Side:はやて


!!……このリンカーコアの疼きは…ゆりかごにお父さんが――リオンさんが現れたんやな…!?
確実にゆりかごに配置されてるやろとは思たけど、やっぱり自分で終わりに出来んのは歯痒いモンや……

対峙しとるのはなのはちゃんやな?……なのはちゃんのコアの震えが伝わってくるからなぁ……また、なのはちゃんにやらせてまうんか私は…!!


「如何した八神司令……苦虫を噛み潰したような顔だが――ゆりかごに己の手で引導を渡すべき相手でもいたのかな?」

「ゼスト隊長!?」

な、何で分かったんや!?此れでも結構隠してた心算やのに…


「確かに巧く隠していたし、今の顔も引っ切り無しに現れるガジェットに苦い顔をしたと取れなくもないが――まだ青いな、感情を操れきれてはいない。
 ……居るんだな、お前自身が倒さねばならない相手が、ゆりかごに。」

「…はい。」

その人は私と、ゆりかごに突入したなのはちゃんにとっては『父』とも言える存在なんです。
やけど、その人は既に死んでる筈なんです……詳しい事は言えへんのですけどね。
それなのに、その人は死して尚操られて戦う事を強制されとるんです――今度こそ眠らせてあげなアカンのです、私の手で!!


「ならば行け。」

「へ?」

「ならば行け……其れほどにまで思っているのならば、司令としての仕事よりも己の目的の方を優先しろ…後悔先に立たずと言うからな。
 やらねばお前はきっと後悔する――だから行け!市街地はお前が居なくとも、俺達でなんとかなる!」



「むぁっはあ!!カイッザーウェェェェイブゥ!!ジェェノサイドクァッターーー!!
 サァイコクラッシュワァァァ!!太陽系破壊かぁめぇはめぇはぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!むはははは、死ぃをくれてやるぃ!!!」




「何よりアイツが無双している限りは絶対大丈夫だ、だから行け!!」


無双若本…あの人ホンマに何モンやねん――まぁ、そう言う事やったら行かせてもらいます、後悔だけはしたくないんで!



ほな、今行くでなのはちゃん!
今度はなのはちゃんだけにはやらせへん…私も一緒や、一緒にお父さんを眠らせてあげような!











魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福104
『DRINK IT DOWN!!』










Side:ルナ


天使か……ダメだな、矢張り私には如何見てもお前が白い蠅人間にしか見えない。
まぁ、外見の醜さとは裏腹に宿した魔力は可成り高いみたいだからあまり甘く見てると強烈なしっぺ返しを喰らうだろうな――並の魔導師なら。

だが、生憎と私は普通じゃない。
さっきも言ったが、私の魔導ランクは測定不能レベルでお前を遥かに凌駕する……其れでも戦うのか?

大人しく降参して逃げ帰った方が良い、そうすれば見逃してやるぞ――今ならば。


「HAHAHA〜〜!誰がその様な事をするか!
 この力さえあればなんだって出来る!天使の力は万能にして絶対!私が負けるはずがない!!」

「つまり退く気はない訳か……ならば斬り捨てる。
 お前は、自ら私の最後の慈悲を蹴ったのだ――ならば、その命散らす覚悟は出来ているな?」

「命を散らす?…馬鹿め、命を散らすのはお前の方だ!私の研究成果を見せてやろう!!!」



――ガシィィィン!!



……此れは…壁に掛けられていた剣が動いている?
しかも只動いてるだけじゃなくて、刀身を翼の様に使って飛んでいる――此れはまるで鳥…いや、翼竜だな?


「如何にも…爬虫類に翼竜と刀剣のデータを融合して生みだした魔導生命体だ。
 敵と認識した者には、容赦なくその刃の身体で襲い掛かるぞ!迫りくる無限の刃に恐怖しながら私に殺されると良い!!」


生み出した魔導生命体だと?……心底反吐が出る所業だな――人工的に命を創造するなど『神』にでもなった心算か?呆れてモノが言えん…
其れに、無限の刃に恐怖してお前に殺されろだと?……だが断る!!お前如きにやられては、なのはに顔向けが出来きないのでね。

