Side:なのは


 「ルナ…」

 魔力が大きく膨らんで、弾けたと思ったらルナの姿が変わってた。
 何度か見た事がある顔の紅い線が今はハッキリと浮かんでる。
 其れに髪と眼の色も違うの……一体如何しちゃったの?


 ――ボコンッ


 ゆ、床が割れた!?
 まさかルナの魔力だけで!?

 「し、信じられん魔力だ。あの時と同等…いや、それ以上かも知れぬ…!」

 冥沙も驚いてるの。
 ううん、冥沙だけじゃない。
 星奈も、フェイトちゃんもクロノ君もユーノ君も、アルフさんとリニスさん、雷華までも驚いてるの…

 ルナ…










  魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福21
 『全てが決着する刻』










 「なのは…」

 ルナ?

 「どう、したの?」

 声の調子が何時もより低い…やっぱり相当怒ってる。
 私も勿論怒ってたけど、何て言うか怒りの桁が違う。

 此れが気の遠くなるような永い時を歩んできた人の本気の怒り…


 「なのは、星奈達と共にプレシアを連れてアースラに戻れ。急所を外れてはいるが、治療が遅れれば取り返しがつかないことになる…!」

 「う、うん!で、でもルナは?ルナは大丈夫なの!?」

 プレシアさんに治療が必要なのは見れば分かるけど、でもルナを残してなんて…!


 「大丈夫だ。我は魔導書、その主たるお前が信じてくれている限り何人にも負けることは無い。
  だから安心してくれ。あいつは…まぁ、己が如何に愚かな行為をしたかを骨身に染渡らせてやるとする。」


 私が信じてれば…。
 でも…ううん、そうだね、私がルナを信じなきゃ。

 「分かった。でも無茶はダメ。必ず戻ってきてね?」

 「分かっている。…クロノ執務官、なのは達を頼む。それから、プレシアを絶対に死なせないでくれ。」

 「あぁ勿論だ。艦長には医療スタッフを準備しておいてくれと頼んだから抜かりは無い。撤収だ皆!」


 うん!行くよ皆。

 「う〜ん、僕もあいつをぶっ飛ばしたいけど…うん、此処はクロハネに任せるぞ!」

 「無理だけはなさりませぬように…御武運を。」

 「…その姿なら問題なかろう。屑にも劣る下郎に己の愚かさを骨の髄まで教え込んでやるが良い。」


 「あぁ、勿論だ。なのはとお前達の怒りと思い…確かに受け取った。」

 お願い!
 さ、フェイトちゃんも行こう!

 「…うん。でもその前に…バルディッシュ!」
 「Yes sir.Thunder smasher.」


 砲撃魔法!?


 ――バガァァン!!


 ちょ、直撃なの…フェイトちゃんも相当怒ってる。…当たり前だよね。

 「く…フェイト…?」

 「軽々しく呼ぶな!お前は母さんなんかじゃない!ずっと私を騙してた!リニスとアルフを騙してた!
  アリシアを殺して、本当の母さんにずっとずっと苦しみを与えてた!!
  今の一撃で、私の魔力はもう空っぽだけど、今のは…お前に対する決別と私の怒りだ!!」

 「く…出来損ないの人形の分際d「その口閉じろと言っただろう…」あぐ…!」

 ルナ、見事なアイアンクローなの。
 うん、後は任せるよ!

 「あぁ。…テスタロッサ、今の一撃は見事だった。後は私に任せて、お前はプレシアのそばに居てやれ。」

 「…はい。」

 「それじゃ、皆、撤収開始だ!」

 クロノ君の合図で皆が転送ポートを目指して移動を開始。
 此処は最深部だから結構遠いの…




 「え、あの…」
 「へいとは魔力残ってないんだろ。だから僕が連れてく!大丈夫こう見えても僕は力持ちだし!」

 フェイトちゃんは雷華に抱えられて移動中。
 そう言えば…

 「冥沙、ルナのあの姿の事知ってるの?」

 ちょっと疑問に思ったことを聞いてみた。
 聞かれて困ることが有るといけないから、簡単な認識障害かけてからね。
 少なくとも星奈と雷華は知らないみたいだったのに、どうして冥沙は知ってたんだろう?


 「知っているとも。否、知っている等と言うものではない。
  紋様とベルトについては今は割愛するが、あの髪と眼の色…アレこそが我を倒した奴の姿よ。」

 え?

