――時空航行艦アースラ


 Side:なのは



 「…この人が、フェイトちゃんの…」
 目の前のモニターに映ってる人がフェイトちゃんのお母さん……其の格好は殆ど御伽噺の悪い魔女みたい。
 玉座って言うのかな?大きな部屋の真ん中に有る椅子に腰掛けてこっちを見てる。
 もう直ぐ其処には、沢山の管理局員さん達が押しかけてくるのに如何してそんなに余裕なんだろう?

 『…小うるさい蝿が来るようね。一体何の用かしら?』

 「…母さん。」

 「フェイトちゃん…大丈夫?」
 一応一緒に来てもらったけど、別の部屋に行ってもらった方が良いのかなぁ?

 「ん、大丈夫…」

 「無理はしないでね?」

 頷いてくれたけど…大丈夫かな?
 なんか、物凄く嫌な予感がするの…










  魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福19
 『真の目的、そして闇』










 『フェイト…其処に居ると言う事は矢張り負けたのね?…本当に役に立たないわ。』

 !!い、行き成りなんてこと言うの!?
 其れが頑張った自分の娘に対して言う事!?

 『複製を作っておいて正解だったわ。』

 「ジュエルシード!?そんな、それじゃあフェイトちゃんが持ってきたのは!?」
 そんな、まさか偽物なの!?

 「か、母さん…?」

 『何て顔をしているのかしら?まさか本物を持たせて貰えるとでも思ったのかしら?』

 何で?如何してそんな風に嗤えるの!?
 確かに勝ったのは私だけど、フェイトちゃんは…!!!

 『そうね…いい機会だし本当の事を話しておきましょうか。』

 「ほざけ塵芥。本当の事だと?知れた事、所詮貴様は三流以下の下郎だと言う事だけであろうが。」

 うん、相変わらずだね冥沙。
 でも、其の意見には今は大賛成かな。

 『口の悪い事ね。…まぁ良いわ。ねぇフェイト、貴女は如何して私がジュエルシードを集めているか知っているわよね?』

 「そ、其れは…姉さんを、アリシアを蘇生させるために…」

 アリシア?
 「誰なの、フェイトちゃん?」

 「えっと…」

 「アリシア・テスタロッサ、フェイトの双子の姉に当たる人物で、5歳の頃に他界しているんです。」

 リニスさん、ありがとうございます。
 それにしても他界…其れにフェイトちゃんが言うには生き返らせようとしてる?
 そのためにジュエルシードが必要なの?

 『ふふふ…あはははははははははは!!おめでたいわねフェイト、リニス貴女もよ!アリシアの蘇生なんて事を本気で信じていたの?』

 「母さん?」
 「プレシア!?」


 「おい、如何言う事だクソババァ!」

 アルフさん、うん、本気で怒ってる。
 でも如何言う事なの?蘇生が目的じゃない?

 「おかしい事では有りませんよ。死者の蘇生など、如何に魔導に優れていてもおいそれと行えるものではありません。」

 「古代ベルカに於いてすら、完全な形の死者蘇生は成し得なかったからな…」

 星奈とルナ…そうなんだ…
 でもそうなると、本当の目的って?

 『良い事を教えてあげるわ、アリシアなんて子は既に遺体すら存在していないわ。アリシアの蘇生は貴女達を動かす為の方便。嘘よ。
  もっと言うならフェイト、貴女は私の娘なんかじゃない。アリシアの細胞から作り出したクローン。ジュエルシードを集める為に造った人形よ。』

 「え…?」
 「ちょ、プレシア!?」

 な、何て事を言うの!?フェイトちゃんがクローン人間!?
 それだけなら未だしも、人形なんて言うなんて……この人には本当に人の心があるの!?

 『それでも、中々の働きをしてくれたわ、始めの内は。そうよね、『病気の母親』をジュエルシードを使って治そうと言う目的が貴女にも有ったんですもの。
  でもねフェイト、病気の母親なんて何処にも存在していなかったのよ?私は至って健康体よ、この通りね!』

 顔に手を当てて光を放つと…えぇ!一瞬で蒼白かった顔色が元に戻った!?
 「ど、如何言う事なの?」

 「化粧ね。恐らくは化粧で病人に見せかけていたのよ。更には魔法的な処理で自ら身体の機能を一時的に低下させていた可能性もあるわね。」

 『ご名答。流石は一個艦隊を指揮するだけの事はあるわね、リンディ・ハラオウン提督。
  まったくバカバカしいわ、其の人形を自在に動かすために、こんな重病人のメイクまでしていたなんてね。
  でも、もう其れも終わり…私は行くのよあのb「時空管理局だ!大人しくしろ!!」…思ったよりも早いわね…目障りよ…』


 !!あの魔力…ま、拙いの!!
 「リンディさん!皆を下がらせて!!」

 「艦長、全員あの場からの撤退を!!」

 「!!…全武装隊員に告ぎます!速やかにその場から撤退して!!」

 やっぱりクロノ君も分かったんだ、あの人の魔力…危険すぎる!!
 リンディさんが直に撤退を指示するけど、駄目、間に合わない…!