お前こそ悪魔に喧嘩を売った事を後悔しろ!ヴィータ曰く私は『白夜の魔神』らしいのでな。


「ほざくな!行けグラディエスよ!!」

『『『『『『『『シャァァァアァァ!!!』』』』』』』』


グラディエス…其れがそいつの名前か。
飛んではいるが妙にゆっくりと飛んでいるな?……その程度の飛行速度ならば捉えるのは容易いが――


――ヒュン!…チッ…


集団で飛び回る事で、ドレが攻撃して来るかを分かり辛くする性質があると言う訳か…!
しかも中々切れ味が鋭いな?――私の騎士服を切り裂くとは見事だ。称賛に値するよ。

「だが…!!」

『Hold on.』


そんなに鈍い飛行では『どうぞ捕まえて下さい』と言っているようなものだぞ?
攻撃に移る前のお前達を捕まえるなど造作もない事だ――と言うか、掴まれると大人しくなるんだな?……なら其れを利用して…!

「吹き飛べ!」

『Blast.』


――バキィィィン!



投擲武器としてお前に投げつけるだけだ!
お前が大量に呼び出したおかげで弾は幾らでもある――さぁ、受けきれるか?

「Go down!Be gone!!Jackpot!!!」

「な!!馬鹿な……幾ら何でも素手で刃の身体を持つグラディエスを掴むなど…!!」


無理だと思うか?…なら私の四肢をよく見てみると良い、一体どんな風になっている?


「!!それは…まるで鋼鉄!!」

「正解だ。
 私のデバイス『ブライトハート』は元々一対の籠手と具足だったが、ジェイルの手によって改造され一種の融合デバイスと化している。
 起動時限定で使用者の四肢と融合し、使用者の四肢を鋼鉄へと変える力を持っているんだ。」

だからこそ刃の身体であろうとも簡単に掴む事が出来たんだ――鉄と鋼ならば鋼の方が強いからな。
時に、驚いている暇はあるのか?まだまだ投げられる剣は大量に残っているぞ?


「ふむ……グラディエスだけでは君の相手は難しいようだ。
 ならば持てる限りの戦力を注ぎ込むとしよう!むぅぅぅぅぅん……HAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

「!?」

なんだ?大幅に魔力が―――


『『『『『『シャァァアッァァァァァァァァァァァァ!!!』』』』』』


「!!!!」

床から!?此れは魚か?しかも大きい!!


――ズバァ!!


鰭が刃物なのかコイツは!それも、グラディエスの翼とは違う肉厚の刃……気付くのがコンマ5秒遅かったら肩口から切り落とされていたな。
成程、己の魔力を使ってコイツ等を召喚したと言う訳か…………む!!


『『『『『『ワォォォォォォォォォォォォォォン!!!』』』』』』


――ゴォォォォォォォォォォ!!!



今度は火炎弾だと!?……翼竜と魚に続いて今度は犬か?
やれやれ……新たなパーティ参加者をご紹介願えるかなMr.アグナス?


「喜んで……ではまず、刃の鰭を持ちし巨大魚はカットレス。肉食の凶暴な魚に処刑用のアックスソードを融合した水陸両用戦闘生物。
 そして炎纏いし黒き犬狼はバジレスク。猟犬に銃を融合して造り出した魔獣。
 グラディエス、カットレス、バジレスクは夫々100体ずつ製造してある…此処に呼び出した数が倒されても直ぐに呼び出せる。
 さて、悪魔を自称する可憐なるお嬢さんは300の敵を相手にどれだけ戦えるか見せて頂こう。」

「ならば宣言しよう……その300体、全て倒しきり、その後でお前を倒すと。」

「宜しい……丁重にもてなして差し上げなさい!!」

『『『『『『『『『『『『『『『『『『ギガシャァァァァァァァァァアァァアァァ!!!!』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』


1人で先ずは300体か……悪いが纏めて倒すのは私の得意分野でね!

「華と散れ……絶刀!」

『Cut off.』


一度に複数を同時に攻撃出来る技さえあれば、数の差は大した問題にはならない。
と……お前は武器になるのでな――巨大ソードブーメランとして飛んで行けカットレス!!


――ズバババババババババ!!!!


『ワオォォォォン!!!』


――ガブゥゥゥ!!!


!!流石に直に噛みつかれると痛いし、燃えてるから熱いが……丁度良い、お前の体内に埋め込まれている物を使わせてもらおうか?


