Side:なのは


はぁはぁ……つ、強い。
フェイトちゃんも強かったけど、闇の書さんは其れとは比べ物にならない程に強い――私の攻撃が全然通じない上に、攻撃の一つ一つがどれも
必殺クラスだから、幾ら防御してもダメージが……

「でも、諦めない!!」

「まだ足掻くか……いい加減消えてしまえ!!
 そもそもにして、お前が……お前達がいなければ、私が起動する事は無かった!守護騎士達が目覚める事もなかった!そして、主が苦しむ
 事だってなかった!!
 お前達が居たから、主の魔力は覚醒し、そして守護騎士も目覚めた……いなければよかったんだ、最初からお前達など!!!」

「……だとしても、私はやられない。
 私達のせいで此れだけの事が起きてしまったって言うのなら、それを何とか抑え込まないとだからね……だから、絶対に負けません!!!」

取り込まれた志緒さんとフェイトちゃんが諦めない限り私も諦めない!!
貴女の事も、そしてはやてちゃんの事も、必ず無限の闇から救い出して見せるの!!――うぅん、絶対に救い出す!!



「まだ分からないか……そんな事は、絶対に不可能だ!下らない希望にすがらずに、大人しく闇に沈め!!」

「其れはお断りなの!!」

何よりも光と闇は表裏一体!
絶望と言う名の闇があるのなら、それを覆す希望と言う名の光が存在して然りだからね――その光を掴み取る為にも、私達は足掻くだけなの!


――チャキ……


だから、絶対に退かない!!
全てが本当に終わってしまう、その直前まで足掻いて、足掻いて、足掻きまくってやるの!!――私の心は折れない!絶対にね!!










リリカルなのは×東亰ザナドゥ  不屈の心と魂の焔 BLAZE66
『夢、目覚める時~帰還と覚醒~』










No Side


外での大バトルとは裏腹に、取り込まれた志緒とフェイトは、それぞれ異なる願望世界で、この世界の本質に至っていた。
闇の書にとりこまれた者は、己の望む世界に導かれ、其処で幸福な世界を体験しながら死の瞬間を待つのだという事に……今の世界は、偽り
の『嘘』だという事に。


「夢だと……馬鹿言うなよ志緒、そんな筈ねぇだろ?」

「いや、夢だよ此れは……お前が生きてる筈はねぇからな。
 其れに何より、お前が生きてたらアキが暴走する事はなった……アイツは、俺とお前の事を、自分で言うのもなんだが、尊敬してたからな。」

「……そうか。
 だが、此処に居ろ志緒――此処には俺が居る。仲間達が居る……あの時終わっちまったBLAZEを続けられるんだぞ?」



「夢だよ……ありしあが生きてたら僕は存在しない……僕とありしあはおなじじだいを生きられない。
 それに、ほんとうのおかあさんは兎も角、ぼくのしってるおかあさんは、あんなにやさしくはなかったから……」

「……優しい人だったんだよ。
 だけど、頑張り過ぎちゃって、その隙をグリムグリードに付け込まれちゃったんだ……死んでしまった私を生き返らそうと一生懸命になり過ぎた
 果てにね。
 ……此処に居ようフェイト!夢でも良いじゃない!
 此処でなら、私はフェイトのお姉ちゃんで居られる――フェイトの欲しかった幸せ、全部あげられるよ?」


志緒の相棒であった一馬と、フェイトの姉であったアリシアは、其れを看破された上で此処に居ろと提案して来た。此処でならば、現実で得る事
が叶わなかった幸福が手に入ると――だから一緒にいろと。

其れは何とも魅力的な提案だろう。
それこそ、大多数の人間は、その魅力にひかれて自ら終焉の道を選んでしまう事だろう――だが、志緒とフェイトはそうではなかった。


「ワリィな一馬……そいつは出来ねぇ。待ってる奴が居るからな。」

「出来ないよありしあ……僕には、大事な世界があるから。」


静かに、しかしハッキリとこの夢の世界に留まる事を拒否したのだ。
確かにこの夢はとても心地いい物なのだろうが、志緒とフェイトは其れを真っ向から跳ねのけ、幸福な事だけではない『現実』を選び、その道を
進む事を決めたのだ。


