Side:なのは


プレシアさんの偽物――キスティの宣戦布告からそろそろ40分……ゆりかごが起動するまであと20分程。
正直言って負ける気が全然しないのは、相手がアレだからなのかなぁ?まぁ、私は私の成すべき事を成すだけだけどね。

「ジェイルさん、2人の調子はどうですか?」

「あぁ、なのは君か。安心したまえ、一切問題なく治ったよ。
 いやはや、私が造られる際に植え付けられた戦闘機人についての知識がこんなところで役に立つとは、本当に何が何処で役に立つかは分からないね。」


言えてますね。
『こんな事が何の役に立つんだろう?』って思ってた事が、意外な場所で役に立ったなんて事はよくある事ですから。

そう言えば、貴女達とも8年ぶりだね?
星光の殲滅者としては何度か会ってるけど、素顔で会うのは凄く久しぶりだねスバル、ノーヴェ。

「管理局員になってるとは驚いたよ?」

「あはは…まぁ両親が働いてますし、何よりアタシ等の力が何かの役に立つんならって思って。
 てか、アタシ等に言わせれば星光の殲滅者がなのはさんだった事に驚きですよ!?月の襲撃者がルナさんてのにも驚きましたけど!」


まぁ、色々あったからね私達は。
其れよりも身体の調子は如何?ジェイルさんが治してくれたんなら多分大丈夫だと思うんだけど。


「ばっちり大丈夫です!前よりも動きが良くなってるくらいですし、ディエチとウェンディもエネルギー満タンになってますから♪」

「なら安心だね?……此れから始まる最終決戦には、貴女達の力も必ず必要になるから――六課フォワードの力を見せて貰うよ?」

「「はい!!!」」


うん、良い返事。


そう言えばはやてちゃんは何処で何してるんだろう?『新しい本部を見つけて調達して来るわ』って言ってどこかに行ったきりだけど…?











魔法少女リリカルなのは〜白夜と月の祝福〜 祝福102
『A NEW BEGINNING!』










――ヴン


『六課の皆と地上部隊の皆とリベリオンズの皆、聞こえとるか?』


と、思ったところにタイミングよく広域通信。
はやてちゃん、何処に行ってたの?って言うか、新しい本部を調達するって1時間程度で出来る事じゃないよね?


『お、中々鋭い突込みやななのはちゃん。
 確かに、普通やったら出来る事やないけど、其処は人脈と地位の使い方言うやつやで?
 自慢やないけど、私は管理局の中でも最強レベルの人脈パイプを持ってると自負しとるからな、其れを最大限に生かしただけの話や。
 ほな、全員外にある格納庫に集合して貰えるかなぁ?其処で新しい本部のお披露目や。』



確かに、リンディさんとレティさんとレジアスさんが後ろ盾として存在してて、後見人兼監査役にクロノ君……物凄い人脈だよね。
つまりそれらと、はやてちゃんの地位を利用したからこそ、こんな短時間で新しい本部を用意する事が出来たんだね――お見事なの。

だけど格納庫に新本部って、一体何を見つけて来たんだろう?
ん〜〜〜〜…凄く気になるけど、取り敢えず行ってみれば分かる事だと思うし、行こうかスバル、ノーヴェ。


「あ、はい!」

「新本部、楽しみですね〜〜♪」


そうだね。
ほら、ジェイルさんも行きますよ?……クアットロも、置いてっちゃうよ?


「あぁ〜〜〜ん、置いて行かないでくださいませ、なのはお姉さま〜〜〜〜〜♪」

「「なのはお姉さまって…」」(汗)

「……気にしちゃダメだよ、取り敢えず妄想過多の腐女子だけど、悪い人じゃないし、少なくとも貴女達には無害だから。」

腐女子アンテナは、私とルナにしか反応しないみたいだからね……此れさえなければ割かし真面な人なんだけどなぁ…


「「???」」

「まぁ、世の中には深く知らなくても良い事も有るって言う事だよ。」

さてと、はやてちゃんはどんな裏技で何を持ってきたのかな?








