Side:ルナ


 なんと言うか、存外しぶといな私も。
 増援を確認して意識を失ったが、よもや一命を取り留めるとはな。
 お前達には感謝すべきなのだろうな?


 「いえ〜〜、貴女となのはお嬢様を助け出したのはドゥーエ姉様なので、お礼はそちらに〜〜♪」

 「だが、私を治療してくれたのはお前なのだろう?
  なら、礼を言ってもバチは当たらないはずだ。」

 「ですわね〜〜…ではありがたく〜〜。」


 何と言うか良く分らない子だな、このクアットロと言うのは。
 なのはも無事とのことだが…


 「ルナ!!」

 「なのは!!」


 到着した部屋には確かになのはが居た。
 車椅子と言う事は、可也怪我が酷かったのかもしれないが、無事だ。

 良かった…本当に良かった…!










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福79
 『Un Break White Night』










 「うむ、感動の再会と言うやつかな?
  はじめまして、リインフォース・ルナ君、この研究所の最高責任者のジェイル・スカリエッティだ。」

 「ジェイル・スカリエッティ?」

 貴方が私達を?


 「いかにも――まぁ、私は命令しただけで君達を実際に救出したのは彼女だがね。」


 彼女…この金髪の女性――彼女がドゥーエと言う事か。
 …私と我が主を救ってくれた事に礼を言おう、ありがとう。


 「良いって、礼ならアンタのご主人から貰ってるからね。」

 「それでもだ。
  お前が来てくれなかったら、私となのははあの極寒の地で野垂死んで居ただろうからな。」


 此処に来るまでにクアットロから色々聞いたがよもや最高評議会とはな。
 不死の欲望に捕らわれ、人である事を止め己の障害を排除するか……腸が煮えくり返る思いだ。

 今すぐにでも永遠の闇に滅してやりたいが―――ソレは上策じゃない。
 一先ずは此処で体制を整える事になるんだろうが、

 「ジェイル・スカリエッティ、此処に来る間にクアットロから聞いたんだが…最高評議会の行った事が私達を助ける理由に至ったとは如何言う事だろうか?」

 「うむ、ソレを今から説明するのだよ。
  あぁ、それから私の事は是非とも『ドクター』と呼んでくれたまえ!
  名前で呼ばれるのも悪くは無いが、そちらの方が私のテンションが違うのだよ!テンションが!!!」

 「テンションて……ならばドクター・ジェイルとでも呼ばせてもらおうか?」

 「うむ!素晴らしい!!!………では、本題に入ろうか。」


 あぁ、そうしてくれ。
 一体何がどうなっているのか、お前達の知っている事を全て教えて欲しい。


 「無論その心算さ。
  さて、まず大前提としてだが、魔導師そのものが酷く効率の悪い存在だと言う事は分るかな?」

 「効率が悪い…ですか?」


 あぁ、実際に効率が悪いんだ。
 なのは、お前がオリヴィエの生まれ変わりなのは全くの偶然だが、リンカーコアのない親からリンカーコアのある子供が生まれる事はある。
 だが、逆に両親が魔導師であっても、生まれる子供に魔導の資質が必ずあるわけじゃないんだ。
 不確定なんだよ、魔導師と言う存在はそもそもな。

 個人で『魔導屋』をやるならば兎も角、組織の武装隊員なんかの構成員にするには可也効率が宜しくない。
 まして、高ランクの魔導師ともなればソレはホンの一握り程度――管理局の万年人手不足の根本的な原因だ。


 「そうなんだ…」

 「そう、そして同時にソレは最高評議会のコマが不足している事も意味している。
  ソレが戦闘機人というものに後々繋がっていく訳だがね……12年ほど前までは全く別の方法を取っていたのだよ。」

 「「別の方法?」」


 ソレは一体?


 「うむ、ソレこそが私がなのは君を助ける大きな理由であり、私にとって君達を助けた事が利になる理由さ。
  魔法を使うのに絶対必要なリンカーコア……彼等は最初ソレを人工的に作り出し、一般人に埋め込む事で魔導師を作り出そうとしたのさ。」

 「何だと!?」

 「そんな…!!」


 馬鹿も休み休み言え、リンカーコアは埋め込む事など出来ない!
 ソレこそなのはの様にオリヴィエの転生体としてオリヴィエの力を受け継ぐような事でもない限りは無理なはずだ!


 「あぁ、実際無理だった。
  だがソレでもドンドン性能の良い人工リンカーコアを作り出しては一般人に埋め込み……被験者は全員死亡した…」

 「酷い…!」

 「確かに酷い話だ…が、彼等にとって被験者がドレだけ居なくなろうと関係ない、自らの使えるコマが増えればそれで良いのだからね。
  無論ソレは違法研究であり、彼等の息の掛かっていない管理局の派閥から摘発される事になる。
  多くの研究所が潰され研究者も殆どが捕らえられえたが……1つの研究所で思わぬ事故が起きてしまった。
  保管されていた人工リンカーコアが異常な活性化をして極小規模な次元震が起きたのだよ。」


