No Side


ミッドチルダの市街地では、戦闘機人同士のバトルが開始、或は開始されようとしてた。
最も目立つ市街地上空では、ウィングロードを展開したスバルとギンガが既に交戦状態に入っている。

そして、別の場所ではノーヴェとディエチとウェンディも、各々自分の相手となる戦闘機人と対峙していた。

ノーヴェは眼帯の少女と。
ウェンディは、中性的な外見の小柄な者と。
ディエチはロングヘアーの表情が読めない少女と対峙している。


スバルは市街地上空。

ノーヴェは如何にもその手の連中が出てきそうな裏路地。

ウェンディは何処かの住宅販売会社がほっぽった廃ビル。

ディエチは、スバルと同様の市街地上空。


戦う場所は見事なまでにバラバラ!
スバルとディエチは市街地上空だが、2人の距離は軽く1kmは離れている故に、全く別の戦闘場所と言っても罰は当たらないだろう。


だが、戦う場所は違えどナカジマ姉妹には敵対する戦闘機人にはない物が有った――そう、姉妹の絆だ。
離れていても心は繋がっている――その思いがスバル達に魔導師ランク以上の力を齎しているようだった。


「ディー姉!ノーヴェ!ウェンディ!!ギン姉は必ずアタシが助ける!
 皆は他の戦闘機人の相手をお願い!必ず勝とう……それで、護ろう!ミッドを、アタシ達の手で!!」

『は、言われるまでもねーよスバル!やってやろうじゃねぇか!!』

『全力全壊…だね。』

『アタシの本気を見せてやるっすよ!!』

スバル、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディ――ナカジマ姉妹は覚悟完了!あとは戦い、己の成すべき事を成すだけだ。











魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福105
『奮闘!ナカジマ姉妹の激闘!』










Side:ノーヴェ


スバルの相手がギンガか――こりゃ、ティアナにサポート入って貰った方が良かったかも知れねぇが、そんな事を今更言ったところで何が変わる訳じゃねぇ。
アタシはアタシのやるべき事――目の前の戦闘機人を撃破し捕縛する事に集中するだけだ。

それに、スバルなら操られたギンガに苦戦はしても後れを取る事はないだろうからな……ギンガを頼むぜ姉貴!



でだ、アタシの相手はテメェか眼帯チビ――今度こそ内部フレームごと粉砕してほしいのか?
其れが望みなら喜んで叶えさせてもらうぜ?――テメェにもギンガが味わった苦しみと痛みを教えてやるよ…クソが。


「見事な気迫だが、其れだけでは只の猪武者と大差はない。
 只只管に突撃を身上とするお前達には分からないだろうが、考えなしに突撃してくる奴ほど対処が楽な相手もいないぞ?」


其れは初めて聞いたな。
ならアタシと立ち会って後悔しろよ?――アタシは猪武者とは縁遠い、変幻自在が売りのストライクアーツの有段者なんだからな!(因みに3段)

お前もアタシも戦闘機人である事は変えようがねぇが、研鑽積んだ格闘と、ロールアウトされただけのデータ戦闘の違いをその身で知りやがれ!

「オラァ!!」

「!!な、速い!?」


この程度のスピードで驚いてんじゃねぇ、眼帯チビ!
アタシ等の母さんなら、此れの3倍の速さと重さを持った一撃を喰らわせてるところだぜ?……ある意味運が良かったな、アタシが相手で。
母さんが相手だったら、今の一撃でお前は沈められてるところだ――ま、アタシは元よりテメェを一撃で沈める気なんざサラサラねぇけどよ…!

「ギンガにアンだけの事をしたテメェは一撃じゃ終わらせねぇ。
 テメェには、ギンガが味わった痛みと苦しみを100倍にして返してやる……泣いて謝っても殴るのは止めねぇから覚悟しやがれ!!」


――バキィィ!!


「ぐ…図に乗るな!
 安穏とした平和を享受したお前達と、生まれてこの方、戦いしか知らなかった私達との違いをその身で知るが良い!!」


へっ!教えてもらおうじゃねぇか、その差ってやつをなぁ!
いや、反対に教えてやるよ……アタシとテメェの背負うモノの重さの違いってやつを!護るべきモノを得た『人間』の強さってやつをな!


