Side:シグナム


何とか管理局の追っ手を撒くことが出来たが、彼方此方逃げ回ったせいですっかり夕暮れ時か……主はやてを待たせてしまったかもしれないな。
只今戻りました。



「おかえり~~、遅かったから心配したで?」

「申し訳ありません、主はやて……少し、頑張ってしまったようで、時が経つのを忘れてしまったようです。」

「頑張った結果か~~……なら仕方ないけど、遅くなる時は連絡入れてな?
 予定してたよりも、遅くなってしまうってのは、やっぱり少し怖いんや……すぐ戻るから言うて、永遠に帰ってこなくなってもうた、お父さんとお母さ
 んを思い出してまうからね。
 って、何を言うてんねん私は――兎に角、此れからは遅くなる時は連絡入れてな?約束やで?」



了解しました、主はやて。
時に何やら良い匂いがするのですが……此れは本日の夕餉でしょうか?



「そうや♪
 今日の晩御飯は、冬の定番メニューである鍋物の中でも、古今東西老若男女から絶大な人気を誇る『すき焼き』やで。
 関西風の割り下も出来てるさかい、期待してくれてえぇで?」



すき焼きですか……其れは楽しみです。
主はやてから聞いて、その存在は知っていましたが、食すのは初めてですから――期待していますよ、主はやて。

マッタク持って、穏やかな日々だが……だからこそ、守らねばならん――ようやく手に入れた平穏と、主はやての命と言うモノをな…………!!!











リリカルなのは×東亰ザナドゥ  不屈の心と魂の焔 BLAZE50
『明かされた真実~11年前の悲劇~』










Side:志緒



そんじゃまぁ、話して貰うぜリンディさん?11年前に、一体どんな事があったのかって事をな。



「えぇ、包み隠さず話すわ。
 11年前にも、闇の書を巡る事件が起きていたの――その事件自体は簡単なモノだったのだけれど、闇の書を管理局に持って行く途中で其れは
 起きてしまった。
 突如闇の書が活性化し、封印の為の箱までも侵食して、挙げ句の果てには艦その物を侵食し始めたの。」

「其れは、確かにトンでもねぇ事だな。」

「でしょう?でも、此れだけならば、まだ何とかなったのよ…航行艦のクルーは、小型船で脱出すれば助かったのだから。
 だけど、あの人は――クライドは、全員が脱出してしまったら浸食された航行艦が暴れるかも知れないって、暴走した闇の書を手に取り、私を含め
 た当時のクルー全員を、引いては世界そのものを助ける為に航行艦と運命を共にした。
 置いて行く事なんて出来ないって、泣きながらクライドを止めようとして、でも危険だからと他のクルーに連れて行かれた時の事は、今でもハッキ
 りと覚えているわ……昨日の事の様にね。」

「そんな事が……その、クライドさんて言うのは若しかして。」

「私の夫で、クロノの父親になるわね。」

「そんな……!!」



身内に被害者が居たとはな……思った以上に、闇の書とハラオウン家の因縁は深そうだぜ。
こんな事を聞くのは如何かと思うが、リンディさん、アンタは闇の書を恨んでんのか?いや、そんだけの事があったんなら、恨みの一つや二つ持って
たとしてもオカシクはねぇだろうが。



「全く恨んでいないと言えば嘘になるけれど、闇の書への恨みよりもクライドを助ける事が出来なかった事への後悔の方が大きいわね。
 もしもあの時、何らかの形で闇の書を無効にするだけの力があったらクライドは死なずに済んだのですもの。
 そして、其れはグレアム提督も同じだったんでしょうね。」

「グレアムってーと……あの白髭の紳士っぽい爺さんか。」

「あら、志緒君は会った事があるのね。」



局で入院生活してる時にな。
ってあの爺さんも、闇の書と何らかの因縁があるってのか?……いや、最悪のロストロギアって事を考えると因縁のある奴はもっと居るって考えた
方が普通か。



「クライドはグレアム提督の教え子だったのよ。提督の使い魔である、アリアとロッテにも可愛がられていたらしいわ。
 それだけに、再び闇の書が現れたって言う事で、最近完成したっていう『対闇の書用最終兵器』を使うんじゃないかって思っていたのだけど、如何
 やら違うみたいだわ。」

「何すか、対闇の書用最終兵器って?なんか、すげーモンが出てきそうなんすけど……」

「洸先輩の言うように、其れは僕も……てか、此処に居る全員が気になる所だよね。」

「さっきの戦闘で、私が使っていたデバイスが其れなのよ。――凄まじい氷の力を秘めた特殊なデバイス『氷結槍デュランダル』。
 その力は大海原を凍りつかせるだけの力があり、最大出力で力を揮えば、闇の書を持ち主ごと永久に凍結させる事が出来る代物よ……」