 『消えなさい…!』


 ――ドォォォォン!!


 「「「「「「「「うわぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」」」」

 『…呆気ない。所詮は塵ね…』

 そ、そんな…!
 突入した人達が皆消えた…!なんで、如何してこの人は…!!

 『余計な横槍は止めて欲しいわ。もう止まらないわ、私は全てを手に入れるのよ。そう、失われた都『アルハザード』で!
  ジュエルシードを使って次元震を起こせば道は開ける…貴女達は其処で見ていなさい、歴史的瞬間を。』

 アルハザード…?うぅん、其れよりも。
 「プレシアさん、貴女は何とも思わないんですか?フェイトちゃんは貴女の為に頑張っていたの!
  其れなのに、其れなのに如何してそんなに酷い事が言えるんですか!貴女には人の心が無いの!?」

 言わなきゃいけない。
 うぅん、黙ってられないよ…こんなの許せない!!

 『貴女は…?……そう言うこと、フェイトは貴女に惑わされたのね…本当に下らない。
  覚えておきなさい、真に目的を達成するなら自分以外のあらゆる者は全て駒に過ぎないという事を。
  ふふふ…そうね、最後に言っておいてあげるわフェイト。』

 「母…さん?」

 「お、おい!しっかりしろへいと!」

 「気を確かに…。」

 フェイトちゃん!
 何だろう、これ以上は言わせちゃいけない気がする!!
 「駄目!それ以上言わないで!!」

 『私はね…本当は貴女の事が…大嫌いだったのよ!この役立たずの木偶人形!!』

 「!!!…そんな…母さん…」

 「フェイトちゃん!!」
 「へいと!」
 「しっかりせい小娘!!」
 「「フェイト!!」」


 フェイトちゃん…!
 如何して…如何してこんな事を…!!


 ――ブシュッ


 …え?

 「其れがお前の本心かプレシア・テスタロッサ…!!」

 「る、ルナ!?」
 て、手から血が出てるの!!ま、まさか拳を握り締めすぎて?

 「今から其方へ乗り込む…首を洗って待っていろ…!」

 こ、怖い…!
 此れが本気で怒ったルナ…!

 『ふ、貴女がリニスの言っていた古代ベルカの騎士ね?いいわ来てみなさい。辿り着けるのなら。』


 ――プツッ…


 い、言いたい事だけ言って通信を切っちゃった。

 「リンディ艦長、これから私達はプレシアの元に向かう。構わないな?」

 「えぇ、問題ないわ。クロノ執務官、貴方もプレシアの元に向かうように。其れから罪状に『武装局員の大量殺害』を追加。」

 「了解。エイミィ座標は?」

 「バッチリ!直に転送ポートで向かえるよ!」

 物凄い手際のよさなの…でも、それよりも…
 「あ、あのリンディさん。その、フェイトちゃんを…」

 「…そうね。フェイトさんを医務室に。他は全て突入組のバックアップに!」

 フェイトちゃん、完全に気を失ってる…
 全力で戦って疲れてるのに、あんな事言われたら当然だよね…

 フェイトちゃんのお母さん…ううん、プレシア・テスタロッサ!絶対に許さないの!!








 ――――――








 Side:フェイト


 「あの、大丈夫ですか?」

 「んあぁ、フェイトにはアタシが付いてるから大丈夫だよ。アンタ等はアイツに一発食らわせてやっとくれよ。」

 …アルフ、誰と?
 誰でも良いや…もう。

 私は結局なんだったんだろう?
 母さんの為にジュエルシードを集めてた。
 ジュエルシードを集めていれば母さんも私を必要としてくれてた…

 でも、本当はそんな事は無くて…もう、如何でも良いや…
 きっと私には何の価値も無いんだ…

 「「フェイト…」」

 アルフ、リニス…ごめん、でももう無理なんだ…私は…

 「本当に其れで良いのかいフェイトは?」

 アルフ?

