――時は僅かに遡る


 Side:冥沙



 此処が動力炉…か?流石は心臓部、随分と厳重な扉で護っているものだな。

 「しかも特殊な電子ロックが使われていますね。此れを解析するのは簡単にh「光翼連斬、だぶるすら〜っしゅ!!」…行きましたね…」

 「行ったな。うだうだ考えるよりも力押しか?うむ、まぁ良かろう。」
 結果オーライで良しとしておくか。

 「えっへん!」

 だが目的は動力炉の破壊。
 行くぞ、さぁ供をせい!

 「よっしゃ〜〜!いっくぞ〜〜!!」
 「はい。御一緒致しましょう。」

 粉々に破壊してくれるわ!!










  魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福20
 『TRUTH “Reinforce”』










 と、突入したはいいが……此処が動力炉?アースラの機関室のような場所を想像していたが、此れはまるで…
 「動力炉と言うよりも研究室が適切ではないか?」

 「確かに。此れは…研究資料でしょうか?」

 かもしれぬ、まぁ何かの役に立つやもしれんから持って行ってしまえ。
 しかし、どうにも動力炉には見えぬ。
 「あの小娘の解析データは間違ってはおらぬのだろうな?」

 「その線は薄いかと。或いは動力炉兼研究実験室であるのかもしれませんし。」

 成程のう…だがそうなると動力炉の部分は何処だ?
 其れらしきものは見当たらぬが…?

 「王様〜〜!星奈〜ん!ちょっとこっち来て!!」

 む、雷華、何を見つけたのだ?って、此れは!!
 一体全体如何言う事だ!?

 雷華が見つけたのは巨大な生体ポッド。
 それだけならば良い、だが其れに入っておるこやつは…
 「プレシア・テスタロッサ!?」

 「如何言う事でしょう?」

 何故奴が?
 いや、そうなると金の小娘に非道を働いたあの下郎は一体…?

 ――貴女達は…誰?


 !!此れは念話?
 こやつ…まさか生きておるのか!?

 「んむ…我等は白夜の書の守護騎士『ヴァイスリッター』。我がそのリーダーたる高町冥沙だ。」

 「同じくヴァイスリッター、理の魔導師、高町星奈です。以後お見知りおきを…」

 ――そう…。それで貴女はフェイト?アリシア?…いえ、どちらでもないわね…

 「誰がへいととありしあやねん!僕は高町雷華!名前は間違っちゃ駄目なんだぞ〜?」

 雷華、うぬと言う奴は……まぁよい、今はコイツが何者か、そしてあの下衆が何者かをはっきりさせねばな。


 ――其れはごめんなさい。何故あの子達と同じ容姿をしているのかは気になるけれど、それ所ではなさそうね?


 矢張り分かるか、そうだ、貴様の言う通りよ。
 何処の馬の骨とも知らん馬鹿が危険なロストロギアを使って御伽噺の世界に旅立とうなどと、無謀な事を考えよってな。


 ――御伽噺の世界…『アルハザード』ね?


 如何にも。
 我等はその愚行を止めるべく此処に来た。
 そして我等の使命は動力炉の破壊…だが貴様に聞きたいことがある。
 「貴様…『プレシア・テスタロッサ』で間違いないな?」


 ――えぇ。私は『プレシア・テスタロッサ』で間違いないわ。…そう、彼女を見たのね?


 「はい。貴女とまるっきり同じ容姿でした。」

 「おり…へいとに酷い事言ってた!絶対許さないモンね!!」

 貴様が本物か…ならば、我等の前に現れた『アレ』は――一体何者だ?


 ――彼女は…私が管理局の研究員だった頃の部下の1人。とても優秀な魔導師であり科学者だったわ。
    けれど、だからこそ私の部下であるという事に耐えられなかったのでしょうね…


 ふむ…?


 ――16年前のあの日、私は事故で娘を、アリシアを喪った。私は直にアリシアの蘇生を研究したわ。
    幸いにしてあの子の遺体は残っていたし、『プロジェクトF』と呼ばれていた研究の技術を流用すれば身体の再生は容易だったわ。
    けれど其れだけではアリシアには成りえない。最後の1ファクター『記憶の転写』が成功しなければね。


 …其れは失敗したのだな?
 「そしてあの金の小娘が生まれた…か。」


 ――えぇ。研究を始めてから10年…けれど誕生したあの子は、アリシアとは似ても似つかない別人だった。
    私は絶望したわ。『一体何の為に今まで…』とね、其処を狙われたわ。自分でも驚くほどあっさりと捕まった。
    略不眠不休で研究を続けていたせいで蓄積していた疲労と、失敗のショックで精神的にも参っていたのね…
    殆ど発狂状態の私をこの生体ポッドに閉じ込めて自由を奪い、リンカーコアも支配されたわ。
    今の私は『生体バッテリー』と言うところね。彼女の力も、この庭園の動力も、全てが私のリンカーコアが大元よ。


 何と…!オノレ外道が…!!
 其れが人のする所業か!?