んな、持ち主ごと永久凍結だと!?
それは、あの時爺さんが言っていた『例え話』じゃねぇか!!
……っと、成程な……既にその力が完成していたが、それを使う事に迷ってたから俺にあんな質問をしたって訳か。自分以外の誰かなら、如何す
るかを知りたかったって所だったんだろうぜ。

元々は、ソイツの力で闇の書を持ち主ごと凍りつかせる心算だったんだろうが、俺だったらどうするかってのを聞いて考えが変わったってのか?
その最終兵器がリンディさんの手にあるって事は、別の形で使えって託したって所なのかも知れねぇな。



「そ、それは何とも怖い代物ですね。
 でも、リンディさんの気持ちは分かりましたけど、クロノ君は如何思ってるんでしょうか?11年前だと、クロノ君は……」

「クロノは、まだ3歳だったわね。
 でもね、そんなに小さかったのに、あの子ったらクライドの葬式で全然泣かなかったのよ?泣きそうになるのを必死に堪えて、拳を堅く握って。
 そんな様子を見ていたから、あの子が10歳になった時に管理局に入局するって聞いても驚かなかったわ。『あぁ、こうなったか』って思ってね。
 でも、クロノには私以上に闇の書への恨みはないと思う。……あの子にあるのは、何としても闇の書を封印しないとって言う純粋な思いだけ。
 闇の書を自分が何とかしないと父が浮かばれないって、そう考えてるのかも知れないわ。」



その結果が、最年少執務官か。
あの生真面目で、少々融通の利かない性格もその辺が影響してるのかも知れねぇな。――だが、アンタの話を聞いて、闇の書ってのが俺等が思っ
てた以上にヤバいモンだってのが良く分かったぜ。
あの騎士達の力に加えて、異界を操る力だけでもトンでもねぇのに、暴走したら世界をぶっ壊しちまうなんて幾ら何でもぶっ飛び過ぎてるからな。



「だから……ゴメンナサイ、なのはさん、フェイトさん、皆さん。
 私、お休み返上して現場に復帰しちゃってもいいかしら?」

「えっと……其れは構わないんですけど……私達も!」

「僕達もてつだうよリンディてーとく。てか、そんなヤバいのを放っておくことなんてできないじゃん!
 闇の書のもちぬしってのがだれかは知らないけど、闇の書だけはぜったいにぶっ壊す!!じゃまするブシドー達はぶった切る!ブッ飛ばす!!」

「俺達も手伝うぜリンディさん!異界が関わってる以上、X.R.Cとして見過ごす事は出来ねぇからな。」

「ネメシスの執行者としても、此れは見過ごす事が出来る事態ではありませんから。」

「人々に厄災を齎す存在を、放っておく事など出来ません!郁島流空手後継者・郁島空、義によって助太刀させていただきます!!」

「真面目だなぁ空は?……でもまぁ、始めたゲームを途中で止めるってのは趣味じゃないから、僕もやらせて貰うよ。
 ゲームを始めた以上は、ラスボス倒してエンディングを迎えないと、如何にも気分が落ち着かないからね。」

「ゾディアックの白の巫女として、力を尽くさせていただきますよ。」

「ヤバそうなのが相手みたいだけど、だからって逃げるなんて言う選択肢は最初からないでしょ?
 アイドルの力、そしてアタシ達X.R.Cの底力、見せてあげるわ!!」



んでもって、そう言う事だから、俺達も関わらせて貰うぜ?
と言うか、俺となのはとフェイトは連中と最初にやり合って、柊と玖我山は連中が展開した異界に捕らわれちまって、もう確り関わっちまってんだ。
こんだけ関わっておいて、今更無視を決め込む事なんざ出来ねぇよ。



「ん~~~~……それじゃあ、皆でお願いしてみましょうか?」

「「「「「「「「「「賛成!!」」」」」」」」」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



『……分かりました。
 ではリンディ提督は明日から現場に復帰、なのはと志緒達は『嘱託』と言う形で協力してもらう事になる――それで構わないか?』




充分だぜクロノ。
てか、無理言ったのはこっちなんだから、寧ろこっちが釣りを払わなきゃならねぇくらいの事だぜ此れは……だが、だからこそ最高じゃねぇか!!!

俺達の扱いはあくまでも『嘱託』だから、管理局の通常の指揮系統には組み込まれてねぇんだからな。――トコトンまでやってやろうぜお前等!!



