Side:冥沙


 「此れは一体…」

 クロノの奴から任務を受けて、星奈達と共にその現場に来たのだが…なんだ此れは?
 任務は『違法研究所の摘発と研究員の逮捕及び施設の破壊』だったのだが…

 「既に破壊されているだと?」

 我等の目の前に有るのは研究施設であっただろう建物の残骸と瓦礫。
 …この分だと生存者は期待出来まいな。

 尤も法を破った外道などに生きる価値があるかどうかは謎だがな。


 しかし次々と引き摺り出される遺体…何だ、この異様さは?
 ある者は身体を貫かれ、ある者は身体を両断され、ある者は極大の衝撃を受けたかの様に身体が潰れている。
 うむ、我等が普通の人間であったら間違いなく吐いているだろう。

 しかし、それにしても数が少ないような…?
 クロノからのデータだと施設員は100人は居る筈だが、発見されたのは半分以下だと?


 「冥沙さん!」

 「む、如何した?」

 何か見つけたか?


 「まだ息のある研究員です!虫の息ですが…」

 「なんと!!」

 此れは治療不可能レベルか…!だが、最期に――逝く前に言う事はあるか?


 「ば、化け物だあいつ等……と、特に一番小さい奴は悪魔だ…
  あ、アイツの虹色の砲撃で施設員の半分が……あは…あはははは…悪魔だ…アイツは…死神だぁぁ!!…ガフゥ!!」

 「!!」

 …事切れたか……だが、無駄足ではないな。
 此れを行った者の情報も少なからず得られたからな……ん?如何した雷華?


 「王様、此れって何?メッセージ?」

 「む?……!!」

 此れは…!!


 ――偽りの正義と穢れた欲望に裁きの槍を。
    我が名は『星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)』……邪悪を砕く使者なり…


 どう言う事だ?
 偽りの正義、穢れた欲望……そして『星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)』…意味が分らん。
 だが、このメッセージは大きな意味を持つのであろうな…記録しておくか。

 さて、撤収だ。










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福81
 殲滅者と襲撃者(デストラクター&スレイヤー)










 Side:なのは


 「今度のターゲットはアレだね?」

 「あぁ、人造コアと戦闘機人素体を研究・開発している場所ね。」

 「何だって良い…外道は滅するだけだ…最高評議会の息がかかった連中はな。」


 そうだね…。



 反逆を決めたあの日から、私達は違法施設を襲撃し、破壊すると言う行動を繰り返してる。


 呆れて物が言えないってのは、正にこの事だね。
 色んな管理外世界に研究所を置いて研究開発を行ってた。
 法の目の届かない場所での悪魔の所業……でもソレはある意味で納得。

 世間的に後ろ暗い事をやっているんだから、隠れてやるのは当然だと思うよ?
 でも、でも…!!


 自分の命の危機を感じた途端に命乞いをするなんて…!
 自分達は散々人体実験とか行って人を殺したのに……私とルナを殺そうとしたのに…!!

 奪うくせに奪われる覚悟が無い……本当に最悪だった。


 けど、ソレを見て私は怒りが臨界点を越えて――――気が付いたら全て終ってた。
 私の砲撃でその研究所の人達は全て消し飛び……死んだ――私が殺した。

 覚悟はしてたけど、やっぱり堪えたなぁ……魔法はファンタジーじゃない。
 非殺傷を解除すれば、ソレは簡単に人の命を奪える『凶器』なんだよね…ソレを改めて認識した。

 でも、どこか不思議と恐怖は沸き起こらなかった……魔法と出会ってから、大きな戦いを幾つも経験したからかな?



 アレから幾つもの施設を潰して、非殺傷で魔法を放つ事が普通になっちゃったなぁ…此れが慣れ?
 ……今更だね。

 「ウーノさん、施設のセキュリティシステムは?」

 『完全掌握、侵入者感知システムも解除、初撃が入るまで気付かれる事はありません。』

 「うん、相変わらず見事な遠隔ハッキング。クアットロさん。」

 『はいはい〜〜、陽動用のガジェット50機も転送配備完了ですわ〜。』

 「ご苦労様…クアットロ。」

 『…グハァ!!お、お姉様〜〜〜♪(ガクリ)』


 よし、此れで取り敢えず作戦中は静かなはず。


 「すっかりクアットロの扱いに慣れたね。」

 「普段敬称ありで、時たま呼び捨ての効果は絶大だな。取り敢えず恭也と会ったらなのは争奪戦勃発は確実か…


 否定できないかも。
 と言うか、お兄ちゃんはもう奥さん居るんだから好い加減シスコンを卒業しやがれなの。


 「ふぅ……」

 それじゃ行こうか?