 「如何言う事!?冥沙を?」

 「うむ。我が元居た世界に於いて、我に止めを刺したのがその世界の奴だ。
  アレは融合騎の最終手段、否、禁断の奥義とも言うべき『融合騎主体のユニゾン』をした時の姿と同じだ。」

 「融合騎主体のユニゾン!?」

 それって…

 「ナノハも分かるだろうが、融合騎とは本来自身を融合適格者に融合することでその力を高める存在だ。
  だが融合騎主体とは言うなれば融合騎に融合適格者が融合するのだ。
  その力は普段とは比べ物にならんが、むろん危険もある。
  融合適格者に掛かる負担が大きいという点と、一歩間違えれば適格者が融合騎に吸収されかねんのだ…」

 そんな事が…!

 「ん?でもそれならルナは一体誰と融合してるの?」

 私は此処に居るのに…?

 「其処までは分からん。そもそも逆融合であるかすらも分からん。だが、もしあの力を単体で発動したのならば…脅威だ。
  あの塵芥が勝利する可能性は……兆に一つも無くなったわ!」

 兆に一つって、え〜と…0.0000000000001%未満!?
 其れはもう限りなく0だと思うの。

 「そうよ。故に何も心配は要らぬ。お前はあ奴を信じて待って居れば良い。臣下を信じるのも主君の勤めぞ。」

 「うん、そうだね。」

 ルナが戻ってきたらちゃんと『おかえり』って言わなきゃね。








 ――――――








 No Side


 なのは達がアースラに戻ったのを確認したルナは、アイアンクローを極めたまま偽プレシアを吊るし上げる。
 その細腕からは想像も出来ないほどの力だ。
 更に、持ち上げていると言うことは、相当な力でもって頭を掴んでいる事になる。
 偽プレシアは割れるような痛みを受けていることだろう。

 「あぐ、あぁぁ…!」

 「喚くな見苦しい。お前がテスタロッサに与えた痛みと苦しみはこの比ではないだろう。」

 その声にも瞳にも、普段なのは達に向ける優しさと暖かさは微塵も無い。
 一切の慈悲も有りはしない。

 「桃子との約束があるからお前を殺しはしない…」

 「――――!!」

 掴む力を更に強くする。
 やられた方はあまりの激痛に苦悶の声すら上げることが出来ないようだ。

 「だが……お前には『殺してくれ』と思う程の生き地獄を味わわせてやる。朽ちろ…破軍絶龍!


 ――ゴォォォォォォォ!!


 ある意味で死刑以上の判決を言い渡し、そのまま純粋魔力攻撃を叩き込む。
 頭を締め付けられているだけでも凄まじいのに、追撃ちとも言えるこの攻撃を喰らった方はたまらない。

 しかし、普通なら此れで意識が飛びそうなものだが、偽プレシアは意識を保っている。


 …ルナが意識が飛ばない程度に加減をしたのだ。

 「あ、…ぐぅぅ…。」

 「…お前の断罪はまだ始まったばかりだ。吹き飛べ、巨門空刃!

 今度は掌からの衝撃波を叩き込む。
 さきの次元跳躍魔法を『禄存轟斬』で防ぎ、そのエネルギーが詰まった一撃は重い。

 あまりの衝撃と威力に、アイアンクローで掴んでいたにも拘らず、其れが外れ偽プレシアを部屋の端まで吹き飛ばし壁に叩きつける。
 叩き付けられた壁の方に罅割れが出来たのを見ると、威力は相当なものだ。

 「ぐっ…はぁ、はぁ、はぁ…ゲホッ…はぁはぁ…く…お前は一体…!」

 皮肉にも強烈な一撃のせいで拘束から解放された偽プレシアは息を整えながらルナを睨み付ける。

 大凡こんな事は認められることではなかった。
 プレシア・テスタロッサの姿を借り、その力を掠め取り、ジュエルシードの力でアルハザードに至り失われた力を手にする。
 そして、其処で手に入れた力で管理局時代のプレシアが残した以上の研究成果を出し、名実共にプレシアを超える筈だった。
 其れなのに、最後の最後での大誤算。
 捕らえていたプレシアが解放され、駒として使っていたフェイトに決別された。
 更には得体の知れない『古代ベルカの騎士』から断罪の攻撃をされる始末。

