Side:はやて


今回の襲撃での人的被害及び物質的被害はゼロ――此れはなのはちゃん達が出てくれたことが大きいな。
でもって保護した女の子は聖王病院に搬送して治療中やからこっちも問題はないやろ。

つまり目下最大の問題はなのはちゃんから貰ったこれやなぁ…


「本気ですか主はやて!単身で乗り込むなど…そいつはなのはを語った偽物かもしれないんですよ!?」

「まぁ、その可能性もゼロやないんけど…アレは間違いなくなのはちゃんや――理屈やのうて本能がそう告げとるんよ。」

去り際に私の事を『はやてちゃん』て呼んでたしなぁ?
其れに、『1人で』言うのを破ったらアカンのや……シュテルがホンマに本当のなのはちゃんやったら、その時点で全てが終わってまう。

気持ちは分かるけど、此処は私を信用して任せてくれへんかシグナム?


「…分かりました。
 ですが、もしもの時に備えて我等は何時でも出撃できるように準備だけはしておきます…其れ位は良いでしょう?」

「うん…最悪になった場合は頼むで。」

そうならないようにするのが私の役目やけどね。


マッタク、私のやり方次第で救いか滅びかが決まるなんてなんちゅー重荷やねん…正直重すぎや。
やけど、逃げる事は出来へん。

なのはちゃん達を救いにできればそれでえぇ。
やけど滅びになってしまったその時は――滅びに変えてしまった責任として、私がなのはちゃんを討つことになるかも知れへんのやろね…


ふぅ…アカン、マイナス思考は始まったらキリがないわ。
必要なのはプラス思考や!私がなのはちゃんを救いにしたいと心から思ってれば通じる筈やからな……通じてほしいからな…











魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福93
『白と黒の邂逅と再会』










Side:ルナ


成程、はやて嬢に『招待状』を渡したか――来ると思うか?


「来るよ、はやてちゃんなら…私の要求通りに1人でね。
 きっと今頃シグナムさん達に『1人で行くから絶対に手を出すな』って釘を打ってるんじゃないかなぁ?」

「確かに、言えてるかもしれないな。」

将は忠義に厚いからなぁ?単身で乗り込むなんて事は到底容認できないだろうさ。
まぁ、其れもはやて嬢の命令とあらば従うだろうがな。

それでだ、呼び出したのは良いが、その会談場所のラウンジレストランは服装コードが有るんじゃなかったのか――大丈夫か?


「其れはお任せを!既になのはお姉さまの為に、会談用の素敵なドレスを用意させていただきましたわ〜〜。
 お姉さまの魅力を最大限に引き出す淡い桜色のワンピースのドレス…絶対似合いますわ〜〜!!」

「うん、ありがとうクアットロ♪」

「…グハァ!!そ、その笑顔は反則ですわお姉さま……あぁ、我が人生一片の悔いなし…」


ジェイル、コイツの頭脳を改造して真人間には出来ないのか?


「試みたんだがね…君となのは君に対する感情にはプロテクトが掛かっていてね、改造してもそのままなのだよ。」

「どれだけだコイツの頭脳は!?」

オートプロテクトだと!?反則にも程があるだろう……リセットは不可な訳か。
まぁ、此れがなくなったらある意味でクアットロではないな。

と、着替えたのかなのは?…うん、よく似合ってるじゃないか。


「ありがと♪これなら8年ぶりの再会でも恥ずかしくない格好だね♪」

「そうだな。……其れじゃあ頼むぞなのは。」

「任せて。必ず良い方向に導いてみせるから。」


だな。
ふふ、お前の言葉は本当に信じるに値する強さがある――お前が頑張れば私達が『滅び』となる事はまずないだろうな。








――――――








Side:なのは


ホテルの最上階のラウンジレストラン――ミッドの夜景も綺麗だね。
約束の時間まではまだあるけど……来たねはやてちゃん。

「1人だよね?」

「勿論や……こないな大事な『会談』で約束破りは出来へんし…其れをやったらそこで御終いやからね――そうやろ『なのはちゃん』。」


ふふ、そうだね。
うん、それじゃあもうこの化粧は必要ないよね…


――シュゥゥゥ…


「久しぶりだねはやてちゃん…8年ぶりかな?」

「やっぱりなのはちゃんやったね……うん、8年ぶりや――8年経ってやっと会えた…生きてたんやねなのはちゃん…!」


はやてちゃん!?ちょ、泣かないで?こんなところをシグナムさんやアインスさんに見られたら、私殺されちゃうよ〜〜!!