「そうか……それでこそ志緒だな。」

「そっか……そうだよね。」



だが、拒否された一馬もアリシアも、その顔に落胆の色は無かった――恐らくは分かっていたのだろう、己の提案が拒否されるという事は。


「本当はな、最初から分かってたんだ、コイツが嘘だって事はな。
 だけどな、嘘の世界でもお前と一緒に居たかったんだ志緒……久しぶりに会えて嬉しかったぜ。」

「最初から分かってたの……行っておいで、大切な友達と、優しい人が待ってるんでしょ?」


「一馬……」

「ありしあ……」


それでも、一馬もアリシアも笑顔で志緒とフェイトの事を見て居た。――この結果を最初から予想していたかのように。


「此れでアバヨだな、志緒?」

「寂しい事言うなよ一馬……俺がお前を忘れない限り、ずっと一緒だ……そうだろ?」

「……そうだな――じゃあ、行ってこいダチ公!」

「応!行ってくんぜダチ公!!」



「ゴメンね、ゴメンねありしあ……ありがとう、おねえちゃん……大好き。」

「私も、ずっとずっと、大好きだよフェイト……現実でも、こうありたかったかな。」



――シュゥゥン……



そして、幻影と夢は消える。
その瞬間、志緒とフェイトの世界は一つになり、2人ともとても広い、大聖堂を思わせる場所にその身を移していた。正に瞬間移動の如くにだ。


「シオ?」

「フェイトか……どうやら、互いに都合のいい夢を見てたみてぇだが、そろそろ目を覚まさないと、なのはのお叱りを受けちまうかもしれねぇな。」

「うん、だから起きよう!ばるでぃっしゅ!!」

『Yes sir.』


互いの無事を確認した志緒とフェイトは夫々デバイスを展開し、同時に服が夢の世界での服からバリアジャケットへと換装される。


「一馬……夢でも、もう一度会う事が出来て嬉しかったぜ。
 だけど、俺は行く――俺が生きる世界に!待ってる仲間達の元へな!!」

「りにす、おかあさん、そしておねえちゃん……会えてうれしかった。
 だけど僕は行くよ、今の僕が生きる世界に!!」


次の瞬間、フェイトのバルディッシュがザンバーフォームとなってその刀身を長大に伸ばし、志緒のヴォーパルウェポンもまた、実体の刀身から
闘気の刀身が現れ、フェイトのバルディッシュ・ザンバーと同じ位に巨大化する。


「いっくぞ~~~!ぱわ~、きょくげーーーーん!!」

「ぶった切る!!」


そして二つの大剣(と言うよりも、最早斬艦刀と言うべき大きさだが)は、偽りの世界を切り裂いた。
志緒とフェイトが、現実世界に帰還するのは間もなくだろう。



が、此れが思わぬ効果を齎した。



――ピキッ!!



「っ!!」



その衝撃で、書の中の他の世界にまで亀裂が入り、その衝撃で浅い眠りについていた少女が、この世界に来て初めて、ハッキリとその目を開
けたのだった。








――――――








一方、なのはと闇の書の意志の戦いは、徐々になのはの旗色が悪くなってきていた。
気持ちでは埋まらない圧倒的な実力差を前に、持ち前の不屈の心と愚直なまでに鍛えられた射撃と砲撃で戦ってきたなのはだが、ゼロ距離砲
撃の反射ダメージが思いのほか大きかったのか、徐々に動きが鈍くなり闇の書の意志の攻撃を捌き切れなくなってきたのだ。

