Side:なのは


そんな……志緒さんとフェイトちゃんが、闇の書さんに吸収されちゃうだなんて!!
闇の書さんの力は途轍もなく強い……それこそ、若しかしたらプレシアさんをも上回るんじゃないかって位だからね……正直な事を言うなら、今
の私じゃ、精々『負けない戦い』をするのが精一杯だと思うの。
洸さん達が、他のグリードに対応してる今、闇の書さんには、私が挑まないとだからね!!――トコトンまで、やらせて貰います!!



「……まだ足掻くのかお前は……お前の仲間は、既に書に吸収された……戻って来る事は不可能だ。
 故に、奇跡は起きない――お前の運命も、此処で終わる……無駄な足掻きはせずに、大人しく闇の訪れを受け入れろ。さすれば苦しむ事もな
 く、その魂は冥界に送られるぞ?」

「……其れはそうかも知れませんね――だけど、私は其れを全力で拒否します!!」

「何?……自ら安息を拒否し、苦しみの終焉を受けると言うのか?」



嘘と偽りで塗り固められた安息なんていりません!
ドレだけ辛くても、厳しくても、其れを踏み越えて生きて行くのが、人の生き方なんです!!私は、志緒さんからそう教わりました!!
だから、絶対に退きません!!



「愚かな……ならば、その希望すら砕いてやる――この、怪異とナハトヴァールの呪いを持ってしてな。
 そして知るが良い――如何足掻いても、救う事の出来ない世界が存在しているという事を、そして絶望と言う名の現実と言う物を――!!」

「……絶望も、諦める事も、私達はしません!!志緒さんもフェイトちゃんも、必ずここに戻ってきます!根拠は無いけど、私は信じてるから!」

「いいだろう……ならば、お前には世界の終焉を見届ける生贄になって貰おう。」

「生贄は断固拒否です!!」

何よりも、志緒さんもフェイトちゃんも、きっと貴女の中で頑張ってる筈だから、此処で私が負ける訳には行かないの!!
志緒さんとフェイトちゃんが戻って来るまで、何とか持ち堪えてみせるの!!










リリカルなのは×東亰ザナドゥ  不屈の心と魂の焔 BLAZE65
『不屈の闘志は止まらない~A.C.S~』










Side:志緒


コイツは……一体どうなってやがるんだ?
俺はアイツに取り込まれた……其れは間違いねぇが、目を覚ましたら一馬が居た頃のBLAZEが居たってのは幾ら何でも突拍子過ぎるってモン
だろうが。まぁ、全く知らない奴が居るよりは100倍マシだけどな。

蓬莱町のダンスクラブで日中からバカやって、日が暮れたら杜宮にやって来たろくでなし共を打っ潰す……あの頃のBLAZEそのものだ此れは。

一馬が生きてた頃の、BLAZEが一度終わっちまう前までは当たり前だった光景……ずっと続くと思ってた毎日が、今此処にあるって事か……?
だが、あの時の思い出が、俺の心の闇だってのか?



「志緒?らしくねぇな……何考えてんだ?――行こうぜ、アキが待ってる。」

「一馬……」

とは言え、判断材料が足りねぇし、少しこの世界の事を見てみるか……アイツが、なんで俺とフェイトを取り込んだのかも分かるかも知れねぇし、
其れが分かれば、帰還方法も見つかるかも知れねぇからな。








――――――








Side:フェイト


アリシア、山猫のリニス……そして優しいお母さん――うん、如何考えても違和感しか感じない。少なくとも、アイツは僕には優しくなかったから。
なのに、それなのに、めのまえのこのこうけいは一体何なの?

笑顔のアリシアとお母さんに、リニス……それからこいぬじょーたいのあるふ……まるで、幸せなかぞくそのものだよねこれ――これが、あいつ
のいってた、ぼくのこころの闇なのかな?

「どーおもう、ありしあ?」

「行き成り話振られても分からないよフェイト……って言うか、お母さんが優しくないって、変な夢でも見た?」

「あらあら……夢の中で、私はどんな鬼婆だったのかしらね……ちょっとショックだわ。」

「えっと、そうじゃなくておかーさんなんだけど、おかーさんじゃなくて、おかーさんの姿をしたすっごく悪い奴がおかーさんのふりしてて、ほんもの
 のおかーさんにやっつけられて……」

「なんか、早口言葉みたい…」



うん、ぼくも言ってて訳が分からなくなってきた!
ちなみに最近みたいちばんへんなゆめは、ゆーぎおーの海馬が『高町なのはよ、敵を蹴散らせぇ!』っていって、なのはが『全力全壊!』ってブ
レイカーぶちかまして、敵がふっとんで、海馬が『粉砕!玉砕!!大喝采!!!』ってたかわらいしてた。



「うん、訳が分からない。」

「僕もわからない!」

もっというなら、このじょうきょうがいみふめーだからな~~?
アイツにとりこまれたのはまちがいないんだから、とりあえず、ふつーに過ごしてみようか?いざとなれば、ぶった切ってだっしゅつすればいいん
だもんね!!