「「「「「「「「おーーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」



騎士達と、異界を操る力の他にドンだけの力を持ってるかは知らねぇが、そんなモンは全部退けて、闇の書を如何にかしてやんぜ!!
これだけの面子が揃ってるなら、出来ねぇ事なんて無いだろうからな。








――――――








Side:クロノ


ふぅ……母さんが襲われた事で、母さんが現場復帰する事は予想していたけれど、まさかなのはと志緒達までも関わって来るとはな。
いや、なのは達の性格を考えれば当然か――なのはも志緒も、そしてその仲間達も『目の前で起こった事を見て見ぬ振りは出来ない』人達だから
な――まぁ、戦力が増えるのは此方としても有り難いからな。

特になのはと志緒に関しては『お前本当に人間か』と言いたくなるレベルだしね。
魔法と出会って僅か半年でSランクに迫るまでに成長したなのはと、魔力レベルは最低クラスであるにも関わらず魔導師ランクはSランクの志緒を見
ていると、常識って言うのは何なのかと聞きたくなってくる。
尤も、それだけに味方であるならば頼もしいのだけれどな。

さて、其れは兎も角、何か分かったかユーノ?



『うん。先ず『闇の書』って言うのは、正式な名前じゃない。
 正しくは『夜天の魔導書』で、元々は持ち主と共に、色んな世界を旅してあらゆる世界の技術やらな何やらを記録する物だったんだけど、何代目
 かの主が、書を改造した事で壊れてしまったらしい。』


「と言うと?」

『最大の原因は、後付けの防衛プログラム『ナハトヴァール』。この存在が、書を狂わせた元凶だ。
 中でも一番大きなバグは、主に対する性質の変化だ。一定期間魔力の蒐集が無いと主本体から魔力を収集し、だからと言って他から魔力を蒐
 集して書を完成させたら書は暴走して破壊行為を行う――蒐集された魔力と、主の命が燃え尽きるまでね。』




矢張り、か……!
僕自身、闇の書は最初からこんな物ではなかったのじゃないかと思ってはいたけれど、それが現実のものだったとはな……マッタクやりきれない。

それでユーノ、其れを止める手段は?



『今は未だ分からないから、これから調べてみるよ。
 っと、そうだ……もう一つ気になる事があったんだ。』

「気になる事?」

『うん。
 ナハトヴァールが搭載された以降の話なんだけど、ある時を境に、闇の書が暴走直後には世界を滅びに導いていない事が分かったんだ。
 ――その時期と重なるようにして、守護騎士達が『グリード』を召喚していた事も。』


「!!?」

な、なんだって?
異界を操る力があるとは聞いていたが、有る時からという事は、其れは元々闇の書に搭載されていた機能ではなかったと、そう言う事かユーノ?



『その可能性は高いと思う。
 若しかしたら書を完成させる為の魔力蒐集の段階で、ジュエルシード事件の時に現れたグリムグリード級の怪異を蒐集してしまったのかもね。』




その可能性は、決して低くないだろうな。
相手は最強最悪のロストロギアだけではなく、グリムグリード級の力を持った怪異だという事か……悪いが、引き続き調査を頼むユーノ。



『了解。任せておいて。』



任せた。
――マッタク、闇の書だけでも面倒だと言うのに、更にはグリムグリード級の怪異の存在までか……だからこそ、見過ごす事は出来ないな。
闇の書……此れは絶対に何とかしないといけないモノだから――きっと父さんだって、そう思っているだろうからね。

だから僕は戦う!!
闇の書が存在して居る限り無限に繰り返されてしまう死の螺旋……其れを断ち切る!!僕一人なら無理かもしれないが、僕には頼れる仲間が居
るんだから、絶対に出来るさ!!

今度こそ終わらせるんだ――闇の書に関する事を全て!!








――――――








Side:???


結局、今回もこうなってしまうのだな。
私個人の事を言わせて貰うのならば、此度のこの小さき心優しい主を取り殺したくはないが……一度暴走が始まればそうは行かないのだろうな。
実際に、私は此れまでそうやって生きて来た――生きて来てしまったのだから。

今は未だ抑えている事が出来るが、ナハトが暴走したら又しても世界は取り返しのつかない事になるだろう。
其れ以前に、書が取り込んでしまった『あの力』が目覚めたら、誰にも止める事は出来ない。


結局のところ、主かどれだけ変わろうとも、私は変わる事が出来ない――あの日、壊されてしまってから何も変わらない……只奪っていくだけだ。
其れが私で、其れは一生変わらない。――だが、若しも其れを何とか出来たと言うのならば、其れはきっと本物の奇跡なのだろうな。

そして、願わくばその奇跡が起きてくれる事を。
もう、充分なんだ、誰かを殺すのも、何かを壊すのも、世界を滅ぼすのも全部、皆、全て。――これ以上はあんな事はしたくない。したくないんだ!


だから、誰か私を助けてくれ。
自分ではどうにもならないこの巨大すぎる力を如何にか抑え込んでくれ……其れが叶うのならば、私は他には何も望まない。――だから頼む。














500年以上、この身に纏わりついているこの破壊の連鎖の運命を断ち切ってくれ――私が私であるために、これ以上世界を壊さないために!!
どうか、お願いだ……この呪いから、私を解放してくれ――












 To Be Continued…