「下らん…沈め、ランブルデトネイター!!!」

「投げナイフの雨霰……喰らったらお陀仏ってところか…?
 厄介かも知れねぇが、だがこんなモンは星奈さんの非殺傷解除魔法に比べたら屁とも感じねぇぜタコ助が!!」

回避不能の誘導弾に、文字通り一撃必殺の直射砲――非殺傷解除での訓練で、何度死を覚悟したか分かったもんじゃねぇ。
模擬戦で其れを使う星奈さんも大概だろうけど……だけど、おかげでどんな奴が相手だろうともビビらねえ度胸だけは人一倍得る事が出来た。

そのアタシが、ナイフ如きでビビるかボケ!!まとめて蹴り落としてやる……ぜ!!


――バキィィン!!


「な!?30のナイフを全て蹴り落としただと!?」

「周囲360度に展開して安心したか?
 確かに回避は難しいだろうけど、四方の敵を同時に相手をする術があれば、別分難しい事でもねぇ!!」

そして喰らえ、アタシの渾身の一発を!!!


――ベキィィィィ!!!


「どわぁぁぁあぁ!!!」


今の感触――振動裂脚の一撃で左腕のフレームが砕け散ったな。
おい、今ので左腕が御釈迦になったろ?片腕1本でアタシと戦う気か?――やるってんなら、手加減しないでブッ飛ばすぞ?


「ふ…壊れたのは左腕一本――右腕はまだ健在だしランブルデトネイターは片手でも幾らでも使う事が出来る…私は負けん!!」

「そうかよ……なら宣言してやる、次はその右腕を蹴り砕く!」

左腕がぶっ壊れても退かねぇって事は、何らかの策があるんだろうな。
けど、コイツの考えがアタシの予想通りだとしたらどうって事はねぇ……ちっと痛いが押し切れる!!喰らえ!!


――ザクゥ!!!!


「馬鹿が…矢張りお前は猪武者だな。」

「…やっぱり『此れ』を狙ってやがったか……」

蹴りがぶち当たる瞬間に、アタシの右足に突き立てられたナイフ――予感的中ってとこだな。
投擲ナイフは処理されて左腕は使えないとなれば、アタシの攻撃に合わせてカウンターの何かを喰らわせるくらいしか有効打はねぇからな。


「『やっぱり』だと?…まさか、私がカウンターを狙ってると知りながらも攻撃して来たと言うのか?」

「端的に言うならそうなるだろうな。
 結構深く刺さったから可成り痛ぇが……此れでテメェは動けねぇよな?下手に動けばこの足がテメェを蹴り抜くぞ?」

「!!」


今のアタシとテメェのバランス関係は、ナイフと蹴り足で成り立ってる――蹴り抜こうとしてるアタシの足と其処に突き立てられたテメェのナイフでな。
アタシは蹴り足の力は抜いてねぇし、テメェもナイフを握る力は緩めてねぇ……正直動けねぇだろ?動いたらその瞬間に蹴り抜かれるからな。


「貴様…初めから此れを狙って!!」

「正解。でもって、そのナイフも何時までもは持たねぇだろ?
 まだまだ力を込めてるから切っ先はアタシの足の内部フレームに達してる……このまま金属製の内部フレームに押され続けたら武器破壊だぜ?」

まぁ、其処までは待たねぇけどな!ジェット、このまま蹴り抜く!!


『All right Master.Load cartridge.(了解。カートリッジを装填します。)』

「喰らいやがれ!ジェットダスター!!!」


――バキィィィン!!!


「ぐあぁぁあぁ!!!ば、馬鹿な…アレを砕き、更に私に右腕まで破壊するだと!?」

「言っただろ、その右腕も蹴り砕くってな!!んでもって此れで終いだ!!おぉぉぉぉぉぉ…ヴォルテクスクラッシャー!!!」

『Break down.(此れで決まりです。)』


――ベキ!バキ!ボキ!ゴス!バキィィィィィィ!!!!