――ブチィィィ…!!


大型のハンドガンと融合してたのか……と言うか何でこのサイズの銃との融合でバスケットボールサイズの火炎弾が撃ち出せるんだ?
まぁ、魔法的にそう言う処理をしたんだろうが、兎に角これで魔法よりも早く撃つ事の出来る遠距離攻撃武器も手に入った。

さぁ、如何した?私はまだまだ元気だぞ?この身を貫き、切り裂き、焼き焦がして見せろ。お前達はその為に作られたのだろう?


『『『『『『『『『『『『『『『ワギヤァァァァァァァァァァァァァァ!!!』』』』』』』』』』』』』』』

「人ならば知性で引き際を見極める。野生動物は本能で其れを察する。
 ――が、魔獣に堕ちたお前達にあるのは破壊衝動のみで引き際を知らない…You shall die.」








――――――








No Side


其れは最早戦いではなく、高町リインフォース・ルナと言う規格外の存在によって行われている一方的な蹂躙に他ならなかった。
ドレだけの数のグラディエスが、カットレスが、バジレスクが襲い掛かろうとも白刃が煌めき、拳が振るわれ、銃声が轟く度に其れは屍へと変わり消える。

勿論数の力は無視できず、ルナとてゼロ被弾と言う訳ではないが、其れでも圧倒的であることは変わりがない。

「おぉぉぉぉ…疾走居合い!」

『You're going down.』

更には時折、複数攻撃技を絡める事で、数の差を埋め相手の波状攻撃は許さないようにしている。


焦るのはアグナスだ。
次から次へと己が作り出したモノを召喚してルナに向かわせても、攻撃を当てられるのは僅かに数%……力の差が違いすぎる。
おまけに、時折数十体が一撃で倒されれば焦るのは止められない。

「ぐぬ……Waaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

残る90体を全て召喚し、ルナに突撃させるが、それすらもルナは慌てずに、そして確実に葬っていく。
1体、1体、また1体……超高速で振るわれる月影の前に、アグナス作の魔導生命体は一方的に斬り捨てられていく。


そして――


「Now, to take death…」


――キン…!


終わりとばかりに繰り出された絶刀が、残った魔導生命体を残らず両断した。
此れで残るはアグナスだが……


「Beautiful…」


アグナスは、今のルナの姿に見入っていた。
魔導生命体の返り血で身体を濡らしたルナの姿に見入っていた。

「やれやれ……此れは念入りにシャワーを浴びる必要があるな…」

そう言いながら髪をかき上げるルナには、確かに危険な美しさがあった。
其れは、地獄の絵師が血と腐肉で描き上げた冥府の絵画の如き『背徳の美しさ』とでも言えば良いのだろうか?

まるで『死を体現した女神』とでも言うべき血濡れのルナの姿から、アグナスは目を離せなくなっていた。




そしてそれが仇となった。


「残るはお前だけだな?」

「!!!」

魔導生命体を全て倒しきったルナが次に何をするかと言えば、其れはアグナスの撃破に他ならない。
其れを成すべく強襲し、神速の居合い一閃!

だが、アグナスも咄嗟に反応し手にした無骨な剣で其れを防ぐ。

「美しさの欠片もない剣だな?矢張り美しさと、武器としての性能を併せ持った刀剣類は日本刀以外には在り得ないか。」

「貴様…!!」

其れを合図に至近距離で切り結ぶ。
一合、二合、三合……常に先に斬り込むのはルナだが、その斬撃を的確に防いでいるアグナスもまた並の使い手では無いようだ。

「剣の腕は悪くないか…だが、剣だけが戦いじゃない!」


――バキィィィ!!


「ぐへぇ!?」

其れでも戦いにおける年季はルナの方が遥かに上――切り結びの合間に繰り出されたミドルキックがアグナスの脇腹に炸裂だ。
完全に予想していなかった攻撃だけにアグナスにも防ぎようはなかったのだろう…そして此れは絶対的な好機だ。

ルナは月影を鞘に納めると、今度は格闘技でアグナスを責め立てる。
ストレート、ボディブロー、ハイキックからの踵落としに連続蹴りからの旋風脚……息も付かせぬほどの連続攻撃だ。

「Pray for help savior,Then down to hell you go.」

更に、頭を掴んで何度も床に叩き付け蹴り飛ばす!
普通の人間が此れを喰らえばその時点でお陀仏だろうが、『天使』に変わっているアグナスは此れでは死なない。

「く……図に乗るな!!」

反撃に転じようと魔力弾を放つが、ルナは其れを容易く避けてアグナスに肉薄した――右の拳に最大級の力を溜めて。

「喰らえ!!」

『Catch this.』

真・昇龍拳!!!!!