「うっさい!泣かせろアホンダラ!
 私やフェイトちゃん、美由希さんに王様達がドンだけ心配したと思てるの!?
 私等だけやない、すずかちゃんにアリサちゃん、桃子さんと士郎さんに恭也さんかてそうや……なのはちゃんとルナさんがMIA認定されて、どれだけ心配したか…
 2人がMIA認定されたとき、私等がどないな気持ちやったか分かる?生きてたなら何で8年も連絡くれなかったんや…なのはちゃんのアホたれぇ!!」

「そう、だね………ゴメン。」

「何があったか、今まで何してたのか――先ずは全部話してもらうで?」


うん、勿論その心算。
って言うか、事の発端から今日までの8年間の事は全部話そうと思ってたんだ。

其れを知らないと、はやてちゃんだって何をどう決断していいか分からないと思うからね。


「そらそうや。」

「でも、覚悟だけは決めておいてね?……この話、決して軽いものじゃないから。」

「覚悟か…そないな物はとっくに決めとるよ。…10年前に『最後の夜天の主』となったあの日からな。」


其れもそうだね。
それじゃあ何からどう話そうか……やっぱり8年前の事からだよね?

私とルナが襲撃されてMIA判定されたのは知ってると思うから其れは省くとして、瀕死の私達はある人に助けられたんだ。
ジェイル・スカリエッティって言う人の事は知ってる?


「名前くらいは聞いた事があるで?
 確か最高評議会配下の科学者で、もう何年も前に研究の失敗の大事故で死亡しとる筈やけど…」

「私とルナを助けたのはその人だよ。」

「は!?」


ジェイルさんは最高評議会に作られた大昔の科学者のクローンで、表向きには従うフリをして見限る機会を窺ってんだって。
其れで事故に見せかけて自分の死を演出し……そして最高評議会に反抗する為に秘密裏に活動してるの。


「そうやったの!?…そら驚きや……けど、何でそないな人がなのはちゃん達を助けたんや?まぁ、戦力としてほしかったんやろ言うのは分かるんやけど…」

「…私がジェイルさんと同じ、最高評議会の負の遺産だからだよ――其れからはやてちゃん、貴女も。」

「え…?」


不思議に思ったことはない?
地球には魔法技術は一切存在していなかったんだよ?其れなのに、海鳴っていう限定された場所に2人も魔導の素質を持った子供が居た。
しかも双方が大いなる力を持った魔導書の主だった――全てが偶然の一致にしては出来過ぎてるとは思わない?


「言われてみれば確かにそうや。
 もっと言うなら、ジュエルシード事件に闇の書事件、そして砕け得ぬ闇事件と短い間に魔法関係の事件が頻発してたのもおかしい事やね。
 せやけど、私となのはちゃんが最高評議会の負の遺産てどう言う事や!私はクローンとかやないで!?」

「うん、私もはやてちゃんもクローンなんかじゃない――だけど、最高評議会が研究していた『人工リンカーコア』をその身に宿してる。」

「なん…やと?
 人工リンカーコアて…最高評議会が人造魔導師を作る目的で研究・製造してたモンやないか…なんでそんなモンが私となのはちゃんに…!」


此れも偶発的な事故らしいんだけどね。
ある研究所で保管されてた人工コアが活性化して小規模次元震が発生して1200個のコアのうち2つが次元を超えて地球に落ちた。
そして、まだお母さんのお腹の中に居た私達に入り込んで融合したの。
もっと正確にいうなら、私の場合はオリヴィエから受け継いだコアを活性化した後に吸収された。
で、はやてちゃんの場合は『夜天の主』となる為の因子を活性化した後に因子とコアが融合した……ってジェイルさんは言ってた。
はやてちゃんが歴代の夜天の主の中で特に夜天との相性が良いのは、因子が極めて高いレベルで活性化してたからとも言ってたよ。


