Side:なのは
「えぇ~~~~い!!」
「随分速くなった…けど、お父さんやリインに比べれば全然遅いよ!」
只今、アースラの訓練室を使ってお姉ちゃんと模擬戦の真っ最中。
この前の戦闘で思い知らされた『近接戦闘の弱さ』。
誘導弾と砲撃を徹底的に磨いて相手を制御するって方法も考えたけどそれじゃきっと駄目。
勿論自分の得意分野は更に磨きをかけるけど、苦手な部分も克服しないと何時かきっと同じ目にあう。
だから、私はお姉ちゃんに近距離での戦い方を教わってるの。
今までお父さんから教わってた『護身術』とは違う『実践的な武術』を!
何時もルナと訓練してるお姉ちゃんなら魔導師相手でも大丈夫だと思ったのもあるの。
私は今は魔法は使えないけど、其れが良い。
魔法無しでも戦える様になれば、リンカーコアが回復した後なら…!
「長物は、懐に入り込まれた場合に要注意!」
「え?きゃぁぁぁぁ!!!」
踏み込んできたお姉ちゃんの一閃…!!
あう…降参です。
魔法少女リリカルなのは~白夜と月の祝福~ 祝福41
『不屈の心はこの胸に』
「大分動きは良くなってきたね。皆の上達速度にはお姉ちゃん吃驚だよ。」
「お褒めに預かり光栄ですが…」
「こうもコテンパンにやられ続けると些か自身を無くすのう…」
「ミユキ滅茶苦茶強い~~!!」
「魔法がないと此処まで差が出るんだ…」
だよねぇ…。
『訓練室を自由に使って良い』って聞いた後、家に帰って早速話すとお姉ちゃんが稽古つけてくれる事になったの。
お兄ちゃんも来るって言ってたけど丁重にお断りしたの。
だって、私達が『有名人』て言うマリーさんの話は本当だったみたいで写真撮影とかサイン求めてくる人が居るんだもん。
女の人なら兎も角、男の人だったらお兄ちゃんは脊髄反射で攻撃して管理局さんに逮捕されちゃうの…
まぁ、お姉ちゃんはお姉ちゃんで私達をかる~~く倒しちゃったりしてるから数日間の訓練でファンが出来てるみたいだけど…
其れとは別にやっぱりお姉ちゃんは凄い。
最初に私達全員と模擬戦やった後で、誰にどんな近接武器があってるのか即座に見抜いちゃうんだもん。
雷華とフェイトちゃんは元々が近接型だから戦闘技術の向上だけなんだけど、私と星奈と冥沙は遠距離型だから武器からだったの。
で、お姉ちゃんの見立てだと私と星奈は『槍術』『棒術』が、冥沙は『剣術』が合ってるって。
私と星奈の場合はデバイスの形状から納得だけど、冥沙は吃驚。
でも砲撃魔法に『アロンダイト』とか『エクスカリバー』って神話の刀剣の名前がついてたから有る意味ピッタリなのかな?
「まぁ、其処は経験の差かな?今私が魔法覚えても皆には敵わないのと同じだよ。
魔法とか無しの近接戦闘だったら、この場の誰よりも私に一日の長があるからね。」
「にゃはは…そうだね。けど、お姉ちゃんのお陰で大分近距離での武器の使い方が分ってきたの。」
「確かに、短期間でのこの上達…ミユキの指導が素晴らしいとしか言い様がありませんね。」
「あはは、照れるなぁ。まぁ、可愛い妹達とそのお友達の頼みと有れば自然と熱も入るのかもね。」
お姉ちゃんは謙虚なの♪
でもだから良いのかな?もっともっと教わりたい、教えて欲しいって思えるから。
訓練室が使える時間は…うん、まだ有る!
お姉ちゃん、もう1本お願いします!
「その意気や好し!遠慮しないで掛かっておいで。」
「はい!!」
ルナとレイジングハート達が元気になるまでに絶対に強くなる!
今度あの人達に会った時に、絶対負けないためにも話を聞いてもらうためにも…!!
――――――
Side:マリー
「さて、どうしたモンだろうね~?」
5基のデバイスとルナさん。
レイジングハート達は基本フレームの大幅強化と、ナノハさん達からの要望を加えればいい。
レイジングハートとバルディッシュからは直々に『カートリッジシステム』の搭載要望が有ったけどこれも大丈夫。
ルシフェリオンとバルニフィカスの構造を改良した上で転用すれば問題ないから。
エルシニアクロイツは根本から作り直して杖と剣の形態変化が出来るようにすれば問題ない。
最大の問題はルナさん。
ブライトハートの記録映像に残ってた、ルナさんの異常なまでの強化状態。
多分此れがルナさん本体に負荷を掛けていたんだと思う。
「どうしたモンかな~~?」
次世代のユニゾンデバイスの基本フレームを転用してもあの出力に耐えられるかどうか…ん?