 「アタシはさ、フェイトが幸せなら何でもいいんだ。あの白い魔導師達と一緒でもフェイトが幸せならアタシは何も言わない。
  アイツさ、前にフェイトに言ったよね『友達になりたい』って。フェイトはまだ其れに答えてないんだよ?」

 友達…?

 「アタシはどんな答えでもフェイトが自分で出したなら最後まで付いてく。」

 「私もですよフェイト…」

 リニス…

 「アタシはプレシアをぶっ飛ばしに行く。」

 「私も向かいます。…フェイト、あの子が、なのはさんが貴女に言った事を思い出して下さい…」

 ?…行っちゃった。
 あの子が…なのはが言った事…?


 ――逃げれば良いって事じゃない。捨てれば良いって事じゃもっと無い!


 ――私達の全てはまだ何も始まってない!


 !!!
 「始まっていない…?終わるどころか始まってない…?」

 「Sir.」

 バルディッシュ…?

 「Stand by.」

 起動?そんな、バルディッシュだって限界…!


 ――シュゥゥゥ…


 バリアジャケット…バルディッシュ…。

 「I believe sir.」

 「あ、あぁぁぁぁぁ…バルディッシュ…!」
 貴方も傷付いてたんだ…其れでも私と一緒に…!ゴメン…ゴメンね、気付いてあげられなくて…!

 「Don't worry.」

 そうだ…!逃げちゃいけないんだ…捨てても駄目なんだ!
 「行こう、バルディッシュ。私を始めるために!」

 「Yes sir.」


 ――私はフェイトちゃんと友達になりたい。


 ――あいつの想いに応えてやってくれ…

 なのは、ルナ…今度こそ応えるよ。
 だから…始まるために終わらせる、今までの私を!








 ――――――








 Side:ルナ


 「来たれ白き闇。万物を飲み込め、塵すら残さず全てを無に帰せ。滅ぼせ…無界!」


 ――ドォォン!!


 大分吹き飛ばしたが…矢張り湧いてくるか。
 この程度の傀儡兵、まるで相手ではないが流石に数が多いな…

 「道を開けろ…!ブレイズカノン!」

 「どいて…バスター!!」

 「頭が高いわ下郎!穿て破壊の剣、アロンダイト!」

 「目障りですよ…ブラストファイアー!」

 「アイツは一発ぶん殴る!邪魔するんならやっつける!喰らえ〜〜、雷神滅殺極光ざ〜〜ん!」


 ――ドドドドドガァァァァァァァァァァァン!!!


 まぁ、負ける事などありえないが…
 それにしても、まさかあそこまで非道だとは…

 アイツの様な奴が、アレを…『夜天の魔導書』を『闇の書』に変貌させたんだろう。
 欲望の為に、他の誰かを利用し犠牲にする…絶対に許さん…!
 「アイツは最深部だったな?」

 「恐らく間違いないが、プレシアの逮捕の他に、この要塞も止めなくちゃならない。冥沙、星奈、雷華、君達に動力炉の破壊をお願いしたい。」

 動力炉の破壊もか…まぁ、冥沙達なら大丈夫だろう。
 私達はこのまま進めばいい訳だ。

 「良かろう。こんな要塞如き、我が闇で打ち砕いてくれる!」

 「其れは頼もしいな。…よろしく頼む、無茶はしないでくれ。」

 「了解です…では私達は此方に…」

 頼む。

 「皆、お願いね!」

 「任せてよなのは!クロハネとくろのも頑張れよ〜〜!」


 ――バシュン!


 素早いな…。
 「よし、私達はプレシアの元に急ごう。」

 「うん!」

 エイミィ・リミエッタの解析通りなら、この扉の先の大広間を抜ければ、最深部に至る道が有る筈だ。
 扉を突き破って突入したが…

 『『『ゴォォォォォン…!』』』

 中には巨大な傀儡兵が3体。
 外に居たのとは比べ物にならないほどに強い様だな。

 「…こんなものまで作っていたなんて…!」
 「あのババァ…本気で何考えてんのさ!」

 全くだ。
 だが、立ち止まる事は出来ない…行くぞ。
 「刃以て虚空を裂け、穿て、風神…「サンダーレイジ!!」…なに?」

 この雷は…まさか…!

 「「フェイト!!」」
 「フェイトちゃん!!」
 「君は…!!」

 「テスタロッサ…」
 来たのか?

