Side:ルナ


 はやての見舞いに行ったのだから、なのは達が居るのは『海鳴大学病院』で間違いない。
 シャマルが展開した結界の反応もそっちの方からしているしな。

 「く…矢張り繋がらないか…!」

 だが、通信は繋がらない。
 シャマルの結界である以上、通信妨害くらいは当然か…

 なのは達が負けるとは思えないが、出来るだけ早く着くに越したことは無い。
 少しスピードを上げるか。




 そう言えば、前の世界では管理局の監視者によって意図的に暴走が引き起こされていたが此処では如何なるんだ?
 少なくとも管理局の監視者の存在は感知し得なかったが………まさか!!

 「ナハト自身が自己暴走をするって言うのか…!」

 拙い…、暴走を誘発されるよりも厄介だ…!
 急がないと!!










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福47
 『崩壊のプレリュード』










 No Side


 なのはと星奈はヴィータと交戦すべく屋上から離脱。
 冥沙も広域魔法で補佐する為に矢張り離脱。
 シャマルも結界維持と通信妨害の為に当然離脱。

 屋上には雷華とフェイト、そしてシグナムのみが残っている。

 「どうしても駄目なんですか?」

 「少しは僕達の話聞けよブシドー!」

 戦う気満々のシグナムにフェイトと雷華が言うが効果は無い。
 シグナムは騎士服を展開し、引く気配は無い。

 「話など…聞く耳もたんと言った!我等は、あの優しい主のためならば騎士の誇りも捨てると誓った…後戻りは出来ん。」

 レヴァンティンを構え、もう話し合いの余地はないと言い切る。
 その身からは魔力が溢れ、彼女の『決意』が伝わってくる。

 「ブシドー…このバカヤロー!スプライトフォーム!!」

 「バルディッシュ!」
 『Sonic Form.』


 其れを受けて雷華とフェイトも戦闘準備。
 デバイスを起動しバリアジャケットを展開するも、其れは今まで使っていたものとは異なる形状。
 マントと腰の巻きスカートが無くなり、まるでレオタードだけの様な姿に。

 2人とも両手首、両足首に魔力の羽根が展開され如何にも速そうだ。


 「お前達の装甲は元々薄い…其れを更に薄くしたか。…温い攻撃でも、当たれば死ぬぞ?」

 「強い貴女に勝つためです。」

 「其れに当たらなければ良いんだもんね〜〜!」

 即座にその形態の弱点を見抜いたシグナムだが、この2人には迷いも恐れも無い。
 今だってタダ真っ直ぐにシグナムを見据えている。

 「…お前達、名は?」

 其れに感心したのか名を問う。
 ベルカの騎士にとって、名を問うのは相手が自分と同等以上の強者と認めた証でもある。
 つまりこの瞬間、雷華とフェイトはシグナムに『強敵』認識されたのだ。

 「雷華。高町雷華だ!」

 「フェイト・テスタロッサです。」

 対照的な自己紹介だが伝わっただろう。
 小さく『良い名だな』と呟き、シグナムは再度抜刀の姿勢をとる。
 初手からペースを掴むつもりなのだろう。

 しかし、魔力を高めつつもシグナムは語る。

 「雷華、テスタロッサ……もし、違う出会い方をしたならば我等とお前達は一体どれほどの友になれたのだろうな。」

 「まだ間に合います。」
 「そうだぞ〜?何時だって友達になる事はできるんだぞ〜?」

 後悔と苦悩が解る一言にフェイトと雷華もエール的な言葉を送る。
 だが、其れにもシグナムは首を横に振るのみ。

 よくよく見ると、その頬には一筋の涙が…

 「もう遅い…我等が主の為には進む事しか出来ぬ。止まる事はできんのだ!」

 「止めて見せます、私とバルディッシュが!」

 「違うぞへいと!『僕達』で止めるんだ!」

 「あ、そうだったね。」

 『止まれない』と言われても退く気は無い。
 寧ろ止まれないなら無理やりにでも止める気でいる。

 雷華は兎も角、フェイトも確りとなのはの思考を受け継いでいるようだ。


 「おぉぉぉぉぉぉ…!」

 「はあぁぁぁぁぁ!!」

 「でりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 そして、3者略同時に飛び出し、フェイトのバルディッシュ(クレッセントフォーム)と雷華のバルニフィカス(破砕斧)
 シグナムのレヴァンティンがぶつかり合い、強烈な金属音が鳴り響く。

