Side:美由希


く……拙いわね……ヴィヴィオの動きが鋭くなってきてる。
聖王の力と大人の身体が『ズレ』がなくなってきてるって事よね此れは――何だって、状況は悪い方に進みやすいのかしら?神様は意地悪ね。

「ふ!……ハァァァァ……九頭龍閃!!!


――ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!


一瞬同時九斬……理論上は防御も回避も不可能な技を更に二刀流で使えば幾ら何でも避ける事は出来ない筈。
非殺傷で放ったけど手応えはあったし、せめてヴィヴィオの意識を刈り取る事が出来れば僥倖なんだけど……


「う……あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「そう簡単に行くなら、こんな無茶な技を使う必要は全く無いわよね!!」

合計18斬が的確に入ったはずなのにかすり傷一つないって、ドレだけの堅い装甲なのよヴィヴィオのジャケットは!!
防御の堅さだけなら、間違いなくなのはとルナを上回ってるわね。

其れに加えて、戦闘技術は兎も角として純粋なパワーだけなら私の何倍も有るし、其れが段々とヴィヴィオに馴染んできてる。
マジでやばいわ此れ……あの外道を見つけ出して叩かないと、私も危ないし、何よりヴィヴィオの身体が耐えきれない。


「あぁぁあっぁぁぁぁあぁぁ!!!」

「ちぃ……!!」


――ガキィィィン!!!


切迫した状況でこそ冷静にって言うのは分かってるんだけど、実際にそう言う状況になると冷静でいるのは難しいよお父さん……











魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福110
『羅刹断ち斬る修羅の光刃』










それでも、冷静さを失ってたら速攻でやられてたのは間違いないわ……意外と冷静さを保てるんだなぁ私も。



………暴走した恭ちゃんのストッパーを長年続けてきた成果なのかも――恭ちゃんのシスコンも意外なところで役に立ってたみたいね。

「てやぁぁぁぁぁ……神龍断!!


――バキィィン!!


とは言え、このままじゃ埒が明かないのも事実。
ヴィヴィオの攻撃を避ける事は難しくないけど、こっちも決定打が与えられない……超高速の居合いですらダメージ与えられないとはね。
このまま続けたら泥仕合……だけど、そうなった場合には私よりもヴィヴィオの方が危険……如何したモノかな?


もう1つ、私もヴィヴィオも近接戦闘型って言うのが問題だわ。
仮になのはがヴィヴィオと戦ってたら、誘導弾やバインドを駆使して動きを封じ込めて、一撃必殺の集束砲であっと言う間にケリを付けていた筈。
ルナが相手をしたとしたらそれこそ何もさせずに完封してる………我が姉と妹ながらドンだけ規格外なんだろうねアノ2人は?


勿論手段がない訳じゃないけど『アレ』で体内のレリックだけを破壊するには最低でもヴィヴィオの動きを10秒は止める必要がある。
一応バインドは使えるけど、今のヴィヴィオにはバインドをかける暇もない……


『あ〜ら、あらあら……随分手間取ってますわねぇ聖王様?
 どうやら今回侵入して来た賊は、聖王様とやり合えるだけの実力の持ち主だったようですわねぇ?……すこ〜〜しだけ手助け致しますわ聖王様。』

「偽クアットロ!!安全地帯で傍観してるだけかと思ったら、余計な手出しして来るんじゃないわよ!」

『偽物って……私の方がオリジナルですわよ〜〜?
 それに、貴女には死んで貰わないと困るのよ……其れも聖王様の手で殺されてくれないとねぇ?』



ヴィヴィオに私を殺させる……そんな事をして、貴女達に一体何のメリットがあるって言うの?


『その子は貴女を『ママ』と慕っているでしょう〜〜?
 大好きな『ママ』を自分の手で殺したとなったら、その子の心はどうなるのかしらねぇ?幼い心はボロボロに壊れてしまうんじゃないかしら〜?
 そうなれば、私達の言いなりになる『聖王』と言う名の最強の『兵器』が出来上がるわ……面白いでしょう?』


……外道悪党以前に、心の底から腐ってるわねコイツは。
ヴィヴィオに私を殺させて、更には心を壊して操り人形にするですって?……馬鹿も休み休み言いなさいよね?

「そんな事を私がさせると思ってるの?
 大体、離れた場所から仕掛けてくる攻撃何て言うのは――この上なく読みやすいのよ!」


――ガキィィィィン!!!


『な!』


離れた場所から攻撃する場合、開けた空間なら狙撃って言うのが一番最初に思いつくわ。
だけど屋内で、しかも壁や床で隔てられた場所から攻撃するとなったら誘導弾での射撃か、攻撃対象の居る部屋に武器を仕込んでおくかの二択。
更に言うと攻撃方法は射撃に限定されるから、至極対処しやすい。


『だけど、この射撃の嵐の中で聖王様の攻撃を捌ききる事が出来て?』

「余り御神流の剣士を舐めない方が良いわよ?
 その射撃は正確に私を狙って来てるんでしょう?だったら、其れを利用させてもらうわ!」

ヴィヴィオの動きを封じるための牽制武器としてね!


