Side:はやて


 「でな?結果的には巧くいったんやけど、あの時のシグナムの顔は、本人には悪いけど見物やったわ♪」

 『そうなんだ。ちょっと想像できないかな?』


 電話の相手は、前に図書館で友達になった『月村すずかちゃん』。
 電話やったら王様や、前に病院で会った蒼髪の子でも有りやけど…その2人の電話番号分りませんでした!
 翠屋に電話して王様に繋いでもらうのは、お店に迷惑やろからなぁ…

 そんな訳で、最近はすずかちゃんが一番の電話相手や。


 『あ…もうこんな時間。随分長く話しちゃったね。』

 「ホンマや。あんまし長く話してもアカンし、又今度な?」

 『うん、又ね♪』


 はぁ、すっかり話し込んでしもた。
 7時半か…そろそろ夕食やな。

 って、そうなるとシグナム達遅いなぁ…どないしたんやろ?


 ――ウィン


 「あ、闇の書。おかえり、皆と一緒や無いの?」

 「(フルフル)


 そっか、1人か……ドナイしたんやろなぁ?お鍋の準備できとるのに…
 まぁ、気長に待とかな。
 今までは誰かが帰ってくるまでご飯待つなんて事はあらへんかったから、これも家族出来た証拠やし。

 その家族をくれた闇の書には感謝しても仕切れんな♪


 「………」――ナデナデ

 「あはは、くすぐったいて闇の書♪」

 間違いなく、闇の書には意思が有る。
 うん、闇の書も私の家族や…其れは間違いないな…










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福44
 『夫々の決意と想い』










 Side:ルナ


 「「「闇の書?」」」


 戦闘を終え、フェイトの自宅に集まった私達はリンディ提督の話を聞いていた。
 闇の書が活動を開始したことや闇の書の危険性についてが主なことだ。

 私やなのやは知ってはいるが、フェイトとアルフ、リニスは知らないようだな…当然だが。
 プレシアは――まぁ、知っていても不思議は無いか。


 「基本的にはベルカ式のストレージデバイスだ。
  なのはの白夜の魔導書、冥沙の……そう言えばお前の其れは名前あるのか?」

 「うむ、分らん。と言うか有ったのだろうが思いだせん。

 自信満々に言うな。

 …まぁ良いか。
 兎に角、この2冊の魔導書に酷似した見た目のデバイスだ。

 あの騎士達は、その内部に存在している『守護騎士プログラム・ヴォルケンリッター』――私や星奈達と同じような存在と思ってくれれば良い。


 「騎士さん達が魔力を集めているのは、やっぱり闇の書の完成の為なの?」

 「其れは先ず間違い無い。リンディ提督もその身の魔力を狙われたと見る方が…まぁ自然だ。」

 「そして、蒐集は闇の書の主の命の下に行われるのだが…今回に限っては奴等の独断よ。自らそう言っておったからな。」

 「「「独断?」」」

 「って言う事は、騎士さん達が勝手にやってるって事なの?」


 そうなるな。
 尤も、騎士達は主の命には忠実だ。
 其れに反してでも蒐集を行って居ると言う事は『蒐集せねばならない状況』に置かれていると見て間違いない。


 …恐らくは書の主が、闇の書の浸食を受けているんだろう。


 「闇の書の侵食?」

 「どう言う事だい?」

 「闇の書は魔力を蒐集し、666項全てが埋まって完成となる。
  が、起動後に一定期間の蒐集が無い場合には、有ろう事か己の主の魔力を生命力を喰らい始めるんだ。」

 「そんな馬鹿な…!如何に封印指定のロストロギアと言えど持ち主に害を与えるなど…」


 信じられないだろうが事実だよリニス。
 その異常性故にアレは『呪われた魔導書』等と呼ばれているんだ。

 そして、その呪いの根幹こそが自動防衛プログラム――ナハトヴァール。
 何代目の持ち主が付け加えた物かは分らないが、其れが全ての元凶だ。

 加えて言うなら、書の完成は=ナハトの完成――呪いの発動に他ならない。


 「待っとくれよ、そんな危険なものが内蔵されてて、そいつが持ち主を侵食してるんだろ?
  で、書を完成しても呪いは発動する……あのデカブツ達は其れなのに魔力の蒐集が持ち主を助ける事だって思ってんのかい?」

 「…覚えていないんだ騎士達は、歴代の闇の書の主の末路と、書の完成で自分達がどうなるのかを…」

 「如何言う事?」


 …騎士達もまた、最終的には書に喰われるんだ。


 「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」


 闇の書の蒐集が600項を越えると、ある日突然ナハトが活動を開始する。
 そして、書の完成の為に騎士達を破棄しその魔力を蒐集して己を完成させ……暴走する。

 全てが終わったあと、所は次なる主を求めて転生する。
 その際に騎士達の記憶の大部分は失われてしまうんだ。

 それも、よりにもよって一番覚えていなければならない部分を失うと言うんだから性質が悪い。


 「…此れは、思った以上に深刻ね…けど、此れで11年前の暴走の話しをした時、彼女が怪訝な顔をしたのが分ったわ。
  彼女にしてみれば11年前の闇の書の暴走なんて覚えていない事だったのよね…」

 「リンディ提督?」

 「闇の書って11年前にも…?」

 「えぇ…管理局は当時の持ち主を捕らえたのだけれど、その持ち主と共に護送中にね。
  管理局は封印の方法を編み出してはいたのだけれど、其れに必要なデバイスが未完成だったの。
  結果として1人の局員の命を犠牲に書はアルカンシェルで葬られたわ。
  でも、もしもあの時にこのデバイス――デュランダルが完成していたらと思う事は今でもあるわ…」


