Side:なのは


 ウーノさんに車椅子を押してもらって移動中だけど…やっぱりSFっぽい内装なの。
 此処は一体何処なんですか?


 「ドクターの研究室と言うのが一番適切でしょうか?
  私達にとっては、普通に生活の場ですが…」

 「生活の場ですか…あの、これから会う人ってどんな人なんですか?」

 「容姿は私を男性にした様な感じをイメージしていただければ…」


 ウーノさんを男の人に…うん、何となくイメージできたの。


 「ですが性格が…その、少々『マッド』が入っているような感じでして…」

 「…『マッド』?」

 「マッド。」

 「どれくらいのレベル…なの?」

 「永久追放禁止レベル。」

 「うわ〜〜…」

 ソレって相当じゃないのかなぁ?かなぁ?…でも悪い人じゃないって――どんな人なの!?
 まぁ、会ってみれば分るよね。


 「着きました。」

 「此処が…」

 この扉の向こうに『マッドだけど良い人』が居るんだ…さて、鬼が出るか蛇が出るかなの!!










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福78
 『襲撃の真実と局の闇』










 「あれ、目が覚めたんだその子は。」

 「ついさっきだけれどね。」


 あ、れ?金髪のお姉さん?
 この人は違いますよね?まだ扉開けてませんし。


 「えぇ、彼女は『ドゥーエ』…私の妹に当たります。
  付け加えて言うなら、あの場から貴女と貴女のパートナーを救出したのは彼女ですよ?」

 「そうなんですか!?あの、ありがとうございます!!」

 「いやいや、私も仕事だし、アンタ等に死なれると色々とね。
  融合騎の方も、まぁ重傷だけど治療中だから安心して良いよ――聖王様。」

 「!!」

 若しかして私がオリヴィエの転生体だって知ってるの!?
 …まさか…!!


 「不用意な物言いは控えなさいドゥーエ、警戒させて如何するの?」

 「あ…失敗。ゴメンね、別に他意はないよ…敬意を払ったつもりだったんだけど…」

 「むぅ…なら良いです。でもルナの事を『融合騎』なんて呼ばないで下さい!」

 ルナは大切な私のパートナーなんですから。


 「失礼…ルナも治療中だから安心してね……え〜と、なのは?」

 「はい♪」

 やっぱり名前で呼ばれるのが一番なの。
 それで、その『マッドな良い人』は何処にいるんですか?


 「ソレってドクターの事?…ウーノ、アンタどんな説明この子にしたのよ?」

 「最も分りやすく適切にだけれど?」

 「いやまぁ、間違っては居ないと思うんだけど……その説明は如何かと思うわ…」

 「本気でどんな人なんですか!?」

 ちょっぴり心配になってきました…


 「あ〜〜〜…科学者としてみたら先ず間違いなく超一流だと思うよ?それこそあのプレシアにも引けは取らないと思う。
  …んだけど、何て言うか時折暴走するのよ、思考が。
  何処の世界に『自爆は美学だ!』っていって自分のラボに自爆装置付けようとする人間がいるかって話。」

 「居ませんね、先ず普通に考えて。」

 成程ウーノさんの言う通り、『禁止レベルのマッド』は伊達じゃないの。

 って、ソレよりも治療中って事ですけど…ルナは無事なんですか!?


 「ソレについてはご安心下さい。
  貴女よりも重傷ではありますが命に別状はありませんし、治療も進んでいますので。」

 「胸貫かれて、右腕切り落とされても……えっと敬称付けたほうが良い?」

 「あ、無くて良いです。」

 「そ、…じゃあなのはって呼ぶわね?
  右腕切り落とされてもなのは…貴女を護ったのよ……本当に凄い人だよルナってのは…」


 また、私はルナに護ってもらったんだ…
 ……ちょ、ちょっと待って!胸貫かれて右腕切り落とされたって!!


 「ソレについても心配御無用。再生治療を行ってるから腕は元に戻るわ。
  胸も急所を外れてるから命に別状は無いし意識もハッキリしてる――まぁ重傷である事に変わりは無いから今は医療ポッドの中だけどね。」

 「でも無事なんですね!」

 良かった〜〜……後で会えますか?


 「勿論。…此れだけ大切に思われているとは、彼女は幸せ者です。」


 ルナは私の大事なパートナーですから。
 あの、ところでこの扉はやっぱりカードキーとかで開けるんですか?


 「その通りです。尤も、この施設でカードキーを使った特殊電子ロックは此処と地下の1室にしかありませんが。
  ……失礼しますドクター、高町なのは様をお連れしました。」

 「ご苦労だったねウーノ。
  はじめまして、高町なのは君――否、聖王女オリヴィエ・ゼーゲブレヒト殿と言った方が良いかな?」


 この人がドクターさん……はじめまして、高町なのはです。
 確かに私はオリヴィエの転生体ですけど、私は私なのでなのはって呼んで下さい。


 「此れは失礼……いや、だが素晴らしい!!
  自らが王たる存在の転生者と知りつつ、ソレでいて驕らずに今の自分を生きるとは!!
  矢張り人の上に立つ者は、大きな力を身に宿しそして巨大な力を配下に持つ者はこうでなくてはダメだ!
  そもそもにして力を持つ者はその力の意味と存在を真に理解しなくてはならないと思わないかね?
  力に捕らわれ力に溺れ、己の欲望に流されて力を使ったらソレこそただの破壊者じゃないか!
  そう、君や君の仲間達のような者こそ、これからの世界を引っ張って行くべき存在なのだよ!!!」

 「スイッチ入りましたか…ドゥーエ。」

 「OK…ドクター取り敢えず落ち着け。」


 ――スパーン!!