 『Bustercannon Standby.』


 「ガジェット起動……暴れろ。」

 「ブライト。」

 『All right.Tran−S・A・M.』


 高町なのは――否、星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)


 『Divine』


 目標を破壊、殲滅します!!


 『Buster.』



 ――ドガァァァァァァン!!!








 ――――――








 Side:ルナ


 「ほ、砲撃!?」

 「い、一体誰が!?ど、何処から!?」




 「さて、何処からだと思う?」




 「「「「「「!!!」」」」」」


 何だ、揃いも揃って面白い顔をして?
 砲撃と同時に侵入者が現れるとは予想外だったか?

 それとも侵入者感知システムが作動しなかった事に驚いているのかな?


 「ななな、何者だ!!な、何の目的で?」

 「何者とはご挨拶だな?お前達の上役は何も教えていないのか?」

 お前達と同じ研究をしている連中が、研究施設が最近立て続けに襲撃されている事を。
 そして、襲撃を受けた研究所で生存していた者はゼロだと言う事を。


 襲撃者の1人に、蒼髪碧眼の女が居ると言う事を。


 「ひっ!…ままま、まさかお前が『月の襲撃者(ルナティック・スレイヤー)』…!!」

 「正解だ。せめて冥土の土産に私の名を持っていくと良いさ…恐怖と共にな。」

 「ひぃぃぃぃぃ!!」


 ――カチッ………ファンファンファンファンファン!!


 緊急ベルを作動させたか?
 だが、もう遅い!!

 パルマフィオキーナ!

 「!!」


 ――パァァァン!!


 せめてもの情けだ、精々苦しまずに逝かせてやる。
 無駄な抵抗をしなければ、苦しまずに済むぞ?


 「ば、化け物ぉぉぉ!!」

 「言うだけ無駄か…」

 期待はしていないがな。
 と言うか、その質量兵器……機関銃如きで私を捉えられるとは思っていない――よな?


 「!?」

 「相手の視線と銃口の角度を見ていれば弾丸だって避けるのは容易いさ。」


 ――メキィィ!!


 「く…!このぉぉぉ!!」



 ――バチィィ!!!



 !!
 此れは…!!


 「ど、如何だ!数100万ボルトの電気棍棒だぞ!」

 「……いや…良く効いた…少しばかり肩こりでな。」

 「アイエェェェェェェ!?」


 その程度は効かない。
 私を感電死させたいのなら、せめてフェイトレベルの電撃を用意してくるんだな。

 「斬る!」

 『Kill!』


 ――バババババババババ!!!



 一瞬千斬――花と散れ。


 ――キン……バシュゥゥゥゥ…!


 此処はこれで全部か?
 他のブロックは…


 ――ドォォォン!!!


 暴れているななのは(シュテル)




 少し飛ばし過ぎじゃないか?


 「そうでもないよ?まだカートリッジも使ってないし。」

 「尤も、カートリッジを使うまでも無いだろうがな…来たぞ!」

 「うん!!」


 消え去れ…!


 「「バスターーー!!」」


 ――ドォォォン!!


 研究施設の警備員如きが私達を止められると思うなよ?
 命惜しければ…道を開けろ!!



 「ひぃぃ!!じ、実験体を起動しろ!未完成でも構わん!!」

 「り、了解!!」


 実験体?…一体何が出てくる?……む!!


 「アガァァァァァァァァ…」

 「な、何だ此れは…!!」

 「ゲームに出てきそうな、モンスター…?」

 「お、驚いたか!仮死状態にした成人男性を薬と魔導素で徹底的に強化した生物兵器の試作型だ。
  その辺の魔導師の10倍は強いぞ!こ、此れなら幾らお前達が強くても…」


 あぁ、確かに強そうだ。
 見てくれは、肥大化しすぎた筋肉のせいでお世辞にも綺麗だとは言い難いがな。

 並の魔導師の10倍ともなれば、流石に相当な強さだろうが…

 「私達には…」

 「全く無意味だよ?」



 ――ザシュ!バガァァァン!!



