Side:はやて
初めて違和感を感じたのは書類の整理をしているときやった。
書類の端っこで指を切ってもうたんやけど、一切傷が無かったんや。
その時は『浅くきれいに切れたから血も出ないでくっついたんやろうか』と思ってた。
けど…その後、最高評議会からの刺客に襲われた時に、違和感の正体は明らかになった。
背後からの不意打ちを喰らって、短刀で背中から可成り深く刺されて、おまけに短刀をねじって内臓を抉られた…
流石にその時は死を覚悟したけど…短刀が引き抜かれたその瞬間に――私の傷は再生してた。
その時初めて自分の身体に起きてる異変に気が付いたんや…間抜けな話やけどね。
刺客を返り討ちにして、慌てて家に帰って自分の身体を魔力を使ってスキャンしたら驚いたわ……未知の寄生生物に寄生されてたんやからね。
何時寄生されたかは定かやないけど、違法研究所を摘発した時や言うのだけは分かる。
恐らくは目に見えんほどに小さい寄生生物が、粉塵に紛れて私の身体の中に入ったんやろうな。
此れのおかげで私は寿命以外では殆ど死ぬ事のない身体になってもうた上に、寿命の上限も底上げされたみたいやった。
この事は誰にも言うてへんけど、アインスにだけはバレとるやろなぁ…あの子とは夜天の書を通じて繋がってるからな。
この寄生生物は私の心臓に寄生しとるから摘出は事実上不可能や……まぁ、しゃーないやろな。
けど、此れだけやなかった…私に起きた事は。
自分が人外になったと認識した数日後やったな……不思議な夢を見るようになったのは…
魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福94
『白き聖王と黒き冥王』
その夢はホンマに不思議やった。
私の記憶にない景色、記憶にない光景に記憶にない人達…それが次から次へと映し出されていった。
気になって調べてみたら驚きやね……その夢に出てきた人達は古代ベルカ時代の貴族の人達だったんやて。
頭おかしくなったかと思たわホンマに……『何で私がそないな人達の夢見るねん!』て感じやったなぁ。
せやけど何回目の夢やったろか?…私の前に彼女が現れた――古代ベルカの『冥府の炎王』、通称『冥王』イクスヴァリアが現れたのは。
まぁ、夢言うのは適当やないかも知れへんな…私は私の意識を保ってたし、イクスも明らかに私に話をしていたからなぁ。
イクスが言うには、イクス自身は『永き眠りと刹那の覚醒』を繰り返しながら永遠にも等しい時を生きる事が出来る存在らしいな。
やけど、イクスは其れじゃあダメやと思たらしい。
次に自分が目覚めるのは何時かは分からないし、その時に自分の力を悪用されたくない言うてた。
『夜天の王よ、私の力を貴女に託したい……受けて頂けますか…?』
『えぇよ…冥王の力、私が継いで正しい方向に使ってみせる。』
『ありがとう…貴女を選んで…良かった…』
そして、私は冥王の力を継承した。
此れも知ってるのはアインスだけやろな……。
あぁ、それから此れがある意味一番大事かも知れへんな?
私が継いだのはイクスの力だけやないで?イクスの思いも継いでるんや!
イクスは最後に言っとった………友をよろしく……てな!
せやからなのはちゃん…先ずは見せてもらうで『白夜の聖王』の力ってやつをな!!
――ガキィィン!!
「やるね、はやてちゃん…!だけど、幾らシークレットルームとは言えレストランで攻撃仕掛けて来るのはどうかと思うなぁ?」
「どの口が言うねんなのはちゃん?……こうなる事を見越して此処を選んだんやろ?
このシークレットルームはヤクザ屋さんやマフィア連中が大きな取引で使う事で有名な場所やからなぁ?
其れだけに防音と防弾性能はお墨付きや……こうなる事を前提にしてなきゃ選べへん場所やで?」
「流石、六課の総司令様は観察眼も鋭いね!…何となく予想は付くけど、取り敢えず答えを聞かせてもらおうかな?」
「言わなくても分かるやろ?…私はなのはちゃんの方には行かへんよ!」
「そっか……それじゃあお別れだね!!」
ゼロ距離砲撃!!…せやけど私には通じへんよ?
――轟!!
「!!今のを防いだ?……それ以前にはやてちゃん、その姿は…」
「驚く事ないやん?私はイクスの力と記憶を継いだ存在やで?…なのはちゃんの『聖王モード』に匹敵する状態を得ていてもおかしくないやろ?」
「確かにそれもそうだね…って言うか冥王解放状態だと結構変わるね?
