No Side


 突然に発生した封鎖結界。
 そして謎の襲撃者。

 襲撃者である少女は何も語ろうとはしない。
 だからと言って襲われたなのはとて大人しくやられてやる義理も義務も道理も無い。

 「話してくれなきゃ…何も分らないよ!」
 『Divine Shooter.』

 襲撃者の少女を牽制するように放たれた誘導魔法弾。

 「ちぃ、うざってぇ!アイゼン!!」
 『Schwalbefliegen』

 其れに対し、少女――ヴィータもまた魔力で作り出した鉄球をデバイスで撃ち出し対抗。
 互いの魔法はぶつかり爆散。

 「うらぁぁ、ぶっとべぇ!!」

 その粉塵を突っ切るようにして突進してくるヴィータだが、

 「そうはさせないの!」
 『Grimoire Book of White Night.Panzerschild』

 なのはは白夜の魔導書をかざしベルカ式の防御陣で対抗。
 戦いは此処からが本番のようだ。










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福38
 『白夜と群雲の激突』










 「んな!?ベルカ式の防御魔法!?しかも真正の古代ベルカだと!?」

 ヴィータはなのはが使った防御魔法に驚く。
 よもや自分達以外に『古代ベルカ』の魔法を使える人物が居るとは思わなかったのだろう。

 いや、前に戦ったルナもまた古代ベルカの魔法を使っていたのだがアレとは違う。
 『今のこの時代の現地人』が古代ベルカを使った事に驚いているのだ。

 「テメェ…一体何者だ!?」

 「人に質問する前に、こっちの質問に答えるのが先じゃない!?」
 『Buster schild』

 言葉を投げあいつつ、なのはは防御陣を炸裂させる方法でヴィータと距離をとる。
 略ゼロ距離での炸裂ゆえガードはされなかっただろうが今のでは決定打にもならないだろう。

 「にゃろ…やってくれやがったな!!」

 予想外のなのはの攻撃だが矢張りヴィータは無傷だ。
 僅かに埃がついてはいるが傷一つ付いてはいない。


 「凄い…ねぇ、教えて。如何してこんな事をするの?何が目的なの?」

 「うるせぇっつってんだろ!テメェに答える義理も義務もねぇ!!」

 再度問うも結果は同じ。
 ヴィータに話し合うなどと言う気はさらさら無いようだ。

 だが、其れは逆になのはの神経を逆撫でする結果でしかない。
 なのはは言葉で解決する方法も取る少女だが、其れが出来ない相手には容赦なく実力行使に出る。
 過去のアリサとの一件がその良い例であり、最近ではフェイトとの海上決戦が其れに相当するだろう。

 「分からず屋…!話してくれなきゃ…」
 『Divine…』

 「分らないじゃないーーー!」
 『Buster.』

 全く話を聞く気が無いヴィータに業を煮やし、必殺の砲撃が炸裂。

 「ぬおわっ!?」

 余りの威力にギリギリで避けるも、風圧で帽子が飛ばされ――砲撃に飲まれ消えた。

 「!!!」

 その瞬間、目に見えてヴィータの様子が変わった。
 一言で言うならば『キレた』、そう言うのがピッタリだろう。

 「テンメェ……」

 「え…?」

 「アイゼン…ロード、カートリッジッ!!」
 『Nachladen.』

 デバイス内で何かが炸裂し形が変わる。
 ハンマーの先端は鋭利になり、更にはロケットのブースターのようなものまで。

 「ぶっ飛びやがれぇぇ!ラケーテンハンマー!!」

 ブースターが火を噴き先程とは比べ物にならないスピードで高速突進。
 デバイスの変形に驚いた事もあり、回避が間に合わず防御陣で対処するなのはだが一撃の重さもさっきより凄い。

 「く…」

 「でぇぇぇぇりゃぁぁあ!!!!」

 更に強くなる圧力。
 白夜の魔導書で更に防御陣を重ね掛けしていても防ぎきれそうに無い。


 ――ピキ…


 「レイジングハート!?」

 其れを示すようにレイジングハートに皹が………そして、

 「うらぁぁぁ!!!」


 ――バキィィィン!!