――――――








No Side


さて、啖呵を切ったなのはと、事を終焉へと導こうとする闇の書の意志の戦いは、其れはもう物凄く激しいものとなっていた。
なのはが正確無比な射撃を放てば、闇の書の意志は其れを回避しながら接近し、ナハトヴァールを装備した左腕で殴りつける。
其れをなのはがプロテクションで受け止め、誘導弾を多方向から放つ事で再び間合いを離し、自分の得意なミドル~ロングレンジに持ち込んで
再度、射撃戦を仕掛ける。

9S級を相手に、1人で此処まで戦う事が出来ると言うのは大したモノだが、流石に実力差は隠しきれない物がある。
如何になのはが巧く立ち回ろうとも、闇の書の意志は軽くそれを上回って来る上に、全ての攻撃が超必殺技クラスの威力であるが故に、直撃し
なくとも、結構良いダメージが入ってしまうのだ。


「なのはちゃん!!……クソ、志緒先輩とフェイトちゃんが吸収されちまうとは……!」

「ヘルプに行きたい所だけど……こっちだって、そんな余裕は無いってのよ。」


本来ならば、洸達がヘルプに入るのだろうが、洸達もまたトンデモナイ強さのグリムグリードを相手にしている為に、なのはの方に手を回す事が
出来ないでいるのだ。
つまり、状況は最悪と言っていいのだが――


「手助けは出来なくとも……なのはちゃん、此れを使って!」

「――!明日香さん?……此れは!!」


その攻防の僅かな隙を突いて、明日香がなのはに何かを投げ渡したのだ。
そして、その正体はエレメント。しかも、『射の理』と言う、剛撃スキルと飛翔スキルの威力が半分になる代わりに、射撃スキルの威力が倍にな
ると言う極端な代物だ。
だが、此れはなのはにとっては有り難いものだ。
なのはの攻撃は、その全てが射撃と砲撃で構成されている為に、射撃の威力が倍加するこのエレメントは、なのはにとっては純粋な強化アイテ
ムであると言えるのである。


「助かります……レイジングハート!」

『All right.Excellion Mode.』


其れを受け取ったなのはは、即座にそれをレイジングハートに組み込むと、フルドライブであるエクセリオンモードを起動する。
白だったインナーが黒と青のモノに変化し、髪を結んでいたリボンもより大きくなり、靴のデザインも微妙に変化するが、一番大きな変化は、上
着の背にBLAZEのエンブレムが現れた事だろう。
此れは、なのはが後から追加したデザインだが、此れの存在がよりフルドライブモードの感じを高めているのである。


「能力を底上げしたか……だが、その程度では私を倒す事は出来ない。」

「やってみなくちゃ、分かりません!!」


そして再び激突!
破滅の道を歩み続けようとする闇の書の意志と、その道を分断して希望を照らさんとするなのはの戦いは、さらに過熱して行った。








――――――








Side:闇の書の管制人格


この状況下においてもまだ足掻くとは……諦めが悪いのか、それともただの馬鹿なのか――或はその両方か。
何れにしても、この戦いは長くは続かないだろう――彼女達がドレだけ頑張った所で、タイムリミットが来たらそれですべて終わりなのだから。



「此処は……?」



だから、貴女も眠って下さい我が主。
此処は、貴女が望んだものが全て手に入る世界――健康な身体、温かい家族……貴女が望めば、欲しかったもの全てが手に入る世界です。



「私の……欲しかったモノ?……私は……」

「如何かお休みを、我が主……もう、目を覚ます必要はありません。」

「私は――」



そうだ、此れで良い。此れで良いんだ。
彼女は、此れまでの誰よりも優しい主だった。守護騎士の皆の事も、部下や道具ではなく、一個体の命として、そして家族として扱ってくれた。
だからこそ、此の安らかな夢の中で、せめて心だけは幸せの中で終わって欲しい……主殺しの運命から、私は逃れる事は出来ないのだから。


――ズゥゥゥン……


「!?」

と……何だ今の衝撃は?
まさか……彼女達は、まだ諦める事なく戦っているというのか!?世界を滅ぼす力を持った、最強にして最悪の私を相手に回して――!!
一体何処まで、足掻くと言うんだ彼女達は……!








