――新暦71年・ミッドチルダ臨海空港



 Side:冥沙


 なんと言う火の勢いだ…消火活動も間に合わぬ訳だな。
 よもやこれ程の大火災とは予想外だが――うむ、如何考えても偶発的火災ではないな此れは。

 この火の回りの速さは明らかに計算されての放火…いや、此処まで来るとテロか。
 何れせよ禄でもない塵芥共が画策したと見て間違いないであろうな。

 さて、生存者を探して救助せねばならないが…ん?


 「ふぇ…ひっく…ギン姉…皆…何処なの?グス…怖いよぉ…」


 あやつは!!よもやこっちに来ているとは流石に予想外だ…!
 おい、大丈夫か?怪我は無いか蒼髪!


 「ふえ?…おーさまおねーちゃん?」

 「うむ、我だ。…もう安心だ、今すぐ此処から出してやるから、もう泣くな。
  我の仲間達も救助を行っておる、お前の姉妹は全員無事であろう…必ずな。」

 だから心配するな…お前の事は我が護ってやる!


 「おねーちゃん…うん。」

 「良い子だ…とは言え出口はない……作るしかないようだの。」

 ふ、瓦礫如きが我を止められるとは思うなよ?
 全力全壊で吹き飛ばしてくれる!!










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福83
 『Start Up StrikerS』










 「闇に滅せよ…アロンダイ…」


 ――グラ…


 む、新たな揺れが…!!…し、しまった!!
 背後の瓦礫が崩れてきたか……こやつを抱いたままでは回避が…だが、こやつを見捨てては…


 「ふん、公僕にもマトモな神経を持った奴は居るみたいだな。」


 ――スパッ…ズズゥゥン…


 なに!?
 あの大きさの瓦礫を両断した…だと?
 貴様は一体…


 「見ての通り、お節介な民間人だ。」

 「それだけの技量で民間人だと?
  到底信じられぬが、我とこやつを助けてくれた事に免じて深くは追求しないでおいてやろう。」

 それ以前に民間人を語るならソレらしい格好で現れぬか。
 服装は兎も角、長大な双剣を携えて、更に眼帯までして一般民間人と思える筈が無かろうが。

 容姿だけなら十二分に怪しいのだが…まぁ、この火災の犯人ではなかろうな。
 もし犯人であるならば我とこやつを助ける義理も義務もないからなの?


 「さて如何だか?
  まぁ、長居したい場所ではないので離脱させてもらうとするがな……と、そうだ公僕。」

 「何だ?」

 「其の娘の姉妹は全員無事だ、お前の仲間が助け出したと言っていたぞ?」

 「そうか…なれば良かった。」

 星奈達の方も見てきたというのか…本当に侮れんな。
 まぁ敵でないのならば良い…離脱は結構だが、火の回りが早い気をつけて脱出しろよ?


 「火に飲まれるほど間抜けじゃあない…ではな公僕。」

 「ふん、口の減らぬ奴だ…」

 …我も人の事は言えぬがな。




 さてと…今度こそ脱出路を作らねば。
 さっきの奴の転送魔法に便乗すればよかったかの……うむ、気にしないでいよう。

 「では改めて…闇に滅せよ!アロンダイト!!」


 ――バガァァァァン!!


 ふ、ナノハの砲撃には及ばんが瓦礫を破壊するには充分であるな。
 よし、脱出する!確り捕まっていろ蒼髪!


 「うん…」



 結果だけを言うなら死者は0であった…負傷者はいたがの。
 だが、その後幾ら調べても火災の原因は『不明』……如何にもきな臭いモノだな。

 此度の火災、間違いなく何らかの組織が係わっていると見るべきであろう。
 其れが何者であるかを解明・特定するのは極めて困難であろうがな…








 ――――――








 Side:ルナ


 これ程までに派手な空港火災とはやってくれる。
 死者が出なかったのは奇跡だな…

 「お疲れ様だサイファー。」

 「あぁ、すべき事はしてきた……だが、アイツにお前となのはの無事を伝えなくて良かったのか?」


 今は未だその時じゃないんだ…申し訳ないが今しばらく無事を伝える事は出来ないな。
 再会時にはアロンダイトの直撃くらいは覚悟しておく必要が有りそうだが…


 それにしても…

 「此れだけの大規模火災を引き起こして…お前達は何がしたいんだ最高評議会?」

 「素直に言えば、殺しはしないよ?」


 現場から逃走してきた奴を捕まえてみれば最高評議会の派閥局員だった。
 少し問い詰めたら、この火災は自分がやったことを認めたが目的は語らず…面倒な相手だな。


 「いっそ身体に聞いた方が早いかもしれないぞ?
  此方の質問に1分以上答えなかった場合に、指を1本切り落とす…指がなくなったら今度は四肢を切り落とせば良い。」

 「!!!は、話す!話すからソレは止めてくれ!!!」


 拷問をちらつかせたら途端にこれか…小者だな。
 ならば話せ…何が目的でこんな事をした?
 一歩間違えば、何の罪も無い一般市民が大勢死ぬ結果になっていたんだぞ?