 「きゃぁぁぁぁぁ!!!」

 更なる一押しで完全に砕け真っ二つに。
 その衝撃でなのはも吹っ飛び、地面に叩きつけられる。

 バリアジャケットを纏っていたとは言え、空中から叩きつけられては堪らない。
 この衝撃だけでなのはは略戦闘不能だろう。

 「ぶっ潰れろぉぉぉぉ!!」

 其処に更なる追撃ち。

 叩き付けられた衝撃で気を失ったなのはには防御も反撃の手段も無い。
 いや、仮に意識があったとしてもデバイスが破損したこの状態では打てる手段は殆ど無いだろう。

 だが、なのはは1人ではない。

 「させません!」

 攻撃が当たる正にその瞬間、別行動をとっていた星奈が割り込み防御陣を展開。
 ギリギリでなのはを護った。

 「仲間…!けど、何人来ようと関係ねぇ!!打ち抜けアイゼン!!」
 『Jawohl.』

 「させないと言ったはずです!ロードカートリッジ!」

 撃ち砕こうとするヴィータに対し、星奈はルシフェリオンのカートリッジをロードして防御陣を強化。
 略完全拮抗状態だ。

 「カートリッジだと!?」

 「カートリッジシステムはベルカの騎士の専売特許でもないでしょう?」

 何時もと口調こそ変わらず、表情もあまり変わってはいない。
 だが、星奈は恐らく…いや、確実にヴィータの行いに対して怒りを覚えていた。







 その一方で、

 「なのは…無事でいて!」

 アルフと『お散歩』に出ていたフェイトもこの『封鎖結界』は感知していた。
 アルフとは別行動をとり、結界内部を高速飛行中。
 バルディッシュがレイジングハートと連絡できない事も気がかりなのだろう。


 「!!」

 突然その飛行が止まる。
 当然だ、目の前に行き成り人が現れたのだから。

 「此処から先は…通せんな。」

 立ち塞がったのは桜色の髪の女剣士――シグナム。
 凄まじい魔力と闘気を撒き散らしながらフェイトの行く手を阻む。
 だが…


 「うりゃー、スーパー稲妻キィィィク!!」

 何処からとも無く雷華襲来!
 完全に虚を衝かれた一撃に対処できず、其れはシグナムにクリーンヒット。
 相当に威力が強かったのか、シグナムは文字通り『蹴り落とされた』が如く落下。

 「あ〜っはっは!ブシドー蹴散らし僕は飛ぶ!ナノハのピンチを助ける為に!!」

 そのまま雷華は一直線になのはが居る方向へ。

 「え〜っと…あの、スイマセン失礼します…」

 フェイトも落ち行くシグナムに一応の謝罪(?)をして先に。



 「…良いのかなぁ?」

 「ん?別に良いよ、今はブシドーと戦う必要ないし。ナノハがピンチらしいから其れを助けるのが先決じゃん。」

 「そうだね。」

 金と蒼の雷光少女はなのは目指して一直線。
 しかし、シグナムとてあの一撃でやられる相手ではない。

 「通さんと言っている!」
 『Schlangebeissen.』

 連結刃と化したデバイスで下方から襲い掛かりフェイトと雷華の足を止める。

 「なんだよ!しつこいぞブシドー!しつこい奴は嫌われるんだぞ!?」

 「知らんな。本よりお前達に幾ら嫌われようとも私には何の痛手もない。」

 シグナムに迷いは無い。
 雷華とフェイトの2人を相手取って尚、負ける気は微塵も無いようだ。

 「む〜〜…ブシドーの石頭。けど、ナノハは僕が護る!邪魔するんなら誰であろうとやっつける!」

 「力ずくでも、通させてもらいます…!」

 デバイスを構え臨戦態勢。
 先程の雷華の不意打ちのような事はもう通じないだろう。








 また、結界の外でも…


 「切り裂け…エクスカリバー!!」

 アルフを拘束していたチェーンバインドを冥沙が粉砕していた。

 フェイトと別行動をとったアルフだが、ザフィーラの強襲を受け、地上に降りたところをシャマルに拘束されていた。
 そのままだったらやられていたが、寸でのところで冥沙が救出したと言う訳だ。

