――喫茶翠屋


 Side:ルナ


 時の庭園での一件から数日、私もすっかり回復し世の中は平和そのもの。
 さて、今日も一日頑張るとしよう。


 ――チリンチリ〜ン


 早速客か。

 「いらっしゃいませ……クロノ執務官、貴方か。」

 「失礼する。…ルナ、君だけか?」


 あぁ、なのは達は学校だからな。


 「そうか。……その、恭也は?」

 「あいつも今日は大学の講義で居ないから安心してくれ。」

 「なら大丈夫だな…」


 その気持ちは分らなくもない。
 お前が諸々の説明に来た時、恭也は露骨に威嚇していたからな……あのシスコンめ…










 魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福22
 『始まりを告げる一歩』










 「さて、用件は何だ?ただコーヒーを飲みに来たわけではないだろう。」

 桃子に言って席を一つ借り受けて訪ねる。
 只の来店ではないと察してか、私と執務官の前にはコーヒーとシュークリームが…流石だな桃子。


 「あぁ、今回の事件の詳細を伝えておこうかと思って。
  なのは達も居ればよかったんだが、其れは仕方ないか、君から伝えてくれるか?」

 「分った、伝えておこう。」

 忙しい身故に、説明の為に取れる時間は限られているだろうからな。


 「そう言う事だ。色々と忙しいが、出来れば直接詳細を伝えたかったからな。」

 「生真面目だな。貴方らしいが。」

 「其れが僕の美徳と思ってくれ。さて、そろそろ本題だ。
  何から言うべきか…そうだな、聞きたい事を言ってくれるか?僕が其れに応える形のほうが色々と面倒な事はないだろう。」

 確かにな。
 私が質問する形で、其れに答えてもらった方が楽は楽だ。

 さて、何から聞くか……そうだな、

 「プレシア・テスタロッサの処遇は如何なる?結局のところ、彼女は今回の件には一切関って居なかった事になるが?」

 「特には何もない。彼女は全くの無罪だ。尤も、16年間も監禁状態だったせいで身体が弱ってるから暫くは病院生活なんだが…」


 ん?何か問題が有るのか?

 「いや、身体の方は何とかなるんだがリンカーコアの方が相当にね。」

 「あぁ…矢張りダメか。」

 「気付いていたのか?」

 「テスタロッサ――フェイトを庇った時にバリアを張らなかったからおかしいとは思っていたが、そうか。
  16年間も強制的に魔力を搾取され続けていたんだ、リンカーコアが機能不全に陥るのも無理はない。」

 それでも彼女の存在感は相当なものだったがな。


 「それが本物の大魔導師が持つ『オーラ』って言うものなんだと思う。
  ただ、良い機会だしプレシアには近い内に、この地球の病院に転院してもらおうと思ってるんだ。
  プレシア自身も其れを望んでいた、『普通の人として暮らすのも悪くない』ってね。」


 そうか。
 魔導師としてでは無く、普通の人として…か。
 それもまた悪くは無い。

 プレシアの事は分った。
 それで、フェイト達の方は如何なる?流石に無罪放免とは行かないだろう?


 「其れは流石に。彼女達はジュエルシードを集める為に実際に活動していた事実があるからな。
  とは言っても、彼女達は騙されていたわけだし、彼女達がジュエルシードを封印した事で大規模被害を食い止められた事も有る。
  一応裁判と言う形にはなるだろうが、その辺の事情を考えれば保護観察で済む筈だ。まぁ、任せてくれ。」

 「そちらは任せる、裁判云々まで私達が手を出せる事ではないからな。
  …じゃあ最後に、今回の黒幕――あの女は如何なる?そもそもあいつは何者だったんだ?」

 プレシアの皮を被った外道…今思い出しても業腹ものだ。
 いっそリンカーコアの破壊位しておいた方が良かったのかもしれない…


 「あいつの本当の名は『キスティ・テルミット・アルマシー』管理局の魔導師で科学者で元プレシアの部下。
  可也優秀だったが、同時にとんでもない野心家でも有ったみたいだ。」