「もう何が何やらやな…てか、夜天の主となる為の因子て、そないなモンまであったとは知らんかったわ…
 まぁ、其れは其れでえぇとして……なんで8年間も行方をくらましてたんや?おまけに『星光の殲滅者』なんて偽名まで…」

「私達が生きていると分かれば、また又どんな手で襲撃されるか分からなかったからって言うのが大きいかな?
 それこそ、ダミー任務なんかを使わないで家に居る所に直接襲撃でもかけられたらどうしようもないでしょ?
 生きてる事を知らせなかったのもそう…私達が生きてるのを知ったら、最高評議会が私達を誘き出すために何をするか分からなかったから。
 だから、本当は『生きてる』『無事だよ』って伝えたかったけど…出来なかったの――ゴメンね。」

「そう言う理由ならしゃーないわ……せやけど、美由希さんと再会した時にはビンタの1発くらいは覚悟しといた方がえぇよ。」


あはは…うん。散々心配掛けちゃったと思うから其れ位は甘んじて受けるよ。


「まぁ、ビンタ1発で済めば安いやろ?しっかし、ホンマに重い話やなぁ…あ、そう言えばルナさんは腕大丈夫なん?
 シグナム達が現場に着いた時には2人の姿は無くて、ルナさんの右腕だけが残ってたんやけど…」

「其れもジェイルさんが治してくれたよ……うん、本当に凄い人だから。」

「切り落とされた腕を再生ってドンだけやねん……義手やのうて自前とは驚きや…
 はぁ……なぁ、なのはちゃん…8年間の事はよう分かったけど、そんでこれからなのはちゃんは如何する心算なんや?
 なのはちゃん達の目的は最高評議会を潰す事やろ?私の目的かて同じや……目的が同じやったら協力も出来る思うんやけど…」


確かに目的は同じだね。
少なくとも敵対の意志は無いよ――今はね。


「『今は』?」

「ねぇはやてちゃん。はやてちゃんは最高評議会の事はどこまで知ってるのかな?
 最高評議会のトップに居る人達の事はドレだけ知ってる?」

「へ?最高評議会のトップ?…………言われてみれば名前しか知らへんなぁ?
 局員のデータベースで見ようと思ったんやけどプロテクトが掛かってて、司令の権限使っても閲覧は不可能やったな、そう言えば。」


見られる筈はないよ…だってその人達の身体は既に無いんだから。


「身体が無い?」

「脳だけなんだよ、最高評議会のトップって。
 自分の脳髄を、延命用の特殊な培養液が入ったポッドに収めて生き永らえてる不死の欲望の成れの果て――それがその人達の正体。」

「なんやと…!信じられへんけど…やけど、もしそれがホンマなら見過ごせへん!!
 そないにしてまで生き永らえてる奴のやる事なんて、碌でもない事は目に見えとるで!!」


うん…実際碌でもないよ。
過去に最高評議会が係わった事件は、全て彼等の欲望を満たすためのモノだから。

其れを止めるために、私は7年前からルナ達と一緒に違法な研究施設を軒並み破壊してるんだよ。
断罪者――『聖光の殲滅者』としてね…


「その気持ちは分かるわ…多分同じ立場やったら、私もそうするやろうからね…
 でも、あの施設破壊をしてたのがなのはちゃんとルナさん言う事は……施設の研究員は…」

「うん…私達が殺した――私がこの手で、私の魔法で数えきれないほどの人の命を奪った…
 私の…私達の手は、血でベタベタに汚れてるんだよはやてちゃん…」

「…其れはお互い様やで……私の手かて血で汚れとる。
 最高評議会の目の上のタンコブの機動六課――その総司令言うだけで、暗殺されかけた事は1度や2度じゃあらへん…
 非殺傷で返り討ちにしても、またやからな……身の安全を確保するには、時には手を汚す事も必要やと、文字通り身をもって体験したわ…」


そっか…はやてちゃんも…
そうなると六課の新人さん以外の武装隊は、其れなりにって考えた方が良いね…


「まぁ、そうやな…王様もシグナム達も――少なくとも1度はな……
 最初のうちはやった事の重さに身体が震えてもうたけど……数をこなすと慣れる言うのは本当やね。
 そら、人の命奪うんは気持ちの良いモンと違うけど、其れとは別に――恐怖は感じなくなってまったなぁ…なのはちゃんもそうやろ?」


そうだね…私の場合は12歳のころからだから余計にだよ。
でもねはやてちゃん…私は人殺しであると同時に、もう『人』じゃないんだよ?