「ぐあぁぁあぁぁぁ!!……そんな…馬鹿な…」


ミドルから後ろ回し蹴り、更にハイキックから踵落としに繋いで飛び足刀蹴りで止めを刺す、アタシのオリジナルキックコンビネーションだ。
高威力の蹴り技を、略隙なしで繋げる方法に苦労したが、その分威力は半端ねぇよ――って聞こえてねぇか…意識飛んでるしな。

今のでコイツの内部フレームは殆どガタガタで動く事は出来ねぇ筈だ……取り敢えず、先ずは一丁上がりだな。
ま、残りももうすぐ終わんだろ――多分な。








――――――








Side:ディエチ


……やっぱり私のイノーメスカノンは1対1の戦闘だと取り回しって言う点で難があるね。
つくづく基礎だけとは言え、ストライクアーツをお母さんから習っておいてよかったと思う――習ってなかったらとっくに終わってただろうから。


「貴女は砲撃型と思いましたが、格闘戦も出来るとは驚きました。」

「今みたいに1対1で戦わなきゃならない状況で、砲撃だけじゃ絶対に勝てないからね――星奈さんレベルだと別だけど。
 まぁ、普通は懐に入り込まれた時の為の対処法位は身に付けておくものだと思うよ?」

「成程……ですが、矢張り貴女の格闘能力はあまり高くない……このまま押し切らせていただきます。」


うん、私の格闘能力は高くない……姉妹の中では間違い無く一番低い。
だけど、私は姉妹の中で一番目が良い。その目で、ギンガやスバル、ノーヴェ…そしてお母さんのストライクアーツを何度も見て来た。
だから私には見える……貴女の攻撃の軌跡がハッキリと!


――ヒュン!!


「く…本当によく避ける事……其れだけの巨大なカノン砲を装備しながら其れだけ動けるなど、敵ながら称賛に値しますね。」

「お褒め頂き光栄かな……まぁ、貴女の双剣での攻撃は確かに鋭いけど、お母さんのストライクアーツの技と比べればまだ遅いからね。」

とは言っても、私もこのままじゃ決定打は打てない。
私の格闘じゃこの子を沈黙させる事は難しい……って言うか絶対に無理だから。
やっぱりイノーメスカノンの最大級の砲撃を喰らわせるのがベストだけど、其れにはこの子の動きを止める必要がある――やるしかないか。

「はぁ!!!!」

「裏拳…ですが矢張り攻撃の精度が低い……貰いました。」


誘いに乗って来た……後は点をずらして!!


――グサァァアァァ!!!


「…とっさに点をずらして肩で受けましたか…胸を貫いて終わりにする心算だったのですが…」

「く……肩なら、貫かれても死ぬ事はないしね……そして、捕まえたよ。」


――ガシィィ!!


「!?」

「態と喰らったのよ、この攻撃は……貴女の動きを止める為に。」

肩を貫かせた上で貴女の腕を掴む――そうすれば貴女は何も出来ない。
もう一方の手は、イノーメスカノンに阻まれて私に攻撃する事は出来ないでしょ?………此れで終わりにする!


「ま、まさか…」

「ゼロ距離砲……貴女を倒すにはこれ以外の方法は思いつかないからね――ノーマルバレット装填、バスターカノン!!」

『Bastard Cannon.Blast off.(吹き飛ばします。)』


――キィィン…ドガァァァァァァァァァァァァァァン!!


「がぁ……そんな方法で……」


私が育った場所の諺で『肉を切らせて骨を断つ』って言うのがあるんだけど、きっとこういうのを言うんだよね――流石に肩痛いけど。
だけど、左肩だけで済んだんだから僥倖だと思わなきゃね……兎に角これでこの子は確保――スバル達は上手くやってるかなぁ?








――――――








Side:ウェンディ


気になる…やっぱ気になるッス!如何しても気になるッス!!……アンタ女の子っすか?それとも男の子っすか!?判別つかねぇッス!!
一人称も『僕』だし、だけど戦闘機人はアタシを含めて他は女性体だから、アンタだけが男の子ってのも違和感ありまくりっすよ!!


「……僕の性別なんてどうでもいいでしょう?」

「よくねっす!男の子か女の子かは大事っす!!
 もし女の子なら、そんな趣味の悪い全身タイツなんて着てちゃダメっす!もっとこう…お洒落しなきゃダメっすよ?」

「意味不明…本気で排除します。」


む〜〜〜…聞く耳持たねっすか……ならアンタをブッ飛ばした上で性別どっちか確かめる事にするッス。
言っとくけど、アタシは結構強いっすよ!!てか、アンタは既に詰んでるッスよ?


「?」

「アタシとアンタが戦闘を開始した直後に『ばら撒かせて』貰ったすよ……目を凝らせば見える筈っすよ?」

「…………!!此れは…!!」


見えたっすか?…そう、此れはフローターマイン…設置型の反応弾っす、触れたら爆発するッスよ?
アンタの広域攻撃を避けながら、この部屋のいたるところに設置したッス……下手に動けば其処でTHE ENDッス。

それに、見たところアンタは広域攻撃は出来ても、その本質は『支援型』ッスよね?
だったら、アンタはアタシの敵じゃねぇッス!こう見えてもアタシは格闘技も使えるッスよ――ストライクアーツと、最強の『若本神拳』を!!


