Side:プレシア


 目の前のこの結界…ベルカ式の恐ろしく強固な結界だわ。
 管理局の武装隊員も頑張っているけれど、駄目ね。
 生半可な攻撃ではこの結界を破るどころか傷一つ付ける事すら出来ない筈。

 其れこそ、さっき突入したフェイト達の様な『圧倒的魔力』で突き抜けない限りは。
 その突き破られたところですら瞬時に再構築されてしまっているのだけれど…

 「歯痒いわね…」

 対応策があっても其れが出来無いと言うのがこれ程までに悔しいなんてね…
 もしも私のリンカーコアが正常で魔法が使えるなら、この結界も一撃の下に粉砕出来るというのに…!

 恐らくはリンディ提督もこの中に居るはずだわ。
 彼女の魔力も、騎士達にとっては魅力的なモノのはずですもの。

 「フェイト…」

 きっと騎士達は止まらないわ。
 でもお願い、彼女達を救ってあげて…貴女とあの子達なら其れができる筈。

 騎士達に纏わり付く『悲しみの連鎖』を断ち切ってあげて。
 頼むわよフェイト…なのはちゃん…皆…










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福43
 『The Sky Dancing』










 No Side


 リンディを護るように陣を組む、白夜の主と白夜の騎士と雷光の魔導師。
 其れに対峙する、群雲の騎士。

 正に一触即発の状況だ。

 「…矢張り退く気は無いか、将よ?」

 「無論だ。我等は止まれぬ…例え蛇蝎の如く忌み嫌われようとも、我等は進む事しか出来ぬのだ、月の祝福よ。」

 問うルナと、答えるシグナム。
 矢張り如何有っても、言葉での解決は望めそうに無い。

 「主を思うお前達の気持ち…痛いほどに良く分る。だが、本当に争うしか道は無いのか?」

 「時に余裕があれば、或いはそう言った道を選べたかも知れん…だが、もう時間は無いのだ!」

 シグナムの言葉からは嫌でも『必死さ』が伝わってくる。
 騎士達には真に時間が無いのだと分かってしまう。

 だが、それが分ってもなのはは黙っていられない。

 「けど、時間が無くても…争わない道を今から選ぶ事だって出来るよ!
  教えてよ、何がどうなってるのか!言ってくれれば私達だって力を貸せるかもしれないんだよ!?」

 「うるせぇ!!テメェ等と話してる時間すらアタシ等には勿体ねぇんだ!
  大体、こっちはテメェ等には用はねぇ!!腕の一本でも折って、病院で大人しくしてろぉ!!」

 如何有っても通じない。
 其れの先陣として、ヴィータがなのは目掛けて突っ込んでくる。


 闇の書はその特性上、同一人物からの魔力蒐集は1度しか行えない。
 つまり、既に魔力を蒐集したなのは達は、騎士達からすれば相手にする必要は無く、現れても邪魔なだけなのだ。


 故にこの攻撃。
 立ち塞がるなら砕いて進むのみなのだ、今の騎士達は。

 ヴィータの突撃を合図にするかのように、シグナムとザフィーラも高速で向かってくる。
 シャマルはシャマルで、結界の外に移動し、しかし闇の書が蒐集した魔力を使って結界内部に数体の魔導生物を作り出して行った。

 「レイジングハート!」
 『All right.Load Cartridge.』

 なのはも覚悟を決めての戦闘態勢。
 同時にルナはシグナムに、フェイトはザフィーラに、星奈、冥沙、雷華はシャマルが召喚した魔導生物に夫々向かって行く。
 リンディは、自身の防衛をしながらサポート及び、現場での指揮にあたるようだ。