 其れが戦闘開始のゴングだった。












 その一方で、先に戦闘を開始したなのは&星奈とヴィータは…


 「アクセルシューター…シュート!」
 『Accel Shooter.』


 「ちぃ…うざってぇ!!」
 『Schwalbefliegen.』


 凄まじい魔導バトルが展開されていた。
 なのはとヴィータの射撃がかち合い、着弾点で爆発が起きる。
 生半可な者だったら、この爆風の影響だけで大重傷や気絶をしてもおかしくない。

 其れほどまでになのはとヴィータの魔導は凄まじいのだ。
 1vs1の闘いだったらならば、或いは決着がつかなかったかもしれない。


 だが、この場は1vs1ではない。
 なのはにはとても頼りになる仲間が居る。
 そう、星奈の存在があるのだ。


 「ストリーク!」

 「なっ…!テンメェ!!!」

 略背後から襲撃!
 スピアーモードのルシフェリオンを使っての踏み込み式薙ぎ払いだ。

 背後からと言う事で完全に虚を突かれ、ヴィータは驚く。
 だが、其処はベルカの騎士。
 吹き飛ばされる瞬間に体重を移動し、自らの一撃を叩き込む。

 勿論星奈はそんな馬鹿正直な攻撃を喰らうような事はしない。
 確りとガードし、再度薙ぎ払いを繰り出すが、ヴィータはギリギリで避ける。

 「成程…流石はベルカの騎士。その瞬発力と力には敬意を表しますよ。」

 「は、んなもんテメェ等に言われたって……嬉しくねぇんだよ!!」
 『Raketen.』


 僅かに開いた間合いを一気に詰めるようにしての突進攻撃。
 普通ならば一撃必殺の其れも、今はそうはならない。

 「シュート!」

 「なろ…ふっとばせぇ!!」

 即座になのはのアクセルシューターが飛び出し、ヴィータの動きを大きく制限する。
 2対1と言う状況は勿論だが、目まぐるしく入れ替わるクロスレンジとロングレンジの猛攻に直撃を喰らわないようにするのがやっと。
 加えて、時折戦闘の補助・補佐を担当している冥沙の攻撃が飛んでくるから堪らない。

 それでもヴィータが落ちないのは、単に戦闘経験の差からだ。
 圧倒的な経験差が、最小限の力での回避と防御を可能にしている。
 故に何とかギリギリではあるが拮抗状態を保っているのだ。

 もし相手が並の魔導師であったならば、その経験差で隙を見出し其処から一気に押し切る事が出来だろう。
 だが、なのはも星奈も、又シグナムと対峙している雷華とフェイトも、支援を行っている冥沙も『並の魔導師』ではない。

 その攻撃は研ぎ澄まされたナイフの如く鋭く、更に放たれる度にその鋭さが増していく。
 特になのはは其れが顕著だ。

 戦い始めて僅かに数分だが、誘導弾の展開数と制御、近接戦闘での間合いの取り方が目に見えて向上している。
 その影響で星奈とのコンビネーションもドンドン強力になっているのだ。


 ――実戦の中でレベルアップだと…!コイツ、マジで何者だよ!!


 ヴィータもその成長に驚く。
 初戦闘では圧倒した。
 2度目の戦闘ではカートリッジが搭載されていたがまだ自分の方がホンの僅かだけ上だった。
 が、3度目の今は2対1のハンデが有るとは言え同等以上。
 それどころか今この瞬間もリアルタイムでレベルが上がっている……凄まじい事だ。

 「そこ!」

 「はぁ…殲滅!!」

 「しまった!!」
 『Panzerschild.』


 驚いた事が一瞬の、それでも確実な隙となりなのはと星奈の踏み込み薙ぎ払いの同時攻撃を許してしまう。
 ギリギリで防ぐも、其れこそがなのはと星奈の狙い。
 どんな形でアレ、ヴィータに一撃を入れられる状況が出来ればよかったのだ。

 完全に防御に回った此れは正に好機に他ならない。

 「其れを待ってたの!クロススマッシャー!!

 「此れで詰みです…クロスブレイザー!

 デバイスを持っていない方の手で放たれた2つの近接砲撃。
 元々砲撃を得意とす2人の砲撃が、バリアの上からとは言え略ゼロ距離で撃たれては防御も意味を成さない。

 なのはの砲撃がバリアを砕き、星奈の砲撃がヴィータを吹き飛ばす。
 勿論此れだけではない。

 「レイジングハート!」
 『All right.Restrict Lock.』

 「捕らえろ、ルベライト!」

 追撃のバインドでヴィータを拘束。
 元々が強力なバインドが2つも重ね掛けされてはヴィータとて動きようがない。

 「ぐ…のやろぉ!!」

 もがいても外れるものではない。
 いや、チャージに10秒も掛かる集束砲を撃つ為の布石であるこのバインドを外せる者など早々居ない。

 「此れで決める!ディバインバスターエクステンション!
 『Divine Buster Extension.』

 ブラストファイアーエクスドライブ!

