Side:洸


志緒先輩達を襲った相手と接触した結果、相手は何らかの事情で魔力を集めてて、そんでもって少なくともフェイズ1の異界を顕現させる位の力を持
った相手だったと……うん、可也貴重な情報だな此れは。
確かに貴重な情報だが――

「何で援軍呼ばねぇんだよ!!フェイズ1の状態でも異界は危険なんだろ!?
 無理はしないで、援軍を呼べって言ったのは、確かお前だったと思うんだけど、その辺如何なんだよ明日香!?」

「確かに言ったけれど今回の異界は、私と璃音さんなら無理をしないで攻略出来る物だったから、彼方達に援軍の要請をしなかっただけよ時坂君。」

「そうそう、メッチャ楽な異界だったから、アタシと明日香で楽勝だったんだよ洸君♪
 Nierのバトル情報を確認して貰えば分かると思うんだけど、アタシと明日香が攻略した異界のクリア評価は、最高の2900ポイントな筈だからね。」



……ってマジか!?
確認したら、ファストタイムボーナス、ノーダメージボーナス、MAXコンボボーナスが入って、評価は璃音の予想通り最高得点の2900ポイント!!!
文句なしのSランクかよ!
明日香はネメシスの執行者だから兎も角として、璃音が此処まで出来るとは思ってなかったぜ……アイドルってのも、存外馬鹿に出来ねぇな。

何にしても、志緒先輩達を襲った相手は一筋縄じゃ行かない相手なんだろうな。
戦闘能力が高いだけなら、チームワークで幾らでも対処できるが、異界のゲートを顕現する力があるって言うなら話は別だ――アレに取り込まれた
ら、面倒な事になっちまうからな。

何にしても、今回の相手は一筋縄で行く相手じゃねぇのは確実だ。
だが、だからと言って俺達だってこうなった以上は黙ってられないぜ――何よりも、X.R.Cとして、異界の存在を見逃す訳には行かねぇからな!!











リリカルなのは×東亰ザナドゥ  不屈の心と魂の焔 BLAZE47
『志緒・なのは・フェイト完全復活!』










Side:志緒



ったく、俺はもう平気だって言ってんのに、検査やら何やらで随分と入院させられちまったな……ったく退屈で仕方なかったぜ。
それ以上に、復帰したら休んじまった分だけ翠屋で頑張らねぇとな。

ま、若しも何かがあった場合には、全部管理局の責任になっちまうから、其れを回避する為の処置だったんだろうけどな。
とは言え、入院中の運動は制限されてないから、腕立てやら腹筋やらを毎日100回以上熟してやったから、入院前より衰えてる事はない筈だぜ。

そんな訳で、無事退院した訳だが、なのはとフェイトがデバイス取りに来るってんで管理局で待機中だ。今日も今日とて、飯が美味いな。
っと、追加で特盛の牛丼を持って来てくれ。それから青椒肉絲と、鶏のから揚げも追加で持って来てくれや。此れでパワーも満タンになりそうだぜ。



「此れは此れは……話には聞いていたが、実際に見ると実に凄まじい物があるね?」

「ん?」

俺が使ってるテーブルの正面には、何時の間にか白髪で白髭の爺さんと、猫耳と尻尾生やした女が2人……悪いな、食うのに夢中になってて気付
かなかったぜ爺さん。
俺に何か用か?



「うむ……先ずは自己紹介をしておこう。
 私の名はギル・グレアム。管理局の提督の1人だ。そして、後ろの2人は猫をベースにした私の使い魔であり娘でもあるアリアとロッテだ――2人と
 も、挨拶を。」

「リーゼアリアよ。アリアって呼んでくれるかしら?」

「リーゼロッテだ。アタシもロッテで良い。」



ご丁寧にどうも。高幡志緒だ。俺の事も『志緒』で良い。そっちの方が呼ばれ慣れてるからな。
そんで?『提督』って事は、アンタは可成りのお偉いさんなんだろうが、そのお偉いさんが俺なんぞに何の用だ?『提督』が、態々現れたって事は、よ
ほど重要な『何か』があったとしか思えねぇんだが……