「基本フレーム?」
そうだよ。
ルナさんはあくまでユニゾンデバイスの基本フレームの『まま』で強化状態を使ってたんだ!
だったら今のルナさんの身体そのものは弄らないで次世代のユニゾンデバイスのフレームを強化フレームとして組み込めば…!
「よし、閃いた!待っててねルナさん!私の持てる力全てを注ぎ込んで貴女を『治療』してみせます!」
やることが増えたな~~…
でもなのはさん達も訓練頑張ってるし、私も弱音は吐けない!!
よ~~し!!
「あの、売店ですか?技術部のマリエル・アテンザです。あの栄養ドリンク10箱ほど頂けますか?
はい、はい。お代は必要経費としてレティ提督のほうに請求してください。無理な場合はリンディ提督で。宜しく。」
さぁて、徹夜作業といきますか!
――――――
Side:プレシア
「闇の書…」
「えぇ、レティに確認を取ったから間違いないわ。クロノが担当している今の事件は、闇の書に関係している事らしいの。」
執務官がね…。
この間のフェイト達の事を見て予測はしていたけれど、矢張り騎士達が動き出したと見て間違いないわ。
それで、私に何を聞きたいのリンディ提督?
まさか只『闇の書が起動し、活動している』と言う事を言いに来た訳ではないでしょう?
「流石に察しがいいわね。…単刀直入に言うわ、闇の書の事はドレだけ知っているのかしら?」
「本当に単刀直入ね…まぁ、私の知っている事は管理局の『無限書庫』で調べれば分る事が多いと思うわ。
そうね…アリシアの蘇生方法を模索していた時に『闇の書』の魔力蒐集能力に目を付けた事があったわ。
結局は何処にあるかも分らないロストロギアは早急に諦めたのだけれど…その時に知った事で良いなら。」
「それでも良いわ。教えてもらえるかしら?」
分ったわ。
アレは元々は封印指定を受けるような代物じゃないの。
無限の転生機能と多種多様な魔法・知識・技術を集積しながら主と旅をする魔導書だった。
けれど、その機能のみでは満足出来なかった何代目かの主が悪意ある改変を施し……そして魔導書は壊れた。
最大の問題は後付けの自動防衛システム『ナハトヴァール』。
此れが書を侵食し、異常動作を起こし――結果、無害な魔導書は完成と同時に主を喰い殺す『呪われた魔導書』と成ったのよ。
「私が知って居るのは大体此れくらいね。」
「そう…で?」
「『で?』と言うのは?」
「其れはあくまで闇の書の過去よね?貴女は『今回の闇の書』についても何か知っているんじゃないかしら?」
流石に察しがいいわね?
その通り――此度の闇の書の主の事を知っているわ。
「何ですって!?」
「此処からは他言無用でお願いできるかしら?管理局員は勿論、フェイト達にも。」
「フェイトさん達にも?」
えぇ、フェイトやなのはちゃんが此れを聞いて先走った行動を取るとは思えないわ。
けれど、『短絡的』な局員が聞いたら闇の書の主に独断で何かしないとも限らないでしょう?
若しそうなれば、騎士達は管理局に牙を剥き…
「管理局は火傷では済まない痛手を被るか…」
「そう言う事。」
正直言って私の名を語っていた『彼女』に消される程度では真正ベルカの騎士の相手は務まらない。
もしも騎士達に対抗できる魔導師が居るとすればフェイトとなのはちゃん達…
「そしてルナさんね?」
「そうよ。…正直に言って彼女の力は計り知れないわ。
私も管理局時代に『限定SSランク』を受けていたけど、格がまるで違う。
彼女の力は……そう、古代ベルカの『聖王』『覇王』『冥王』すら凌駕すると言っても過言ではないわ。」
「其処まで…!」
だからこそ、そのルナさんが意識不明になるまでやられた事に危惧を覚えるのだけれどね。
其れは兎も角として、今回の闇の書の主……容姿だけならば貴女も良く知っている人物よ?
「私も?」
「えぇ。此度の闇の書の主、名は『八神はやて』。海鳴在住の9歳の少女。
そしてその容姿は、なのはちゃんの臣下が1人――『高町冥沙』そのものよ。」
「冥沙ちゃんに…?じゃあ、騎士達はその子の命令で?」
其れは考え辛いわ。
入院中にその子と騎士達とも話をしたけれど、少なくとも『八神はやて』に魔力蒐集の意志は無いわね。
「…つまり、騎士達の独断と言う事?」
「恐らくはね。」
略確実に『蒐集せざるを得ない状況』に陥ったからでしょうけれど。
けれど、蒐集を続け『闇の書』を完成させても、その先にあるのは悲劇だけ…
あの子は其れを知らないだろうし騎士達もその事を『覚えていない』。
仮に『闇の書の真実』を話したとして騎士達が聞くかどうか…
いずれにしても私達に出来る事は殆ど無いわ。
情けないけれど、あの子達に頼らないとね…
「そうね…」
「信じましょうリンディ提督。フェイトを、なのはちゃんとルナさん達を…」
フェイト…お願い、騎士達を止めて…そして救ってあげて。
全てが手遅れになる前に…!