既にバリアジャケットは、左の肩口が消し飛び、右の袖が千切れ、スカートもボロボロな上、なのは本人も擦り傷裂傷多数と言う満身創痍の状
態であり、其れでも戦っているのが凄いという所だろう。
何よりも、その深い蒼の瞳からは闘志は消えていないのだから。


「ふん!」

「きゃぁぁぁぁぁ!!」


だが、其れでも圧倒的な実力差がある上に、ダメージ甚大な状況ではマッタク持って歯が立たないのも事実。
上空から殴り落とされると、地面に激突する前に飛び蹴りで蹴り飛ばされ、海面を水切りする石の様に跳ねて行く……所を、更にチェーンバイン
ドで捕らえ、そして振り回し、周囲の石柱に絡ませた上で、固定し完全に身動きを封じる。

幾ら凄まじい魔力を持っているとは言え、なのははまだ9歳の少女――志緒の様に力任せにバインドを引き千切る芸当など出来はしない。(フェ
イトは色々とアレなので除外するが。)
こうなってしまっては、ピン止めされた蝶でしかない。次の攻撃を避ける事は出来ないのだ。否、プロテクションを使った所で其れも限界があるの
だから、打てる手は実質ゼロと言えるだろう。

そんななのはに対し、闇の書の意志は闇の書を顕現させると、あるページを開きながら上昇。
それと同時に、上空には空間を割るようにして、黒い巨大な螺旋構造を持った槍が出現――戦乱期の古代ベルカに於いて、敵艦ごと相手を倒
す手段として開発された殲滅魔法『黒槍』が発動したのだ。


「眠れ!!」


闇の書の意志は、其れを握ると、一切の迷いなくなのはに向けて投擲し、黒槍は螺旋回転をしながらなのはに向けて降下!
丁度障害物がブラインドとなってなのはから黒槍は見えないが、黒槍がその障害物を砕いて現れた時、なのはの顔に初めて絶望が浮かんだ。
如何に頑丈なバリアジャケットでも、防御魔法でも、此れだけの質量を持った攻撃を耐える事は出来ない上に、相手の攻撃は非殺傷ではない。
つまり、此れの直撃が意味するのは……死。


――キュイィィン!!


だが、黒槍がなのはに直撃するその瞬間、紅蓮の魔法陣と蒼銀の魔法陣が展開され――


「オォォラァァァァァァァ!!!」

「ひっさーーーーーーーつ!!!」



其処から現れた志緒とフェイトが、黒槍を文字通りに一・刀・両・断!!完・全・爆・砕!!!
戦艦を丸ごと破壊するだけの質量を持った黒槍を、粉々にしてしまうこの2人の常識外れのパワーは、最早突っ込み不要だろう。黒槍粉砕の序
になのはを拘束してたチェーンバインドまでぶった切って見せたのだから。

しかしこれでなのはは窮地を脱した。頼れる兄貴分と親友が帰還してくれたのだから。
桜色、蒼銀、紅蓮の三重魔法陣の上に立って闇の書の意志を睨みつける、志緒となのはとフェイトの3人の姿は、正に威風堂々と言った所だ。

逆に、闇の書の意志は、其れを忌々し気に睨むが……


――ギュルリ……


此処で異常が起きた。
闇の書の意志の左腕に装備されていたナハトヴァールが、突如として黒い蛇に変異し、闇の書の意志に巻き付き始めたのだ。――如何やら時
間はあまり残されていないようである。








――――――








だが、此の土壇場で、実はすでに奇跡は起きていた。


「思い出した……全部思い出した!
 何でこんな事になってるか。何でこんな事になってしもたのか……全部思い出した!!」


闇の書の夢に捕らわれていたはやてが完全に目を覚まし、如何してこんな事に成ってしまったのか、その原因を全て思い出していた。
だが、それは書の管制人格にとっては有り難い事ではなかった――すべてが終わってしまうその時まで、せめて心だけでも安らかにと願ってい
たのだから。