 「うらぁ!ぶちくだけぇ!!」

 『Protection.』

 そして、戦闘開始のゴング代わりにヴィータの一撃がなのはのシールドを直撃する。
 ハンマーとバリアがぶつかり、魔力のスパークが発生する。

 「ぐ…堅ぇ…!!」

 「く…えぇい!!」

 「なにぃ!?」

 この攻防はなのはが勝った。
 初のカートリッジ使用だが、其れによって強化された障壁はヴィータの一撃を防ぎきったのだ。


 「にゃろぉぉ…!ぶっとべぇ!!」
 『Schwalbefliegen.』

 押し返されて距離が開いたのと同時に、ヴィータの魔力付加の鉄球が撃ち出されなのはに向かう。
 勿論、なのはも黙っていない。

 「誘導弾…!だったら…アクセルシューター!」
 『Accel Shooter.』

 其れに対して強化された新たな誘導弾で対抗。
 撃ち出された無数の魔力弾と鉄球はぶつかり、爆発し煙がたち込める。

 「ねぇ、お願いだから話を聞いて!」

 「話を聞けだと?ヤル気の新型デバイス携えて笑わせんじゃねぇ!!」

 「今日もこの前も、行き成り襲ってきた子が其れを言う!?レイジングハート!!」
 『All right.』

 余りにも身勝手な言い分に、若干の怒りを覚えつつなのははレイジングハートを変形させる。
 其れは新たな姿。
 近接戦専用の形態『スティンガーモード』。

 さながら『突撃槍』の如き形となったレイジングハートを構え、なのははヴィータに突撃する。

 「なに!?」

 「貫く!!」
 『Divine Stinger.』

 瞬間加速を最大限に利用した超高速の突きをヴィータは紙一重でかわす。
 だが、其れもなのはの計算の内。

 「はぁ!!」

 「!!」

 突き出したレイジングハートをそのまま横に振っての薙ぎ払い攻撃。
 美由希によって徹底的に鍛えられた近接戦闘は伊達ではない。
 突きが避けられた場合の対処法などは既に分っているのだ。

 「く…テメェ何時の間に近接戦まで覚えやがった!!」

 「貴女に負けてから、今までの間にだよ!」

 正に刹那のタイミングで薙ぎ払いをアイゼンで防いだヴィータだが、この短期間でなのはが近接戦闘を身につけてきたことには驚いていた。

















 一方で、ルナとシグナムの戦闘も過熱している。

 「ふっ!」

 「はぁ!!」

 近距離を得意とするシグナムと、不得手は無いが最も得意なのは近距離のルナ。
 片刃の長剣と、強固な籠手がぶつかり、クロスレンジ特有の乾いた金属音が鳴り響く。

 幻槍雷破!
 『Thunder Break.』

 「む…レヴァンティン!」
 『Schlangebeissen.』

 僅かに距離が開けば、即座にルナが誘導弾を発射し、しかしシグナムも其れを的確に叩き落す。
 最高峰の戦い――そう言って差し支えない攻防だ。

 「矢張り手強い…しかも姿を変えずともこれ程とはな。…前よりも更に力を増したか?」

 「前回までの私は、自分でも気付かない内に疲労を溜め込んでいたらしい。挙句にはあの強化が止めだったようだ。
  だが、もう大丈夫だ。疲れは癒したし、何よりも己自身を強化してきた…力に喰われないようにな。」

 相も変わらず凄まじい力のルナに、改めて舌を巻くシグナムだがその表情は何処か嬉しそう、或いは楽しそうに見える。


 実際に己が限界を出せる相手というのは嬉しいのだろう。
 そして同時に、ルナを『強敵』として改めて認識する。

 「既に知っているようだが、改めて名乗ろう。ヴォルケンリッター『烈火の将』シグナムだ。お前は?」

 その証として改めて名を名乗り、ルナの名を問う。
 此れは騎士としての礼儀だ。

 「…ルナだ。」

 其れを汲み取り、ルナもまた己の名を告げる。

 「ルナか…良い名だ。ふ…こんな状況でなければ心踊る戦いだが、其れを楽しむ時間は無さそうだ。
  この場を切り抜けるためとは言え、殺さずに済ます自信が無い…この身の未熟を、許してくれるか?」