「ふむ……リンディ君から話は聞いていたが、頭の方も中々にキレるようだね志緒君。
 君の言う通り、我々は只の慰安で此処に来た訳ではない――君が、闇の書の守護騎士と一戦交えたと聞いて、此処に来た次第なのだよ。」

「闇の書の守護騎士……」

この間のアイツ等か。
確かに連中とは戦ったぜ?……まぁ、結果はこの通り、負けて入院する羽目になっちまった訳だけどな?……だが、アイツの強さは相当だったぜ。
俺が大怪我を被らなくても、長引けば流石にキツイ事になっていたかも知れねぇって感じだったからな。



「負けるとは思わなかったのかね?」

「負ける?冗談じゃねぇ、何処に最初から『負ける』と思って戦う奴が居るんだ爺さん?
 確かに連中の強さは並の魔導師とは比べ物にならねぇだろうが、こっちはダチが2人もやられたんだ……その落とし前を付けさせるのに、負ける気
 で行く筈がねぇだろうが。
 いや、それ以前に、物心ついてから今まで、他の一度も『負ける』かもなんて事を考えて戦い挑んだ事なんざねぇ。そんだけだ。」

まぁ、今回は血が足りなくなって負けちまったがな。
だが其れよりも、俺が驚いたのは、その守護騎士とやらが異界を顕現する力を持ってたって事だ。俺の仲間から聞いた事なんだけどよ。



「そ、それは真かね志緒君?」

「連中と接触した俺の仲間が、実際に体験したんだから間違いないぜ爺さん。
 フェイズ1の状態だったが、異界とのゲートを己の意思で開いたらしい……マッタク持って、トンでもない力を持った連中が現れてくれたもんだぜ。
 って、如何した爺さん?」

「いや……よもやそれまでの力を持っていたとは驚きだったのだよ。
 闇の書は、第一級の封印指定を受けているロストロギア…相当な危険物であるとは認識していたのだが、まさか異界まで操るとは思わなくてね。
 時に志緒君、話は変わるが一つ聞いても良いかな?」



何だ、藪から棒に?



「いや、ちょっとした選択に関する話だよ。
 例えばの話として聞いてほしいのだが、無自覚に世界を破壊するだけの力を持った人が居たとする。其の力は制御出来ず、暴走すれば世界を滅
 ぼしかねない程のモノだ。
 しかし、其の力を制御する術はなく、暴走させないためには、其の力を持ち主ごと殺さずに永久に凍り付かせるしかない。世界を滅びから救う手段
 は他には存在しない。
 100を助ける為に、1を斬り捨てる選択を迫られた時、君ならどうするかね?」



そいつはまた、何とも難しい選択だな?
だが、俺の答えは只一つだ。ガキっぽいと思われる事は100も承知だが、俺はどっちも選ばねぇ。救うべき100人も、その為に犠牲になる1人も、何
方も選ばねぇで、どっちも生き残る道を探すんだろうなきっと。

いや、俺だけじゃねぇ。
なのはも、時坂も――俺の仲間達なら、全員がきっと同じ事を言う筈だ。
特に時坂は、多くの為に1を犠牲にする辛さを誰よりも知ってるし、俺も助ける為に誰かが犠牲になっちまった時の悲しさと虚しさを知ってるから、誰
も犠牲にならない選択をするだろうぜ。

そもそも爺さん、100を救うために1を斬り捨てるって考えが間違ってるとは思わねぇか?
斬り捨てる1が、仮にドンだけの極悪人だったとしても、ソイツにだって家族や仲間がいるかも知れねぇだろ?そしたら、ソイツを斬り捨てちまったら、
残された物には悲しみが残り、ソイツを斬り捨てる判断をした奴への憎悪が募るだけだ。
一見天涯孤独に見える奴の場合でも同じだ――人の縁ってのは、何時何処で、誰と繋がってるか分からねぇんだからよ。
1を斬り捨てる判断をする前に、全てを助ける手段を見つける。其れが俺の答えだぜ爺さん。アンタの望む答じゃなかったかも知れないがな。