 「野心家…」

 その時点で碌な事が無さそうだ。
 過去の闇の書の持ち主を例にしても、野心を持ったものほど滅びも早かったからな…


 「管理局の掌握や、幾多の次元世界の支配など上げれば限が無いが、兎に角色々考えていたらしい。
  プレシアの部下になったのも彼女の研究成果やらを掠め取る目的があったようだ。
  尤も、プレシアの類稀な才能と余りの隙の無さに業を煮やして、アリシアを殺害しプレシアを追い詰めたらしいが…」

 「救いようの無い事だな…ホントに、リンカーコアを破壊してやれば良かったと改めて思う。」

 「君が直接手を下す事もない。彼女はリンカーコア破壊の上軌道収容所送りが略確定だ。
  裁判は行われるが、本当に『形だけ』の物だよ。彼女には弁護士すら付きそうにない。」


 わざわざ負けると分っている裁判の為に出てくる弁護士など居ないだろうからな。

 「其れでどうなる?」

 「星奈達が見つけた資料が大きな証拠となってね。今回の件に限らず捜査してみたら幾らでも罪状が出てきた。
  16年前の事故も彼女が起こした事だし、そもそもプレシアの研究には一切の違法性は無かった。
  其れを違法研究として管理局に届け出たのも彼女だ、違法研究を行っていたのは本当は自分の方だったのにな。」