 「構わない、勝つのは私だ。」

 「ふ…そう来なくてはな!」

 再び近距離でぶつかる。
 振り下ろされたレヴァンティンでの一撃を左腕で防ぐルナ。
 カウンター気味に放たれた拳打を鞘でガードするシグナム。

 「少しばかり本気を出すぞ将!」

 魔力を高め、ルナがその姿を変える。
 同時にその身の魔力が大きく上昇する。

 「来たか…レヴァンティン!」
 『Ja. Nachladen.』

 シグナムもカートリッジをロードし力を高める。
 超一流同士の戦いは更なる高みへと上るようだ。

















 フェイトとザフィーラの戦いは一言で言えば『拮抗状態』だった。
 ザフィーラはフェイトのスピードを捕らえきれないが、フェイトもザフィーラに決定的な一撃を入れられない。


 如何に正確に撃ち込もうと、鋭く切り込もうともその全てが堅牢強固な防御に阻まれ届かない。
 だが、ザフィーラもまた矢継ぎ早に繰り出される迅雷の如き鋭い攻めに防戦になり反撃に移れないで居る。

 言うなれば此れは『最強の矛vs最強の盾』とも言うべき戦い。
 完全な削りあいになりそうだ。

 トライデントスマッシャー!
 
『Trident Smasher.』


 「むぅぅ…烈鋼牙ぁ!!」

 繰り出された3連続の直射砲を叩き返すが、叩き返した先には既にフェイトの姿は無い。
 放ったと同時に高速移動し…

 「ハァァ!!!」

 完全な背後から裂帛の気合と共に一撃!

 「ぬおぉぉぉぉ…!」

 そして其れすらも防ぎきるザフィーラ。
 決定打にならなかったと見るや、即座にフェイトは距離をとる。


 「凄まじいスピードと鋭い攻めだ…此れだけの力を持ちながら前回シグナムに落とされたのは、矢張り心が乱れていたのか…?」

 「…今日は落ち着いてます。其れに練習も沢山してきました。」

 ザフィーラの問いにフェイトは冷静且つ簡潔に返す。
 美由希との特訓で、フェイトは戦闘技術よりも精神が鍛えられていた。

 その精神は小揺るぎもしない。


 「この短期間で…賞賛に値するな。我等の将ならば喜んで戦いに望むだろうな。
  だが、此処は通さん!我は『盾の守護獣ザフィーラ』!何人たりとも先には進ませぬ!」

 「それでも進みます。その先にこそ未来があるから…!」

 再び激突する両者。
 だが、其処には一切の迷いもなにも感じ取れはしなかった。
















 そして冥沙、星奈、雷華の3人。

 「魔導生物如きが…頭が高いわ!!切り裂き滅ぼせ、カリバーン!

 「集え焦熱、全てを焼き消し灰燼と化せ…サラマンダーストリーム!

 冥沙と星奈が、夫々デバイスの新形態で魔導生物を撃滅!
 冥沙の細身の長剣と、星奈の重厚な突撃槍は実に使用者にあっているようだ。


 「あ〜はっはっは!!やっぱし僕は強靭・無敵・最強!お前等なんて粉砕・玉砕・大喝采だ〜〜!!
  喰らえ〜〜!パワー極限!!雷刃封殺爆滅剣〜〜!!!

 そして雷華は何時も通り。
 しかし、3人の中では一番魔導生物を滅しているあたり、矢張りその戦闘能力は馬鹿にできない。

 「相変わらずだのう雷華は…。
  まぁ其れは其れとしてだ…一体騎士どもはどんな世界でどんな生物から魔力を蒐集したのだ!?」

 「不明ですね。ですが高い魔力を持った生物を手当たり次第…で間違いないでしょう。」

 冥沙の疑問はある意味で尤もだ。
 なんせ現れた魔導生物たるや、金色の三つ首の竜に、八つの首の大蛇、果ては三つ首の青い目の白龍と来た。
 此れだけの生物を具現化とは、一体何処で何から蒐集したのを疑問に思っても仕方ない。

