいと言う事だな?」
其れが成功の秘訣だとシロウも言ってたからな――今は時期を待とうではないか。
だが、最大の好機が来たその時は容赦せんぞ最高評議会…!
この黒天に座す闇統べる王こと高町冥沙が、貴様等の野望・欲望を塵と消してやるから覚悟しておけ…!
魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福95
『METRO BAROQUE』
Side:ルナ
そうか、会談は上手く行って六課との同盟が締結出来たか――正直ホッとしたよ…美由希や星奈達と敵対するのは、矢張り嫌だからな。
しかし、はやて嬢がイクスヴァリアの力を受け継ぎ、更に原因は違えど私達と同じ存在になっていたとは流石に驚いたな。
古代ベルカの王族の力を受け継いだ者が2人も居るなど、驚くなと言う方が無理だと思うけれどね。
まぁ、其れはある意味良い事としておこう。仲間内での戦力が強化されたわけだからね。
問題は最高評議会だ……此れだけ探しても正確なアジトが割り出せないとは、一体どんな場所に身を隠していると言うんだ?
「此方は何時でも仕掛けられる準備が出来ていると言うのに、場所が不明で仕掛けられないと言うのは…」
「不完全燃焼的な気持ちが広がって来るな…」
此ればっかりは仕方のない事なのだけれどな。
まぁ、何れそれも割り出せるはずだ。
其れよりも問題なのは、六課が保護したと言う女の子の事だ。
保護されたその子は、ハニーブロンドの髪に紅と緑のオッドアイなんだろう?――まるで聖王状態のなのはじゃないか…!
その子は若しかして『ゆりかご』を起動させるために、評議会が生み出したオリヴィエのクローンじゃないのか?
「その可能性は充分にあるだろうね。レリックを繋がれていたと言うのも、妙な点ではあるしね。」
「だが、六課の連中に保護されたんだろう?
其れなら、そうそう最高評議会の三下共も、その子供に対して何らかのアクションを起こすのは難しいと思うんだがな?」
確かに、其れはそうとも言えるんだが……その子が本当にオリヴィエのクローンだとしたら少しばかり解せないな。
大人の聖王ならば兎も角として、年端もいかない子供が警備の厳しい研究施設から単身逃げ出す事などできるのだろうか?
しかも、レリックの入った箱を引き摺りながらでは、脱走に気付いて追いかけて来た追っ手連中を振り切れるとも思えない。
勿論、オリヴィエの『聖王』の力が正確にクローニングされているならば、無意識にその力を使って追っ手を退けた可能性もゼロじゃない。
だが、保護された場所周辺に…半径数キロ以内に其れらしき痕跡が無いとなると可能性は限りなくゼロに近いだろう。
「うん……その子の事、はやてちゃんに知らせておいた方が良いね――オリヴィエのクローンの可能性があるって。
はやてちゃんなら、その子が窮屈な思いをしない様に配慮しながらて警護してくれるだろうし。」
「六課に簡易の託児所でも作るかも知れんな。」
確かに。
まぁ、六課は精鋭部隊だし、常に誰かがそばに居れば大丈夫だろう。
特に冥沙は子供に懐かれる部分があるから、物凄くよく面倒を見るかもしれないな。
「まぁ、その子の事で私達が出来る事は殆どないから六課に任せるとしてだ――ジェイル、私と戦った奴の事は何か分かったか?」
あの寡黙な魔導師は、明らかに今までの奴とは『質』が違っていた。
この間は退けたが、アレが強化を施されて出てきたら……正直楽じゃないな。
「うむ…殆ど何も分からないと言うのが正直なところだね。
デバイスの記録映像を解析しても、彼の戦闘スタイルに該当する魔導師のデータは管理局にも最高評議会にもない。
敢えて似ているスタイルを上げるとすれば、六課の剣士2人が該当するが――其れもよくよく比較するとまるで別物だ。
一番の謎は使用している魔導タイプだろうね?ミッドともベルカとも違う独特の魔法陣が展開されているからねぇ…」
「10年前の砕け得ぬ闇事件の時に一緒に戦ったアミタさんとキリエさんのモノとも異なってるよね…?