――――――








No Side


エクセリオンモードを発動したなのはと、闇の書の意志の戦いは、正に最終決戦とも言うべき凄まじいものとなっていた。それこそ、此れが緊迫
した状況下での戦いでなかったら、魔導師の教導映像としても使える位のレベルだ。

互いに高速で飛び回りながら、ミドルレンジで射撃魔砲を撃ち合い、しかし互いに決定打を許さずに空を飛び回る。


「バスター!!」


そして、間合いが開いた所で、なのはは必殺のバスターを発射するが、闇の書の意志は其れを回避し、一気に距離を詰め、アッパーカットの様
な拳打でなのはを吹き飛ばす。
だが、吹き飛ばされたなのはは、自ら後ろに飛ぶ事でダメージを軽減し、更にぶつかった背後の柱を転がるようにして上り、ダメージを最小限に
とどめて行く。


「一つ覚えの砲撃、通ると思ってか?」

「通す!!」

『A.C.S Standby.』


未だ分からないのかと問う闇の書の意志に対しても、なのはは折れない。
レイジングハートを構えると、その先端を闇の書の意志に向けて吼える――通るかどうかは大した問題ではない、何が何でも通すのだと!!!
其れに応えるように、レイジングハートもA.C.Sをスタンバイ。準備は整った。


「レイジングハートが力をくれてる……泣いてる子を救ってあげてって!!」

『Strike frame.』


レイジングハートの先端に赤い魔力の槍が現れ、両翼には赤い刃が形成される。
更に、なのはを中心に桜色の魔力が逆巻き、其れは限界を超えて高まって、桜色の魔力柱とも言うべき物にまで巨大化する――まるで、なの
はの思いに呼応するが如く!


エクセリオンバスターA.C.S……ドライブ!!


――轟!!!


瞬間、魔力が弾け、桜色の弾丸と化したなのはが、闇の書の意志に向かって突進!
そのあまりの速さに、闇の書の意志は回避が間に合わず、シールドを張る事で其れを防いだ……のだが、今のなのはは防がれた程度の事で
は止まらない!
シールドで防がれたまま突進し、進路上にある柱をも突き抜けながら押し続ける!力の限り押し続ける。


――ドゴォン!!


都合10本目の柱に至って、漸く突き抜けなかったのだが、それでもなのはの勢いは止まらない――寧ろ、突き抜けなかったからこそなのはに
とっては、プラスだったのだ。
相手を壁に押し付ける事が出来たという事は、この次の攻撃は略ゼロ距離で放つことが出来るのだから。


「く……!」

「届いて!!」


何とか押し返そうとする闇の書の意志だが、なのはの思いは其れを上回り、ストライクフレームの先端がシールドを抜き始めたのだ。
其れは余りにもゆっくりとしたもので、シールドを砕く事は無かったが、シールドを抜く程度の事は出来たのだ――正に、なのはとレイジングハー
トの見事な攻撃だったと言えるだろう。


「まさか……」

ブレイク……シュート!!



――ドッガァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!



そして放たれたゼロ距離直射砲!
その破壊力はすさまじく、攻撃した側のなのはですら余波でダメージを受けてしまう程なのだ――実際に、なのはのバリアジャケットは所々が破
損し、クリスタル部分にも罅が入っているのだから。

だが、逆を言うのならば此れを喰らった闇の書の意志だって無傷である筈がないのだが……


「今の一撃は、可成り響いたぞ……」


闇の書の意志は無傷!
攻撃した側のなのはが反射ダメージを喰らったゼロ距離砲を喰らって尚無傷と言うのは、悪夢であるとしか言えないだろう、信じたくない事だ。
だが、其れを前にしてもなのはの闘志は折れない。


「あれでも駄目だったんなら……もう少し、頑張らないとだね!!」

『Yes.』


不屈の少女は諦めない。
満身創痍の身体に鞭打って戦いを続ける――奇跡を掴み取る為に、悲しい運命を此処で終わらせる為に。戦いは更に激化するだろう………








――――――








一方、取り込まれた志緒とフェイトは、この世界が己の望みを具現化した偽りの世界――願望が形になった『夢』である事を理解するに至った。
其処に至ることが出来たのは至極簡単――あまりにも、この世界が居心地が良すぎたのだ。

普通の人間なら、この居心地の良さに落ちてしまっていただろうが、志緒とフェイトは落ちなかったのだ――故に、夫々の世界で友と姉に問う。


「なぁ、一馬……」

「ねぇ、ありしあ………」


「こいつは……」

「此れって……」





「夢だろ?」

「夢だよね?」



この世界は偽りの夢なのだろうと。
そして、この問いと同時に、夫々の世界の空模様は一変し、冷たい雨が降り注ぎ始めたのだった。











 To Be Continued…