――匣:夜天の地


Side:志緒


扉を開けて入った先には……コイツは何とも幻想的な空間が待ってくれてたもんだな?
漆黒の闇に煌めく星々ってのは、『夜天の地』って名前に最適じゃねぇか?――尤も、此処は見た目の美しさ以上のトンでもねぇモンがあるんだ
ろうけどよ……そうじゃなかったら、此処が最終決戦地にはならないからな。



「まさか、此処まで辿り着くとは思っていなかった……否、辿り着いてしまったんだなお前達は。」

「生憎と、あの異常事態を黙って受け入れられる程、俺達は人間が出来てる訳じゃねぇんでな?……こうして乗り込ませて貰ったぜオイ!!」

「お前達ならば、或は、辿り着くのかも知れないと思っていた……だが、其れも此処までだ――わが身の呪いは誰にも解く事は出来ん。
 書が暴走したが最後、待っているのは破滅だけだ――故に、お前達も無駄な抵抗はしないで、安息の闇に沈め……幸せな夢と共に永遠に。」



――匣の番人:闇の書の管制人格



待ち受けてたのは、銀髪で赤目の女……コイツが、ラスボスって訳か。
だけどなぁ、待ってるのが破滅だけってのは訂正しときな?――確かに此れまではそうだったかも知れないが、今回ばっかりはそうはさせねぇし
させる心算もねぇ!
はやての奴を救い出し、書の呪いもブッ飛ばす!それが、俺達の為す事だからよ――テメェにゃ嬉しくない事だろうが、トコトン足掻かせて貰う!

何より、此れ位の事を如何にか出来ねぇようじゃ、天国の一馬に顔向けできねぇからな!!










リリカルなのは×東亰ザナドゥ  不屈の心と魂の焔 BLAZE64
『Buch der Finsternis wird』










「凄まじい闘気だな……其れこそ、その闘気は将ですら凌駕するだろうが――しかし私を倒し、止めるにはまるで足りない。
 そもそも、書の暴走と、異界のグリードに蝕まれたこの私を救う術など存在しない――あるのは絶望の破滅のみ……主もまた、目の前で起こっ
 た事を嘘であってほしいと思っていたからね。
 主の命を喰らう者として、せめて、最後に主の願いを叶えたい。」



その為に世界を破壊するってか?……冗談も休み休み言えってんだ、此のトンチキ野郎!!
はやての奴が、どんな事を体験したのか、体験しちまったのか俺には分からねぇが、こんな事態を引き起こしちまう位にショッキングなもんだった
ってのは理解できるぜ?
だけどなぁ、そんなトンデモナイ事態に居合わせたのに、はやての心は死んでなかった……絶望に染まりながらも死んじゃいねぇんだ!!
もしも、はやての心が死んじまったら、肉体も滅び、夜天の魔導書の騎士も管制人格も存在できなくなっちまうからな?

まぁ、騎士達は消えちまったが、管制人格であるお前が存在してるのが、何よりの証拠だろ?
つまり、お前は書の暴走とグリードのに耐える事が出来ないだけで、書の主を取り殺そうとは考えてねぇんじゃねぇか?そうでなけりゃ、俺達が
此処に来た説明がつかねぇ。
本当に滅びと破滅を願うのなら、あの時に――書が暴走した時に世界が終わって居たって不思議はねぇからな。



「そんな物は如何でも良い事だ……闇の書は、起動したその時から破滅の運命が待っている。
 何人たりとも、その破滅を回避する術はない――故に、私は騎士達が集めた魔力と、主の魔力と命が尽きるまで破壊行為を行わねばならない
 のだ……自分の意志とは無関係にね。」

「テメェの言い分は良く分かったぜ。」

だけどな、そんなふざけた事を認められると思ってんのかテメェは!
テメェが、何処かでヒッソリと、誰にも迷惑かけずに消えるってんなら文句はねぇ……だが、無関係の誰かを巻き込み、はやてを巻き込み、その
上で、此れが最上だったなんてのは同意できねぇんだ俺は!俺達は!!!



「そんな事を言うなんて……なら、必ず貴女を助け出します!!」

「よくわかんないけど、おまえがヤバいってのはりかいした――だから僕がやっつけてやる!!そして、夜天のまどーしょも元に戻す!!」

「お前が自分の事を呪われた存在だというのは勝手だ……だが、おまえが取り込んだはやてちゃんにとって、お前は呪われた存在なんかじゃね
 ぇんだ!!其れを認めさせてやる!!」

「最後の一戦、乗り越えましょう時坂君!」

「アイドルの力、見せてあげるわ!」

「押忍!全力で行きましょう!!!」

「此処まで来て、ラスボスに敗退とか、流石に笑えないからね。」

「ゾディアックの白の巫女として、この事態を終息させて見せます。」



そう言う訳だ……悪いが手加減できる相手じゃねぇんでな?女相手だろうが、全力で行かせて貰うぜ!!覚悟は出来てんだろうなぁ!!!