 ハリセン!?
 見事な一発…行き成り出てきたからデバイスの一種…かな?


 「うむ、見事な一発だドゥーエ。」

 「先進まないから本題。
  大体直ぐスイッチ入るから『マッド』とか呼ばれるんですよドクターは。」

 「正義のマッドサイエンティストというのも良いと思わないか?」

 「思いません。」


 にゃはは……成程納得、確かに『マッド』っぽいかも。
 あの〜それで…


 「あぁ、スマナイね、つい暴走してしまった。
  改めて初めましてなのは君、私はジェイル・スカリエッティ、見ての通り科学者だ。
  今回は危ない所だったね、もう少しドゥーエを速く向かわせられれば良かったんだが、場所を割り出すのに少々手間取ってしまった。」

 「あ、いえ……助けていただいてありがとうございました。
  あの…ところで此処は一体何処なんですか?」

 「管理局も把握してない無人の管理外世界に作った私の研究所兼生活場所だよ。
  此処ならば管理局の連中に見つかる事は無いし、君達が暫く身を隠すにはうってつけだ。」


 え?身を隠すって…ルナが治ったら帰るつもりだったんですけど。


 「それが中々そうも行かないのだよ…何より君達自身の為にもね。」

 「私達自身の…?」

 「うむ。君は今回受けた任務をおかしいとは思わなかったかね?
  違法研究所の摘発と言っておきながら何も無い場所、其処に突然現れたAMF搭載型の機械兵器。
  そして、幾ら待てども現れなかった管理局の増援――妙だと思わないかね?」


 言われてみれば確かに。
 ルナも妙だって言ってたし、ソレによくよく考えるとあの機械兵もまるで私とルナを狙って造られた様な性能だったの。

 若しかして………!!


 「気が付いたかな?そう、君達が受けた任務はそもそもがダミー、君達2人を嵌めて亡き者にする為の偽の任務。
  そして、それを『リンディ・ハラオウン』の名で君達に依頼したのは『時空管理局最高評議会』。」

 「最高評議会…そんな物が…!!」

 「あぁ、安心したまえ。
  君の姉が属するクロノ・ハラオウン執務官の部隊――引いては彼の上司に当たるリンディとレティは評議会とは全く関係は無い。
  寧ろ派閥で言うなら、レティ&リンディ配下と最高評議会の配下は水面下では激しく対立していると言って良いだろう。
  片や真に人々の平和を願って魔導の力を使い、片や己が欲望のためのみに動く、相容れる筈が無い。
  己の欲望の為のみに動く連中にとって、君とルナ君はまさしく『目の上のたんこぶ』だったと言う訳だ。」


 そんな…!
 でも、どうして私とルナが?
 私とルナ以外にも冥沙達にはやてちゃん達にフェイトちゃん…強い人は沢山居るのに。


 「うむ、ソレについては君達だからだよ。
  もし君達2人が並のオーバーSランク魔導師であったら彼等とてこんな方法での排除はしなかっただろう。
  だが君達には、君達の仲間には無い強化状態がある…そう、聖王化と…」

 「ルナの月の祝福…」

 「その通りだ。
  ソレを発動した君達は比類なき強さを手に入れる、私の試算だと強化状態の君達は管理局の魔導師1万人程にもなりかねない。
  それだけの力を持っていながら、しかし自分の配下にはなりえない存在を彼等は認められなかったのだ。
  マッタク下らない事だよ、次代の人間が執り行うべき事を手に入れた権力に固執し、不老不死の欲望にまで捕らわれているのだからね。」


 え?
 不老不死…ですか?


 「如何にも…最高評議会の最高権力者たちはソレに捕らわれているんだよ。
  なのは君、君は不老不死などあると思うかね?」

 「無理です。」

 人の命は有限ですから。
 ソレはルナやシグナムさん達だって同じです、魔導書の騎士だって怪我もするし、致命傷なら…
 もっと言うなら、書の持ち主が寿命や病気で死んじゃったら、騎士もまた消える…不老不死はありえません!


 「左様…だが、古来より権力者は有りもしないソレを求めて止まないのもまた事実。
  確かに己の肉体を維持したままの不老不死はありえないが……身体を捨て去ったとしたらどうかね?」

 「身体を捨て去る…?」

 「人間のメイン記録媒体ともいえる脳、ソレだけを延命し、それ以外の肉体や内臓器官を破棄したら?
  更に、そうして保った脳をクローン培養した若い肉体に移し変えたら如何だろう?
  ソレを続けていけば、ソレは擬似的な不老不死と言えるのでは無いかね?」


 そんな!そんなのおかしいです!間違ってます!!


