Side:なのは


うぅ……さ、流石に緊張するなぁ……自分の家とは言え8年ぶりだから仕方ないかもしれないけどね。
アレだけ会いたいと思ってたのに、いざその時になると二の足踏むなんて、私もマダマダなのかなぁ?……此れは戦いとは別の覚悟が必要なんだね。


「そんなに気張る事もないだろう?
 確かに随分と久しぶりだが、だからと言って桃子と士郎が変わってしまったとは思えん……驚きはするだろうが、お前の帰還を喜んでくれるさ。」

「そうかな?……そうだと良いな…」

時間はそろそろ12:00……翠屋の扉に『準備中』の札が出てからだね――営業中に入って行ったら大変な事になっちゃうから。




「ありがとうございました〜〜〜〜♪……さてと、午前中は此処までだね。」


よし、準備中の札が出た……行くよ!!



とは言え、やっぱり緊張するよ……だけど、迷わないよ。やっとお父さんとお母さんに会う事が出来るんだもん。
8年前からずっと会ってなかった大好きな人に………ふぅ……良し!!!



――カランカラ〜〜ン



「あ、すみません……午前中の営業はもう終わりで…………え?」


……思った以上に驚いてるね……当然だけどさ。……だけど、私が言うべき事はただ一つしかない――…ただいま、お母さん。











魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福116
『白夜の主に温かき祝福を…』










「そんな…本当に、本当に……なのはなの?」

「うん……8年も留守にしてたけど……帰って来たよお母さん……」

「それと、なのはだけじゃなくて私も居るぞ?……ただいま桃子……随分と長い間待たせ、そして心配をかけてしまったな……」

「ルナも!!……2人とも…無事だったのね!?」


うん…色々有ってね……本当に色々有って、帰ってくるのがこんなに遅くなっちゃった………謝って済む問題じゃないのは分かってるんだけど、ね…


「なのは、ルナ!!!」

「はい!!」

「!!…スマナイ……!!」


やっぱり、先ずは……



――ぎゅ………



「へ?」

「え?」


先ずは一発ビンタが飛んで来ると思ったけど……え?抱きしめられてるの?


「良かった……生きていてくれて本当に良かったわ2人とも。
 冥沙達が説明してくれたおかげで、2人が生きていると言う事は知らされていたけど、やっぱりこの目で見るまでは……だけど本当に生きてたのね。
 本当は、もう二度と会う事が出来ないと思っていたのよ――其れだけに、余計嬉しいわ…」


お母さん……その、怒ってないの?
私もルナも8年も心配かけたままだったんだよ?今だって何のアポもなしに行き成り翠屋に押しかけて―――!!


「だが、それでも此方が休憩に入ったのを見計らって来ただろう?
 其れに、ずっと行方知れずだった自分の子供を叱る親は居ないさ――そう言うのは何方かと言えば兄妹の役目だと僕は思うしね。」

「お父さん……!!」

「士郎……!!」

「……まぁ、家族に心配をかけたと言う点については14年前の僕も同罪だからなぁ……いや、奇跡的に助かったから良かったようなモノの下手したら家族崩壊だった…


……14年前のお父さんの大怪我とはまた違うと思うんだけど……。
ん〜〜〜……お姉ちゃんの時みたいに一発喰らう事覚悟してたからなんか拍子抜けと言うか………だけどやっぱり……

「温かいなぁ……お母さん…」

「……あぁ、桃子は温かいな…」


うん、何て言うか会ったら如何しようとか、何を話そうかとか色々考えてたんだけど――全部霧散しちゃった。
難しく考える事なんて無かったんだよね……ただ一言『ただいま』って言えば、きっとそれで良かったんだね………



「あう……ぐぐ……こ、このままでは臨界点突破してしまいますわ!ドゥーエお姉さま私を殴って!!!」

「そいやぁ!!!」


――メキィ!!


「ありがとうございます!!」

「今回は暴走する前に自分で気が付いたから『腐女子』呼ばわりだけはしないであげるわ。と言うか親子でも反応するとは我が妹ながら恐るべし……


クアットロ……何かもう色々台無しだよ!!空気が死んだよ、如何するの!?


「なのは、あの方達は?」

「あ〜〜…うん、今ブッ飛ばされた人も含めて私とルナの恩人であり仲間だよ?……ちゃんと紹介する心算で居たんだけど、なんだかなぁ…」

「なのはとルナの……其れはちゃんとお礼を言わないといけないね。
 ……だが、なのは彼女達は――それになのはとルナも……」


やっぱりお父さんは気付くよね………多分予想通りだと思うの。
だけど其れを含めて、8年前に何が有ったのか、そして今まで何をしてたのか―――ちゃんと話す心算でいるから。



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取り敢えず落ち着こうと、適当な席に掛けて貰って、お父さんが珈琲を皆に淹れてくれた……久しぶりのお父さんの珈琲は凄く美味しかった。