 動けないヴィータに向かってなのはと星奈は必殺の一撃を撃つ。
 カートリッジシステムを使っての最大の直射砲。
 桜色と真紅の魔力砲……喰らえば一撃でノックダウンは確実だ。

 「ぐ…ちくしょおぉぉぉぉぉ!!!」

 最早逃れる術はないと悟り、ヴィータは悔しさから力の限り叫ぶ。
 だが…


 ――バキィィィィン!!!


 その砲撃が直撃する直前で何かがヴィータの前に現れ2つの砲撃を防ぎきった。

 「「!!」」

 これにはなのはと星奈も驚く。
 間違いなく直撃だった一発が着弾寸前で霧散したのだから。

 「…テメェは…」

 ヴィータを砲撃から護ったのは黒い蛇が無数に絡み合った不気味な存在。
 それが宙に何も言わずに佇んでいる。



 瞬間、ヴィータの脳内で記憶の歯車がガッチリとかみ合わさった。
 完全に思い出したのだ、何故自分達が蒐集の度に消えたのか、歴代の主が死に至ったのかを。

 「そうだ…お前が居たから…お前のせいでアタシ達は…!」

 バインドも解け自由が利くようになるもヴィータは動かない――動けない。
 なのはと星奈も状況を静観するしかない。

 『―――――――――』

 其れは何かを発するが、理解が出来ない。
 だが、ヴィータには其れが何と言ったかが理解できた…理解などしたくなかったが。

 「闇の書の完成…ナハトヴァールの起動を最優先…守護騎士システムを破棄って……ふ、ふざけんじゃねぇ!!」

 自らの破棄を言われ黙ってなど居られない。
 其れに抗うようにアイゼンを振りかざし、黒蛇の塊り――ナハトヴァールに力の限り叩きつける。

 しかし通じない。
 通じないどころか…


 ――ギュル…


 その塊りから伸びた触手に捕らわれる。

 「ぐ…この…!」

 更に…

 「え?きゃぁぁぁ!!」
 「ふ、不覚!!」

 なのはと星奈もその触手に捕らわれる。
 加えて…




 「!?此れは…!」

 「なんだこれ?」

 「まさか…ナハトヴァール!」

 分身したがの如く、シグナム達の下にも現れる。

 『―――――――』

 「なに!?待て、この戦いはそうではない!!」

 恐らくはヴィータが聞いたのと同じような内容なのだろう。
 シグナムは反論するが、ナハトは聞きはしない。


 ――ギュル…


 「な!」

 「な、なんだよこれ気持ち悪い〜〜!」

 「く…引き剥がせない!!」

 又しても触手で雷華、フェイト、シグナムを拘束。




 「何だこやつは…ぬおわ!!」




 「そんな…また、なの?…いやぁぁぁ!!」



 別の場所でも冥沙とシャマルが捕らわれ、そして一気に全てが1つになる。



 黒蛇の集合体から伸びた触手に捕らわれた8人。
 誰1人として逃れられない。
 それどころか…

 『Sammlung.』

 シグナム、ヴィータ、シャマルのリンカーコアが摘出されナハトに蒐集されていく。

 「う…うあぁぁぁ!!」

 「あ…きゃぁぁぁぁ!!」

 「ぐ…くあぁぁぁ!!」

 一度蒐集されているのでなのは達が蒐集される事はない。
 だが、なのは達はなのは達でナハトの魔力攻撃にさらされているのだ。

 「「「「「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」

 状況は…最悪と言うほかはないだろう。








 ――――――








 Side:ルナ


 このプレッシャーは!!
 シャマルの結界があって尚感じる此れは…ナハトが活動を開始したか!!

 む…アレは…

 「守護獣!」

 「ぬ…お前か…!!」


 1人か?他の騎士達は如何した!


 「答える義理は無い……と言いたい所だが通信が出来ん。恐らくはお前の仲間達と交戦中とは思うが…」


 シャマルの通信妨害が仇になってるのか?
 いや、幾らなんでも仲間との通信までも妨害するはずが無いが……と…な、何だアレは!?