 「そう、間違っている!だが、最高評議会の最高権力者たちは正にその一歩手前なのだよ。
  彼等は既に肉体を捨て、そして脳髄だけの状態で特殊な培養ポッドの中で存在しているのだから。」

 「まさか…!」

 そんな人達が居るなんて…!
 そんな人達の欲望のためだけに、私とルナは死にかけたの?…冗談じゃないです!!


 「故に、君達は此処に居たほうが良いのだよ。
  幸い君の騎士達が君の魔導書の騎士だと知っているのはリンディとレティの配下だけだろう?
  ならば君の騎士達が存在していても、それが=君の生存とは結びつかないはずだ。
  時が経てば、最高評議会の連中は君達が死したものと思い、安心するだろう。
  ソレまでは…辛いだろうが、家族にも無事は知らせない方が良い、何処で嗅ぎ付けられるか分らないからね。」


 そう、ですか…せめてお母さん達には無事を知らせたかったです。


 「スマナイね…だが、幸いドゥーエは変装が得意だからね、色々な人に変装して時たま君の家族の様子を見てきてもらおうとは思っている。
  家族の無事が分れば、君とて安心も出来るだろう?」

 「はい!お願いします。」

 やっぱり皆の事は気になりますから。



 ところでジェイルさん、ジェイルさんはどうして私達を助けてくれたんですか?
 私達を助けるメリット…ジェイルさんには無い…ですよね?


 「そう思うかい?ソレが実は大有りなのだよ。
  ふむ…ソレについては私と彼女達の事を話さねばならない無いが……君は『アルハザード』と言う場所を知っているかな?」

 「名前だけなら…ジュエルシード事件の時にプレシアさんの偽者がそんな事を言ってました。」

 「キスティか…愚かなモノだよ彼女も、彼女程度の人間が如何頑張ろうと世紀の大魔導師と謳われたプレシアに適うはずもないのにね。
  そのアルハザードだが、其処には死者の蘇生や永遠の命を得る秘術が存在していたとされている。
  当然その事は最高評議会も知っていて……そして作り上げたのさ、アルハザードの科学者である『私』をね。」


 え!?
 ジェイルさんは…アルハザードの科学者なんですか!?


 「正確にはソレに最も近い劣化コピーとも言うべきクローン体だね。
  彼等は私を作ることで、私にその秘術を復活させようとしたんだが……生憎と彼等は私の自我を奪うのを忘れたらしい。
  表向きは彼等に従いながら、研究の失敗に見せかけて自分の死を演出するのは容易かったよ。
  それから暫く身を潜めていたんだが…トンでもない事を彼等が仕出かそうとしている事を知ってね。」

 「とんでもないこと…ですか?」

 「うむ…『人造魔導師』計画だ。
  『戦闘機人』と呼ばれる、いわばサイボーグ戦士とも言うべきモノをつくり、己の手駒としようとしたのだよ。
  ソレを知った私は製造段階初期のうち、3体を回収する事に成功してね、ソレがウーノとドゥーエ、そしてルナ君の治療を行っているクアットロだ。」

 
 ウーノさんとドゥーエさんが!?
 ソレにクアットロって言う人も……


 「残念な事に1体は回収できなかったがね。
  その後も戦闘機人は作られたようだが、後期製造のうち、9、10、11は管理局の局員が保護して自分の娘としているらしい。
  が、残る中期製造と、最終製造は未だ彼等の手の内にある。
  そして、ソレとは別に彼等はもっと非人道的な方法で自分の駒を作ろうとしたのだよ。」

 「まだ有るんですか!?」

 一体どれだけなの最高評議会…
 人である事を止めて、ソレにサイボーグを作ったり…それだけでも許せないのに…!!


 「そして、その方法と結果こそが私が君を助けた大きな理由なのだよ高町なのは君。」

 「ど、如何言う事ですか!?」

 「ソレは…」

 『お話中すいませ〜〜ん、クアットロです〜〜。』

 「む…なんだねクアットロ?」


 この人がクアットロさん?…ウーノさんとドゥーエさんとは随分雰囲気が違うの。
 この人がルナの治療をしてくれてるんだ。


 『あのですね〜、ルナさんの腕の再生が済んだんですけど…彼女ッたらなのはさんに会わせろって言うんですよ〜?
  医療ポッドでの治療も終わってますし、動くに問題ないんですけど、良いですかね〜?』


 「あぁ、そう言う事なら構わない。
  丁度なのは君も目を覚ましているからね、お互いに無事を確認した方が安心もするだろう。」

 『分りました〜〜、それじゃあそちらにお連れしますね〜〜。』

 「頼むよ。
  ………と、言う訳だ、話の続きはルナ君が来てからにしよう。
  ある意味、この話は彼女にも聞いてもらいたいからね。」

 「はい、分りました。」

 何となく、此れを聞いたら後戻りとかそういう事は出来なくなる気がする。
 だけど、きっと聞かなくちゃいけない……私自身のために。


 けど、取り敢えずは……ルナに早く会いたいの♪













  To Be Continued…