 「あ、あそこには評議会の脅威となりえる魔導師の卵が居たんだ…そ、それを殺すために…!
  け、結局失敗に終ったが……そ、それ以上は知らない!本当だ!!」

 「うん、良く分ったよ…」

 「は、話したんだから俺は自由だよな?殺したりしないよな?」


 安心しろ、殺しはしないさ…其の価値もないしな。
 だが、おまえ自身は死なずとも…魔導師としては死んでもらう!


 ――ズシュ…


 「あぐ…!こ、此れは俺のリンカーコア?
  ま、待て…待ってくれ!止めろ、それだけは!!それだけはぁぁ!!」

 「断る。」

 お前に魔導を扱う資格はない。
 潔く散れ…そして二度と魔導に係わろう等とは思うな。


 ――バキィィン!!!


 「みぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


 …気絶したか。
 私もリンカーコアを攻撃された事があるから分るが…砕かれたとなれば相当な激痛だろうな…

 リンカーコアの完全粉砕など、我ながら恐ろしい技を編み出したものだ。
 お前達の様な、外道・悪党にしか使わないが――まぁ、精々余生は絶望を味わうといいさ。
 言われるがまま、覚悟も無く数多の命を手にかけようとした報いだと思え。

 「…死者はゼロだ、もう此処に用は無いな。
  管理局も周辺を調査し始めるはずだ、早急に離脱したほうが良いだろう。」

 「だな…とは言ってもドクターお手製の『簡易転移装置』が有るから楽だけどね。」

 「ジェイルさんは本当に天才だね。」

 「本当にな……この武器も実に私に馴染んでいるからな。
  ……ではな三下、お前の其の無様な姿で、阿呆共に教えてやってくれ……自らの愚行をな。」


 言うなサイファー……まぁ、警告くらいにはなるだろう。

 だが、アレだけ研究施設が潰され、末端構成員が潰されて尚、中間職以上に何の動きも無いと言うのは妙だな?
 危機を察知する能力がない盆暗なのか、それとも私達に対抗するだけの戦力を整えているのか…

 まぁ良い、ソロソロ冥沙達も最高評議会の存在を知るだろうし、そうなれば……


 何れにせよ、決戦の時は必ず訪れる……そう、遠くない未来にな。
 取り敢えずは残る違法研究所520個を、全て叩き潰すとするか!








 ――――――








 ――新暦73年・時空管理局



 Side:はやて


 「ん〜〜〜〜…」

 やっぱもう一押し欲しい所やな〜…せやけど、誰に頼んだモンやろ?
 レティ提督とリンディ提督はOKとして、もう1人後ろ盾が欲しいわ〜〜。


 「…さっきから何を唸って居るか小鴉?」

 「あぁ、王様。」

 いやな、前に話した新設部隊なんやけど、大体構想は出来たんよ。
 必要書類も揃えたし、あとは申請するだけなんやけど……ぶっちゃけ部隊の後ろ盾になってくれる人が欲しいんよ?


 「レティとリンディではダメなのか?あやつ等なら二つ返事で了承してくれるであろう?」

 「勿論其の2人には頼んであるで?やけどそれやと『リンディ・レティ派閥』の部隊て見られてまうやろ?」

 出来るだけそれは避けたいんよ。
 そんで、2人の派閥でなくて、最高評議会でもない、ソレでいてそれなりの地位の人がおらへんかなぁって。


 「成程な…だが、そんな奴がいるか?最高評議会傘下でなければ、殆どがレティとリンディの傘下の筈であろうに…
  其の2つのどちらにも属さない高地位の人物など……………居た!」

 「ホンマに!?」

 「うむ、地上本部のレジアス・ゲイズだ。
  奴は以前は最高評議会との繋がりが有ったらしいが、今ではキレイサッパリと切れているらしい。
  して、リンディとレティの傘下でもない上に地位は中将……ピッタリでは無いか?」


 確かに…せやけど、元評議会派閥言うんが気になるなぁ?
 …よっしゃ、百聞は一見に如かずや!直接会って話してみよ!

 そうなれば善は急げや!早速アポを〜〜……お〜〜、今日の午後は空いとるやないの!
 ほな、地上部隊のほうに連絡入れて〜〜


 あ、ども〜〜八神はやてです…まいど〜〜。
 本日の午後はレジアス中将は時間空いてはりますよね?