――――――
――数日後 時空管理局・デバイスメンテナンスルーム
Side:なのは
え~っと…あの、大丈夫ですかマリーさん?
物凄いクマが出来てますけど…
「あはは…大丈夫大丈夫…ちょっと張り切りすぎちゃっただけだから。
其れよりも皆は如何?もう大丈夫なの?」
はい!
もうリンカーコアも問題ないって、前よりも魔力が増えてる位だって言ってました。
「はぁ~~若さだねぇ…。ま、良いや。こっちも皆の『治療』が終わったところだよ…会ってあげて?」
マリーさんが視線を移した先には布が張られた金属製のトレイ。
その上に有るのは私達のデバイス。
「レイジングハート…形が。」
少し変わった?
ううん、レイジングハートだけじゃない。
バルディッシュも、ルシフェリオンも、バルニフィカスも、エルシニアクロイツも夫々が少しずつ形を変えてる。
そっか…私達だけじゃなくて皆もパワーアップしたんだね?
「フレームの強化とその他色々追加が有るけど、詳しくは本人達に聞いてもらったほうがいいかな?
特に冥沙さんのは根本設計から作り直してるからね。」
「うむ、我の右腕に足りるかを確かめねばな。」
にゃはは…冥沙は相変わらずなの。
「まぁ、自信は有るよ?勿論他の4基もだけどね。
少なくとも、特訓で強くなった皆の能力に値するものには出来上がってるはずだよ?」
ありがとうございます!
此れなら…フェイトちゃん、皆!
「うん。たくさん練習したから大丈夫。次は負けない…!」
「本より負けっぱなしは性に合いませんし。」
「騎士共が…この前の屈辱、万倍にして返してくれる…!」
「ミユキのおかげで強くなったし、バルニフィカスも直った!次はブシドーにだって負けないモンね!」
だよね。
それで、マリーさん…ルナは?
「うん、ルナさんも大丈夫。
老朽化部分を次世代のユニゾンデバイスのフレームの転用で治したし、強化状態にも耐えられるようにしたから。
今はまだ眠ってるけど、どんなにかかっても後半日で目を覚ますと思う。」
「そうですか~。」
良かった~。
ルナは大丈夫だった……其れを聞いて安心なの。
まだ眠ったままだけど、ルナの顔はこの前よりも穏やかな感じがする。
うん、きっと眠ったままでも自分が大丈夫なのが分ったんだね。
「ん?…あ、母さん。」
「フェイトちゃん、如何したの?」
「母さんから通信が…何だろう?」
プレシアさんから?
何か有ったのかな?
『フェイト?リンディ提督はそっちに行ってないかしら?』
「リンディ提督?こっちには来てないけれど…何か有ったの?」
『一緒に買い物に来ていたんだけれど、イキナリ連絡がつかなくなったのよ。管理局にも戻ってないの?』
フェイトちゃんがマリーさんを見て、其れを受けたマリーさんが内線で問い合わせてるけど…
「………(フルフル)」
「…いえ、来ていません。」
『そう…』
マリーさんが首を横に振り居ない事を伝える。
フェイトちゃんも其れをそのまま伝えるけど…リンディさんが居なくなった?
何だがとても嫌な予感がするの…!
――ファンファンファンファン…!
「「「「「「!?」」」」」」
此れはサイレン?
な、何が起きたの!?
「このサイレン…非常事態警報!?何で…まさか…!!」
マリーさん?
ううん、考えるまでも無いの!
マリーさんの言った『非常事態警報』…大凡穏やかなものじゃない。
しかもリンディさんと連絡が取れなくなった直後だなんて…。
絶対何かあるの。
「マリーさん、今すぐ私達を海鳴に転送してください!」
「了解、そう来ると思ったよ。寧ろ、レティ提督から貴女達を可能なら転送するようにって。」
流石はレティさん!
何が起きてるかは分らないけど、捨て置く事はできそうにも無いの!
行こう皆!
「うん…!」
「早速の実戦!よ~っし、僕頑張っちゃうもんね~~!!」
「ガラにも無く血が滾ります…どうやら簡単な相手ではなさそうです。」
「ふん、ナノハと我等の前に立ち塞がる者は砕いて進むだけよ。例えその相手が、神や悪魔であってもな。」
うん、このメンバーならもう二度と負けることは無いの。
何が起きてるかは分らないけど、先ずは海鳴に直行なの!
行くよ、レイジングハート!
『All right.My Master.』
若しもこの前の騎士さん達が居たら、今度こそ話を聞いてもらうの!
To Be Continued… 