No Side


 海鳴のとある一軒家。
 その一室で少女が2人一緒のベッドで眠っている。

 1人は以前に図書館で冥沙が出会った車椅子の少女――八神はやて。
 もう1人は、昨夜なのはを襲撃した少女――ヴィータ。

 状況を見る限りはやてが『闇の書の主』である事は疑いようも無い。


 その寝室に現れたのは『闇の書』。
 空中に浮かび、器用に紐を引張ってカーテンを開けて行く。

 「ん……」

 カーテンが開けられた事で差し込んだ光で、はやてが目を覚ます。
 覚醒後でまだ眠そうだが、その視界に確りと『闇の書』を確認したようだ。

 「ふあぁぁ…ん…おはよ、闇の書♪」

 「………♪」

 物言わぬ本ゆえに、はやての挨拶に返事は無い。
 だが、それでも闇の書は(おそらくだが)嬉しそうにはやてに擦り寄っていった。

 その闇の書を抱きかかえ、はやても嬉しそう。
 はやてにとって闇の書と、その守護騎士達はとても大切な存在のようだ…










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福40
 『襲撃のあとで……』










 Side:なのは


 「おはよう、なのは。冥沙と星奈、雷華も。」

 「おはよう、フェイトちゃん。」

 「おはようございます。」

 「おっはよ〜、へいと!」

 「うむ、良い朝だな。」


 襲撃から一夜。
 リンディさんのおかげで、アースラで治療を受けた私達は、ルナ以外の全員が一晩で回復した。

 私達が早く回復できたのは、身体の怪我がある程度治されていたのとリンカーコアが『収縮』だけですんでいたから。
 でも、リンカーコアに甚大なダメージを受けたルナは回復には時間がかかるって…。


 昨日の戦いは、言い訳もしようが無いくらいの完敗だったの。
 それだけあの子は強かった……デバイスが変形した後は全く何も出来なかった…!


 「皆は大丈夫?」

 「はい。魔法はしばし行使不能でしょうが身体の方は問題ありません。」

 「そっか…」


 誰も言わないけど、フェイトちゃんも、星奈達だってきっと気持ちは同じ筈なの。
 けど、負けたことよりも…

 「あの人達は一体なんなんだろう?」

 そのことが気になってた。
 如何して、行き成り襲い掛かってきたのか、何で私達の魔力を蒐集したのか……分らない事だらけだったの。


 「彼奴等は闇の書の守護騎士プログラム『ヴォルケンリッター』よ……やってくれたわ…!」

 「「ヴォルケンリッター…」」


 闇の書……って言う事はルナと同じ存在。
 其れなのにルナをも襲ったって事は、きっと管制人格さんの事は覚えてない…


 「結局私達は何も出来なかった。…けど、あの人達とはまた会う気がする。」

 「うん、私もそう思ってた。」

 フェイトちゃんの言うように、あの人達と私達はきっと又会う。
 でも、今のままじゃ次に会ったときも結果は同じ。

 いくら話を聞いてもらいたくても、其れをなす為の実力が無ければ其れすら出来ないの…!

 「特訓、あるのみだね…」

 「とーぜん!魔法使えなくても、しゅぎょーは出来るもん!ミユキにも手伝ってもらって猛特訓だ!!」

 「うむ、異論は無い。守護騎士に対するには我等の地力の強化も必須よ。」

 「私達は持って生まれた魔力の大きさに頼っていた部分があるのは否めませんから。」


 うん、強い力だけじゃ駄目なの。
 其れを生かすためにも今よりも戦い方を磨かないと。

 「早速今日からはじめよう。」

 「「うん!」」
 「うむ。」
 「はい。」


 けど其れとは別に…

 「それと…ルナ達のお見舞いも行かないとね…」

 「そうだね…」


 ルナ、レイジングハート…大丈夫だよね…?








 ――――――








 Side:クロノ


 昨日の海鳴で発生したなのは達への襲撃事件。
 マリーの方からデバイスの記録映像をまわしてもらった訳だが…

 「ベルカ式…其れも真正のエンシェントベルカ…」

 加えてカートリッジシステム搭載のデバイス付きか…厄介だな。
 でもそれ以上に…



 ――プシュッ……



 「あ、クロノ君。」


 エイミィか、如何した?