「これ程とは……だが、もう止まる事は出来ない――出来ないんだ!!」


――轟!!!


「故に、私は滅びを齎す……それが、闇の書の真実だからな。」


――9S級XXXグリード:闇の書の意志


此れは……本気を出したって所か?
倉敷みてぇに、魔物と化した訳じゃなく、上着と腰マント、顔と腕の赤い紋様と、背中に6枚の黒い羽根が追加された程度の改変だが、其の力は
アレとは比べ物にならねぇのは間違いないぜ……

だが上等だ!女相手だが、全力でやらせて貰う!!



「ナハトヴァールを武器とし、グリムグリードと化した私を見ても尚、恐怖はしないか……その度胸だけは大した物だが、何か気付かないか?」

「何かだと?……な、此れは!?」

俺達の居る床を除いて、景色が変わってやがる?
――いや違う、匣と化してた大学病院の建物が元に戻って、夜天の地から只の屋上に戻りやがったんだ!つまりは、匣の外に出て来たって事
になる訳か……海鳴全土が異界と化してるのは其のままみてぇだがな。



「私がこの姿になった時、匣は崩壊と言う名の絶望を巻き散らして焼滅する。
 ……見えるだろう、彼方此方から黒い炎が地面を割って現れているのが――アレが、崩壊が始まった証だ。
 今この世界は現実から切り離された異界と化している故に、この戦いで崩壊した建物などは、異界化が終息すれば元に戻るが、最早その時は
 永遠に訪れる事はない……お前達も、お前達の仲間の運命も、そして主の命ももう此処までだ!
 来い、我が僕たる怪異達よ!!」


『ウオォォォォォ!!!』
――5S級グリム・グリード:黒炎の将


『ガァァァァァァァァァ!!』
――4S級グリム・グリード:暗黒の鉄騎


『グオォォォォォォォォ!!!』
――3S級グリム・グリード:漆黒の狼




崩壊が始まっただと?……其れだけでも残り時間がすくねぇってのに、更に此処でグリード召喚と来たかオイ。
しかも、現れたのは、あのパツキン女を除いた守護騎士のグリード……それも、迷宮のラストで会ったのとは、段違いの強さをもってやがる。特
に、シグナムを模した奴は、化け物と化した倉敷と同じ5S級か……コイツは、戦力を分散する他はねぇか。



「オーバー3S級が3体!
 其れに、9S級の彼女……此れは――」

「何が相手だろうと関係ねぇ!俺達のやる事は決まってんだ、だったら其れをやるだけだろうが!
 さっきの異界迷宮を攻略したチーム分けで、夫々戦って、書のバグだの何だのは全部何とかして、はやてちゃんを助け出して海鳴を元の姿に
 戻すだけだ!!」

「ふ……よく吠えたぜ時坂ぁ!!
 周りに現れた連中は、お前等に任せる……この、頑固者の相手は、俺となのはとフェイトに任せとけ!!」

「おう!任せたぜ、志緒先輩!なのはちゃん、フェイトちゃん!!」

「はい、任されました!」

「おっけー、僕たちにまかせとけ~!!」

「よっしゃ、行くぜ璃音!」



本気で、頼もしい『漢』になったじゃねぇか時坂……トンでもない化け物を任せる事に成っちまうが、まぁアイツ等なら大丈夫だろうよ。
寧ろ、化け物具合で言うなら、俺達の相手の方が遥かに上だろうからな?初っ端から、気合全開で行くとしようぜ、なのは!フェイトォ!!!



「はい、全力全壊です!!」

「いよっしゃー!行くぞ夜天のまどーしょ、かかってこーい!!」

「ありもしない希望と、怒り得ない奇跡を望んで足掻くか……其れも良いだろう。滅びゆく世界のせめてもの煌めきとして、覚えておくとしよう。」



滅ぼさせねぇって言ってんだろうが!!
横っ面引っ叩いてでもテメェの目を覚まして、そんでもってはやての事も助け出してやらぁ!!精々喰らいな、俺のBLAZE()をな!!