 黒い蛇に捕らわれたなのは達と騎士達…!
 あの蛇は…まさかナハトヴァール…!?

 暴走し、現実世界にまで顕現してきたのか…!


 「アレは…!」

 「ナハトヴァール…アレこそが闇の書を『呪われた魔導書』としている根幹原因だ!」

 「アレが…!」


 だが、有る意味で僥倖だ。
 顕現しているなら、直接叩く事が出来る。
 あれさえ破壊すれば全てに決着がつく!

 「覇ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「る、ルナ…?」


 待たせたな、今解放するぞ皆!
 受けろ…パルマフィオキーナ!


 『Break.』


 「ぬおぉぉぉ…滅牙!!


 ザフィーラ!
 ゼロ距離砲撃と防御破壊ならば…!


 『――――――』


 !!む、無傷だと!
 コイツは…矢張り前の世界の私よりもずっと力が強い…!



 ――ギュル…



 「しまった!!」

 「ぬぉ!」


 ナハトの触手か…!…く、堅い…!!


 『Sammlung.』

 「ぐおぉぉぉぉぉぉ!!」


 ザフィーラ!!
 く…騎士達のコア蒐集は如何あっても止められないか…!


 ?…なんだこの黒い塊りは?
 どんどん大きく………

 !!私達を閉じ込める気か!!



 ――グニュ…



 く…うわぁぁぁぁ!!!








 ――――――








 Side:はやて


 此処は……病院の屋上?
 なしてこんなところに…


 ん?


 「「「「……………」」」」


 な!?
 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ!!

 な、何で皆が変な蔦に絡めとられてるん!?
 なんで…どうして!?

 皆!大丈夫!?


 「「「「……………」」」」

 「何で?…如何して返事してくれへんの?…い、生きてるんやろ?」

 「「「「…………」」」」


 微動だにせぇへん…何で…


 『Guten Morgen Meister.』


 へ?…何や此れ?
 黒い蛇の塊り……アンタ、誰?アンタが皆をこないしたの?

 なんでや!
 何でこないなことするの!?返して!今すぐ皆を返して!!!


 『Jawohl.』


 へ?ちょ、ちょっと何する気や!


 『――――――』


 コアモードで返還?…ちゃう!私が言ってるのはそう言う事とちゃう!!


 ――ギュイン…!


 な、なんやの?その鋭い槍みたいな枝は…


 『――――――』


 ま、まさか…!
 止めて!!やめてぇぇ!!



 ――ドス…!


 「!!!」


 ――シュゥゥゥ…


 「そ、そんな…」

 ふ、服だけ残してみんな消えてしもた…!
 あは…あはは…嘘や…こんなん嘘やろ?

 ぜ、全部私が見てる悪い夢なんやろ?…そ、そうに決まってるわ。
 絶対に…絶対に嘘やーーーーー!!!!


 『Anfang.』


 シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ……お願い戻って…


 『――――――』


 皆…なのはちゃん、フェイトちゃん、星奈ちゃん、雷華ちゃん、王様……


 『――――――』








 ――――――









 Side:ルナ


 く…堅い!!
 仕方ない…少々危険だが…

 バスターレイジ!!
 『Buster Rage.』


 広域魔力攻撃で吹き飛ばすしかない!
 …無事か皆?


 「うん、大丈夫。」

 「私も。」

 「問題ありません。」

 「漸く動けるようになったわ…」

 「僕も全然平気!」


 ならば良かった。
 騎士達は……居ないか。

 いや、居ないどころか…!


 「あれは…!」

 「闇の書の意志…」


 目覚めてしまったか…暴走した『私』が。


 「…また、全てが終わってしまった……ナハトよ、タダの防衛プログラムであるお前を責めはしない…
  だが、終焉が訪れるその時までは……暫し大人しくしていろ。」


 ――ギュル…


 な!馬鹿な…!
 暴走したナハトが腕部武装に姿を変えた…?

 この差異も世界の違いか…



 いずれにしても話の通じる相手では無いが…如何する?


 「だとしても諦めちゃ駄目だよ。」

 「ふ、お前ならそう言うと思ったよなのは。」

 皆も同じだろう?


 「「「「勿論!」」」」


 いい返事だ。
 じゃあ、行こうか!最悪のこの状況をひっくり返しに!!


 「「「「「了解♪」」」」」



 この世界の『私』は途轍もなく強そうだが…だからどうした。
 私達が力を合わせれば不可能など無い。


 お前の苦しみと悲しみ……今ここで取り除いてやる!












  To Be Continued…