Side:ルナ


 サイファーを保護して数日。
 違法研究の実験体にされていたせいで、保護直後は衰弱していたが今はすっかり元気になったな。
 此れもジェイルの作った特製点滴の効果が大きいだろうが。

 幸か不幸か、其の研究の実験体にされていたせいか戦闘能力と身体能力が極めて高いのは嬉しい誤算だったな。
 正直に言って戦力は有って困る物じゃない……今は戦闘サポートだが、サイファー自身も最高評議会への反逆は決めている。

 ソレでだドクター・ジェイル、何があったんだ?
 確かサイファーに投与されていた薬やウィルスを調べていた筈だが?


 「うむ、そうなんだがね…まぁ薬は問題ない、解毒は出来ないが肉体強化薬だからさして問題ない。
  だが問題があるのはウィルスの方だ……よもや存在していたとは驚きだが、彼女には『エクリプスウィルス』が投与されているね。」

 「「「エクリプスウィルス?」」」


 サイファー自身も分らないのか?
 一体何なんだソレは?


 「私も噂で聞いただけで、実在するとは思わなかったんだがね。
  端的に言えばこうなるだろうね……エクリプスウィルスは人を進化させるウィルスさ。」

 「人を進化…だと?」

 一体如何言う事だ?










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福82
 『聖王と祝福は折れず』










 「正確に言うならば進化といっても過言ではない変化を人に齎す物だね。
  ウィルスで有る以上、適合できなければ全身を侵されて死するだけなんだが…サイファー君は巧く馴染んだようだ。」


 そうなのか?
 いや、ソレよりソレは如何言う代物なんだ?


 「ソレを説明するには…そうだな『ウィルス進化論』と言う物を聞いたことがあるかな?」

 「なんですかソレ?ルナ知ってる?」

 「いや、知らない。初めて聞いたな。」

 「サイファーは?」

 「知らん。」


 だろうな。
 ソレは如何いう物なんだ、ドクター・ジェイル。


 「あくまで仮説の域を出ない説なんだが、ある種のウィルスが動植物の遺伝子に作用して進化を促すという説だ。
  今はまだ仮説段階だが、しかしソレがマッタクありえないとは言い切れない…進化のミッシングリンクを考えるとね。」

 「中途半端に鼻の長い象の化石が未だに発見されてないって言うアレですか?」

 「その通り!
  そう、進化の道の中にはある日突然変化したとしか考えらないものがあるのだよ!
  象にキリン、そして我々ヒトが其の最もたる者だろう!
  何せ類人猿がある日突然ヒトになっているのだからね。」


 成程な。
 それだけの劇的変化は進化=環境適応現象では説明できないわけだ。

 だが、ソレがウィルス進化論を肯定する要因として、エクリプスが如何係わってくるんだ?


 「私も深く知っているわけではないから概要だけになるがね…色々有るのさエクリプス感染者には。
  先ず極端に外的刺激で死ににくくなる。極端な事を言うなら心臓を抉り出されたって生きる事が出来るのだよ。」

 「うわ…」

 「どの道化け物か…」


 凄まじいなソレは…
 ソレとサイファー、お前は化け物なんかじゃない。
 本当の化け物は、自分の利の為に他者を食い物にする最高評議会の連中さ…!


 「うむ、ルナ君の言う通りだね。
  エクリプスの人体実験も有効性と安全性が実証されれば、ウィルスの毒性を除去して自分に使う心算だったんだろう。
  エクリプス感染者は四肢を欠損しても即時の再生が可能であるらしい。」

 「それでか……連中が何度も私を切り刻んだのは…。
  この腕も足も、もう何回再生して何本目なのか覚えていないな。」


 そんな事まで…!
 何処までも腐った連中だな……覚悟無き外道が…


 「欲望の為ならヒトは何処までも残酷になれるものなのだよ――彼等は研究に取り付かれて感覚が麻痺しているだろうしね。
  …話を戻すが、今話したエクリプスの効果を考えれば、感染者はヒトとしてより上位の個体へと進化したと言えるだろう。
  連中はその『上位個体』の、中でも『不老』の効果を何よりも求めているんだろう。。
  エクリプス感染者は細胞が常に活性化し、所謂『青年期』の姿を維持できるとされているのだよ。
  更には寿命も一般の人間と比べて極端に長くなるらしい……不死の欲望に捕らわれた老害が欲するわけだ。」