夕日色の髪に翡翠の瞳って、結構カッコいいかも…」
いやいや、なのはちゃんの聖王化には負けるで?
輝くハニーブロンドの髪に、ルビーとエメラルドのオッドアイなんて最強の組み合わせやで?
「そう?ありがとう……だけど余所見禁物だよ?」
「知っとるわ…話しながらも高性能の誘導弾…抜け目ないなあホンマに。」
やけど、此れ位の誘導弾やったら問題ないで?…とりゃぁぁぁあぁ!!!
――カンカンカンカンカン!!!
「はぁ〜〜〜〜…流石に驚き、全部弾き飛ばしちゃうなんてね。…はやてちゃんクロスレンジ不得手じゃなかったっけ?」
苦手やったよ?やけど、生憎六課にはクロスレンジに於いて最高の先生が居るからなぁ?
美由希さんとシグナムに鍛えてもらえば、私でも此れ位の事は出来るようになんで?
「お姉ちゃんとシグナムさん……其れは納得だなぁ〜〜…」
「やろ?……って言うかなのはちゃんも少しくらいは本気出したらどうや?
こっちは切り札見せたんやで?…其れに応えてくれないんは、少しばっかりイケずやと思うで『白夜の聖王』。」
「其れは確かにそうだね……それじゃあ…」
――轟!!
「此れで満足かな『夜天の冥王』?」
「そうやな…取り敢えずは、な!」
やっぱし聖王化すると、感じるプレッシャーがハンパないなぁ?
これがきっと潜ってきた修羅場の差なんやろうな……
私がナンボ命狙われるようになった言うても、其れはここ2〜3年の事で、しかも頻繁に刺客が来るわけやない。
せやけどなのはちゃんは8年前に行方不明になったあの日から、何時も『死』と隣り合わせの世界で生きて来たんやからな…差が出るのは当然やね。
其れになのはちゃんから感じる血の匂いは、私にこびりついた血の匂いとは比べ物にならないほど濃い…
ふぅ…やっぱり許せへんなぁ最高評議会。
なのはちゃんを殺そうとしただけじゃなく、なのはちゃんが殺しをせなアカン状況に追い込んだんは…
「ドライブ!!」
「く…速い!!」
その経験がなのはちゃんを強くしたのはなんちゅう皮肉やろか?
人を殺せる『取り返しのつかない強さ』を身に宿してるのは私かて同じやけど……なのはちゃんの其れは格が違いすぎや…!!
「スマッシャー!!」
――ドォォォン!!!
「カハッ…!!」
く…ゼロ距離のショートバスター…本気出されると、やっぱり防ぎきる事は出来へんか…!
てか容赦ないなぁホンマに!
せやけど、やられっ放しやないで?お返しや!!バルムンク!!!
「バスター!!!」
――ドゴォォン!!
んな!?バルムンク全弾をバスター1発で掻き消したやとぉ!?
自慢やないけど、冥王化した私ならアインスよりも強い……それやのに、この攻撃は通じへんの?
どれだけ強いんや、聖王化したなのはちゃんは…
「うん、可成り強いねはやてちゃん…イクスの力もよく馴染んでると思うよ?
だけど私の聖王とは年季が違いすぎるね――違法研究所を潰す時、私は常にこの聖王を解放して戦ってたんだよ?
もっと言うなら、13歳の時には、1年間寝る時以外は常時聖王の状態で生活してたからね……身体への馴染み方が違いすぎる。」
「んな無茶苦茶な事してたんかい!」
そら強い筈や…そやけど、油断大敵やで!
「A.C.S…ドライブ!!!」
「!!!」
此れはなのはちゃんに教わった技やったなぁ?
私はエクセリオン使う事は出来へんけど、魔力を推進力に使った超高速の突進突きは威力抜群やろ?
「く…使いこなしてるねA.C.Sを…だけど其れは私が教えたんだよ?対処法位は熟知してる!」
「其れはあくまでA.C.Sに関してやろ?…こう来たらどないや!!」
「!!」
――バキィィ!!
「く…!!」
美由希さん直伝の『武器戦闘時の奇襲格闘技』や!
でっかい一撃を相手にガードさせたところで、間髪入れずの格闘攻撃……利くやろ?
「お姉ちゃん直伝か…でも、其れを習ってるのは私だって同じだよ――私が習ったのは10年も前の事だけどね!!」
――ガッ!!