 「ナニを遊んでいる狼、こやつ等如き遅れを取る相手でもあるまい?」

 「奇襲喰らったんだからしょうがないじゃないか。けど、助かったよ…アンガト。」

 口の悪いこの2人だが仲は悪くない。
 それどころかタッグとして見た場合、前衛のアルフと後衛の冥沙はバランス的にも充分だ。


 が、冥沙の登場に驚いたのザフィーラとシャマルだ。

 「主…?」

 「はやてちゃん!?」

 冥沙のその容姿…其れはまるで己が主そのものなのだから。


 「はやて…?あぁ、何時ぞや図書館で会ったあの小鴉か。どうした、我の容姿があ奴に似ていて驚いたか?」

 「うむ…驚いた。だが、似ているのは姿だけのようだな。我等が主はその様な下品なモノの言い方はされぬ。」

 ある意味の挑発合戦。
 だが、毒舌と挑発言動ならば冥沙の右に出るものは居ない。

 「ほざくな駄犬が。我の物言いを如何思おうと貴様等の勝手だが、貴様等が人を評価できる立場と思うな強盗風情が。」

 「強盗ですってぇ!?」

 「行き成り襲い掛かって魔力を盗むなど強盗以外に如何称すると言うのだ?
  『群雲の騎士(ヴォルカンリッター)』などと偉そうに……今の貴様等には『群雲の盗賊(ヴォルケンシーフ)』の方がお似合いであろうが。」

 毒舌八丁の挑発八丁。
 ここまでの事がこれほどポンポン出てくるのは有る意味で凄まじい。

 「とは言え…我の盟主たるナノハに牙を剥いた事は許せんな?下郎が…頭が高いわ!!」

 そして、有無を言わさず直射砲一発。
 ザフィーラがとっさに防ぐも、威力は相当なものだ。

 「防いだか…援護しろ狼、先ずはこやつ等を我が前に跪かせてくれる!」

 「はいよ。てか、いい加減名前で呼んでくれないかねぇ?」

 「…そうだな。では、共に行こうぞアルフ!」

 「おうともさ!!さっきの奇襲は倍にして返すぞデカブツ!!」

 戦いは結界外部にまで及んでいた。








 ――――――








 再び結界内部。

 ヴィータの一撃からギリギリでなのはを護った星奈だが、今は苦戦を強いられていた。
 と言うのも、星奈は気を失ったなのはを護りながら戦わねばならない。

 そうなると思ったような攻撃が出来ず、誘導弾をメインにしての戦いをせざるを得ない状況なのだ。


 「はっ!カートリッジがあってもその程度じゃ通じねぇ!」

 「く…パイロシューター!」

 だが、星奈も只誘導弾を放っているわけではない。
 自分が自由に動く事が出来なくとも戦う手段は幾らでもある。

 今は苦戦を強いられていても、実はその中で星奈は既に勝利の方程式を組上げていたのだ。


 「これで終わりだ!!」

 誘導弾の合間を縫って突進して来るヴィータ。
 だが、此れこそが星奈の狙いだ。

 「其れを待っていました……捕らえろルベライト!」

 「なにぃ!?」

 突進が止まり、ヴィータの四肢にはバインドが。
 誘導弾に紛れさせる形でバインドをも射出していたのだ。

 「この場は殲滅させていただきます。走れ明星、全てを焼き消す炎と変われ!真・ルシフェリオン…ブレイカー…!!」

 そのバインドからの集束砲。
 決まれば一撃クラスの威力は間違いない。

 星奈も一撃で仕留める為にカートリッジを3発ロードしているのだ。
 だが、此処で思わぬ事態が…


 ――ビキ…ブシュゥゥゥゥ…


 集束砲を放つ正にその瞬間、ルシフェリオンに皹が入り白煙を吐いてその機能を停止してしまったのだ。

 「ルシフェリオン?」

 「…なんだよ…ぶっ壊れちまったのか?どうやら、カートリッジの負荷にデバイス自体が耐えられなかったみてぇだな!」

 全くの予想外の事故。
 確かに星奈もカートリッジをこれほど使っての戦闘は初めてだ。
 まさかそのせいでデバイスが機能不全に陥るとは…

 「デバイス使えなきゃどうしようもねぇだろ!今度こそ…大人しくぶっ飛べ!!」

 バインドを破壊し、改めてヴィータは突撃。
 とっさにルシフェリオンで止めようとするが、破損し魔力の無いデバイスは棒切れと同じ。


 ――バキィィィン!!