 何よりも、自分を今見据えている冷たい薄茶色の瞳が気に入らない。

 「いえ、誰でもいいわ。邪魔をするなら殺すだけよ!消えなさい、フォトンバレット!」

 もしも冷静だったならば先程喰らった一撃で、実力差と言うものを理解しただろう。
 だが、認められない――認めたくない現実と、計画を邪魔した者への怒りが冷静な思考を奪っていた。

 お返しとばかりに、無数の魔力弾がルナに襲い掛かり、其れが爆ぜ砂煙が舞い上がる。
 並みの魔導師ならば此れで終わっているほどの攻撃だ。

 「…温い。如何した?さっきの次元跳躍魔法の1割にも満たないぞ?」

 しかし、砂煙が晴れて現れたルナは全くの無傷。
 バリアを張った様子は無い……つまり全くの生身で其れを受けたのだ。

 「ば、馬鹿な…!く…サンダースフィア!」

 その姿に驚きつつ、再度の攻撃。
 今度の魔力弾は1発だが、威力は先程の数倍はあるものだ。

 「温いと…言っている!」

 であるにも係わらず、放たれた其れをルナは魔法を使わず拳で殴り飛ばす。
 其れで全くの無傷。

 「!!…さ、サンダーレイジ!」

 今度は雷が降り注ぐが其れも無駄。


 ――パチン


 右腕を上げ、指を鳴らしただけで雷が霧散する。

 「…プレシアの力を利用しなければ所詮はこんな物か…」

 低く、そしてひどく冷たい声に、偽プレシアは怒りよりも恐怖の方が大きくなった。







 ――勝てない







 嫌でも、そう理解させられた。

 「覚悟を決めろ。お前が利用した者達全ての怒りを、その身で思い知れ。」

 其処からは最早戦いではなく一方的な断罪の私刑だった。

 文曲絢爛!

 一瞬で間合いを詰めての強烈なボディブローとアッパーで吹き飛ばし、其れを追うように廉貞黒曜で先回り。

 蒼嵐滅掌!

 吹き飛んできたところを、打ち返すように今度は魔力掌打で逆方向に吹き飛ばす。

 「刃以って虚空を裂け、穿て、風神爪牙!

 追撃の誘導射撃魔法で追撃ち。
 その一撃で、偽プレシアは壁に縫い付けられた状態に。

 「ぐ、この…!」

 何とか脱出せんとするも衣服に刺さった魔力の短剣はびくともしない。
 それどころか、

 「無駄だ。天戒縛鎖!


 ――ガキィィィン!


 バインドで完全に縫い付けられてしまった。
 四肢と胴体を拘束されてはどうしようもないだろう。

 そして、恐らくは止めであろう一撃を放とうと、ルナは魔力を集中する。

 其れは最も得意とする、『広域空間殲滅攻撃』だ。

 「…プレシアの力にのみに憧れて嫉妬し、自分を見失ったお前では誰にも勝つこと等出来んさ。
  この計画も、成功したところで誰もお前の功績とは思わない。…お前はプレシアに成りすましていたのだからな。」

 「!!あ、…あぁぁあぁ…!」

 止めの前に気付いていなかったであろう事実を突きつける。
 簡単な事実だが、其れは十分な威力を持って精神を、プライドをズタズタに引き裂いた。

 「己の愚かさを呪え。来たれ白き闇。万物を飲み込み、塵すら残さず全てを無に帰せ。滅ぼせ…無界!

 放たれた一撃。
 其れは絶対無比の破壊の力を持って部屋を、時の庭園そのものをも破壊していく。

 当然偽プレシアも其れを受けるがピクリとも動かない。
 さっきのルナの一言で心を折られていたのだ。



 たっぷりと30秒も続けた空間攻撃は、庭園を完全に瓦礫の山に変貌させた。
 此れはもう次元間を漂うただの廃墟だ。

 「…ふぅ。」

 攻撃を終えて一息。
 同時に紋様とベルトが消え、髪と眼の色も元に戻る。

 「凄まじい力だが…感情に左右されずに使うためには要修行だな…」

 そう言いながら、倒れ付した偽プレシアを引き起こし担ぎ上げる。
 完全に意識が飛んでしまっているようだ。

 「…お前の断罪は未だ終わらない。此れから先は管理局が裁判でお前を裁く。…覚悟しておけ。」

 そのまま転送ポートに到着。
 アースラに転送を開始する。

 「…此処ももう要らないな。既に廃墟だが、完全に破壊しておくか。
  よし…咎人達に滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ!撃ち抜け閃光、天楼星華!