「!!」
蹴りを喰らったにも係わらず、カウンターで片手絞首吊りやと!?……く…なんちゅう力や…は、外れへん!!
「格闘戦に於いて、投げは最も有効な攻撃手段の1つだよ!!」
――ダァァァン!!!
ガハッ……ゴッツイチョークスラムや……
はぁ、はぁ…まさかここまで差があるとは思ってへんかったわ…強すぎやでなのはちゃん…
――チャキ…
「私の勝ちだね?」
『To Easy.』
「…そうみたいやな…今のなのはちゃんには勝てそうにないわ…」
「…其れを知って、それでも私達の所に来ることはしない?」
…せぇへん。
だってそうやろ?私がなのはちゃん達の方に行く言う事は、六課を投げ出すことになる…私が作った六課を。
そら、六課全員こっちに来い言うなら話は別やで?
やけど、なのはちゃんは『私』だけを誘った……其れやったら一緒には行けへんよ…
なのはちゃんと行ってもうたら、六課を無責任に放り出すことになる……そんなんしたら、六課の皆や、支援してくれる人達に顔向けできんやろ?
せやから、私はなのはちゃんと一緒には行けへん。
「そっか……うん、良かった♪」
「へ?」
「其れが聞けて良かったよはやてちゃん。
もし貴女が私と一緒に来る事を最後の最後で選んでたら、私ははやてちゃんを多分殺してた。力の差に屈する人なんて要らないからね。
聞きたかったのははやてちゃんの覚悟と本心……力に屈しないはやてちゃんの覚悟、しかと見せてもらったよ。」
ふぅ…やっぱり此れが『正解』やったか。
せやったら、なのはちゃんとルナさんは少なくとも私等や、平和に暮らしてるミッドの人達に対して『滅び』に成る事だけは回避出来たんやな。
「滅び……あの予言だね?」
「は?なのはちゃん予言の事知ってるんか?」
「うん。ジェイルさんが聖王教会のデータバンクから引っ張り出したって…」
ドンだけやジェイル・スカリエッティ!?
聖王教会のデータバンクのセキュリティてゴッツ強固な筈やけど……いや、千切れたルナさんの腕を再生するような人や、セキュリティ突破位は軽いか。
まぁ、其れは其れとしてや…あの予言の『滅び』には2つの意味があったんやね。
今回の事で私が失敗したら、私等にとっても滅びになったのは間違いないとして…成功した場合には最高評議会にとってのみ『滅び』となるってな。
「そして、最高評議会にとっての『滅び』は私達機動六課も含まれるんやろね。
中から私達、外からなのはちゃん達って言う『二重の滅びの使者』が最高評議会を追い詰めて終焉の幕を下ろす…そやろ?」
「正解。
正直、はやてちゃんが機動六課を設立したのを知った時『中と外から攻められる』って思ったしね。漸く、其れが出来るよ。」
さよか……ほな、今回の会談は成功で、六課とリベリオンズは協力関係を正式に結んだ言う事でえぇんやね?
「うん、其れで良いよ――とは言ってもこっちから管理局に出向く事は出来ないけどね。」
「まぁ、なのはちゃんの姿で来ても、星光の殲滅者の姿で来ても局は大騒ぎになるやろからな。」
「うん。…あ、そうだ!これを渡しておくねはやてちゃん。お話が巧く行ったら渡すつもりだったの。」
USBデータメモリ?
何のデータやの此れは?
「ジェイルさんが開発した『AMFキャンセラー』のデータが入ってる。
其れを六課の皆のデバイスにインストールしてあげて?其れが搭載されれば評議会のガジェットなんて只の動く鉄クズだよ。」
AMFキャンセラー!!……此れは嬉しいプレゼントや!
六課でもAMF対策は考えてたんやけど、なっかなか巧く行かなくてなぁ?此れはホンマに助かるで♪
協力関係も築けて、思わぬプレゼントまで貰って……一対一の会談を受けたんは正解やったな。
――――――
Side:なのは
ふぅ…取り敢えずは巧く行って良かったかな?