 …矢張り、この世界でも11年前の暴走は起きていたのか。
 と言う事は、リンディ提督の夫は……


 「ルナ?」

 「なのは…いや、何でもない。」

 ふぅ…切り替えろ。
 彼を殺した罪は消えないんだ、其れを含めて咎は全て背負って生きて行くさ。

 ならば贖罪の意味も含め、この世界の闇の書を私の手で正常に戻してやら無ければな。


 「何れにしても、騎士達との対話は望めないと見ていいでしょうね。
  書の主との接触も……騎士達を逆撫でしかねないから控えた方がいいわね。」

 「母さん…」

 「お気持ちは察しますが、プレシアの言うとおりですよフェイト。
  如何に此方に対話の意志があっても、相手に其れが無いのであれば先ず不可能でしょう。」

 「彼奴等の主に下手に接触して、無用な争いと言うのも面倒極まりないしの…」


 まぁ、そう言う事だ。
 其れに、少なくともこの地球で騎士達が私達を襲撃してくる事は無い。
 今日の襲撃で完全に管理局には捕捉されたはずだ、彼等の目の届く範囲での魔力蒐集は無いと見ていい。
 これからは管理局の目の届かない『管理外世界』での活動がメインになるだろうからな。


 「うん…多分そうなると思うの。」

 「けど、もしも又襲ってきたらその時こそ僕が全員やっつけてやる!」


 はは、頼もしいな雷華は。



 さてリンディ提督、貴女はアースラに戻る心算なんだろう?


 「あら、ばれた?本当だったら休暇はマダマダたっぷり残ってるんだけど…ゴメンね皆、私お仕事に戻ってもいいかな?」

 「其れは…構いませんが…」

 「あの、私達も手伝わせてくれませんか?」


 ふふ、矢張りな。
 なのはとフェイトがこのまま黙っているなんて有り得ない。
 勿論私もだ。


 「私も手を出させていただきます。」

 「我もだ。闇の書の呪い如き、王たるこの身の無敵の力で撃ち砕いてくれるわ!」

 「僕だって!ナノハにへいと、王様に星奈ん、クロハネがやるんだったら僕だけ大人しくはしてられない。」

 「戯け。うぬは何時だって大人しくなど無かろうが。」

 「えっへん♪」

 「褒めておらぬわ!」


 全くお前達は…だが、お陰で空気が軽くなった。
 さて、全員協力する気満々だが…如何するリンディ・ハラオウン提督殿?


 「……ふふ、皆でお願いしてみましょう♪」


 そう、来ないとな♪



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・


 『分りました。では艦長は明日よりアースラに復帰と言う事で。
  なのは、フェイト、ルナ、星奈、冥沙、雷華は嘱託として現地で待機という形で。』


 「ごめんなさいねクロノ、無理言って…」

 『いえ…では此れで。くれぐれも無理だけはなさらないように…』

 「分っているわ。…それじゃあ。」


 嘱託扱いだが何とかなったな。
 と言うかクロノ執務官が出たと言う事は騎士達は逃げおおせた訳か…いや、分っていた事だが。

 矢張り個人よりも組織力があるならばそちらの方が良い場合が多いからな。
 私と星奈達の魔力を蒐集している以上、この世界の『暴走した私』は相当に手強いはずだ…戦力が多いに越した事はない。



 何が起ころうともお前達は必ず救って見せるぞ将――そして『リインフォース』よ…!








 ――――――








 Side:シグナム


 「…そうか、待ちくたびれて眠ってしまわれたか…」

 この次元世界に転移した事で管理局の追っ手を撒いたが…随分時間を喰ってしまった。
 転移の際にシャマルには先に家に戻ってもらったが…主はやては待ちくたびれて眠ってしまっていたらしい。

 …申し訳ない事をしてしまったな。


 「…明日、はやてに謝らねぇと。」

 「そうだな…」

 「なぁ、シグナム…あいつに何聞かれたんだ?」


 あぁ、昼間の事か?
 …闇の書の事を聞かれた――何の目的で蒐集を行っているのかとな。


 「何のって…アタシ等は主の命令に従って蒐集するだけだ――今回は違うけど。
  少なくとも今まではそうだったんだ、それ以外にあるかよ。」

 「そうだな。」

 確かにそうだが…矢張り引っかかる。
 何か途轍もなく大事な事を忘れているような…?

 其れに何故だ?
 アイツの…ルナのことが如何して此処まで気になる…?





 ――誰が付けたものなのか、この呪いの鎖は私から外す事が出来ない…そのせいでお前達には辛い思いをさせてしまうな…





 「!!!」

 「どうした?」

 「いや…なんでもない。」

 そうだ…思い出した!
 アイツは闇の書の管制人格であるアイツとよく似ているのだ…

 いや、似て居るどころではない。
 瓜二つ…まるで双子だ…


 単なる偶然にしては似すぎている…容姿だけでなく声まで同じとは流石に…

 大体にして闇の書はまだ完成していない。
 アイツが現れるはずは無いが…






 ま、まさか…!
 いや、そんな馬鹿な…常識的に考えれば有り得ない…!

 だが、無限に転生を繰り返す書の機能ならば或いは…


 それに、其れならばアイツが私達の事を知っているのも、蒐集を止めようとするのも合点が行く。

 何よりもあの圧倒的な強さは…



 あくまで仮定、根拠の無い絵空事だが……








 ルナよ、お前はまさか…




















 ――『闇の書の意志』なのか…?












  To Be Continued…