 「成程な…」

 エクリプスで強化した肉体に脳髄の自分を移し替える事で限りなく不老不死に近い身体を手に入れ、寿命が近付いたら新たな身体にか…
 本当に何を考えているんだ連中は……早急に根を絶たないとダメだな。


 「うん…そうだね、きっとマダマダ研究所はあるだろうし実験だって…
  それに、凄腕の魔導師が局に入ったら、その人が私達みたいな目に遭うかも知れないから…」

 「そうだな…只、連中だって馬鹿じゃないだろう。
  此れだけ自分達の息の掛かった施設が襲撃され、そして破壊されているんだ、オカシイとは思うんじゃないのか?」

 そうでなければ本当の阿呆だ。
 実際、私達が潰した研究所の跡に、新たな研究所は出来ていないんだろう?


 「あぁ、出来ていない。
  そう言った場所は管理局――ハラオウンとロウランの一派が監視の目を光らせているからね。
  まぁ、彼女達は違法研究所の再建防止の他、我々の正体も明らかにしたいのだろうがね。
  時に…何か言いたそうだね、サイファー君。」

 「あぁ……お前、何を隠してる?
  私に投与されたエクリプスの御高説は結構だが、もっと別の事が分ったんじゃないのか?
  ……なのはとルナに何があったか言え。」


 サイファー?
 いや、私となのはに何かあったのか!?


 「ふむ…矢張り隠し事は得意ではないな――いや、正直如何切り出したものかとね、流石に…」

 「ジェイル…さん?」

 「心して聞いてくれたまえ…なのは君、ルナ君――君達はエクリプスに感染している。
  しかも只感染しているだけじゃなく、急速にソレが身体に馴染んでいるのだよ。」


 矢張りか……サイファーを助け出した時だな?
 あの時に施設内に有ったウィルスが私となのはに適合したと、そう言う事か…

 だ、そうだぞなのは?


 「そうなんだ。」

 「余り驚かないのだね?」

 「サイファーにウィルスが投与されてたって聞いたときから若しかして感染したかなとは予想していましたから。
  ソレに、白夜の主でオリヴィエの生まれ変わりで人工リンカーコア適合者……今更ウィルスと適合くらいじゃ驚かないです。」


 同じく。
 というか、別に適合しているんだから害はないんだろう?

 ならいいさ……今更この程度では、この心は揺るぎはしない。


 「…強いな…私は切り落とされた腕が直ぐに生えてきたのを初めて見たときは気が狂いそうだったがな。」

 「だが狂わなかった…お前も強いさ。」

 ソレに心を強く持っていなければとてもこんな事は出来ない。
 相手が如何であれ、私達がこの手で人の命を奪った事は間違いないんだ。

 奪った相手の命を背負う覚悟。
 人を殺めた咎を背負う覚悟。
 罰を受ける覚悟。

 それらの覚悟を決めた上で事をなす信念…ソレがなければとても無理だ。
 もっと言うならソレがなければ人の命を手に掛けてはいけない…分るだろう?


 「あぁ、良く分る――覚悟と信念無き者に、命を奪う資格も何も有りはしないな…」


 そう言う事だ。
 全ての事が終った時に、リンディやレティが私達を法の下に裁くというならば、私達はソレを受け入れる。

 なのはも其の覚悟は決めている。


 「うん……私の手は血で汚れてるから…でも、やらなきゃならない事もある。
  例え暗く厳しい棘の道でも…私はソレを突き進む――迷いは無いよ…」

 「なのは……そう、だな。
  スカリエッティ、私の戦闘用装備を出来るだけ早く準備してくれ。
  私もサポートだけでなく、本格的に戦線に加わりたいからな。」

 「ふむ…了解だ。
  何か要望は有るかな?可能な限り君の要望には答えるつもりだが?」

 「ならば、剣が良いな、二刀流の長刀なら尚好ましい。
  兎に角、なのはとルナと共に戦えるようにしてくれ。」


 サイファーお前…そうだな、お前も共に戦ってくれるんだったな。
 お前が戦線に加わってくれれば確かに助かるよ。


 「受けた恩は返す主義なのでな…共に戦わせてもらうさ。」

 「うん!宜しくねサイファー♪」


 頼もしい前衛が増えたな。
 ドクター・ジェイル、今の私達が最高評議会に負ける確立はどれ位だ?