 面会お願いしたいんですけど〜〜〜……え?アカンの?
 時間は空いてなんかいない?嘘こくなアホンダラ、ネタは上がってるんや、今日の13時から16時までの3時間はスケジュール空やろが。

 どうやって調べた?…三佐の権限舐めんなや、スケジュールくらい調べるの訳ないわ!
 ん?ドナイしたの慌てて……え、面会OK?どうも〜〜、ほな13時に伺います〜〜♪

 「よし、面会取り付けたで。」

 「地上の大物との面会を2分で取り付けるとは見事だな小鴉…」


 グダグダ言う相手には階級ちらつかせるのが一番早いで?あんまし好きな手やないけどな。
 そや、王様も一緒に来てくれへんかな?


 「付き添いか?良かろう、供をしてやる。」

 「おおきに。」

 陸の大物が相手やから流石に緊張するしな。
 今が11:30やから、あと1時間半……じっくり作戦考えんとね。








 ――――――








 Side:レジアス


 八神はやて……高町なのはの同期で、最近凄まじい勢いで出世している若手のホープで、確か現在は三佐だったな。
 其れがワシに面会希望とは…何を考えているのやら。

 しかも本局勤務の人間が陸上本部に態々出向いてくるとは……考えが読めん!

 まぁ良い、実際に会ってみれば分るだろう。
 約束は13:00だから、5分前か。

 む?


 「本日はお時間をとっていただき、ありがとうございます中将閣下。
  本局勤務の八神はやてです。」

 「同じく本局勤務、高町冥沙だ…です。」


 ほう、先に来ていたか感心だな。
 最近の若者は時間前行動の精神が無い者が多いが、彼女達は違うようだな。
 しかも、此れだけのスピード出世をしながらソレを鼻に掛けず、目上の者に対する話し方も出来ているか。
 敬礼も綺麗に出来ているし、場所を考えて『陸』での型を正しく使うか…ふむ。

 「陸上本部、首都防衛隊代表のレジアス・ゲイズだ――先ずは楽にしたまえ。」

 「「失礼します。」」

 「ふむ……認識を改めねばならぬな?」

 「「?」」


 お前達2人に対する認識だ。
 魔導師や騎士と言う物は、どうしても個人の才能に左右される部分が有るのは分るな?
 そうなると、高ランクの魔導師ランクと魔力ランクを有し、尚且つ地位も持つと慢心し他者に横柄な態度をとる者も居るのだ。
 若い連中は特にな。

 だが、お前達はその辺を弁える事は出来るようだ。
 そっちの…高町冥沙も、つい素が出たようだが言い直すことが出来たしな?


 「う…や、矢張り改まった場では普段の口の聞き方ではいらぬ誤解も与えてしまうだろうと思いまして…」

 「…相当に話し辛そうだな……よい、お前達の人となりは分った。
  畏まらず、普段の調子で話すがいい、その方がワシも腹を割って話が出来るというものだ。」

 ソレに本局の人間が陸の人間に態々アポをとって会いに来るなど、相当な案件が有るのではないか?
 お前達の目的を、聞かせてもらおうと思うのだが?


 「ほう……小鴉、如何やら我等の目は狂っていなかった様だぞ?」

 「せやなぁ…うん、やっぱこの人しか居れへんわ。
  ほな、中将閣下、率直に申します。
  私は近々新設部隊を設立しよかと考えとるんですが、閣下に其の部隊の後見人――後ろ盾になってもらえへんでしょうか?」


 新設部隊?


 「うむ…部隊名『機動六課』。
  小鴉曰く、表向きには『古代遺物管理部』との事らしい。」

 「表向き…つまり隠された真なる目的を持った部隊か…」

 「はい…六課の真の目的は『局の体質改善』、『優秀な新人及び、高い魔力資質を持った人材の保護』そして『最高評議会の解体』や…!」


 なんと…!
 だが、ソレをワシに言って良いのか?
 地上本部は最高評議会との繋がりがあるとの噂は耳にした事がある筈だ。
 ワシから評議会にお前達の事が漏れるかも知れぬぞ?