 「ほら、担当事件の資料とかをね?」

 「あぁ、ありがとう。」

 「…これってなのはちゃん達の…?」

 「うん、レティ提督から捜査命令を受けた事件と、なのは達が襲撃された事件は類似点が余りにも多いから調べていたんだが…」

 「如何したの?」

 「いや、マリーからまわしてもらったなのは達のデバイスの記録映像なんだが…」

 「うん、其れは見れば分るけど……ん?あ、アレ?」


 気付いたか?


 「うん、これ…この人達が持ってる本て、なのはちゃんや冥沙ちゃんが持っているのと同じ…!」

 「あぁ、色彩こそ違うがそれ以外は全く同じなんだ。――凄く厄介な事だなこれは…」

 「厄介って…この本知ってるのクロノ君?」

 「…第一級封印指定ロストロギア――闇の書だ。」

 「闇の書…!!」


 どうやらこの事件、只の『違法ハンティング、強盗傷害事件』では済みそうに無いな…








 ――――――








 Side:なのは


 「此処が時空管理局…」

 ルナとレイジングハート達のお見舞いに時空管理局の『本局』まで来たけど…なんて言うか凄い。
 まるで近未来にタイムスリップしたみたい。
 間違いなく技術レベルが地球の数段先を行ってるの。



 ――プシュ…



 で、辿り着いた『デバイスメンテナンスルーム』。
 え〜と…この人が担当の人なのかな?


 「あ、いらっしゃい。フェイトさんと…そちらの方々が…」

 「高町なのはです。」

 「高町星奈と言います。」

 「高町冥沙だ。」

 「高町雷華だよ♪」

 「はじめまして、時空管理局技術部のマリエル・アテンザです。クロノ先輩とエイミィ先輩の後輩です、マリーって呼んでください。」


 マリーさん。
 あの、それで…


 「うん、今は機能停止して検査してるからお話は出来ないけど…会ってあげて?」

 「「「はい。」」」
 「うむ…。」
 「うん!」


 円筒形のガラスケースの中に居るレイジングハート達。
 壊れそうなくらいの皹が入ってる……酷い傷…


 「幸い、コアは無事だから修復は出来るよ。」

 「「「お願いします。」」」
 「頼むぞ…!」
 「お願い!」

 「任せて♪」


 うん、マリーさんに任せれば安心できそう。



 けど、レイジングハート達以上に…

 「ルナ…」

 その隣の大き目の円筒ケースの中のルナ…マダ目を覚まさないんだ…

 無理も無いよね、ルナは私達と違ってリンカーコアを直接攻撃されたみたいだから。
 吸収されるだけでも、意識が無くてもその苦しさを覚えてるくらい苦痛だったのに其れを直接攻撃されたルナはどれ位苦しかったんだろう…
 こんなになるまで、私を護ろうとしてくれたんだよね…ありがとう、ルナ…

 それでマリーさん、ルナは…


 「うん…身体の方の怪我は問題ないし、リンカーコアの方も直に治ると思うんだけど…
  何て言うのかな、ルナさんを『ユニゾンデバイス』とだけみるなら、本体が結構厳しいかも…」

 「「「「「え…?」」」」」


 ど、どう言う事ですか!?
 ルナ、治らないんですか…!


 「そ、そうじゃなくて治す事は可能なんだけど、結構無理してたのかなって…
  今回のダメージじゃなくて、長い間稼動してた事による『勤続疲労』とでも言えば良いのかな?
  言い方悪いけど『経年変化』による、言うなれば『老朽化』が見られるの…本人は気付いてなかったみたいだけど…」

 「老朽化…」

 あんまり良い気分がする言葉じゃないけど、ある意味では的を射てるのかな?
 長い間生きてきたルナ……その月日の中で少し疲れちゃったのかも…


 「でも安心して、管理局でも次世代の『ユニゾンデバイス』の研究が行われるの。
  その技術を転用すれば、ルナさんの損傷部分も完全に治してあげる事はできるから。」

 「お願いします!ルナを助けてください!!」

 「うん、任せておいて!
  …けど、ルナさんのコアダメージ…其れにレイジングハート達を此処まで壊すなんて…」


 物凄い強さでしたから……ベルカ式は私も使えるけどぜんぜん格が違った。
 其れにデバイスの中で何か爆発してたアレは…?