それに、月の祝福を使ってないとはいえ、ルナと互角に戦うなんて――もしかしたらこの人って…」
「なのは、何か思い当たる事があるのか?」
「思い当たるって言うか、単なる私の予想なんだけどね。
その人はそもそも管理局員でもなんでもない『武芸に長けた只の人』だったらどうかなぁって思ったの。
それも管理外世界に住んでるような人――其れを捕まえて、洗脳して、戦闘機人とか人造魔導師みたいな強化を施したら如何だろうって。
もしこれが正しいなら、魔法陣の形が違うのも単純に魔法技術が根本から異なる世界の人って事で説明がつくと思うし…」
…その可能性は考えていなかったな。
無数に存在してる管理外世界から、腕の立つ者を拉致して洗脳し自らの手駒とするか……連中ならやりかねん事だな。
まして、管理外世界からの人材調達なら早々動向を把握される心配もないと言う訳か。
だが、仮にそうだとしたら、次にアイツと会った時に洗脳を解除してやれば奴等の兵隊ではなくなると言う訳だ。
あくまでも可能性だが、備えあれば憂いは無い。ジェイル、洗脳解除の装置みたいな物は作れるか?
「小型化は些か難しい部分があるが、ショットガン位の大きさの物ならば作る事は可能だね。
幸い、昼間の戦闘で材料はたっぷり確保できているからね。」
「まぁ、結構派手に暴れたからな……特になのはとサイファーは。」
「え〜〜〜〜?」
「そんなに派手だったか?」
手加減したとは言え、スターライトブレイカーまでぶっ放しておいて派手ではないと?
もしそうだと言うならば、この世の大概の事は派手ではない地味なものになってしまうが、如何思う?
「…はい、派手に暴れました…」
「テンションが上がったからつい…」
いや、責めてる訳ではないからな?
寧ろ圧倒的な戦力差を見せつけると言う意味ではブレイカーは良い手だったさ。
尤も、其れで愚行を止める連中ではないのも事実だけれどね。
だが、六課が保護したこの子の存在を考えると――近い内に何か大きな事が起きるぞ、間違いなく。
其れが何であるかは分からないが、それこそミッド全体を巻き込むほどの事態が起きる可能性は充分にあると思っていた方が良いだろうな。
「フン…下賤なクソ共が何匹集まろうと私達の敵にもならんだろう?
加えて、六課の連中も居るんだ――其処に仕掛けて来るなど飛んで火に入る夏の虫と言うやつだろう?」
「油断は禁物だけど、皆で力を合わせればきっと大丈夫だよ。」
「まぁ、大抵何とかなるんじゃない?」
ふふ…このメンバーと六課が手を組んだなら不安はないか。
ただ、私のこの勘は外れていない筈だ――何かが起きるぞ……近い内に必ずな…
――――――
Side:美由希
はやてちゃんとなのはの会談から数日経って、只今聖王病院に向かってる真っ最中。
はやてちゃんの話だと、なのはは元気そうだから安心したわ。多分ルナも元気だろうしね。
まぁ、再会したら取り敢えずはお説教――その後で思いっきり抱きしめてあげようかな…だから早く会いたいわ2人と。
其れは其れとして、この前エリオ君とキャロちゃんが保護したこの様子を見に来たんだけど…広いよねこの病院。
未だに地図が無いと迷いそうになるんだけど――ん?
「……………」
「あ…あう…」
アレはシスター・シャッハと、保護したあの子!!
って何してるのよシャッハ!?そんな小さな子にデバイス向けるなんて……取り敢えずおちつけぇぇえ!!!
――ドゴォォォォ!!
「グハァ!?」
「何してるのよシスター・シャッハ?」
「何をしてるか聞く前にウェスタンラリアート炸裂させないでください!!首が折れたかと思いました…」
だって、こうでもしないと止まりそうになかったし…手加減したから大丈夫でしょ?
