Side:リインフォース


 貧狼月牙!

 深夜の学校で発動したジュエルシードに向けての一撃。
 …この前、手に入れたこの武具――武曲、悪くないな。
 私の近接格闘を強化してくれるのは正直にありがたい。

 「ふん、跪け塵芥が!王を前に頭が高いわ!」

 一緒に来てくれた冥沙も深夜だというのに絶好調だな。
 まぁ、子供なのは見た目だけで実際には違う……筈なんだが、雷華を見ていると自信が無いな…

 「…あやつはアレで良いのだ…其れよりも!」

 「あぁ、分かっている!終わりだ文曲絢爛!ジュエルシード、シリアル20……封印!」
 本当に扱いやすいな武曲は…いっそ本格的に士郎に体術でも習ってみようか?

 「…おそらく体術まで完全に為ったお前のような奴の事を『鬼に金棒』と言うのだな…」


 ……暴走していた時の事を考えると全く否定できないな…











  魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福8
 宝石種(ジュエルシード)の脅威!』










 「それ〜〜!行け〜〜!!」
 「そこだ!よっしゃ〜、攻撃攻撃〜〜!!」
 「攻撃の手を緩めるでないわ!そうだ!そのまま押し切ってしまえ!!」

 深夜の封印劇の翌日…いや、日付は変わっていたから数時間か?
 私達は、河原のグラウンドでサッカーの試合を観戦中。

 士郎がオーナーとコーチを勤めているだけ有って『翠屋FC』のメンバーは皆動きがいいな。

 「そうですね。相手チームには申し訳ありませんが、実力には大きな差があるようです。」

 「確かにな。だが、相手だって基本能力は悪くない。此れが指導者の腕の違いと言う奴かな。」
 もっと言うなら、力の引き出し方かな?

 「いいわよ!ナイスセーブ!」
 「頑張れ〜♪」

 今のゴールキーパーのセーブも実に見事なものだ。
 矢張り道場を経営していた事もあって人にモノを教えるのが巧いんだろうな士郎は。

 「コラ〜!クロハネも星奈んも、もっと声出さなきゃ応援にならないぞ〜!」
 「そうだぞ。貴様等2人で静かに観戦などするな、勿体無い。」

 ふぅ、元気なものだ。
 「まぁ、偶には良いか?」

 「そうですね。では参りましょう。」

 ふふ、楽しまなければ損か……その通りだな。



 ――バスン!



 「よっしゃ〜〜!先制〜!!」
 「ふははは!そのまま叩きのめしてしまえ!」

 …しかしノリノリだな冥沙と雷華は…








 ――――――








 
――翠屋


 Side:なのは


 結局あの後、お父さんのチームが更にもう1点追加して試合は2−0で翠屋FCが勝った。
 雷華が興奮して『僕もやってみたい〜〜!』なんて言ってたけど、雷華がでたら10点差くらい付きそうなの…

 「なのは…アンタいい加減現実を受け止めなさいよ…」

 「現実逃避なんてしてないよ?」
 ただね…

 ほう…お前達2人はそんなに私に、桃子のシュークリームを食べさせたくないか…

 「「((((゜Д゜;))))」」

 ウェイトレストしての一仕事を終えたルナが、全身からどす黒いオーラを全開にして雷華と冥沙を睨みつけてるのが怖いだけなの…
 自業自得とは言っても冥沙も雷華も思いっきり震えてるの……食い物の恨みは恐ろしいの…

 「まぁアノ2人は此れが初めてではありませんから。」

 「そうなの?星奈ちゃん?」

 そうなんだよねぇ…1回2回なら兎も角、これで何回目なんだろう…ルナが1個食べないまま冥沙と雷華がお母さんのシュークリーム食べつくしちゃったのって…
 他のお菓子だとこんな事は無いのに、そんなに好きなのかなシュークリーム?

 「とは言っても私も鬼ではないから選ばせてやる…全力全壊の収束砲が良いか?それとも武曲を展開しての文字通りの鉄拳が良いか?

 「く、クロハネそれ選択肢になってない…」(ガクガク)
 「ど、どちらに転んでも『死』あるのみではないのか…?」(ブルブル)

 当然だろう…私は心の底から怒っているのだからな…

 「「ヒィィィィィィ!」」

 此れだけの殺気と怒気を翠屋FCのメンバーには一切関知させてないルナはある意味で凄いと思うんだけど…

 「なのはちゃん、そろそろ止めたほうがいいんじゃ…」

 「え!?私が止めるの!!?」
 すずかちゃん、それはジュエルシードを封印する以上の難易度なの!