 「カートリッジシステムだねぇ。圧縮魔力の弾丸をデバイス内部で炸裂させて爆発的な力を得る古代ベルカの技術。
  デバイスの強度と使用者の技術が低ければそのまま自爆装置になりかねない諸刃の剣…
  星奈さんと雷華さんのデバイスには不完全な状態で其れが搭載されてたせいで破損に至ったくらいだから。」

 「カートリッジシステムは古代ベルカの戦乱期に開発された技術。
  1人で多くの相手をする為の強化システムだってリニスから聞いたことがある…」


 1対多を目的……それならあの異常な強さも納得なの。
 でも、それなら尚更もっともっと強くならなくちゃ!
 レイジングハート達が直っても、私達が今のままじゃ駄目だから!


 「其れに付いてなんだけど、レティ提督からの伝言があるんだ。」

 「レティ提督から?」


 『レティ提督』?
 名前からしてきっと偉い人なんだろうけど、誰なのフェイトちゃん?


 「レティ・ロウラン提督…リンディ提督と一緒に私達の裁判で奔走してくれた人でリンディ提督の古い友人だって…」

 「なんと、リンディの旧友か?」

 「『提督』と言うには相当に高い位の方でしょうが…其れほどの方が一体?」


 うん、レティさんが伝言て…


 「『もしも戦闘の訓練をするなら本局やアースラの訓練室は自由に使って良い』って。」

 「「「「「えぇ〜〜!?」」」」」


 ほ、本当に良いんですか?


 「みたいだよ?ジュエルシードの時の事で、管理局でも君達有名人だからね〜。」

 「そうだったんだ…」

 ちょっと気恥ずかしい感じもするけど、これなら!


 「うむ、気兼ねなく修行も出来ようぞ。」

 「いっその事ミユキにも同行願いましょう、そっちの方が質も高くなるはずです。」


 うん、其れが良いね。


 「お〜、さっすが星奈ん!凄いぞ、ぱちぱちぱち〜〜!」

 「お褒めに預かり光栄です。もっと褒めて頂いてもよろしいですよ?」

 星奈ん、すご〜い!偉いぞ〜〜!あったま良い〜〜〜!!」

 「ありがとうございます。」


 「え〜っと…」

 「何をやっておるか、マッタク…」


 にゃはは…でもフェイトちゃんも其れで良い?


 「うん。あの人達にもう一度会ったら、今度は負けないようにしなくちゃならないから。」

 「決まりだね♪」

 今よりも強くなる。
 私達は頑張るよルナ、だからルナも早く目を覚ましてね?


 「………………」


 眠ったままのルナは何も言わない。
 けど、ホンの少しだけ頷いたような気がしたの。








 ――――――








 Side:ヴィータ


 「………はやて?」

 「Zzz…」


 おし、完全に眠ってる。
 一度寝たらよっぽどの事が無い限りはやては起きねぇ。
 それ以前にシャマルが睡眠補助の魔法かけてるから、朝までは目覚める事はねぇ。

 「…ちょっと行ってくる。」

 はやてが眠ったからって、アタシ等に休みはねぇ。
 寧ろ、はやてが寝てからが本番だ。





 「悪い、遅れた。」

 着替えて公園に行くと、シグナム、シャマル、ザフィーラは集まってた。
 まぁ、はやてが寝たの確認しねぇと動けねぇから、基本アタシが何時も最後なんだけどさ。

 「あとドンくらいだ?」

 「この前の子達で結構埋まったから、残り270ページね。」


 半分以下か。
 ならさっさと埋めちまおうぜ、これからはきっと管理局の目も厳しくなるだろうからな。


 「あぁ、我等が主のためにも闇の書は早急に完成させねばな。」


 アタシも、シグナムも…全員が騎士甲冑を纏う。
 闇の書はぜってー完成させる。

 その為だったら、誰であろうと何であろうと邪魔する奴はぶっ潰す!
 はやての命は、絶対にアタシ等が救ってみせる……いや、絶対に救うんだ!!













  To Be Continued…