――――――








Side:ルナ


いやはや、新しい本部が此れとは流石に驚きだ――よもや、アースラを引っ張り出して来るとは。


「随分とバカでかい艦船だな?ルナ、此れは一体なんだ?」

「次元航行艦アースラ。
 その名の通り、次元間の航行を可能とする管理局屈指の要塞船で、凄まじい破壊力の主砲を搭載しているある種の『決戦兵器』だ。」

事実、10年前の闇の書事件の時には『闇の書の闇』のコアを完全消滅させた切り札だったからな。
新造艦が出来るとかで、何れは廃棄される時が来ると聞いた事があるが、未だに健在だったとは……また、お前には世話になるな。


「アースラ……成程、確かに此れなら大きさ的にも戦闘力的にも新本部として申し分ないね。」

「なのは、来たか……あぁ、此れが再び味方になると言うのは頼もしい事この上ない。」

既に格納庫には多くの人が集まってきているな。
リベリオンズと六課に加え、地上部隊の残存戦力も集結して来たと言う所か――此れは、文字通り改革派と最高評議会の全面戦争だな。

取り敢えずこれだけの戦力ならば負ける事はないだろうが油断はしないで掛からないとな。


「ほな、皆揃っとるな?」


む…はやて嬢の御登場か。
その後ろに居るのは…クロノ執務官?いや、今は提督になって居るんだったか。


成程、彼の協力を得てアースラを本部とする事が出来たと言う訳か――確かに人脈をフルに使った方法だな。


「先程の宣戦布告から、現時点で45分が経った――宣言通りなら、あと15分でゆりかごが起動して活動を始める筈や。
 ほんで、決戦前に最後のブリーフィングを始めるで。主に夫々の役割やら何やらを伝えるから心して聞いてな?」


一気に程よい緊張が走るとは、流石1部隊を纏め上げている総司令の名は伊達ではないな。
取り敢えず私となのはと美由希とヴィータはゆりかご突入組だが――他はどう割り振るんだろうか?


「先ず、ゆりかごに突入し、此れの破壊と攫われたヴィヴィオの奪還には六課からは高町美由希一尉とヴィータ一等空尉が向かいます。
 そして、其れに加えて陸からはクイント・ナカジマ准尉、そしてリベリオンズから高町なのはと高町リインフォース・ルナに向かって貰う。
 で、それ以外なんやけど……ウーノさん、頼めるかな?」

「はい、お任せを。」


ウーノ、姿が見えないと思ったら、はやて嬢に頼まれて何かしていたのか。
お前のバックスとしての能力は可成り高いが、何か見つけたのか?態々この場で言うと言う事は、其れなりの情報なんだろう?


「其れは勿論。
 先程の宣戦布告の放送の電波を逆探知して、最高評議会の本部を突き止めました――極一部の人間しか知らない本物の本部です。」

「「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」」


なんと、其れは相当に大きな情報じゃないか!
今まで見付けられなかった本部が見つかったとなれば、其処に乗り込んで評議会を根本から叩く事も可能になる……何処なんだ本部の場所は?


「管理局本局の真下………地下数百メートルの場所で、転移魔法でしか行く事は出来ないような場所です。
 どうやら、彼等は個人的に携帯型の転送装置を持っていて、其れを使って本部と本局の間を行き来しているようですね。
 ですが、特殊な結界やら何やらに覆われている訳ではないので、場所さえ分かれば一般的な転移魔法で乗り込む事は容易です。」


となると、そちらに乗り込むメンバーも選ばねばならないな?
敵の本拠地故に、其れこそ選りすぐりのメンバーではないと危険だが――


「八神総司令、其処には私を向かわせてもらっても宜しいですか?」

「テスタロッサ執務官……志願は構めへんけど、理由を聞いてもえぇかな?」

「彼女の…キスティの性格を考えると、アレがゆりかごに乗り込んでいるとは考え辛いので。
 此れは酷く個人的な感情になりますが、キスティだけは私がこの手で討たねばならない相手なので……我儘とは思いますが…」


成程……確かに、お前が乗り込む理由は充分だなフェイト。
いや、お前が乗り込まない事など考えられないか――アイツは、お前にとって生かしておく事は出来ない相手だからな。
だが、事情を知っているとは言え、はやて嬢が総司令と言う立場で其れを容認するとは思えないが……


「其れなら僕も行く!へいとが行くなら僕も行く!!
 僕もアイツ大っ嫌い!!撃ち抜いてぶった切って、コマ切れにすらっしゅして亜空間に葬り去ってやる!だから良いよね小鴉ちん?」