 ――今にして思えば、16年前の事故、そしてアリシアの蘇生失敗も全ては彼女が裏で何かしたのでしょうね。
    私に成り代わって、私以上の力を手に入れることで、自分の方が実は優秀だった事の証明とするために。
    けれど、1つだけ誤算があったわ…生体バッテリーとして生かされている中で私の精神は正常に戻ってきた。
    だから、今は冷静に物事が考えられる。……貴女達は動力炉の破壊に来たのね?


 うむ、そうだが。
 「其れがどうした?」


 ――貴女達の魔力の強さなら、3人合わせれば恐らく…いえ、いけるわね。
    私の周りにある機械、此れを全て破壊しなさい。そうすれば少なくとも私のリンカーコアからの魔力供給は無くなり庭園は止まるわ。
    私自身はこのポッドの中では魔法が使えないの。使えるとしても今行っている念話のような簡単なものだけ。
    しかも装置には強固なプロテクトシールドが張り巡らされているから破壊は無理とも思ったのだけれど…貴女達なら。


 成程な。
 良かろう、貴様を解放してやる。
 しばしmいっくぞ〜〜!パワー極限!全力全壊!!――雷華、何をしている〜〜〜!!

 雷刃封殺爆滅剣〜〜〜〜!!!


 ――ドバギャァァァァァン!!!!


 「こ、このアホの子が〜〜〜!!」
 と言うか、何と言う馬鹿力!
 やはり脳味噌に行かないエネルギーは全て力に換算されているのか貴様はぁぁぁ!!

 「一切否定が出来ませんね…」

 まったく…。
 おい、プレシア・テスタロッサは無事なのだろうな!?

 「ケホッ…なんて一撃…。まさか1人で破壊してくれるとは思わなかったわ…」

 「えっへん!だって僕は『力』の魔導師だもん!」

 …無事であったようだな。
 う〜む…まぁ良いか。
 「無事か?」

 「何とかね。まったくの偶然だけど今の攻撃の雷の影響で全身の細胞が一時的に活性化したみたいね。
  此れなら少しの間は自分で動く事ができそうだわ。」

 其れは良かった。
 うむ…取り敢えずは服だな。
 幾らなんでも『マッパ』と言うわけには行くまいが…さて如何したものか?

 「冥沙、このカーテンは如何でしょう?服ではありませんが、纏えばローブの代わりくらいにはなるかと…」

 「だな。」
 でかした星奈!此れで連れてゆける。
 さぁ、さっさと纏うが良い。

 「ありがとう。……一つ聞きたいのだけれど、あの子…フェイトは?」

 「…貴様の名を騙った塵芥が心に傷を…もし立ち上がることが出来たなら此処に来るだろうが…確証はない。
  もし来ていたら、あやつの存在を認めてやってくれ。本当の母親であるうぬから優しい言葉をかけてやってくれ、頼む…!」

 「分かっているわ。フェイト、あの子はアリシアが望んだ妹。そして生き残った私の大切な『娘』ですもの。」

 そうか…心配は無用であったか。
 ならばもう此処に用は無い、最深部へ行くぞ雷華、星奈!
 あの極悪非道の塵芥…いや、比較するにも塵芥に失礼極まりない下郎に一撃喰らわしてくれる!!

 「御意に…!」
 「待ってろよ、鬼婆〜〜!僕が成敗してやる!!」

 まぁ、我等が何をせずともリインフォースとナノハが滅する可能性は大いにあるのだがな…








 ――――――








 Side:ルナ


 「と言うわけだ。」

 「うん、的確かつ簡潔な説明だな。」
 成程、コイツは偽者だったのか…

 「く…最後の最後で…!プレシア…お前は…!!」

 「貴女には礼を言うべきかしらね?生体バッテリーとして生かされていたおかげですっかり精神が正常に戻ったわ。」

 矢張り本物は違うな。
 その場に存在するだけで、他を圧倒する…これが本物の『大魔導師』か。

 「この…!お前はフェイトと言う存在に絶望したはずだ!自分の娘が再生できなかったと!そうなるように仕向けたのに!」

 「確かにあの時は絶望したわ。この子はアリシアじゃない。」

 「…母さん…」

 プレシア…本物であってもそうなのか?