 「主であるアンタが止めないで誰が止めんのよ!てか此のままだと本気で人死にが出そうだから止めなさい!」
 「まぁ、ナノハが言えばリインフォースも止まると思いますよ?彼女は主には基本的に逆らわないでしょうから。」
 「が、頑張って、なのは…」

 アリサちゃんと星奈にユーノ君まで〜!
 う〜〜〜…仕方ない『白夜の主』の力を見せてやるの!!

 「ルナ、その辺で許してあげて?」

 「なのは?

 「冥沙も雷華も悪気は無いと思うの。だから、ね?冥沙と雷華ももう少し人の事も考えないとダメだよ?」

 こ、此れで如何なの…

 「そうだな…如何に美味といえど他者の事を考えなさ過ぎたな…」
 「うん…ごめんクロハネ。今度からは気をつける。」

 「うん、それで良いの。2人ともこういってるから…ね?」
 「……はぁ…分かった。私も少し大人気なかったな。今回までは大目に見る。…だが、次は無いぞ?

 「う、うむ…。」
 「わ、分かったよ…あはははは…」

 と、取り合えず一件落着かな?

 「…なのは、アンタもアンタで苦労してんのね…」
 「白夜の主も楽じゃないの…」

 でも血の雨が降らなかっただけ良かったのかなぁ…
 お母さんにシュークリームの時は何時もよりも数を増やしてって頼んでみよう…


 其の後の祝勝会は何事も無く進んで、大会での勝利を誓っていたの。
 ジュエルシードの反応も無いし、本当に休暇だったかな。




 それにしても怒ったルナの顔に紅い線みたいのが浮かび上がっていたみたいだけど…気のせいだよね?








 ――――――








 Side:リインフォース


 「う〜ん、やっぱりリインの髪って綺麗よね〜。手入れのし甲斐があるったら。」

 「そうなのか?あまり意識した事は無いんだが…
 美由希の髪だって綺麗だと思うけれどな。

 「う〜ん、見慣れない銀髪だからそう感じるのかな?でも、こんなに長いのに枝毛の1本も無いなんて凄いよ!」

 「それは私が普通の人間ではなく『プログラム生命体』だからじゃないのか?」
 プログラムである以上、自らを劣化させる事もないだろう?

 「コラ、そう言うこと言っちゃダメ。リインも星奈達も、もう私達の家族なんだからね?」

 「あぁ、スマナイ…そうだったな。」
 所詮はプログラムに過ぎない私達を家族としてみてくれる……ふふ、そう言えば以前の主、否はやてもそうだったな。
 もしも、過去の闇の書の所持者が皆なのはやはやてみたいだったら、あんな事は起きなかったかもしれないな…言っても仕方ないが。

 「それにしても、美由紀はそんなに私の髪を手入れするのが好きなのか?」
 最早、風呂上りの日課になってないか?

 「好きって言うか、憧れかな?なのはの髪は結構手入れしてあげてたけど『お姉ちゃん』の髪を手入れしてみたかったの。」

 「矢張り私が『姉』なのか?」

 「だってリインて大人っぽいんだもん〜!リイン姉さん〜〜♪」

 「うわっ!」
 だ、抱きつくな!もしも恭也が見たら途轍もなく面倒な事に…



 ――ィイイイィィィィン…



 「!!!」
 この感じは…ジュエルシード!?

 「リイン、どうかした?」

 「美由希…ちょっと出掛けてくる。ジュエルシードが発動した。」

 「!分かった。気をつけてね。」

 美由希は過度な心配をしないから此方としても気が楽だ。

 「分かっている。スマナイが帰ってきたら、もう1度髪を手入れしてもらっても良いか?」
 「其れくらいはお安い御用♪」

 騎士甲冑を展開し、夜の空へと羽ばたく。
 しかし、今までよりも反応が格段に強いな…


 「ルナ!」
 「なのは・・・気付いたか。」


 なのはだけでなく星奈、冥沙、雷華の3人も一緒に来たか。
 当然か、反応の強さが桁違いだからな。
 しかし、一体何に反応したのだろう?

 「さ、最悪だ…!」

 「へ?ゆーの最悪って?」
 「反応は桁違いですが、何か拙い事でも?」

 「この反応の強さ…今回のジュエルシードは間違いなく『人』の思いに呼応して発動してる!」

 なんだと!?
 「人の思念にが原因だと、此処まで強い反応が有るのか!?」

 「で、でも今まで発動の予兆すら無かったよ?」

 「きっと、今までは休眠状態だったんだ。其れが人の強い思念を受けて一気に発芽したんだ…」

 覚醒の予兆無しに一気に発芽か…く、反応が無いと思って油断したか!