 …なんだ、意外と脆いじゃないか。
 人の命を犠牲にしてまで行った研究の成果が此れか?

 此れでは犠牲になった者もまるで浮かばれないな?


 ふぅ…もう良い。
 見たところお前がこの施設の長だな?…研究資料は何処だ?


 「な、無い!全て上に送ってバックアップも…」

 「嘘は良くないよ?
  此れだけの事をしているのにバックアップが無い?そんな事はないよね?」

 「おおお、お前達の攻撃で、ふふふ吹き飛んだんだ!此処には何も無い…!!」


 往生際が悪いな?
 構わないんだぞ……身体に聞いてやっても。


 「ひぃぃぃ!!!」

 「如何されました?」

 「お、お前!!」


 ん?……あぁ、そう言う事か。
 どうやら私達の出番はこれ以上はないみたいだな。


 「ちょ、丁度良いところに来た!あいつ等を殺せ!施設を護れ!!」

 「御意に…………なんて言うと思った?」

 「へ?」



 ――ドス…



 「げへぇあ!?…な、何故?」

 「良い事を教えてあげる…化粧の得意な女は凄く嘘吐きな事があるから注意しなさい?」


 ――すぅ…



 「!!!そ、そんな…ばか…な…」


 まぁ、予想は出来ないだろうな。
 敵が自分の側近に扮していたなんて事は………それもお前だから出来る事だがなドゥーエ?


 「ライアーズ・マスクに真似できない者は無いわよ?
  それに、戦闘経験皆無の研究所長に見破られるほど私は間抜けじゃないわ。」

 「だろうな。」

 「凄いですドゥーエさん♪」

 「ふふ、まぁお褒めの言葉はありがたくね。……さて、この先が最後の部屋だよ?」


 そうだな……施設の最深部…一体何が出てくるのやら…


 開けるぞ?



 ――キィィィ…



 !!!
 な、此れは……まるで檻じゃないか!
 まさか、此処に実験の為に拉致した人達を押し込んでいたのか?……外道が…!!


 「2人とも、ちょっと!意識がハッキリしてる子が居る!」

 「本当に!?」

 「この状況で意識を?…すごい事だが………!!!」

 此れは……子供じゃないか!
 それもなのはと大差ない位の…!!

 こんな子まで実験体にしていたのか…!!








 ――――――








 Side:???


 外側が騒がしいと思ったら……誰だこいつ等?
 研究所職員…じゃないな?

 私に何か用か?
 この通り、実験体としてのみ存在してるんだが?


 「自分を実験体なんて呼んじゃダメだよ。
  貴女は実験体なんかじゃなくて、1人の人間でしょう?」

 「如何だろうな?」

 違法薬物や新発見のウィルスやらを打たれて最早人とは言えないと思うけどな。
 まぁ、何でも良い……殺すならさっさと殺してくれ。


 「…じゃあ1つだけ聞かせて。
  貴女は自ら望んで実験体になったの?それとも此処の人達に無理やり?」

 「ソレは後者だ…ある日、意味も分らずに此処に連れてこられた。」

 その日から実験と言う名の拷問の日々だったわけだが。
 まぁ、そのおかげで簡単には死なない身体になってしまったが。


 「自分の意志じゃないんだね?…なら、貴女には2つの選択肢がある。
  1つ、貴女が言ったように、私達が貴女を殺して終りにする事。
  1つ、私達と一緒に来て、同じような研究所に対して襲撃を掛け、何れはそれらの長を討つ……どっちにする?」

 「…1つ目は兎も角、2つ目は本気か?」

 此処の連中の話を聞いてると、少なくとも研究所の数は1000は下らない。
 ソレをたった……私が入ったとしても4人で潰す気なのか?


 「気じゃない…やるんだ、私達がな。
  狂気の欲望に染まった老害共から、平和に暮らしている人達を護る為にな…」


 本気か……なんて奴等だ…ふふ、良いだろう、お前達に付いて行く事にしよう。
 気に入らないが、此処での研究のおかげで私の身体能力は常人の数10倍だ…足手まといにはならない。

 私をこんな目に遭わせた連中に因果を応報するのも悪くはないからな。


 「うん、自分達が何をしでかしたのか分らせないと。
  ようこそ、私達は貴女を新たな仲間として歓迎するの――名前を教えてくれるかな?」

 「私の名前?」

 私の名前は――――――…サイファーだ。













  To Be Continued…