はやてちゃんの根幹の部分が変わってなくて良かった――目の前にどんな強敵が居ても自分を曲げない部分が。
「せやけど、協力関係は良いとしてや…なのはちゃん達は最高評議会の本部とか、そういう場所は割り出してないん?」
「探してはいるんだけど中々見つからないのが現状かな…」
其れが分かれば、こっちから打って出る事も出来るんだけど、分からないんじゃ流石にね…
でも、最高評議会だって馬鹿じゃないだろうから、ゲリラ的な襲撃が毎回毎回潰されてたら方法を変えてくると思うんだ。
「せやなぁ…ガジェットや最高評議会配下の魔導師が転移してきたときに逆探知でも出来れば割り出せるんやろうけど…」
「其れが巧く行けば苦労はしないよねぇ…」
ジェイルさんも逆探知は試みた事があるんだけど、兎に角転移スピードが速い上に、転移魔法の魔法陣も直ぐに消えちゃうから追跡は難しいって。
何度か成功したことはあるけど、其処は本拠地じゃなくて研究所だったしね…
でも、最高評議会の戦力だって無限じゃないから、来る端から倒していけば、何れはラスボスに大当たりだと思うよ?
「其れしかないやろな…現状では。まぁ、出来る事を確実にやって行くしかないやろ。」
「其れが一番堅実だね。」
其れにしてもはやてちゃん、何か外が匂うと思わない?
こう……濃密な殺気と血の匂いを感じるのは私だけかなぁ?
「いんや、私も感じるで?
……こら下手打ったかなぁ?どうにも気配消して尾行されてたみたいや…」
「ん〜〜…場所が悪かったかなぁ?」
こんな高級ホテルのレストランじゃなくて路地裏の隠れ家的なバーにでもした方が良かったのかも…
だけど、やる気で来たみたいだから――
「応えてやれば良いだけやろ?まぁ、背後からしか襲えんようなチキンに私の首はやらへんけどね…!!」
「其れは同感だね…!!」
――ガキィィィ!!!
2人…通信機器は持ってないみたいだから最高評議会の直属じゃないね?
お金で雇われたヒットマンってところかな?
腕は悪くないみたいだけど………お金目当てで人の命を奪うような人に、私達は負けないよ…!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
で、呆気なく終了。
私、ブレイカーどころかバスターすら使ってないんだけど…
「正に格の違いやな……まぁ、コイツ等は六課の方で処理するわ。
『部隊長に闇討ちかけた暗殺者』言うだけで逮捕、収監は可能やからね。」
「それなら、悪いけど任せるね。」
私が処理しちゃったら、六課総司令の責任問題になっちゃうだろうし。
「まぁ、事後処理は任せとき…巧くやるから。
……ほな、今日は此処でお別れやななのはちゃん……ホンマはもっと一緒に居たいし、王様達も呼びたいけど…其れはアカンのやろ?」
「うん…今はまだ冥沙達には会えないよ。
多くの人と会ったら、何処から『高町なのは生存』が最高評議会の耳に入るか分からないからね…」
まだ、最高評議会に私とルナの生存を知られる訳にはいかないんだ…
「そか…でも、全部終わったらその時は、管理局に入るとかやなくて、必ず一度は皆に顔見せに来てや…ルナさんと一緒に。
この8年間、皆ホンマに2人の事を心配してたんやからね?」
「うん……約束する――全部終わったら必ずね。」
お姉ちゃんと冥沙からはビンタ1発くらいは覚悟しといたほうがよさそう…まぁ、仕方ないか。
それじゃ、はやてちゃん――またね!
「うん、またな!!」
此れで全ての準備が出来たよ。
まだその本拠地はつかめないから私達から仕掛ける事は出来ないけど……ゆりかごを起動したら、その時が貴方達の終焉の時。
『地獄の使者と化した星と月は、冥王と力を合わせ『無限の欲望』に鉄槌を振り下ろす。』
新しい予言が出るとしたら、きっとこんな感じかな?
絶対に逃がさないよ、最高評議会――平和に暮して居る人達の為にも、貴方達は必ず叩き潰すから…精々覚悟を決めておいて…!!
――――――
Side:星奈
さて、昼間にエリオとキャロが保護したと言うこの少女ですが…正直普通ではありませんね。
発見時の状態もそうですが、この容姿は…
「ハニーブロンドの髪に紅と翠のオッドアイ…」
まるで、聖王化したナノハですね。
オッドアイであると言うのはエリオとキャロから聞いた話ですが…
ですがこの身体的特徴は、古代ベルカの王族――ゼーゲブレヒトの系譜にのみ現れる特徴であった筈。
故にオリヴィエの力を継いだナノハは、その力を使う際にその特徴が現れる訳ですが…その身体的特徴を何故この子が…?
「…どうやら、面倒な事が増えてしまったようです…」
この子の身柄は六課で引き受けた方が良さそうですね――
To Be Continued… 
|