「若本神拳?」

「フレディ・ルガールって陸の凄い人が使う、色々凄い格闘技っスよ!アタシは其れも使えるッス!!
 アァタシが本気を出せぶわぁ、アァンタなんて一撃の下ぬぅい、どぅああ撃滅ぅッスよぉ?」

「……危険度最大…排除します。」


だから無理っすよ……アンタはもう動く事が許されないアタシの結界に捕らわれたんスからね……動いたら、死ぬっスよ?


「構わない…其れでお前を相討ちに出来れば十分…」

「……そうっスか……敢えて言うッスよ……この馬鹿野郎!!!!」


――ベキィィ!!


「!!!!」


命を粗末にするのは絶対に許さねえっす!!命は何にだって一つっす!!其れはアタシ等戦闘機人だって同じっスよ!
アタシはママりんからそう教わったッス!!命は一度きりなんだから大事にしなくちゃダメっすよ!!


「?……理解不能…」

「〜〜〜〜!!……なら教えてやるっスよ…ギリギリの命ってのを!」

フローターマインの破壊力を70%ダウン……此れなら喰らっても死ぬ事はない筈っす……って事で、どりゃあぁぁぁぁあ!!!


――バキィィィ!!


「!!!な、速い…!!」

「此れがアタシの本気っすからね……せいやぁ!!」


――ドゴォォォ!!!


「が…!!」

「此れで決めるッス……若本神拳奥義、ジェノサイドカッターッス!!!」


――ズバァァ!!!……ドゴォォォォォォッォォォォ!!!!!


あ〜〜〜…吹っ飛んだところにフローターマインが…接触に反応して連鎖的大爆発……此れは中々に壮観すな…って、アイツ生きてるっスか?


「……………」

「…取り敢えず無事みたいっすね……」

全身ボロボロの満身創痍っすけど、生きてるなら問題ねッスな。
なんか、物凄く楽な相手だったすけど、この分ならスバル達も問題はねぇっすね……アタシ達が負ける事はねぇっすよ!








――――――








Side:スバル


やっぱりギン姉は強い……だけど、其れは何時ものギン姉の話。
今のギン姉は、確かに強いけど、操られてるせいで『機械的』にアタシを倒そうとしてるだけだ……ストライクアーツに何時もの重みがないしね。

何の考えもなしに、只只管ストライクアーツを繰り出してくるだけならアタシだって対処は出来るから。


「……………」

「そんな教科書通りの戦いじゃ、アタシには届かないよギン姉……アタシはギン姉の本当の強さを嫌って程知ってるんだから。」

だからこそ、今の操られてるギン姉には我慢が出来ない。
こんなのはギン姉じゃない……ギン姉なら、とっくにアタシの事なんてKOしてる筈なんだから……


「………!!」

「だからギン姉……アタシは1度だけギン姉をブッ飛ばす!ブッ飛ばして正気に戻す!!!」

勝負は一瞬……ギン姉の攻撃に合わせて、カウンターの振動破砕をブチ込んで沈黙させる以外に手は無いから…!!


「…………Die.」

「やっと喋ったと思ったら『死ね』ってキツイなぁ……だけど、今の会話の間にチャージは終了した………終わりだよギン姉。」

「!?」


――バキィィィ!!!!


「!!!!!」

「ギン姉が壊れないように加減して打った……だけどこれで、暫くは動けない筈……すこし、眠っててね……」








――――――








No Side


ナカジマ姉妹は見事な戦い方で、戦闘機人を倒すに至った。
確かに何れの結果も勝利と取れるモノばかりだ――だが、事はそう単純ではない……此れで済むなら、誰も苦労は無いのだ。


「身体破壊レベルMAX…」


「生命維持を最優先…」


「破損部位修復多数…」


「敵勢力まだ止まず…」


ブッ飛ばした筈の戦闘機人達が蘇っていた……しかも、何やらただならぬ雰囲気で……


「「「「身体能力修繕……術式装填………ターミネーターモードを起動します。」」」」


そして最終手段発動!キスティによって異常改造が施された戦闘機人の、その異常さが炸裂した……してしまったのだ…













 To Be Continued…