私に向かって放たれる魔力弾をヴィヴィオに向かって打ち返せば、その分だけヴィヴィオの動きは止まる。
動きが止まれば、後は魔力弾の被弾覚悟で体内のレリックを破壊する事が出来るからね……そぉっれっと!!!


――カンカンカンカンカンカンカンカンカン!!!!


『う、嘘でしょう……?魔力弾をこうも簡単に打ち返すなんて……!!!』


この程度で驚いてもらっても困るんだけどなぁ?弾の軌道が分かってるんだから、これ程打ちやすいモノも無いでしょう?
それに、射撃の精度は高いけど弾速、威力共になのはやルナの射撃魔法と比べたら全然大した事ないしね……フリーバッティングより楽よ。


「え?あ…えぇぇえ?」


身体をコントロールされてるから跳弾交じりの反射魔力弾も避けてるけど、そろそろ避け切る限界が来るはず。



ゴメンねヴィヴィオ、貴女を助ける為とは言え、貴女に痛い思いをさせなくちゃならない――だけど、必ず助けるからね!!

「小太刀二刀御神流奥義……!!」


――ザクゥゥゥ!!!!!


「!!!!」

ぐ……な、足に……此れは魔力の杭!?何時の間に……


『あははははははははは!!!ば〜〜〜〜〜か、魔力弾は見せ技よ!
 本命はこっち、貴女の足を使用不能にする事!まぁ、痛みは気合いで耐えられるらしいけど、その足で今までのような高速戦闘が出来るかしら?
 無理よねぇ!?そもそも、貴女は其の杭で縫い付けられた状態なんだから!無理に動けば両足切断ですものねぇ!!
 まぁ、安心しなさい?聖王様の一撃が貴女に炸裂したその瞬間に杭は消してあげるから、死体にはちゃんと四肢は残った状態になるわ!』


この腐れ脳……そうまでしてヴィヴィオの手を汚させる心算!?
……拙い……魔力弾も威力が減衰して、ヴィヴィオの動きを制限できなくなって来てる……これじゃあ……!!!


――シュゥゥゥ……


「く……魔力弾が全部!!」

『万事休すね剣士様?
 さぁ、聖王陛下……陛下自らの手で賊に裁きを!聖なる王の拳で、下劣なる者に裁きの鉄槌を!!さぁ、今直ぐ賊を血祭りに!!!』


「あ…あ……やだ……やだ!!そんな事したくない!
 いや……だめ……止めて……止めてぇぇぇえ!!!!逃げて!逃げて、ママーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


此れは回避不能ね……く、残された道は此れしかない……!
一瞬でもタイミングを間違えたら、お陀仏……勝負は拳が放たれるその瞬間……!


「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

―――――!!!」


――バキィィィィィィィ!!ズドゴォォォォォォォォォォォン!!!!!!








――――――








No Side


炸裂したヴィヴィオの最大の一撃は、美由希の腹部を強打し、その瞬間に魔力の杭が消えた事で美由希の身体は玉座の壁に激突。
その激突の衝撃で、壁に大きな穴が開き、美由希は其処に座り込むようにしてダウンしている……

手加減無用の魔力付加のボディブロー……岩をも砕くその一撃をまともに喰らったら、バリアジャケットを纏っていたとしても致命傷は避けられない。


「あはははははは!!大成功!
 此処まで巧く行くなんてねぇ……お疲れ様聖王陛下……実に見事な『母親殺し』でしたわよ!あははははははははは!!!!」

己の策が巧く行ったことが余程嬉しいのだろう。
クアットロのオリジナルと名乗った女は、狂気の笑い声を上げ、ショックを受けているヴィヴィオの心を抉るセリフを迷わず口にする。
……人の心など既に無いのだろう。





だが……


――ヴォン……

「え?」

『……や、やっと見つけた……』

突然、緑色の魔力球が現れ、モニターの向こうからは死んだ筈の相手の声が!

「ば、馬鹿な!!アレを受けて死んでないとは……貴女は不死身なの!?」

其れは勿論美由希の声だ。
ヴィヴィオの最大の一撃を受けて大ダメージを受けはしたものの、如何やら致命傷にはならなかったらしい。


「まさか……直撃してたらお陀仏だったわ……」

『!!その鞘は!!!』

美由希が手にしていたのは『砕けた鞘』。
専用デバイス『暮桜』を収納しておくための鞘が、半分が砕け折れた状態で美由希の手の中にあったのだ。

「恐ろしい威力ね今のは……この鞘もマリーが相当に気合い入れて作ってくれた『剣戟も出来る強度』を持っているのにビスケットみたいに粉々。
 此れを盾にするタイミングを間違えていたら、あの世行きだったわ…」

『其れで威力を減衰して……しかもこの魔力球はエリアサーチ!まさか、戦いながらずっと私を探してた……!!』

「その通りよ…」

鞘をギリギリのタイミングで盾にした事で、その分威力が減衰し、内臓器官へのダメージにはならなかったようだ。
其れでも、肋骨の2〜3本は折れているのだろう――表情は苦しげだ。