――――――








No Side


こうして始まった最終決戦は、正に最終決戦と言うに相応しいものとなっていた。
洸と璃音は、シグナム型のグリム・グリードを相手に回しながら、物理よりバランス型と魔法よりバランス型のタッグの力=隙の無いバランス型の
力で対抗し、明日香と美月は、ヴィータ型のエルダー・グリード相手に攻撃の隙に一撃を叩き込むカウンターで対処し、空と祐騎は、ザフィーラ型
のグリム・グリードに対して、反撃を許さない程の物理と魔法のラッシュで攻め立てる。

無論、守護騎士グリム・グリードも、夫々がオリジナルが使っていた技を持ってして洸達と切り結んでいく。故に、決して楽な戦いではないのだ。


「この……だけど負けられるかよ!!志緒先輩達は、此れよりもっとヤバい奴とやり合ってんだからなぁ!!」

「此処でアタシ達がやられるとか……あり得ないって言うのよーーー!!!!」


それでも、洸達は怯まずに戦いを続ける。
3S級以上の相手であるが故に、簡単に行く相手ではないが、それでも自分達がやられてしまったら海鳴を、はやてを救う事は絶対に出来ない
からこそ、例え傷付いても退かない!


「璃音、お前……顔は拙いだろ!?」

「掠り傷だから大丈夫!痕が残らなければ問題なしだよ洸君!」


璃音など、アイドルであるにも拘らず、顔や頭に傷がつくのも知らんとばかりの奮闘ぶりなのだ。――洸達の方は、苦戦しても負ける事はないだ
ろう。


そして、本命の志緒、なのは、フェイトvs闇の書の意志の戦いだが――


「切り裂く!フレアスラッシュ!!

「ぶっとべ!爆光破ーーーー!!!

ディバインバスター!!!

「深き闇に沈め……!!!」



――ドガァァァァァァァァァァン!!!!



志緒の射撃スキルと、フェイトとなのはの直射砲が、闇の書の意志の範囲攻撃とかち合って爆破炎上!!ぶっちゃけ今ので、異界内の病院の
建物が吹っ飛んだ位だ……かち合った爆炎の余波でだ。

だが、此れもまた始まりのゴングに過ぎない。


「オォォラァァァァァァァァ!!!」

「フン!」



――ガキィィィン!!!


その爆炎の中を突っ切って、志緒が斬りかかれば、闇の書の意志も左腕に装備されたナハトヴァールで其れを防御。
志緒の一撃を防御して微動だにしていない時点で、闇の書の意志の力が分かると言う物だが、いま彼女と対峙しているのは志緒だけではなく、
成長値とか色々バグっているなのはと、能力値が攻撃力と素早さにのみ振り分けられているフェイトが居る。


ガトリングスマッシャー!!

「くらえ~~!天破・雷神槌!!


その2人は、志緒との攻防で動きが止まった闇の書の意志に対して、並の魔導師ならば明らかにオーバーキルになるであろう攻撃を敢行する。
なのはの3連直射砲と、フェイトの拘束からの落雷攻撃は、喰らったら只では済まないだろう。


「……この力、戦乱期のベルカでも通用するレベルだな。
 其れだけに残念だよ、将来有望な魔導師の芽をこの手で摘んでしまうのがね……だが、此れもまた我が運命だ――お前達も大人しく眠れ!」


しかし、闇の書の意志は無傷!それどころか、少しばかりのダメージを受けた様子すら見られない……流石は、封印指定のロストロギアと言った
所だろう。


「運命だと……寝ぼけた事抜かしてんじゃねぇ!
 生まれついての宿命ってのは変えられねぇが、後からついて来た運命なんてもんは幾らでも変える事が出来んだぞ!変える気があれば!」

「其れに、貴女は本当に諦めてしまったんですか、救われる事を!!」

「如何足掻こうとも何も変わりはしない……私は、壊す事しか出来ない破壊者だ――其れこそ、主の命すら食い物にして暴れまわるな!!」

「嘘!!其れじゃあ何で貴女は泣いてるの?本当に諦めたのなら、泣いたりなんかしないよ!!」

「なのはのいうとーり!諦めたらなかないんだぞーーー!!!」


だが、激化する戦いの中で、闇の書の意志の瞳からは涙が流れていた。
その涙に隠された感情は分からない。理不尽な呪いへの怒りか、主の命を失う哀しみか、それとも何も出来ない自分への憤りか――だが、何れ
にしても、なのはの言うように本当に諦めてしまったのならば、涙などは流さないだろう。


「黙れぇ!!!」


――ガキィィィン!!!



「此れは……バインド!?」

「だけじゃない、此れ僕となのはの使ったバインドだ!!」

「此れは……リンカーコアを蒐集した相手の魔法も使えるってのか……厄介極まりねぇな。」


それでも、闇の書は其れを真っ向から否定するかのように、カウンターのバインドで3人を拘束して身動きを封じる。
其れも只のバインドではなく、なのはとフェイトのバインドなのだから、相当な拘束力があるのは間違いない――それだけに、志緒とフェイトであ
っても簡単に外す事は出来ないのだ。

そして、其れを良い事に闇の書の意志は魔力波動で攻撃してくる。
決して強力な攻撃ではないが、喰らい続ければダメージが蓄積していくジャブの様な技だけに、厄介であり、そして強力だ。
並の魔導師ならば、拘束された時点でゲームオーバーだっただろうが……志緒とフェイトのパワーを常識の尺度で計ってはいけない。計るのは
愚の骨頂であると言えるだろう。


「舐めんじゃねぇ……オォォラァァァァァァァァァァァ!!!」

「ドリャァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」



――バキィィィィン!!!