 「ごめんアルフ、リニス心配掛けて。もう大丈夫だから。」

 そう、みたいだな。
 …矢張りこの子も強い。
 もう、瞳に影も迷いも無いみたいだ。

 「フェイトちゃん…」

 「…母さんはこの先に居る。其処に行くために、先ずはこれを倒そう。」

 「…うん!!」

 大したものだ。
 よし…!
 「天戒縛鎖!なのは、テスタロッサ、最大の一撃を撃て。」

 「了解!フェイトちゃん。」

 「うん…!」

 私だけじゃなく、アルフとリニス、執務官も一緒になってのバインド…逃れられはしない。

 ディバインバスター!!
 「Divine Buster.」

 サンダーレイジ!
 「Thunder rage.」


 ――ドゴォォォォォォン!!!


 …お見事、3体分のくず鉄が一丁上がりだ。
 まったく、防衛プログラムが働いていたとは言え、よくもまぁこの2人を同時に相手に出来たものだな私は…

 ともあれ此れで邪魔は居ない。
 大広間の扉を開くと長い廊下と階段が…最深部に繋がっているな、プレシアの魔力を僅かに感じる。
 …行こう。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・


 「母さんが居るのはこの扉の先。…開けるよ。」

 「うん…」

 地下の最深部…何とも重々しい扉だ、いよいよか。


 ――ギィ…


 ?何が起きている?
 扉を開けた途端に目に入ったのは、宙に浮かぶモニターを睨みつけるプレシア。
 モニターに映っているのは、リンディ提督か。

 『終わりですプレシア。次元震はアースラの力で止めました。伝承に過ぎないアルハザードを目指すなんて無謀にも程がありますよ。』

 「最後まで邪魔を…。アルハザードは存在するわ。そして失われた大いなる英知と力も!私は其れを手に入れるのよ。」

 大きな力を欲するか…御しきれない力は身を滅ぼすだけだ。
 「其の力を手に入れて、お前は何を成すつもりなんだ?」

 碌な事では無いだろうが…

 「言う必要は無いわ。…アラ、来たのねフェイト。あのまま死んでくれて良かったのに…」

 「「「!!!」」」

 「今は落ち着け。」
 飛び出そうとする、なのは、アルフ、リニスを抑える。
 本音は私も今すぐ殴り倒してやりたいんだが、テスタロッサがやる事が有るみたいだからな。

 「例えそう思われても、やっぱり私は貴女を嫌いになれません。」

 「ふぅん?」

 「私が貴女の娘だからじゃありません。貴女が私の母さんだから。どんな人であっても母親だから!!」

 『向き合う事』…それが、お前の答えかテスタロッサ。

 「そう。私を母親と言うのね?…ならお母さんのお願いを聞いてくれるわよね?」

 だが、其れすらも利用するというのかお前は…!

 「お願い…?」

 「其処に居る連中を全て殺してちょうだい。それから管理局側にあるジュエルシードも…「…いい加減にしろ。」何?」

 「何処までコイツの思いを踏みにじれば気が済む…大概にしろ下衆が。」
 いかんな…いい加減『怒り』を抑えられなくなってきている…

 「何を言っているの?娘は母親のお願いくらい聞くものよ。さぁフェイト…殺して、邪魔者を全て残らずに!」

 「母さん…!!」

 …もう、我慢は必要ないか。
 覚悟は…


 ちょっと待った〜〜〜〜!!!!


 ――ドッゴォォォォン!!


 「この声は…雷華!」

 「動力炉破壊できたんだ!」

 大丈夫だとは思っていたが、流石に強いな3人とも。

 「まぁ、少々シールドが強固でしたが、雷華の前では無意味でしたね。」

 だろうな。
 ん?冥沙は如何した。

 「此処に居る。ふん、どうやら良いタイミングであったな。オイ小娘、其の下郎の言うことなど聞く必要は無い。そ奴は貴様の母親などではないのだからな。」

 「え?」
 「そうなの!?」

 「如何言う事だ?」
 こいつはプレシアじゃない…?


 「!!貴女達、まさかあの女を!!」

 「えぇ、解放させていただきました。」

 何を驚いて、其れに解放?一体誰を…?

 「見てもらった方が早い!え〜と…『はくぶんはいっけんにシラス』って奴だ!」

 「其れを言うなら『百聞は一見に如かず』であろうが。まぁよい。おい、こっちだ。」


 ――スッ…


 「え?」
 現れた人物に、私も、なのはも…いや、テスタロッサもアルフも、皆が釘付けになった。
 此れは一体…

 「え?へっ?如何言う事なの〜〜!?」

 「リニス?」
 「私だって分かりません…」

 「如何言う事だ、此れは…」

 無理も無い。
 何故なら、現れたのは…

 「え、あ……母さん…?」

 紛れも無く『プレシア・テスタロッサ』だったのだから…
 何が、どうなっているんだ…?


















  To Be Continued…