 「見くびるなよヒゲ。
  お前の事など既に調べが付いているわ!
  確かに嘗ては最高評議会に属していたが今は違うだろう?…そう、ナノハとルナがMIAとなったあの日以来な?」

 「なのはちゃんとルナさんがMIA判定された後から、閣下は最高評議会から距離を置き離反しとりますよね?
  更に其の2人の捜索を独自に行っても居る……最高評議会に見切りをつけたんと違いますの?」


 其処まで分っているのか……攻めるべきところも固めてきたか、見事と褒めておこう。

 「其処まで知っているのであれば、断る理由もない…良いだろう、その話は受けてやろう。
  だが、何故ワシなのだ?リンディやレティでも後ろ盾にはなってくれるだろう?」

 「それやと結局は、2人の派閥部隊でしかないんです…やったら意味はない。
  レティ提督とリンディ提督の派閥でも、最高評議会派閥でもない閣下の後ろ盾が有ってこそ、六課は層の厚い部隊になれるんです。」


 成程…ワシが後ろ盾となれば陸の人材もそちらに出向させられるからな…若いのに良く考えているものだ。


 「ソレに、変えなアカンと思うんです色々と。
  魔導の才のある犯罪者から、市民の自己防衛能力を奪う『質量兵器保有禁止』も、
  自分がドレだけ危険な力を揮っているのかの感覚を麻痺させてしまう『非殺傷設定』も!
  此れを変えて行かんと、何れ予期せぬ歪みと淀みが発生して、必ず良くない方向に進んでまう気がするんです!」

 「其処まで考えて居たか…」

 確かに今の法では、無力な市民が自己防衛能力を得るのは難しい…と言うより魔導の才がない者は不可能だ。
 更にソレは魔導の才のある者に歪んだ『優越感』を与え、才を持たない者を見下し蔑む要因にも成りかねん。
 非殺傷にしても、今は最初から非殺傷でしか戦闘を教えておらんからな…力の意味を知らない者が増えている。
 尤もソレを取り決めたのが評議会だ……変えるに越した事はない。

 「うむ…良く分った!!お前達の考えに、このレジアス胸を打たれた!
  良いだろう、新しき世代の為にワシが其の礎となってやる。必要な事が有れば遠慮せずに言うが良い!」

 部隊設立後は戦闘員は無理だが事務や裏方として何人か出向もさせよう。
 設立は何時を目指しているのだ?


 「申請は直ぐにでも…やけど、部隊の体裁や部隊のオフィス、申請の審査機関に人材確保その他諸々を考えると…
  部隊としての正式な設立と運営は大体2年後やないかと思てます。」

 「2年か…うむ、今の訓練校の新人が経験をつみ、かつ今の新入生が新人隊員になるのが2年後…良い時期だろう。」

 ふむ、ならば部隊設立までにもう1階級位は昇進しておいた方がいいだろう。
 お前達に仕事も回すようにしよう……局内での土台も更に強固にしておくといい。


 「ありがとうございます!」

 「感謝するぞ。」


 構わぬ…お前等の理想は、ワシが嘗て目指したものだ。
 平和に暮らす市民の安全を護り、管理局を健全運営する……其れがワシの目指したもの。

 其の意志をお前達に預けよう。
 其の目的……このワシに成して見せてみろ。


 「はい!約束します……おおきに閣下…」

 「目を皿にしてみていろ…我等の成す未来への道標をな!」

 「うむ、楽しみにしているぞ!」

 矢張り意気の良く、そして礼を分っている若者はいいものだ。
 入局より40年……新しい世代によって、やっとワシの念願は叶うようだな…








 ――――――








 ――
新暦75年・とある次元世界



 Side:なのは


 『で、あって……この部隊は…!!つまり…此処に居る〜〜と言うわけです!
  私は今日此処に、新設部隊『機動六課』の設立を宣言します!』

 『『『『『『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』』』』』』



 ――ピッ…プツン


 新部隊を設立したんだねはやてちゃん。
 うん、此れで漸く全ての準備が整ったね?


 「あぁ、評議会を中と外から攻める事が出来るようになった……此処からが本番だな。」

 「そうだね……やっと、評議会を直に攻撃する事が出来るんだね…」

 長かったな〜、この8年間。
 でも、其の長い時間が漸く実を結ぶんだね……絶対負けられない。


 「そうだな…だが、世界が違う故、こっちはもう夜中だ……今日はもう寝るとしよう。」

 「うん…」

 なんか、ルナと一緒に寝るのが普通になっちゃったかも…まぁ良いか♪
 今はゆっくり休まないとだね。

 本格的に始まった以上、今度は何時こうしてゆっくり休めるか分からないし。

 「お休みなさい、ルナ…」

 「あぁ、お休み。良い夢をな…」


 ――ちゅ


 ふふ、ルナも良い夢をね。



 けど、夢から覚めたら今度は現実の戦いが待ってる。


 精々覚悟しておいて最高評議会。
 白夜の聖王と月の女神、そして反逆者達が断罪の刃を……振り下ろしてあげるから…!













  To Be Continued…