「何だと!?」


あろう事か、志緒とフェイトは、強引に無理矢理に、力任せにバインドを引き千切ったのだ。力任せにバインドを引き千切ったのだ。とっても大事
な事なので2度言ったが、此れは本当にトンでもない事なのだ。
封印指定のロストロギアに拘束されて、其れを力でぶち破る事の出来る人間など、管理局の管理世界全てを合わせても片手で足りる程しか居
ないだろうが、志緒とフェイトは其れをして見せたのである。

此れには闇の書の意志も驚くが、即座に射撃魔砲を発動して、迎撃せんとする。


「ふっふーんだ、あたらないよ~だ!!」

「ブラストエッジ!!!」


だが、その射撃もフェイトは難なく回避し、志緒は射撃その物をぶった切りながら突進!!――マッタク持って、攻撃力馬鹿コンビは恐ろしい物
である。

だが――


――ガキィィィン!!!



「テメェ……」

「くっそー……かたい!!」


その攻撃力を持ってしても、闇の書の意志のシールドを砕くには至らない。
僅かばかりの罅が入ったが、其れだけだ――この攻撃上等な2人の攻撃を受け止めてこれとは、全く持って凄いというより他には無いのだろう。
だが、只受け止めただけではない。



「此れは……成程、お前達も心に闇があるか……ならば、その闇の導くままに永遠の闇に落ちるが良い。」

「んな、コイツは!!」

「な、なんだよ此れーーー!?」



攻撃を止められた志緒とフェイトが、足から黒い粒となって消え始めたのだ。
その消える速度は凄まじく早く、消滅が始まって僅か5秒でフェイトが、8秒で志緒が完全に消えてしまったのである――そして、此れは一気に
戦況が劣勢に傾いた事の現れでもある。

洸達が守護騎士グリードに対処している以上、闇の書の意志にはなのは1人で対抗するしかないのだから。


「志緒さん、フェイトちゃん!!!……どうやら、取り戻さなきゃいけない人が増えたみたいだけど……私は絶対に負けません!!」

「愚かな……お前1人では私を倒す事は出来ないぞ?」

「それでも……無理を通して道理を蹴っ飛ばします!!」


だが、なのはは諦める事はしないで、単身で闇の書の意志に向かっていく。
それは、ともすれば自殺行為であるのかも知れないが、しかしなのはの瞳に諦めの色はない――あるのは不屈の闘志のみであるのだ。

戦闘力も経験も、圧倒的に上回っている相手に対して尚、なのはは引く様子をマッタク持って見せていないのだった。








――――――








Side:フェイト


ん……んん……此処何処?たしか僕は、あいつとたたかってたはずなんだけど、此処ってふつーに、ふつーなこどもべやだよね?
なんで僕はこんな所に――って、何だろうベッドのこのふくらみは?おーい。


――ベシベシ!!


「あはは、起きてたんだ。おはよう、フェイト♪」

「へ?」

そんな、此れってどー言う事?
なんで君がいるの?君はしんじゃったはずだ……いや、君が死んじゃったからこそアイツが現れたのに……如何して、如何して居るのアリシア!
なにが、いったい何がどうなってるの?わからないよーーーーー!!








――――――








Side:志緒


「志緒さん、志緒さん!起きて下さいよ志緒さん!!」

「だぁぁぁ……うるせーぞアキ!起きてるって言ってんだろうが!!!」

「いやっほー!志緒さん絶好調!その右ストレートに、痺れる憧れる!!!」

「……なら、もう一発行っとくかオイ?」

「いや、其れは勘弁す。」



ったく、あの銀髪の攻撃を喰らったと思ったら、こんな場所に居たぜ……かつてBLAZEが根城にしてた、蓬莱町のバーにな――恐らく此処は、俺
の記憶から作り出された仮想空間て所か。
なら、何とかして此処から抜け出してなのはの所に行かねぇとな。



「よう志緒!何浮かない顔してやがんだ?」

「!!」

そう思ってきた矢先、声をかけて来たのは……まさか、コイツが現れるとは思ってなかったぜ。
いや、俺の記憶の再現って言うならある意味で居てもおかしくねぇかもしれねぇが……まさか、お前が出て来るとは思わなかったぜ。予想外だ。



なぁ……一馬!!













 To Be Continued…