其れに私みたいな細腕じゃあラリアートの威力はそんなにないでしょ?
「細腕だけに喉の奥にめり込むんですが……」
「そう?…まぁ、其れはこの際無視するとして――何してるのシャッハ?
機動六課で保護した女の子にデバイス向けてるとなったら、六課と聖王教会の関係に罅が入る事になるわよ?」
「其れは百も承知です!
ですがその子は危険なんです!今ここで何とかしないと!!」
危険…ね?
其れはこの子が『聖王女オリヴィエ』のクローン体だからってことかしら?
「!!!」
「正解みたいね。」
なのは達がお世話になってるって言うスカリエッティさんからの通信で知ったんだけどさ…言わないけど。
聖王のクローンは確かに教会からしたら見過ごせないものだとは思うんだけど、だからって行き成り排除は幾ら何でも乱暴じゃない?
「ですが!!」
「シスター・シャッハ!!」
「!!」
機動六課総司令、八神はやての命に従い、この子は私達機動六課で引き取り保護・警護する事になったわ。
其れに伴って、私はこの子を引き取りに来たのよ。
其処で聖王教会の騎士が、機動六課の魔導師の邪魔をしたとなったら立場が悪くなるだけじゃないかしら?
悪い様にはしないから…だからこの子の事は六課に任せて欲しいんだけど――ダメかな?
「……分かりました、お任せします。
少し、私も頭に血が上り過ぎていたようです……こんな小さな子を攻撃しようとするなど間違っていました。
貴女のおかげで頭も冷えましたし、何より友人の頼みを断る事は出来ませんからね……その子の事はお願いします。」
「ありがとうシャッハ。」
やっぱりちょっと暴走してたのね。
シャッハは根は良い人なんだけど、生真面目の杓子定規だから『こうだ!』って思いこむと周りが見えなくなるのが玉に瑕ね。
さてと……大丈夫?怪我はない?
「うん……」
「そう……でも、君は強いね?
目の前で武器を持ったお姉さんが睨みを利かせてても泣かなかったんだからね。
――初めまして、私は高町美由希って言うんだ。貴女の名前を聞かせてもらっても良いかな?」
「…ヴィヴィオ。」
ヴィヴィオ…良い名前だね。
其れじゃあヴィヴィオ、早速で悪いんだけど今からお引越しなんだ?
此れから貴女は新しいお家に引っ越す事になって…それで私は貴女の事を迎えに来たんだよ。
「新しいお家…?」
「そ、新しいお家。」
其処には優しい人達が一杯居て、皆が貴女を護ってくれる、貴女に優しくしてくれる――そんな所。
勿論、貴女を苛める人もいない……度が過ぎた悪戯したら流石に叱るけどね。
だけど、ずっと病院に入るよりは格段に良いと思うんだけど――如何かな?
「居る?」
「へ?」
「貴女も…」
私?…勿論居るわ。
ヴィヴィオが望むなら、可能な限り一緒に居ても良いわよ?
「じゃあ行く〜〜!」
「あら即決。」
てか私が居るかどうかが行くか否かの判断材料?
え、若しかして予想外に懐かれたのかな?……まぁ良いか、ヴィヴィオは可愛い子だし、懐かれるってのは悪い気分じゃないしね。
でも私で此れでしょ?
六課に連れ帰ったら冥沙とかどうなるのかしら?……冥沙ってば兎に角子供に懐かれる子だから、案外この子も…
其れは其れで悪い事じゃないか。
其れじゃあ行きましょうかヴィヴィオ、貴女の新しいお家に。
「うん!!」
うん、取り敢えず任務完了。
だけど、任務とか関係なしに可愛い子だわこの子は……いっその事、私がこの子の『保護責任者』になるのも悪くないかもしれないわ。
――――――
Side:クアットロ
――ザァァァァ…
く…無念…ルナお姉さまの部屋に仕掛けた極小CCDは気付かれていたようですわね…
折角ルナお姉さまとなのはお姉さまの芸術品の様な肢体を拝めると思いましたのに〜〜〜!!