 「でもね。其れは当然なの。アリシアとフェイトは姉妹ですもの。まるっきり同じになる事なんてありえないわ。
  私の娘は双子だったのよ。姉のアリシアは事故で死んでしまった、でも妹のフェイトは生きている!
  この子が例え私を母親と認めてくれなくても構わない。フェイトは私の娘よ!絶対に喪いたくない私の可愛い娘!」

 「…!母さん?私は…!」

 心配無用だったか。
 此れが真の母親か…桃子もそうだが母とは強いな…

 「ごめんなさいね、不甲斐ない母さんで。貴女には辛い思いをさせてしまったわ。リニス…貴女にもね。」

 「プレシア…。いえ、私こそこんな事に気が付く事が出来なかったなんて、使い魔失格ですね。
  精神リンクで感じる貴女の感情と、彼女の行動の矛盾を考えれば直に答えは出ていたのに…」

 「仕方が無いわ…私は魔力制限を受けていたのだし…でも、この子を支えてくれてありがとう。アルフ、貴女もね。」

 「う、あぁ…うんまぁフェイトはアタシのご主人様だしね。当然だよ。」


 …テスタロッサ、良かったな。
 「さてと…如何やら此処までのようだ。お前、覚悟は出来ているな?」

 正直言ってこいつを許す気など微塵も無い。
 子を思う母親の気持ちを、母を思う子の気持ちを利用し踏みにじった事は万死に値する…!

 「最後の最後で…!もういいわ!プレシア、フェイト纏めて消えなさい!私が新たな大魔導師になるのよ!アルハザードの力を得て!!」


 !!!攻撃魔法!!
 「避けろテスタロッサ!!」

 「え?…あ…」


 ――バシュ…


 「え?」

 「あ…。そんな、プレシアさん!?」

 そんな、馬鹿な…

 「母さん!!」

 「ふふ、大丈夫かしらフェイト…。怪我は…無い?」

 今の攻撃を一身に受けたって言うのか?娘を助けるために…!
 辛うじて急所は外れているが…此れでは!

 「下らない…そんな役立たずの為に自分を犠牲にするなんて。所詮は其れがお前のg「その口閉じろ屑が。」――何?」

 聞こえなかったのか?
 「口を閉じろと言った。貴様の言う事は聞くに堪えない。永劫にその口閉じていろ…」

 もう我慢できない。


 ――こいつを許すな。


 何処までふざけた事をすれば気が済む…


 ――怒りに身を任せろ。


 利用するだけ利用して、最後には切り捨てるのか…!


 ――精神を怒りのまま自由に解放しろ。


 其れがどれだけ残酷で非道な事だと分かっているのか…


 ――思い込め。


 お前の様な奴が私を改変し、あの優しい騎士達を苦しめたんだ!


 ――目の前のコイツは…死すべき存在だと。


 お前だけは…絶対に、絶対に許さない!
 「お前は…お前だけは絶対に…絶対に許さんぞ!!」


 ――ドガァァァァン!!








 ――――――









 No Side


 其れは一体なんだったのだろうか?
 本物のプレシアが偽者の攻撃からフェイトを護った。

 そして其れに浴びせられた偽者の一言。

 其れがルナの怒りの臨界点を突破させた事は間違いない。

 爆音と共に膨れ上がった強大な魔力。
 其れはルナから発せられている。

 「る、ルナ?」

 「く、クロハネ如何したんだよ!其れにそれって…」

 なのはと雷華の動揺は仕方ない。
 いや、口に出さないだけで、冥沙も星奈も、クロノでさえもルナの変化に驚いていた。


 あふれ出す膨大な魔力。

 顔と左腕に現れた紅い紋様。
 右腕と、スカートのスリットから覗く左足に巻かれた紅い革ベルト。

 此れだけでも充分すぎる変化だ。
 だが、それだけではない。

 背に現れた6枚の黒い翼。
 薄い茶色に染まった髪と瞳。

 「リインフォース…貴様その姿は…!」

 今のルナの容姿に覚えがあるのだろう。
 一番驚いているのは冥沙だ。

 「大丈夫だ、暴走などはせんよ。自分でも驚くほどに頭はクリアーなんだ。」

 そう言いながらプレシアの偽者と向き合う。

 黒い羽が舞い、ルナの姿を強調する。

 だが、激情は感じられないが、其れが逆に恐ろしい。
 『絶対零度』或いは『永久凍土』とも言うべき冷たい怒りが魔力と共に発せられていたから。

 「お、お前は一体…!」

 「古代ベルカの騎士だが多くを語る必要も無い。」

 その四肢に武曲が展開され、更に力が増す。

 「お前は、今此処で闇に沈むのだからな…!」


 ――バァァン!!!


 再度魔力が炸裂し、広い部屋の壁や天井に皹が入る。

 正に圧倒的。

 「ルナ…」

 「…大丈夫だなのは。桃子との約束は守る。だがコイツには…死ぬよりも辛い目に遭わせねば気が済まん…!」

 心優しき融合騎の怒りは凄まじい。


 その茶色の瞳が偽プレシアを射抜き、その動きを封じ込める。
 魔法ではない。

 只の一睨みがそれだけの迫力を有しているのだ。

 「あ、あああああ…」

 「これしきで情けない…。お前覚悟は出来ているな?」


 日が沈まない白夜。
 常に太陽が照らしているからこそ生まれる、生まれてしまう闇。

 其れが炸裂し、白き闇が今此処に覚醒した…












  To Be Continued…