 ヴィータの一撃を止められず真っ二つに。
 更にその一撃は勢いを殺さずに星奈に炸裂。

 「がっ……!」

 「テメェも大人しく眠ってろぉぉ!!」

 更にもう一発。
 無防備な星奈を容赦なく殴り飛ばし、地面に激突させる。


 「ふ…不覚…。」

 その衝撃で、星奈もまた気を失った。








 更に雷華達のほうも…


 「魔導師にしては中々の剣筋だな。」

 2人を相手取り、しかしシグナムは終始戦いを有利に進めていた。
 魔力の強さならば、雷華はシグナムを上回るし、フェイトにしても同等クラスはある。

 それでも2人を圧倒したのは、経験の差に他ならない。
 如何に雷華とフェイトの2人が強かろうと、数多の戦場を駆けてきたシグナムとは実戦の差が凄まじいのだ。



 「くぅ…やってくるなブシドーめ!」

 「アノ人…凄く強い。でも負けられない!」

 「当たり前じゃん!アイツやっつけなきゃナノハの所には行けないんだし。」

 吹き飛ばされた2人も怯まず再度飛翔するが、その途中で見つけた。
 見つけてしまったのだ……倒れ伏すなのはと星奈の2人を。

 「「!!!」」

 衝撃だ。
 雷華にとっては家族、フェイトにとっては友達の2人がバリアジャケットを破損した状態で倒れている。
 しかも其処に近づき何かをしようとしている赤服の少女……黙ってなど居られない。


 「こんにゃろぉぉぉぉぉ!!」

 「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 弾かれるように飛び出してなのはと星奈を目指して一直線。


 だが、忘れては行けない。
 この場にはシグナムが居るのだ。

 「カートリッジロード。紫電…一閃!!」



 ――バガシャァァン!!



 超高速で回り込み、カートリッジを使った一撃で――先ずはフェイトのバルディッシュを両断。

 「え…?」

 「へいと!ブシドー…こんのぉぉぉ!!」

 デバイスを砕かれた事に放心するフェイトに代わり、雷華がすぐさま反撃。
 だが、それすらも…

 「甘い!!」


 ――バキン!!


 「んな!バルニフィカス!?」

 再びの一閃で雷華のバルニフィカスも両断。
 更に!

 「終わりだ。飛竜一閃!!」

 炎熱砲とも言うべき一撃で雷華とフェイトを共々吹き飛ばす。


 吹き飛ばされた2人は高速道路の高架橋に激突。
 バリアジャケットのおかげである程度のダメージは軽減されたろうが、それでも大ダメージは必須。
 加えてデバイスの状態を考えると戦闘続行不能は略間違いないだろう。










 そして、なのはと星奈。
 ヴィータによってKOされた2人は完全に気絶している。
 如何見てもヴィータの完全勝利だ。

 「ふぅ…」

 変形したデバイスを元に戻し、2人に近づく。
 此処からが真の目的なのだろう。

 「闇の書。」


 ――ヴン


 呼びかけに応じるように1冊の本が現れる。
 冥沙が図書館で出会った車椅子の少女が持っていたアレだ。

 「まぁ、運が悪かったと思えよ。怪我はシャマルが治してくれる……貰うぜお前らの魔力を。」

 いよいよその魔力を蒐集せんとする。



 「そうはさせないぞ鉄騎よ。集え刃、風神爪牙!」

 が、その直前に白銀の魔力刃が大量に降り注ぎ蒐集行動を阻んだ。
 更に略同時に、なのはと星奈を結界が囲み守護する。

 「どうやら蒐集されるギリギリで間に合ったか…」

 「テメェは…!!」

 攻撃したのはルナ。
 デバイスのメンテナンスが終わり、戻ってきた瞬間に感知した結界。
 その正体をすぐさま看破しこの場に超高速で向かっていたのだ。


 「…この間言ったはずだな、『次は容赦しない』と。私の忠告は無視されたわけだ…」

 言いながらブライトハートを起動し自身も力を解放。

 銀髪と紅眼が薄い茶色に変わり足と右腕にベルトが現れる。


 暴風とも言える魔力の渦が結界内部に吹き荒れる。
 これ程の魔力ならば内部のシグナムのみならず、外部のシャマルとザフィーラも感知するだろう。

 そうなればその3人が此処に来るは間違いない。


 外部の戦いの状況こそ不明だが、冥沙も無事なら此処に来るだろう。



 此処からは戦いの第2幕だ…















  To Be Continued…