 呆れて物が言えん……愚かな事だ。


 「余りの罪状に司法の方も悩んでるんだ。
  管理局の法は基本的に『量刑』なんだが、此れだと懲役1000年の判決が下りそうだ。」

 「其れはまた何とも…事実上の死刑だな。」

 尤も死刑でもあいつには生温い。
 生きて、己の罪と向き合わなくては意味が無いだろう…

 「最後に、フェイト達は何時そっちに行く事になるんだ?出来ればなのは達に見送りをさせてやりたい。」

 「明日には。一応なのは達が一時のお別れをする時間くらいは確保できたが、其れがその早朝なんだ。」

 「早朝か…」

 なのはは朝が余り強くないが、大切な事だから起きられるだろう。
 その事も纏めて伝えておこう。

 「助かる。さて、それじゃあ僕はそろそろアースラに戻る。」

 「大変だな。息抜きがしたくなったら何時でも来てくれ。」

 「そうさせてもらう。あ、それからこのシュークリームを20個もらえるかな?アースラスタッフのお土産に持って行きたい。」


 20個でいいんだな?
 大丈夫だ、シュークリームは1番人気だから何時も大量に作っているんだ。
 1個150円だから…20個で3000円だ。


 「3000円か。え〜と…此れが3枚でよかったかな?」

 「野口英世が3枚…大丈夫だ此れでぴったり3000円だ。」

 1回で虜にするとは流石は桃子だ…このシュークリームの美味さは誰にもまねできないな。
 と、そうだ一番大事なことだが。

 「フェイト達が明日居る場所は何処だ?この近くだろうか?」

 「近いさ。いや、ある意味でフェイトとなのはにとっては特別な場所だ。場所は『海鳴臨海公園』だ。」


 其れは、確かに特別な場所だな。








 ――――――








 Side:なのは


 「明日の朝早くに…」

 フェイトちゃんは此処から居なくなっちゃうんだ。
 やっぱりお別れはちゃんとしたいよね…


 「そうさのう。まぁ、日々の朝練の事を考えれば其処まで大変でもなかろう。」

 「う〜〜日曜日くらい寝坊したいけど、オリジナルにバイバイ言わないのは嫌だから頑張るぞ僕!」


 にゃはは、冥沙と雷華も、そうだよね。


 「ですが、お別れ以上にナノハには大切な事があるでしょう?『友達になりたい』と言う事への答えをまだ貰っていないのですから。」

 「うん。でもしょうがないよ、色々有ったし。」

 だから明日、ちゃんと聞いてみるよ。


 「其れが良いでしょうね。まぁ、悪い結果にはなりえません……絶対に。」


 うん、ありがとう星奈。








 ――――――








 ――翌日早朝、海鳴臨海公園


 Side:ルナ


 予想はしていたがなのはは恐ろしいほどの素晴らしい目覚めだったな。
 普段も此れくらい寝起きがいいと楽なんだが…まぁ、其れは良いか。

 「…お前達はフェイトと一緒じゃなくていいのか?」

 「ん〜…フェイトはあいつと大切な話があるみたいだからさ、アタシとリニスは水を注さないようにね。」

 「フェイトにとっては初めての友達誕生の瞬間ですから。」


 そうか。
 かく言う私も邪魔にならないように離れてみている訳だが。


 「…何て言うかさ、アンタにもありがとうだよね。」

 「アルフ?いや、何故?」

 「結局のところさ、温泉でアンタがフェイトに言った事がフェイトにいい意味で変化を与えたと思うんだ。
  アンタの言葉が有ったからこそ、フェイトは…勿論なのはもいい影響は与えてくれたけどね。」


 私は大したことはしていないさ、ホンの切欠を与えただけ。
 フェイトの心を開き、その闇を取り払ったのはなのはだ。


 「それでも、ですよ。貴女の存在は存外大きいんです。フェイトにも、私達にも、なのはさんにも。」

 「そう、か。ならば其れは素直に受け取っておこう。」

 この身が誰かの役に立つのならばそれほど嬉しい事もないからな。
 ん?

 「如何したなのは。もう、お別れは良いのか?」

 「うん。私達は。」


 そのリボンは…成程リボンを交換したのか。
 友達に、なれたんだな?


 「うん。でもね、フェイトちゃんがルナともって。」

 「私とも?」

 其れは予想外だ。
 良いのか?


 「うん。貴女が私に切欠をくれた。なのは達は勿論だけど、私は貴女とも友達になりたい。」

 「光栄だ。」

 「だから、友達を始めるためになのはから教わったことを貴女にも…」


 なのはから?
 一体何を教わったんだ?


 「友達になるには『名前で呼べば良い』って。だから、私と友達になってください『ルナ』。」


 成程、実になのはらしい事だ。
 なら、

 「勿論だ。此れから先も宜しく『フェイト』。」

 「うん。」


 友達か…矢張り良いものだ。
 …少し将に会いたくなるな…否、半年後には嫌でも会う事になるか。


 「そろそろ時間だ。良いかい?」

 「あ…うん。」
 「時間じゃ仕方ないね。」
 「守らねばなりませんからね…」


 もう、か。
 此れで一時のお別れだ。


 「フェイトちゃん…私待ってるから!フェイトちゃんが戻ってくるの待ってるから!」

 「なのは…うん、必ず戻るよ。なのはだけじゃない、星奈、冥沙、雷華、そしてルナ…皆、私の友達だから…!」


 あぁ、私も待っているぞフェイト。
 執務官の話だと長くて期間は半年だ…すぐ会えるさ。


 「へいと!戻ってきたら僕と勝負だ!絶対負けないからな!」

 「貴様は…。まぁよい、出来るだけ早く戻って来い。戻ってきた暁には翠屋で歓迎会を開いてやる。」

 「くれぐれも身体に気をつけて。プレシアの方は、まぁ可能な限りお見舞いには行きますから。」


 「…!ありがとう皆。」

 「そいじゃ、ちょっくら行って来るよ。」

 「またあう日を楽しみにしていますね。」


 「あぁ、そうだな。…じゃあな。」





 ――シュゥゥゥン…パシュ





 「行っちゃった…フェイトちゃん…」

 「長くても半年だ。スグに合える。」

 「ルナ…そう、だよね。」


 そうさ。
 だから私達は待とう、フェイト達が戻ってくるのを。


 「うん!」
 「そうですね。」
 「無論だ。」
 「よっしゃ〜!次会えるのを楽しみにしちゃうもんね〜!」


 其れで良い。



 さぁ、今日も頑張ろう。
 日曜日だから店も込むはずだ。








 ――――――








 No Side


 こうして、後に『ジュエルシード事件』或いは『キスティ事変』と呼ばれる事になる一連の騒動は幕を閉じた。


 だが、其れは物語の終わりを意味しない。
 新たなる事件はこの半年後に起こる事になるのだが…今は多くを語る必要は無い。



 次の事件まではしばしの平穏を語ろう。









 そう、月の女神の名を冠した祝福の風が何よりも望んだ平穏の日々を…












  To Be Continued…