 無論、魔導生物如き冥沙達の敵ではないのだが…

 「まぁなんでも良い…ナノハの進む道に立ち塞がる輩は滅するだけよ!」

 「えぇ、勿論です。」

 「ナノハの邪魔する奴は、全部僕がやっつけるモンね〜〜!!」

 白夜の騎士に迷いは無い。
 特訓で力を増した3人の前には、如何に強力な魔導生物とて塵芥でしかない。

 それ以上に、『ナノハの騎士』としての誇りがこの3人にはある。
 召喚された魔導生物では其れを超えることは不可能だろう。

















 リンディは一個艦の艦長らしく冷静に戦局を分析していた。
 勿論分析しつつ、夫々の戦いに誘導弾などでの支援は怠らない。


 ――私の反応が消えたのはクロノも感知してる筈…そして結界発生からの経過時間…そろそろね。


 艦長という高い地位に居るからこそ、次の管理局の――引いては息子のクロノの行動も読める。
 自身の反応消失と、結界発生からの経過時間を考えると、事件担当のクロノ率いる武装隊が出てくるのは間違いない。

 故にリンディは、時間稼ぎ的な魔導行使に行動を抑えていた。
 武装隊が来れば、騎士達はこの場を去るしか手は無い。

 去らずとも、このメンバーに武装隊が加われば騎士達の捕縛も可能だ。
 2手3手先を読みながらリンディは支援攻撃を続けていた。

















 其れとは逆にシャマルは結界の外で渋い顔をしていた。
 奇しくも彼女はリンディと同じ事を考えていた。
 尤もその先の行動指針はまるで異なるが。


 ――拙いわね…このままじゃ管理局員が現れて総崩れよ。…仕方ないわね、皆聞こえる?


 最悪を想定し、仲間に念話で通信。


 ――直に管理局がこの場に現れるわ。彼等と正面切ってやりあうのは得策じゃない。
    結界内部に閃光弾を出すから、その光に乗じて脱出して。


 即座に離脱策を打ち出し準備をする。
 この辺の対応の速さは、流石ヴォルケンリッターの参謀格と言ったところだ。





 「…了解だ。ルナよ、この勝負は預けるぞ!」

 「将?…成程、戦略的撤退か…」





 「ちぃ…仕方ねぇ。オイ!」

 「え?」

 「ヴォルケンリッター『鉄槌の騎士』ヴィータだ!
  話がしてんぇなら何れこっちから出向いてやる!だから今はアタシ等の邪魔すんじゃねぇ!!」





 「撤退か…どうやらお前と決着を付けることは出来ないようだ。」

 「そう、ですか…少し残念です。」



 シャマルの撤退宣言を聞いた騎士達は即座に離脱準備。
 そしてその直後…



 クラールゲホイル。



 結界内部に凄まじい閃光と轟音が発生する。
 閃光は兎も角、この轟音が凄まじい。

 全員とっさに耳を塞いだから良かったようなものの、そうでなければ鼓膜はお陀仏だっただろう。




 約30秒…結界消滅は消滅し騎士達の姿も無い。
 まんまと逃げられたようだ。

 だが…



 「エイミィ、転送航路は!?」

 『バッチリ補足中!逃がさないよ!!』

 直後に現れたクロノ率いる管理局武装隊が騎士を追跡。
 エイミィのサポートありでは、騎士達でも逃げ切るのは骨が折れるだろう。








 ――――――








 Side:ルナ


 …閃光と轟音にまぎれて消えたか。
 尤も、クロノ執務官から逃げ切るのは並大抵ではない筈だ。

 まぁ、この場はリンディ提督の魔力が蒐集されなかった事で善しとしよう。


 しかし管理局に補足されるほどまでに強力な結界を張っての魔力蒐集…何故だ?
 まさか…元の世界の時以上に『彼女』は闇の書に侵食されている…?


 管理局が出て来た以上、今までの様に魔導師をターゲットにするのは難しい筈だ。
 だとしたら、騎士達が向かうのは『管理外世界』の魔導生物に他ならないか…

 だがそうなると1回の蒐集量は多くは無い。

 結局のところ決戦は聖夜か…


 まぁ良い。
 私のすべきことは変わらない。

 この世界の騎士と 『私』を救う。

 なのは達と一緒なら決して不可能ではないからな。



 何れにせよ、最終決戦は聖夜――12月25日だ。
 其れまでに、さらに己を鍛えなくてはな…












  To Be Continued…