「高町雷華一等空尉………えぇい、もう面倒くさい!!敬称や階級呼びなんぞ止めや止め!!
 総司令としての立場も知った事かい!!よっしゃ、やってまえやフェイトちゃんに雷華ちゃん!!
 最強クラスの兵器持ち出していい気になって宣戦布告して来るような三流悪役のおばはんに、世の中そんな甘ないて教えたれや!!」


あ、素に戻った――いや、此れは此れで良いかもしれないな?
少し硬くなってた新人達の緊張が、良い具合のレベルに解れてくれたみたいだしね。


「待て、私も行こう。あのクズババアは私同様にエクリプスドライバーである可能性があるからな。
 魔導殺しが相手では貴様等だけでは決定打に欠くだろう?エクリプスを倒せるのは現状エクリプスだけだからな…力を貸してやる。」


サイファー……確かに、お前が行ってくれるなら安心だ。
雷華とフェイトも良いだろう?サイファーの腕は、私が保証するぞ。


「ルナのお墨付きなら安心だね……じゃあ、宜しくお願いしますねサイファー?」

「たのむぞさいはー!!」

「サイファーだ。まぁ、力になってやるから安心しておけ公僕。」


マッタク、口の悪さは如何にもならんなアイツは。
となると、残るメンバーは市街地の防衛か?可成り広域を防衛する必要があるだろうから、残りの人員を其方に回すのは道理だと思うがな?


「残りのメンバーは、ミッドチルダ市街全域の防衛を担当して貰うで?
 大量のガジェットと人造魔導師が出て来る筈やから覚悟しといてな――現場での総指揮は、私八神はやてと――」

「ゼスト・グランガイツが取り仕切る。」




「うわ、何か強そうな人が出て来たよ?」

「実際強いですよ?
 ゼスト・グランガイツ――現在では非常に珍しい古代ベルカの使い手で、魔導師ランクはS+の騎士ですから。」


成程……道理で纏うオーラが違う訳だ。
今の時代に、古代ベルカを使う真正の騎士が居るとは驚いたが、其れだけの実力の騎士が居るならば市街地も大丈夫だろうな。
何より、星奈と冥沙とゆうりに、夜天の騎士達と六課のフォワード陣に陸の精鋭が市街地の防衛に当たるんだ――不安はない。


「一応の配置場所は伝えるけど、実際戦闘になったら自分の持ち場に拘らずに他の隊員の援護やらに回ってや。
 それと、最後に―――今回の戦いでは、六課隊長陣は全員ランクリミッターを解除し、そして隊員全員デバイスの非殺傷設定を解除して貰うで!!!」


!!予想はしていたが矢張りか。
私達は非殺傷解除で戦う事に迷いも恐れもないが――今まで非殺傷だけで戦ってきた者達にはキツイかもしれないぞ此れは…
あまりの事に、殆ど全員が絶句しているじゃないか。


「……アタシはやるよ。」

「アタシだってやるっすよ!!!」

「へ…当然だよな?アタシ等がやらなきゃ、ミッドはぶっ壊されちまうんだ……確かに非殺傷解除は怖いけど、此れはガチの戦いだからな。
 其れに、こんな事があるかも知れないから非殺傷解除での訓練だってして来たんだ……ビビってられるか!!」

「私達が、ミッド防衛の要――覚悟を決めなきゃだめだね。」

「ったくこの姉妹は……OK、アンタ達がやるなら私もやるわ。
 親友にだけ、覚悟決めさせて自分が覚悟決めないなんて言うのはカッコ悪いにも程があるし、殺傷設定でも相手を殺さないで済む方法あるモノね。」

「…僕もやります。
 覚悟かどうかは分かりませんけど、此処でやらなかったら、僕はきっと後悔するから。」

「私もです!……私の力は使い方によっては危険だけど、だけど使い方によっては救いの力にもなる。
 私はその両方の力を使って、皆さんと一緒に戦います。


なんと、10年前は冥沙に懐きまくっていたあの子達が真っ先に覚悟を決めるとはな――強い子じゃないか。赤毛の少年と、竜召喚士の少女もな。
ティアナの言うように非殺傷の解除=相手の殺害じゃない。
非殺傷を解除した状態で、殺さずに相手を行動不能にする方法など其れこそ幾らでもある……まぁ、足を撃ち抜いたり骨を折ったりすることにはなるがな。