 転送直前に放たれた集束砲が残った全てを薙ぎ払う。
 其れは既に廃墟と化した庭園と瓦礫をも吹き飛ばす。

 「…転送開始。」

 転送が完了し、誰も居なくなったその場に残ったのは何があったのか判らないほどの、次元を漂う荒野だった。








 ――――――








 Side:ルナ


 ふぅ…転送完了。
 取り敢えずは無事に済んだか。

 「ルナ!おかえり」
 「おかえりクロハネ!」

 なのはと雷華!

 「あぁ、ただいま。待っていてくれたのか?」

 優しい子達だな。

 「我らも居るわ。忘れるでない。」
 「ご無事でしたか。」

 冥沙と星奈も待っていてくれたのか。…ありがとう。
 と、

 「プレシアはどうなった?」

 無事なのか?

 「大丈夫。傷は酷いけど急所は外れてるから命に別状は無いって。」
 「今はちりょーのときの麻酔が効いて眠ってる。へいと、りにす、あるふも一緒に。」

 「そうか。なら良かった。…クロノ執務官は?」

 「此処に居る。…多くは聞かないさ。彼女を渡してくれ。君はなのは達と休むといい。お疲れ様だ。」

 そうさせて貰う。
 行き成り大きな力を使って流石に少し疲れた。

 「なら尚更だ。改めて、此れにて任務完了だ。ご苦労様。」

 「あぁ、執務官もな。」

 寧ろお前はこれからの方が忙しいだろうが…さて。

 「ルナ、戻ったね。」

 矢張り来たか。
 まぁ、説明しないわけには行かないな。

 「取り敢えず。どうやら怒りが爆発して融合騎と守護騎士の本来の力が解放されたらしい。
  紋様とベルトは、私自身で制御できない力を制御するための…一種のリミッターだった様だ。」

 「成程。それで怒ると時たま紋様が現れていたわけですか。」

 そうなる。
 流石に怒っただけで街一つ消滅など洒落にならないからな…ん?


 ――ピキッ


 !!武曲が!?
 まさか…力を解放した状態での運用に、耐え切れなかったのか…!


 ――パリィィィン


 「あ…」

 完全に砕けてしまった……すまない、無茶をさせすぎたか…


 ――案ずるな。


 「「「「「!?」」」」」

 誰だ!?いや、聞くまでも無い…

 「武曲…か。」


 ――如何にも。我は此れに宿りし意思。
   我の目に狂いは無かった、主は朽ち行くだけだった我に最後の戦いの場を与えてくれた。
   しかも、歴代の使い手の誰よりも強い。正に武具としてこれ以上の幸福は有るまい。
   もはや悔い無し!我は武士の本懐を遂げた!故に胸を張って逝く事が出来る!



 其れで良いのか、お前は?


 ――構わぬ。我に最高の幸福を与えてくれた強き娘よ…礼を言う。さらばだ、強き者達よ!



 ――シュゥゥゥゥ…



 「消えた、か。」

 最高の幸せを得たからこそ悔いなく消えることが出来る、か…解るなその気持ちは。

 「ルナ…」

 「大丈夫だなのは。短い間とは言え共に戦った戦友だから感慨はあるが…武曲は笑って逝った。ならば良いさ。」

 「そっか。」

 あぁ。
 ともあれ、此れで取り敢えずは事件解決だ。

 事後処理はリンディ提督とクロノ執務官が何とかするだろうから、私達の役目は終わりだな。

 「うん。えっと皆、ご苦労様でした!」

 「何を言うか。一番頑張ったのは、ナノハお主であろうが。」
 「そうですね。」
 「そうだぞ〜!ナノハは頑張った!偉いぞ〜!」

 まったく…だが、良い物だなこう言うのも。
 しかし…


 ――ドサ


 「ルナ!?」
 「クロハネ!」
 「如何したリインフォース!」
 「大丈夫ですか?」

 「す、スマナイ。その、流石に疲れた。少しだけで良いから眠らせてくれ…」

 大きな力を使った反動だな…此れは。
 矢張り要修行、士郎に相談してみるか…

 「良いよ。ルナが最後に一番頑張ったもん。良いよ、何か有ったら起こすから、ゆっくり休んで。」

 「そうさせてもらう。」

 「ふふ、お休みルナ。」

 安心できる笑顔だ…。
 ふふ、お休み、なのは…。












  To Be Continued…