 「どんなに高く見積もっても0.0001%だね。」

 「つまり負ける事は先ず無いな。」

 まぁ、今まで通り全力で潰すだけだ。


 それでだ…クアットロ、此れについて説明してもらえるかな?


 「へ?…どどど何処でそれをぉぉ!?」

 「この前廊下に落ちているのを拾ってなぁ…」

 何だ此れは?お前が作ったんだろうが…私となのはがラブいのは良いとしよう…
 だがしかしだ…なんで私となのはが『禁則事項』『放送禁止』『観覧注意』『検閲により削除』な事をしているんだ?
 じっくり説明してもらおうか…


 「…クアットロさん…?

 「だ、だってルナお姉様もなのはお姉様もキスくらいは普通にする関係じゃないですか〜。
  それに、着衣無しで一緒に寝てることもありますし〜〜…」

 「「!?」」


 待て、何故ソレを知っている?

 ……さては覗いていたな?
 言っておくが、本より私は寝る時は何も着ない!
 なのはは一緒に寝るときはそれに合わせてるだけでやましい事はしてない!!

 もっと言うならキスだって親愛の情だ!
 騎士として主への親愛の表れであり、主から騎士への親愛の表れだ!
 それを腐ったの脳味噌の腐った思考で汚すなぁぁ!!!

 なのは!!


 「取り敢えず閻魔様に挨拶してきてね?」

 「寧ろ帰ってこなくても結構だ…」

 「はい?」


 全力全壊一撃滅殺!!


 『『Divine Buster.』』

 ディバインバスター!!」

 『『Die.』』

 「いぃやぁぁっぁぁぁあ!!!!」


 ――ドッゴォォン!!!


 「吹っ飛んだな…大丈夫か?」

 「気にしないで良いわよサイファー、どうせ1コマあれば復帰してくるから。」

 「マッタク懲りないものだな………しかし1冊4000円とはボッタクリもいいとこだ。」

 「健全本に作り変えて売りますか?いい資金源にはなると思いますが。」


 突っ込むべき所はそうじゃない!
 ソレと売るな!絶対売るな!全部焼却処分してくれ!!

 マッタク…腐女子の思考は理解できんよ…








 ――――――








 Side:雷華


 「いっくぞ〜〜!パワー極限〜〜!」

 喰らえ〜〜、雷刃封殺爆滅剣〜〜!!



 ――ドッガァァァン!!!



 イエ〜〜イ!
 強くて凄くてカッコイイ!そう、やっぱり僕最強!!


 「相変わらずとんでもないのうぬは…流石頭脳パラメーターが攻撃力に振り分けられているだけはある。

 「お見事ですよ雷華、今の一撃で一網打尽…任務完了です。」


 えっへん!
 違法研究員なんかに僕等が負ける筈がない!

 それに今回はいっつも先に研究所潰してる奴等よりも僕達のほうが早かった!
 僕達の完全勝利だ!


 「いや、勝敗を競っているわけでないがの…」

 「良いの!気分だから!!」

 …そう言えばさ、王様も星奈んも、最近力が強くなった感じがしない?
 ふつーにとれーにんぐしただけじゃこうはならないよね?


 「む、気付いていたか?」

 「はい、我々の力は確かに増しています。
  恐らくは行方知れずのナノハ…或いはルナが力を増したとみるべきでしょうか…」

 「2人とも居ないから分んない〜〜。」

 僕等が存在してるから無事なんだろうけどさ〜〜。


 でもさ、生きてるなら戻ってきてよ、ナノハ、ルナ。


 何時でも良いから戻ってきて。


 君達が居ないと……僕、寂しいよ…

 君達が居ないと何をやっても本当に楽しむ事ができないんだ。
 だから、帰ってきてよ2人とも。

 キョウヤもシロウもモモコもミユキも…王様も星奈んも、勿論僕だって待ってるから。

 帰ってきてよ…僕はまだ君達と楽しい事一杯やりたいんだ。


 ナノハとルナが居ないと……お願い、帰ってきて。
 好い加減、君達と楽しい事一杯したいよぉ…ナノハ、ルナァ……



 戻ってきてよーーーーーーーーーーーー!!!!









 結局僕の願いは届かないで、更に3年が経つ事になるとは思わなかったけど。
 でも3年が経った其の時に、色んな事が沢山動き始めたんだ…




 其のじょしょーは、みっどちるだの空港で起きた……大規模火災だった…













  To Be Continued…