「ぶるあぁぁ!!なぁにを迷っているバカ者どもがぁ!!
 わぁたし達がやらねば、ミッドは沈んでしまうのだぞ〜〜〜?それでも良いのくぁ?
 だぃたいにして、力を持つ者の覚悟と心構えはぁ、ゼェストが何度も教え込んだはずどぅあ〜〜!!!其れをわぁすれたのか!!!」



なにやら物凄い若本ボイスだが、言って居る事は正しいな――力を手にした者の覚悟と心構え、それなくして力を揮う事は許されない事だぞ?
もしその覚悟も心構えもない者は、早急にこの場から立ち去った方が良い。

「生半可な覚悟と心構えでは足手まといになりかねないし、何より部隊全体のモチベーションを下げる結果になりかねないからな。」

「ルナの言う通りだね……非殺傷の安心感がないと戦えないような人はこの場所には要らないよ。
 冷たい言い方かもしれないけど、此れからの戦いは命懸けの決戦だから、覚悟のない人はみすみす殺されに行くようなモノだよ?」


言うな、なのはも。当然の事だがな。



「お、オレはやるぜ!!
 平和に暮らしてる人達の平穏を護りたくて、俺は管理局に入ったんだ!!其れを壊そうとする奴なんて許して堪るかよ!!」

「私もやりましょう……最高評議会の愚行は噂には聞いていましたが、これ程とは……粛清しなくてはならないでしょう?」

「俺様も行くぜ?六課のガキ共が覚悟決めたってんなら、俺が決めねぇ道理はねぇからな?
 ガジェットだか人造魔導師だか知らねぇが、纏めて俺様のストライクアーツで叩きのめしてやるよ!!」



此れは此れは……ふふ、如何やら私達の一喝は相当な効果があったみたいだななのは。
一気に全員が覚悟を決めてしまったぞ?


「うん――だけど此れも、ノーヴェが言ってたように非殺傷解除での訓練をしていたからだと思うよ?」

「であろうな。そうでなければ、この土壇場での覚悟を決める事などは不可能よ。
 如何に訓練とは言え、下手をすれば命を落としかねない危険な状況での訓練を何度も行ったからこそであるな。特に六課は星奈がやりすぎたからの…


……大体何をしたのかは想像出来た、そして想像通りなら確かに覚悟は出来ているだろうな。非殺傷解除での全力直射砲はヤバイだろうに…
だが、おかげで戦力が減る事はない、全員全力で任務を全うするだけだ!




――ビーッ!ビーッ!ビーッ!!




『此方アースラブリッジのエイミィ・ハラオウン!ミッドチルダ上空に、巨大な転移反応を確認!
 転移魔法の術式は
――古代ベルカ!!この質量……ミッドチルダ上空に『ゆりかご』来ます!!!』


遂に来たか…!!


「来よったなゆりかご……よっしゃ、ほな全員出動や!
 ゆりかご突入組は、アルトのヘリで近づける限界まで近づいて、其処からゆりかごに突入!
 評議会本部突入組はシャマルの旅の鏡で転移、小型の転送装置は忘れずに持って行ってな?
 ほんで、私等市街地防衛組は全員アースラに乗り込めぇ!!アースラで市街地上空に出て、其処から散開して敵を迎え撃つで!!ほな行くで!!」

「「「「「「「「「「「「おーーーーーーーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」」


ふぅ…いよいよか。
其れじゃあ行こうか、なのは、美由希、ヴィータ、クイントさん――古代の最終兵器、ゆりかごを止めに!


「うん…それと…ね。」

「ヴィヴィオも助け出さなきゃだしね。」

「あんなモンは、粉々にしてやるぜ!!アタシ等の力を合わせれば、ゆりかごだって空飛ぶ鉄くずに過ぎねぇ!!」

「そうね……空飛ぶ鉄くずを、本当の鉄くずに変えてあげるとしましょうか。」


8年前に始まった、私となのはの戦いの最終章の幕開けだ。
あの時の――8年前の借りを漸く返す事が出来る……ふふ、8年も返すのを待たせたからな、その分の利息をたっぷりつけて返してやるさ!













 To Be Continued…