 なんとまぁ…神の領域に踏み込んだ報いの様だなまるで。


 「巧い事を言う、確かに神をも恐れぬ所業に下った神罰とも言えるね。
  まぁ幸いにして大きな事故にはならなかったが、保管されていた人工コア1200個の内、2つの行方が分らなくなってしまった。
  恐らくは次元震に巻き込まれたのだろうと誰もが考え、ソレの深い捜索は行われなかったのだよ。
  事実その2つは次元震に巻き込まれ、別の世界に飛ばされていたからね。
  その世界こそが、君の出身地である第97管理外世界、地球だよなのは君。」

 「地球に…」

 「うむ、そしてその2つのコアは地球の2人の女性の身体に入り込んだ…入り込まれた方は自覚は無かっただろうがね。
  が、その2人がそのままコアと融合したわけじゃあない…2つのコアは、入り込んだ2人の女性の中に居た子供と融合したのだよ。
  しかも、奇跡的に全く拒絶反応を起こさずにね。」


 …2人の女性…まさか!!
 ドクター・ジェイル…その2人の女性というのは、はやて嬢の母親と――桃子じゃないのか!?


 「正解だ。
  そう、なのは君とはやて君の母親にコアは入り込み、まだ胎児の状態の君達と融合したのだよ。」

 「そんな…そんな事ってあるんですか!?」

 「有るとも。
  そして君とはやて君が拒絶反応を起こさなかった理由も分っている。
  君には元々オリヴィエから受け継いだコアがあった、それ故に入り込んだコアは本来のコアを活性化させた上で吸収された。
  はやて君の方も似たようなものさ、彼女には『夜天の主』となる因子が存在していた。
  夜天の主はアトランダムに選ばれると思われているが実は違う。
  そもそもの主としての素質を持つ者の中からランダムに選ばれるだけの事なのだよ。
  はやて君は入り込んだコアによってソレが活性化し、同時にそのコアを自らの因子と融合したのだ。
  彼女が歴代の夜天の主の中でも特に書との相性が良いのはその為であり、闇の書を夜天に戻せたのもその影響が大きい。」


 なんと…そんな事があるとは…
 ん?だが何故ソレがなのはを助ける事に繋がる?


 「うむ、彼女はある意味で最高評議会の負の遺産…私と同じさ。
  自ら死を演出した私と違い…彼女は彼等の手に掛かろうとしていた――死なせたくなかったのさ、ルナ君も含めてね。
  そして、最大の理由として……君達の力を私に貸して欲しいのだよ。」

 「私達の力を?」

 「何の為にだ?」

 「そう遠くない未来、最高評議会は戦闘機人を量産し、ミッドチルダのみならず全ての管理世界を手中に収めんと動き出すだろう。
  そうなれば、最終的には管理外世界――引いては君達の住む地球にも彼等の魔の手が伸びる事になる。
  無論リンディとレティの派閥も動くだろうし、君達の仲間とて迎撃に出るだろう。
  が、量産可能になった戦闘機人があるなら、言葉は悪いが消耗品として使えば数で押せるだろう。
  そうなってしまう前に、私は可能な限りその芽を潰しておきたいのだよ。
  私の見立てでは、凡そ8〜10年の間に彼等は本格的な活動に乗り出すのでは無いかと見ている。
  その前に戦闘機人の生産工場や研究所を破壊したいのだが、この通り戦闘員はドゥーエだけでね。
  無論彼女の力を持ってすれば1施設くらいは軽く潰せるがそれも限界はある。
  要は、君達にソレを手伝って欲しいのだよ――だから君達を勝手ながら助けさせてもらった。」


 成程、分りやすい理由だ。
 マッタク…人の業は深いと言うが、最高評議会というのはその中でも最悪な部類だな。

 己さえ良ければ他者は塵芥でしかないか?
 夜天の魔導書を闇の書に変えたのもそいつ等みたいな連中なんだろうな……忌々しい。

 だが、如何するなのは?


 「決まってるよルナ…手伝いますねジェイルさん!
  どの道、その人達を何とかしないと私達は家に戻る事もできないんですから!!」

 「…そうだな、家に戻れないのは嫌なのでな…協力をしようじゃないかドクター・ジェイル。」

 ソレに、なのはをあんな目に遭わせた連中にはソレを万倍にして返さないと気が済まん。


 「ソレは私も!ルナにそんな酷い怪我負わせた人達にはキッチリ因果を応報してやるの!!」


 あぁ、白夜の聖王と月の祝福に手を出した事を後悔させてやろうじゃないか…骨の髄までな。
 ……あ、脳髄だけだから骨は無いか…

 「まぁ、兎に角そう言う事だ、力を貸そう――助けてくれた礼も含めてな。」

 「あぁ、ありがとう。」


 礼はこちらが言うべきさ。
 ん?ところで工場とかを潰すのは良いんだが、私となのはは顔が出ると不味いんじゃないのか?


 「ソレは大丈夫ですわよ〜〜、私が責任を持って変装装備を作りますので〜〜♪」

 「コイツも少し頭がおかしい部分があるが、技術的な事は信頼できるから安心して良い。」

 「ドゥーエ姉様酷い!?」

 「事実だしな。人の装備に勝手にビームサーベルとか付けるな。


 …まぁ、大丈夫なんだな?
 しかしビームサーベルか……って私達のデバイスは如何した!?