ふぅ、其れはまたの機会ですわね。
其れは其れとして――近いですわね『公開意見陳述会』が。
地上本部を舞台にして行われる一大イベント――ルナお姉さまが仰っていた『何か大きな事』が起きるにはこの上ない場所ですわ。
あくまで予感と予想…科学的に言うなら信ずる根拠は皆無だけれど、ルナお姉さまの勘は科学的予測を上回りますものね。
其れはなのはお姉さまの勘も同様ですけれど。
「機動六課が警備には出るでしょうけど、此れは此方でも警備に出る事を考えた方が良さそうですわね…」
其れは其方の方向で調整するとして……さ、サイファーちゃんは何をしているのかしら〜〜?
「知れた事…なのはとルナを覗き見しようとしていた陰険姑息眼鏡に天誅を喰らわせようと思ってなぁ?
なに、安心しろ…非殺傷だから死ぬ事は有り得ん――少しばかり痛い思いはしてもらうがな?」
「え〜と…逃走権と拒否権は?」
「あると思うか?」
な、無いですわよねやっぱり……あ、あははははははははは…
「ふふふふふふ…ふっふっふっふっふ…はっはっはっはっは!!
頭を冷やして反省して来いUnlimited HUJOSHI!!ディバイィィィン…バスターァァァァァァァァァァァ!!!!」
あははははは……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
――ドッガァァァァァン!!!
がふぅ!!…さ、サイファーちゃんのバスターも、大分なのはお姉さまに近付いてきましたわね……
「なのはとルナの2人きりの時間を邪魔してやるなよ?
アイツ等にとって、2人きりの時間と言うのは大切な物なんだ…お前だって其れは分かるだろう?」
「分かってますわ…そうでなければ壁そのものに隠しカメラを埋め込んでいますわよ?
CCD設置は壊されること前提――まぁ、見つからなかったらラッキーとは正直思ってますけれど。」
でも、其れは有り得ませんわ…ルナお姉さまとなのはお姉さまの2人きりの空間は一種の聖域!侵す事は許されませんわ!!
まぁ、お姉さま方が2人きりで居るところを妄想するだけで新刊の構想は幾らでも浮かびますけれども〜〜♪
「…よし、やっぱりお前は此処で眠ってろ。」
――バキィィィ!!!
あぶっ!?……力一杯の右ストレートは効きましたわサイファーちゃん…お見事…
――――――
Side:ルナ
クアットロめ…矢張り仕掛けていたか隠しカメラを…!
部屋に入った瞬間に空間攻撃を使ったのは間違いじゃなかったな。
「クアットロさんも困ったもんだね?」
「私となのはが一緒に寝るのは何時もの事だが…本当にいっしょに寝てるだけでそれ以上の事は無いと言うのにな…」
それでもアイツにとってはネタを拾うに充分なんだろうがな…
まぁ、設置物は破壊したから大丈夫だろう。
さて、今は身体を休めようなのは。
ここ数日は何事もなく平和だったが、何時何が起きるかは分からないからな…英気を養っておくに越したことはない。
「うん…そうだね…お休みなさい。」
「あぁ、お休み。」
……寝たか――本当に天使の寝顔だななのはの寝顔は。
此れを見ただけでも癒されてしまうよ。
私も寝るか。
疲労が残る事は無い身体だが、それでも休める時には休んでおいた方が良いからな――数日後には公開意見陳述会もある事だしね。
其処で何が起きるかは分からないが、何が起きても対処し、ただ1人の犠牲も出さないさ…必ずな。
本気でそう思っていたんだ、この時は。
だが、公開意見陳述会の当日に、私達の予想をも遥かに上回る事態が発生する事を、この時の私達は予想すらできないでいた…
To Be Continued… 
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