話しをする前に皆に自己紹介して貰ったんだけど、ジェイルさんが『マッド』を発動してドゥーエさんの『ハリセンストライク』で沈められたのはお約束?
それとお父さんは変装して翠屋に来てたドゥーエさんの事に気付いてたみたい……『何度か来てるよね?』って言ってたし。

毎回違う姿で来てた筈なのに其れを見切るお父さんは流石だと思うのです…
其れとお母さん、サイファーを見て一体何を画策してるのかなぁ?……サイファーはルナ以上にコスプレは無理だと思うから諦めて下さい。



で、8年前に何が有ったのか、8年の間に何が有ったのかを話してる、真っ最中。
私のリンカーコアとか、最高評議会とかの事はジェイルさんが説明してくれるから助かるよ。


「つまりなのはとルナは『強すぎる』が故に消されかけたと?」

「端的に言えばそうなるだろうね――まぁ、無理もないさ。ルナ君の強さは元より、なのは君はかの『聖王』の力を受け継いでいるのだからね。
 ……其れだけの力が自分達に靡かないと言うのは危険だったのだよ、欲に溺れた『最高評議会』の首脳陣にとってはね。
 尤もそれが結果として自分達の首を絞める結果になったのだから、マッタク未来とは分からんモノさ。」


私達の話をお父さんもお母さんも余計な事は言わずに聞いてくれた。
流石に私とルナが死にかけたって言うのには、2人ともテーブルをひっくり返さんばかりの勢いで立ち上がっちゃったけどね。


「それで…その最高評議会はどうなったのかしら?」

「結論だけを言えば既に奴等は瓦解した……私達が管理局と協力して奴等を潰したんだ。
 美由希や冥沙達も一緒に戦闘に参加してな……欲に塗れた救い難い者達は倒したよ――だが士郎、お前には他に聞きたい事が有るんだろう?」

「む……だが、果たして聞いて良いモノかどうか……桃子さんも居るからねぇ?」


ううん…寧ろ聞いてほしいかな?
其れにお父さんが気付いてるなら、きっとお母さんもなんとなく私とルナが『何かした』位は感じ取ってるかもしれないから。

「多分、お父さんの考えてる通りだよ?……私とルナから感じたんだよね…『血の匂い』を……」

「む………矢張りか……」

「え?血の匂いって、如何言う事?」


心して聞いてお母さん………私とルナは、人を殺してるの――其れも、もう数えきれないくらい。


「!!!な、何でそんな事をしたの!?人の命を奪うなんて、そんな事を……!!!」

「綺麗事を言うつもりはないけど、そうしないと私達みたいな人が増えるからだよお母さん。
 私とルナは、怪我が完治した後で違法な研究を行ってる施設を軒並み潰して回ったの……其処に居る研究員を一人残らずに葬ってね。」

許される行為じゃないって言うのは分かってる。
だけど、あれらの施設を野放しにしておいたら、何の罪も無い人が狂った欲望を叶えるためのモルモットにされて殺されてた。
サイファーだって、もしあの施設を襲撃するのがあと1日遅かったらどうなってたか分からないの――やるしかなかったんだよ、私達は……


「だが、どんな事を口にしようとも私達が『人殺し』と言う罪を犯したのは間違いない。
 はやて嬢が言うには法では裁く事が出来ないらしいが、ならば尚のこと私達はこの『咎』を背負って生きてくしかない……覚悟はしているけどな。
 其れに法で裁けないと言うのならば、私達は別の方法で償わねばならん。
 ……せめて平和に暮らす者達が笑って過ごす事が出来る世界を造るのが私達のすべき事だと、そう思っている。」


せめて其れ位しないと申し訳も立たないからね……此れは初めて人の命を奪ったその時から覚悟は決めてたんだ……


「そう……だけどなのは、貴女達が進もうとしているのはトンでもない『茨の道』よ?其れを理解しているのね?」

「うん……もう、戻る事は出来ないんだよお母さん――私達は正道には戻れないから。
 それに、私とルナはもう人じゃないんだ……サイファーを保護した時に『エクリプスウィルス』って言うのに感染しちゃってね。
 極端に死に難い身体と、普通の人よりもずっと長い寿命を手に入れた……ウーノさん達も戦闘機人って言う存在で純粋な人じゃない。」

「そんな……」

「なのは……」


だけどね、後悔はないんだ。
こんな身体になったけど、私が私である事に変わりはないし、こうして大事な仲間達が居るから……だから大丈夫。

其れに、だからと言ってもう二度とお父さんとお母さんに会いに来ない訳じゃないから――色々あるだろうけど、1年に1回は帰ってくるから…ね?