「どうか、再びお休みを、我が主。
 あと何分もしないうちに、私は私の呪いで貴女を殺してしまいます……だから、せめて心だけでも幸せな、夢の中に――!!」


管制人格も、こんな事は本当は願っていない。
漸く出会えた心優しき主に、出来る事ならば幸福な生涯を送ってほしかった……でも其れは出来ない事だった。自分ではどうしようもない呪いと
異界の力によって、最終的には主を取り殺してしまうのだ。
だから、せめて最後の瞬間まではと、幸せな夢を用意したのだ……全ては主の為に。――真紅の瞳から溢れる涙が、それを物語って居る。


「優しい気持ち、ありがとう。」


だがはやては、そんな管制人格を優しく抱きしめる。まるで、泣きじゃくる我が子を落ち着かせようと抱きしめる母親の様に。


「せやけど、其れはアカン――今のマスターは私で、貴女は私の大切な子や。」

「――!!ですが、ナハトが止まりません!暴走も、もう!!!」

「……止まって!!」


そのはやての思いの強さが更なる奇跡を起こす。
白銀の魔力が周囲を覆い尽くし、其れは外部の現実世界にまで波及し、闇の書の意志の左腕からその光があふれ出したのだ。


すみません、外にいる人、少し力を貸してください!此の子に纏わりついている……黒い塊を!!


その光を通じで、はやての声が外部に届けられる。


「この声は……まさか。」

「はやてちゃん!!」

「いやっほーーーー!はやては無事だったんだ~~~!!!」



その声を聴いた志緒達は、一同歓喜する。
はやての声が聞こえたという事は、少なくともはやては死んではいない……まだ生きているのだから。

更に!!


『なのは、フェイト、志緒さん……聞こえる?』

『フェイトーーー!!』



此処で、ユーノとアルフから通信が入った


「ユーノ?」

「ユーノ君?」

「あるふ?」


『主が意識を保ってる今なら、防衛プログラムと管制人格を切り離すことが出来るかも知れない。』


そしてその通信の内容は、正に盤面この一手と言う物だ。――この状況を打開し、はやてを助ける事が出来るかも知れない物だったのだから。


「具体的にどうすりゃいい?」

『3人の純粋魔力攻撃で、あの黒い塊を吹き飛ばして!!全力全壊、手加減なしで!!』


その具体的な内容を聞いた志緒となのはとフェイトの顔には笑みが浮かぶ――全力全壊の手加減なしなど、この3人の得意分野なのだから。


「流石だぜユーノ!!」

「分かり易い!!」

「よっしゃー、やってやるぞーーー!!」


なのはを中心にし、右側に志緒、左側にフェイトを配置した陣形を組むと、3人とも一気に力を高めていく。
桜色、蒼銀、紅蓮の3色の魔力が一つになり、その凄まじいまでの力が飽和状態となり、火花放電を巻き散らす……正に最強と言うべき攻撃の
準備が整っているのだ。


N&F、中距離殲滅コンビネーション!

ブラストカラミティ!

喰らいやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!



――ドッガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!


なのはとフェイトの連携攻撃が放たれると同時に、志緒もヴォーパルウェポンを振り回し、強烈な爆炎で追撃する!!

この攻撃の破壊力は効果覿面!!
全ての攻撃を真面に喰らった闇の書の意志は爆破粉砕!!黒煙の中に、その姿を消したのだった。








――――――








Side:はやて


如何やら何とかなりそうやな此れは。
ほな、貴女に名をあげなアカンね?……闇の書とか、呪われた魔導書なんて二度と呼ばせへん。私が呼ばせへん。
貴女の名前は……強く支える者、幸運のエール、祝福の追い風、リインフォース。


「リインフォース……」


――ピキ……ピキ……バリィィィィィィィン!!!!


夢は、もう終わりや――そして、貴女の絶望もな。
此処からは、本当の意味で絶望を振り払うための戦いや……私は、私の役目を果たす!!此の子が選んだ夜天の主としての役目をな!!











 To Be Continued…