だが、此れだけのダメージを受けながらも美由希は『隠れて居る敵を見つける』と言う目的を達した。
ヴィヴィオを操っている存在を見つける事が出来れば其れを直接叩けば少なくともヴィヴィオの身体は自由になるのだから。


「だ、だけど此処は最深部……此処まで来られる人間なんて……」

『居ないでしょうね……だけど、其処まで行く必要はないわ。』

其れでもまだ有利だと思い込んでいる女に対し、美由希は無情とも言える宣告を下す。……そう、死刑宣告を。

『さっき貴女もやってたでしょ?空間を超えての魔力攻撃………さっきのお返しよ、たっぷり受け取って。』

「え?あ………あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

先程とは打って変わって絶望の悲鳴。
無理もない……美由希が言いきると同時に、己が居る場所に数えきれない程の魔力の剣『幻影剣』が現れたのだから。

文字通り蟻の這い出る隙間もないほどにびっちりと配置された幻影剣の数は100本は下らないだろう――避ける事など出来る筈がない。

『悪人ほど苦難の中で死す……哀れなモノね。現世での裁きは私が下し、死後の世界の裁きは閻魔様が下してくれるわ。
 ――天獄への階段をゆっくりと登っていきなさい?上りきった先に待ってる『地獄』を目指してね!撃ち貫けぇぇ!!!!』

「あぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

この悲鳴が、この外道女がこの世で発した最後の言葉となった。
無数の幻影剣が発射しつくされた後に残ったのは、廃墟と化したコントロールルームの残骸のみ……人が居た痕跡すら残ってはいなかった。








――――――








Side:美由希


はぁ、はぁ………ぎ、ギリギリで何とかなったみたいね。
アイツは完全に滅殺したし、コントロールルームも破壊したからヴィヴィオは少なくとも身体は自由になる筈だわ……後はレリックを壊せばそれで…

だけど、流石にちょっとキツイ――ギリギリで威力を殺したとは言え、アバラが3本は逝ってる……足もボロボロだし正直気絶しそう。


「ママ!!確りしてママ!!!」

「ヴィヴィオ……大丈夫よ、私は大丈夫……」

けど、未だ倒れられない……ヴィヴィオの中のレリックを破壊しないと!!!!

「はぁ…はぁ……さ、最後の仕上げよヴィヴィオ……貴女の中のレリックを破壊して、貴女を元に戻す……
 さっき中途半端になった技を、改めて貴女に対して使う……良い?」

「ダメだよ……そんな身体で大技使ったらママ死んじゃう!そんなの嫌!ママが死んじゃうくらいなら、私はこのままで良い!!!
 ママが死んじゃうのなんて、絶対に嫌!嫌だよぉ〜〜〜〜!!!」


優しいねヴィヴィオは……だけど大丈夫だよ、自分の身体の事は自分が一番分かってる。
確かに深刻なダメージは受けてるけど、あと1回技を使うくらいなら耐えられるから………だから、ね?


――ぎゅ……


「信じてヴィヴィオ……大丈夫だから――貴女を助けて私も死なない……約束するわ。」

「本当に?」

「天地神明と御神流剣士の名と……そして何よりもヴィヴィオに誓って絶対に。」

其れに『50歳になる前に孫の顔を見たい』って言うお母さんの夢を叶えてあげないといけないもの。

「ママのママ?」

「そう、ヴィヴィオのお婆ちゃん。」

だから信じて?ヴィヴィオが信じてくれれば絶対に大丈夫だから。


「ママ……うん、分かった。」

「ありがとう、ヴィヴィオ。」

だけど、此れを使うために必要な助走はこの足じゃできない。
略ゼロ距離間合いから放つしかないわ………行くわよヴィヴィオ!


「はい……!!」

「牙突零式+御神流奥義……貫!!!!!


――轟!!


防御を抜いて相手にダメージを与える『貫』なら、ヴィヴィオの身体を傷付けずにレリックだけを破壊できる!
此れなら………覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!砕け散れ、ヴィヴィオを苦しめてる呪いの宝玉!!!!


――バキィィィン!!!!


「あ……」


――シュゥゥゥン……


大成功……ヴィヴィオの姿が元に戻ったわ――どう?身体におかしなところは無い?


「大丈夫……だけど、ママは!?」

「大丈夫よ……まぁ、流石にリミットブレイクしたからもう限界だけどね……」

「あ!ママ!!!」


――ドサリ……


「あ〜〜〜……ゴメン、もう限界……10分で良いから眠らせて貰っても良いかなぁ……?」

「うん……良いよ……私を助ける為に、ママは一杯頑張ったから……だから良いよ……お休み、ママ。」


うん……お休みなさい。




……少し頑張りすぎたかなぁ?………助ける為とは言えこの無茶……戻ったらシャマルからのお説教は確実ね……
ヴィヴィオを助ける事が出来たんだから、別に良いか………ふぅ、後はよろしく頼むわよ、なのは、ルナ……!!












 To Be Continued…