「………なのは達の覚悟は良く分かったよ……なら僕から言う事は何もない。」

「そうね……なのはもルナも一度決めたら絶対に其れを曲げる事はしないモノね。
 だけど此れだけは約束して――危険に飛び込むなとは言わないけど、死なないで。……毎年顔を見せに来て……其れだけは約束して…」


お母さん……うん、分かった。
私もルナも、其れに皆も絶対に己の寿命をまっとうするまで死なないって約束する――聖王の名と私自身の魂に誓って。


「私も約束しよう……私が死んでしまったら星奈達もまた消えてしまうからな――そんな事は誰も望んではいないだろ?」


間違いなく望んでる人は居ないよ。



……ねぇ、お父さん、お母さん……私は生物学上は人じゃなくなったし、人殺しの咎を背負ってしまってけど……

「私はお父さんとお母さんの娘で居ても良いんだよね?」

「何を当たり前の事を言ってるんだ……何がどうなろうとなのははなのは……僕と桃子さんの大事な娘だよ。」

「そうよ……貴女がどうなろうと貴女は私達の娘であり、貴女の家は此処――其れだけは忘れないで…」


!!……はい……!!



――ポロリ……


「え?あ、あれ?……オカシイな……な、何で涙が出るのかなぁ…?」

「……お前、8年間もずっと頑張って来たんだろう?……その緊張が両親と会った事で解けたんじゃないのか?
 取り敢えずだが、あのクソ共との戦いは終わったんだ――もう気を張って我慢する必要はないだろ?」


サイファー?……でも、だけど……!!


「……ジェイル、皆、一旦外に出よう………桃子、なのはが落ち着いたら教えてくれ。」

「…分かったわルナ…」


へ?…あ、ルナ……


「8年と言う時は長い……当時、未だ子供だったお前には尚の事長かっただろう?
 普通なら、お前はマダマダ両親に甘えていた筈の時間を、殺伐とした世界で過ごす事になってしまった。
 ――なら、全てが終わった今この時に、失われてしまった時間をホンの少しだけ取り戻そうとしても誰も文句は言わんさ……だから、な?」


――ガチャン……


あ、ルナ!!
え……でも、そう言われたって、如何しろって言うの〜〜〜〜!?


――ぎゅ……


「「なのは……」」

「!!お父さん、お母さん……あう……く………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁあっぁ!!!!
 お父さん……お母さん……!!ごめんなさい……ずっと心配かけて……8年も何も連絡しないで…!!!」

本当は……直ぐにでも帰って来たかったの……だけど其れをしたらお父さんとお母さん……或はすずかちゃんとアリサちゃんにも危険が有ったの。
私とルナが生きてるって事を最高評議会が知ったら、どんな手を使って私達を排除しようとして来るか……分からなかったから…!!

だけど…だけどぉ!!
ずっと会いたかったの……私達は無事だって伝えたかった………!!其れなのに……8年も……!!!


「確かに8年と言う月日は長かったわ……だけど、貴女もルナもこうして戻って来てくれたでしょう?其れだけで充分だわ……」

「何よりも、思ったより元気そうで安心したよ――色々と驚く事は確かにあったけれどね。
 だけど、何が有っても僕と桃子さんはなのはの事を愛しているよ………改めて、おかえり――なのは。」


!!ただいま……ただいま……お父さん、お母さん……ありがとう………2人とも…大好き……!








――――――








Side:ルナ


「貴女は一緒に居なくて良かったの?」

「高町家の一員とは言え、実の親子の感動の場面にと言うのは些かな。
 其れに、私が居たのでは『白夜の主』である手前、なのはも桃子と士郎に素直に甘える事が出来ないだろうからね……ま、空気位読むさ。」

何よりも、私もなのはも、もう正道に戻る事は出来ない所まで来てしまっているからな。
なのはが桃子と士郎に甘える事が出来るのも、此れが最後になるかもしれないだろう?……なら今は親子水入らずで、な。


「成程な……私と違って親の居るなのはだからこそか……
 考えれてみれば、アイツは私達の中で一番年下であるにも拘らず、リーダー的な役割を担って来ていたのだったな……ずっと気を張っていたか。」


間違いなくな……無論、私でも多少はなのはに安心感を与える事は出来ただろうが、父と母の包容力には遠く及ばないさ。


8年も掛かって、なのはは漸く心から安心する事が出来たのかもしれない――若しかしたら、桃子と士郎に抱かれたまま眠ってしまうかもしれないな。


だが、其れなら其れでも良い。
8年分の色んなものを、全て吐き出ししまえなのは……最高評議会は打倒したが、何れまた戦いが訪れるだろうからな……


せめて今位は、愛する両親の腕の中で8年分の温もりと愛情を感じると良い――此処に戻って来たのは、間違いなく正解だったみたいだ。









この日から1週間、私達は地球で過ごし、久々に翠屋の手伝いもした。(臨時定員としてサイファーとドゥーエが意外に好評だった。)
そして、久しぶりに本当に平和な日々を過ごしたのちにミッドに戻り――







――
はやて嬢の新設部隊『機動六課』がその役目を終える時がやって来た。













 To Be Continued…