 「えぇい!起きてしまったものは仕方ないわ!発動時の結界の外に被害が出ないようにするしかあるまい!」

 「うん、そうだね…皆、急ごう!」

 あぁ、急いで封印をしなくては…!



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・



 「な、なんだ此れは…!」

 到着した場所、その結果内部に入り込んだ私達は、文字通り言葉を失った。
 目の前には巨大な樹が一本、街中を破壊して佇んでいる。

 しかも只の樹ではない、

 「GAaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 その表面には、まるで悪魔のような顔を貼り付けた『人面樹』だった。








 ――――――








 Side:なのは


 「GAaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 雄たけびを上げる樹のお化けに、でも私は恐怖を感じてなかった。

 恐怖以上に私の感情を支配していたのは『怒り』。
 ジュエルシードを封印して、結界が消えれば『行き過ぎた破壊』は無かった事になるから街が本当に壊れた訳じゃない。

 それでも私が住む街を壊した事にかわりはないの…
 そして、もっと早く気付く事ができなかった私が腹立たしい…!

 しかも、チラッと見えた巨大な幹からはゴールキーパーとマネージャーの姿が…
 如何して昼間の翠屋で気付くことができなかったんだろう…もし気付いてればこんな事にならなかったのに!!


 ――ポン…


 !
 「ルナ?」

 「なのは、自分だけを責めるな。気付かなかったのは私達も同じだ。後悔や怒りよりも、先ずはアレを封印するのが先決だ。」

 !!!
 そうだ、そうだよね…私が、私達がすべき事は後悔じゃない、まして怒ることでもない。
 やるべき事は、結界の外に影響を及ぼす前に目の前のジュエルシードを封印すること!


 「でもどうすんの?こっからだと結構距離あるよ〜?」
 「封印するにはナノハかリインフォースが接近する必要があるぞ?」

 大丈夫、近付かなくても方法はあるから!

 「成程、そう言うことか…」
 「そう言えば、其れこそが貴女の真骨頂でしたね。」

 うん!ルナ達がいた世界の『私』に出来たんなら私にだって出来るはず!

 「長距離砲撃か…成程考えたものよ!」
 「よっしゃ〜!なら僕達はナノハとクロハネが攻撃準備できるまであのでっかい樹が邪魔しないようにする!」
 「それが最善ですね。」

 「うん、皆お願い!ルナ!」

 「あぁ、分かっている。」

 ルナも分かってるみたい。
 「レイジングハート!」
 「Shooting Mode Set up.」

 私の呼びかけに応えて、レイジングハートが変形する。
 超長距離砲撃に特化した形態『シューティングモード』…此れなら撃ち抜ける!


 「厄災に裁きを。集え破壊の力、全てを払え。」

 ルナも準備万端!
 「行くよ!全力全壊!」
 「Divine Buster.」

 「穿て、光よ!」


 「「ディバイン…バスタァァァーーーーー!!!」」


 ルナと同時に放った砲撃魔法は一直線に巨大樹に向かって行く。


 「WhGaaaaaaaaaaaaaaaa!」

 その直射を受けて巨大樹が動きを止めた。
 此れがチャンス!

 「Stand by Ready」

 「「ジュエルシード、シリアル10…封印!」」

 「Sealing Receipt Number X」

 あんまりにも強かったからルナと2人で封印を施す。
 …うん、上手く封印できたみたい。


 封印してしまえば、結界は消えて街は元通り。
 でも、解放された2人が帰る様子は、少し胸が痛かったの…

 ゴールキーパーの男の子…怪我してたみたい…

 思っても仕方ないけど、やっぱり翠屋で気づけてればって思ってしまう…


 「しかし、まさか人の心に反応して此処までとは…しかも邪念ではない思いを此処まで歪めて力に変えてしまうのか…」

 ルナ?

 「いや、アノ2人に暗く黒い思いが有ったとは思えない。純粋な望みですらあれ程までに歪めてしまうとは、恐ろしいな…。
  それとも真に恐ろしいのは、あそこまでの力をジュエルシードに与える人の思いか…」

 「分からない。でも分かったこともあるの。」

 「ん、何々?何が分かったのナノハ?」

 「改めてジュエルシードの危険性を認識したの…」
 『私に出来る全開』じゃない……本当の本当に『全力全開』で挑まないとダメなんだよね…

 もう、こんな事は起こさない。
 私の、私達の『全力全開』で必ず全てのジュエルシードを封印して見せるの!!








 ――――――








 Side:???


 「…此処に母さんが探してるものが有る。」

 必ず集めなきゃ…母さんの為に!!

 ジュエルシード…必ず集めきってみせる!!

















  To Be Continued…