『Rising Dragon!!』

放たれたのはルナの格闘技でも屈指の破壊力を持つ必殺技!
其れを喰らったアグナスは派手に吹き飛ぶが、此れで終わりではない――ルナは月影を抜刀する体制に入っているのだから。

「It's begining…Show down!」

其処から繰り出されたのは抜刀からの連続攻撃!
抜刀居合い、袈裟斬り、払い斬り、逆袈裟斬り、斬りおろし、一文字切りの目にも留まらぬ六連斬だ。

「塵は塵に…灰は灰にだ…」

最大級の一撃は、アグナスを闘技場の端まで吹き飛ばし……そしてその姿が人に戻った。
許容を超えるダメージが、強制的に『天使化』を解除したと言うところだろう――兎に角これでルナの勝ちが確定したのだ。








――――――








Side:ルナ


ふぅ……此れで終いだな。


「馬鹿な…な、な、な、何故私が負ける!!!」

「お前が人でなくなったからさ。」

そんな事も分からないのか?


「お前だって人ではない筈だ!!」

「確かにな………だが、私は人でなくとも『人の心』は持っている。――人は弱いか?」

確かに肉体的強度から言えば弱いだろうし、ドレだけ鍛えても野生の肉食獣に素手で勝つ事などは不可能だ。
だが――人には悪魔や天使には無い力がある。


「悪魔や天使には無い力!?そ、そ、そ、其れは何だ!!
 お、お、お、教えてくれ!今後の研究の題材にしたい!!」


何処から取り出した、その分厚いレポート用紙の束は?……研究資料と言うモノか?
と言うか、メモを取ろうとするなメモを。

「其れは教えられないな。」

『BAMG.』


――ドン!!



「ひぃ!?」


バジレスクから引き千切ったこのハンドガンは中々悪くないな……このまま貰ってしまうか。
余程大事なモノなのだろうが、撃ち抜かれた研究資料を集めるな見苦しい―――だが、此れで終わりだMr.アグナス…!!


「!!!!!」

「研究の続きは地獄でするんだな…Checkmate.」


――バガァァアァァァァァァァン!!


「あ………」

「それと、人の持つ力云々は私からの宿題だ。」

塵は塵に、灰は灰に…全てが無に帰し、此れにて終幕……後には静寂が残るのみ。


――バァン!!


「さてと…先に進むか。」

出来れば何処かに洗面所でもあると良いんだがな……幾ら何でもこの返り血は洗い流したいからな。








――――――








Side:スバル


市街地にはやっぱり物凄い量のガジェットが来ていた―――けど、其れでやられるアタシ達じゃない!
スカリエッティさんに直してもらったこの身体ならガジェットなんて相手にもならない!



そう『ガジェット』なら。

「く…やっぱり強いねギン姉!」

「…………」


アタシが今対峙してるのはギン姉……私の姉で、お母さんと並ぶレベルのストライクアーツの使い手。
この間の戦闘で、最高評議会に連れ去られたギン姉が目の前に居た。


だけど、見た目はギン姉でもその瞳には一切の意志が感じられない――アイツ等の手駒にされたんだね…


ダメだよギン姉…そんな奴等の手駒に何てならないでよ!
アタシの声が届かないって言うなら、届くまでアタシは諦めないでギン姉と戦うよ?――だって、ギン姉の事が好きだから!
大好きなお姉ちゃんだから……だからアタシは絶対に絶対に自分からは倒れない!



きっとギン姉だって辛いよね……自分の意志に反してしたくない事をさせられるんだから。
だけど、大丈夫だから…私が――私達がギン姉を助けるから!

「マッハキャリバー!!」

『All right.』


全力で行くよ、ギン姉!!!














 To Be Continued…