 「そうだ、レイジングハートと白夜の魔導書!!!」

 「あぁ、ご心配には及びません。
  お2人のデバイスは、ちゃんとありますよ…只、白夜以外の3機は損傷が激しいので大幅改修中ですが…」


 無事なんだな?


 「うむ、ソレは保障しよう。
  何れにせよデバイスの修理にはマダマダ掛かるし、君達とて完治したわけじゃない。
  特にルナ君は腕の方は再生したとは言えまだ自由に動かす事は出来ないだろう?
  なのは君も全身へのダメージが大きいから回復までには相当なリハビリが必要だ。
  先ずは確りと身体を治す事を最優先にしたまえ、動けなくては流石にどうしようもないからね。」


 確かにその通りだな。
 腕は動かせないわけじゃないが、拳打を使ったり月影を振るうのは此れでは無理だな、握力も低い。
 先ずは元通りに動けるようにならないとだな、なのは。


 「うん!頑張ろうね。」

 「勿論だ。」

 …精々私となのはを葬ったと思ってほくそ笑んでいるが良いさ最高評議会とやら。
 お前達には私達が、何れ直々に鉄槌を下してやる――その時まで首を洗って待っていると良い…!!








 ――――――








 Side:ゼスト


 レジアスからの火急の任を受けて、高町なのはと高町リインフォース・ルナがロストした場所に来たわけだが…
 待っていたのは無人の機械兵か。


 「烈風拳んん!!」


 AMF搭載型で魔法が利き辛いが、物理攻撃主体の俺達には余り問題では無いな。


 「カイッザーーーウェェイブィ!!」


 それにしても後から後から…件の2人もこの物量に押し切られたと見るべきか…


 「サイコクラァァァァッシャァアァ!!!ジェェノサイドクァッターーー!!ワッハッハ!!!」


 ふむ、こいつ等の出所も調べる必要が有りそうだが……何か言いたそうだなナカジマ?


 「あの、ゼスト隊長…正直私達必要ですか?」

 「フレディだけで充分な気がするんですが…」


 メガーヌまで……確かにそうかもしれんがな…少しとばしすぎだぞフレディ?


 「そんな事はむわぁるで問題ないぃぃ!!くぉぉぉのフレディ・ルガールに限界など存在せぬわぁ!
  ソレよりもキサマラァ、たぁかまちなのはをどぅおこへやったぁ!!
  喰らうが良い、若本神拳おぉぉぎぃ、太陽系破壊かぁめはめ波ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 ――ズドガァァァァァァァァァン!!!



 「…なんなんでしょうね『若本神拳』て…」

 「知らん…」

 だが、技の破壊力は凄まじいの一言に尽きるだろう。
 AMF搭載型の兵器を、エネルギー波で跡形もなく吹き飛ばしたのだからな……周囲の林ごと…


 「歩く森林破壊兵器ですか彼は…」

 「寧ろ歩く核兵器じゃないかしら…」


 洒落にならんなソレは。
 だが、まぁ予想通りだが2人の手掛りになるものは無さそうだな。

 取り敢えず…


 「む?まぁだ動ける奴がいたのくあぁ?……ふん、余計なお世話だ、でぇきそこないめぇ…」


 ――ガシャン!!


 …あの残骸を持ち帰って解析班の方に回すか、何か分るかも知れんからな。
 よし、撤収するぞ、長居は無用だからな。


 「うぅむ、しぃかたない…なぁのはの手掛りが見つからなかったぬおは残念だぁ…」

 「MIA判定されたのだ、そもそも手掛りを見つけろというのも無理な話だ。
  が、この機械兵の残骸――此れは大きな収穫だ、何か判るかも知れないからな。」

 さて、此れを知ってレジアスは如何動くのか…








 ――――――








 Side:???


 …人の気配?…誰?


 「――――――だな?」


 えぇ、確かにソレは私…だけど何のよう?
 私はもうリンカーコアを砕かれて、後は余生をこの独房で暮らすだけの女よ…?


 「お前に力をやろう……そしてソレを揮う場も。
  お前はやり方が甘かっただけだ…我等の傘下に入れば、今度こそ越えられるかも知れんぞ『彼女』を。」

 「…本当に?」

 本当なら付いていくわ!
 こんな独房はもうゴメンだし…ソレにあの女を超えられるなら、私は悪魔とだって契約する!!


 「くくく…ならば共に来い。
  私達の上役が、お前に力を与えて下さる……鍵は…よし解除…此れでお前は自由だ…キスティ・テルミット・アルマシー。」

 「うふ、うふふふふふ…あはははははは!!良いわ最高よ!!
  自由にさえなれば!力さえあれば、今度こそ私はプレシアを超えられる!!」

 今度こそ、今度こそは!!

 いえ、あの女を超えるだけじゃないわ。

 ジュエルシードの時に私に屈辱を味わわせてくれた連中全てに復讐をしてやる…必ず…必ず…!!













  To Be Continued…