「…………」


この肉料理用のフォーク…腕に突き刺したら普通は痛いし、深く刺されば傷はしばらく治らないよね?
だけどね…


――ザクゥ!!グリ…グリィ…!!


「此れだけやっても碌に痛くないし、傷も直ぐに治っちゃうんだ…オカシイでしょ?」

「……人が悪いでなのはちゃん…同族やから分かるんやろ?……私も同じ言う事が。」


うん、分かってた…はやてちゃんも私と同様に『簡単には死なない身体』になってるよね…ただ、エクリプスじゃないみたいだけど。


「せや…簡単には死なんようになってもうたよ。
 一体何処の研究所を摘発しに行った時かは分からへんけど――私の身体は何かに寄生されてる事は間違いない。
 そして、その寄生生物の力で、宿主たる私は外的要因では極めて死ににくい身体になって、寿命も極端に長い上にこれ以上は老化しない筈や。」

「昼間にあった時にふとおかしいと思ったんだけど、やっぱりそうだったんだね。」

まぁ、其れは良いよ――確認したかっただけだから。
うん、見ての通り私は人とは言い難い存在になってるし、数多の人の命を奪いすぎた…協力するにしても機動六課には入れないよ。


「其れは何でや?
 血で汚れてるのは私かて同じやし、人外も同じやろ…其れなのに何で?」


私が六課に入ったらジェイルさん達が表沙汰になるからね…最高評議会を潰すまでは其れはしたくないんだよ。
其れに『正当防衛』が成り立つはやてちゃん達と違って、私達は自分から攻撃をしてるから酌量の余地はないでしょ?
明らかな『犯罪者』が居るのは拙いんじゃないかなぁ?


「其れがそうでもないんよ…なのはちゃん達が潰した施設の研究員は全員が『存在してない』人達なんや。
 戸籍がない…せやからどうにも処理が出来んで無縁仏扱いや。
 存在してない人を殺したからて…逮捕して裁判にかけるんはちょお無理があるなぁ…?」

「そうなの?……其れは知らなかったなぁ。
 でもやっぱり、ジェイルさんの事があるから表には出れないよ……そこで提案なんだけど…」

「なんや?」


はやてちゃんがこっちに来ない?
私達の一団――『リベリオンズ』に。

此処なら人でなくなっちゃったはやてちゃんだって気兼ねはしないと思うよ?…ねぇこっちにおいでよ。

そっちの方が絶対良いよ…そうでしょう…『夜天の冥王』


「!!!其れにまで気付いてたんか!!」

「私を誰だと思ってるの?…古代ベルカの聖王オリヴィエを継ぐ者だよ?
 かつての友の気配ぐらいは嫌でも分かる――貴女も其れは分かる筈だよ…『冥王イクスヴァリア』。」

だから逃がさないよはやてちゃん。
悪いけどとことんまで追い詰めさせてもらうよ――そうしないと、深層心理の本音を聞くことは出来ないから。

「さぁ、選んで夜天の冥王。
 白夜の聖王と共に来るか、其れとも迷える冥王として六課に留まるかを!」

この問いに対する答えに正解はきっとない。
是も非も正解であり不正解……私が聞きたいのははやてちゃんの偽らない気持ち。

其れを聞くためなら私はどんな悪役にもなるよ――今この場では…




――ガタァァン!!




!?

「フッ!!」

「流石に防ぐか…見事やななのはちゃん。」


其れはどうも…だけど如何言う心算かなはやてちゃん?
行き成りの攻撃…此れは『決裂』の意思表示と見ていいのかな?


「よう言うわ…分かっとるくせに。
 こうでもせんとアカンのや……互いにギリギリの緊張感が無いと、ガチの答えは出そうにないからなぁ?
 ちょ〜〜っと物騒やけど、このギリギリの状態で話を続けさせてもらうで…!!」

「それは…中々にハードな『O・HA・NA・SHI』だね!!」

だけどそれ以上に、期待するかな?
はやてちゃんはどんな答えを用意したのかな…













 To Be Continued…