「いや、充分だよ志緒君。
 実を言うと、君の事はリンディ君から聞いていてね?……半年前のジュエルシード事件に際に、活躍したと聞いて一度会ってみたくなったのだよ。
 何よりも、魔力ランクはCであるにも拘らず、総合能力で魔導師ランクがSになるだけの人物がどれ程がこの目で見ておきたかったのでね。
 だが、君に会ってよかったよ。――私の中での葛藤に、決着をつける事が出来そうだからね。」



何だか良く分からねぇが、何か役に立つ事が出来たってんなら良かったぜ。
アンタも色々あるんだろうが、まぁ気張らずにやった方が良いと思うぜ爺さん?アンタにとっては、若造の粋がった一言かも知れねぇが、根を詰め過
ぎて何かをやってもいい結果は生まれねぇからよ。



「君の言う通りだな。
 いや、有意義な時間を過ごさせて貰ったよ志緒君。お礼と言っては何だが、君の食事代は私が払おう。」

「良いのか?」

「提督と言う地位に居ると、それなりに羽振りも良いのだが、使う機会が無いモノなんだよ。遠慮せずに、払わせて貰えるかな?」



ならその好意に甘えるとするぜ。――そんじゃあ、追加で餃子3人前追加な。



「「まだ食うのか!?」」

「まだエネルギーが全快してねぇからな?足りない分は食って補う。其れだけだぜ。」

「「其れ、色々間違ってる!!」」



かも知れないが、俺には一番の方法なんでな。
そう言えば、俺を診察した奴が『いくら応急処置がされてたとは言え、アレだけの怪我がこんな短期間で治るなんて有り得ない』って言って気もする
が、治っちまったモンはしょうがねぇだろ。
其れも此れも、補給の為に喰いまくったおかげだろうけどな。



「「お前本当に人間か!?」



さて、如何だろうな?








――――――








Side:グレアム


高幡志緒……リンディ君が『凄い人』と称していたから、実際にこの目で見てみようと、彼の元を訪れた訳だが、成程彼は確かに『凄い人』だな。
私の問いに対する答えは、確かに子供っぽい物と断する事が出来るモノだったが、彼は本気で其れを出来ると思っていた――否、思っているので
はなく、彼ならば成し遂げてしまうだろう――全てを救うと言う事を。

ならば私も、彼に賭けてみるべきなのかもしれないな。
此度の闇書の主であるあの少女――八神はやては、幼くして両親を喪って天涯孤独と思っていたが、志緒君の言葉通りであるならば、彼女が私の
預かり知らぬ所で、誰かと深い縁を結んでいる可能性は0ではない。
そうであった場合、嘗て己が味わった悲しみを他の誰かに与える事になりかねないな、私の今の計画では……其れでは本末転倒だよマッタク。

奪われる悲しさを知っている我々が、奪う側に回ってはいけない……そんな事になったら、其れこそクライド君に申し訳が立たないだろうからね。

「ロッテ、アリア、計画を変更する。闇の書の切り札として開発した『デュランダル』は、リンディ君に送っておいてくれ。
 そして、此れから2人は可能な限り志緒君達のサポートを務めてほしい――彼ならば、本当の意味で闇の書を如何にかしてしまうだろうからね。」

「了解しましたお父様。」

「アリア切り替え早!!……アタシとしては、闇の書はぶっ壊したいんだけど……お父様がそう言うなら従うよ――凄く不本意なんだけど。」

「ロッテ、口が過ぎるわよ?」

「~~……ゴメン、アリア。」



いや、気にしないでくれ、そう思うのが普通なのだからね。
だが、僅かでも誰も犠牲にしないで済む可能性があるのならば、私はそれに賭けてみたいのだよ――それに、それが巧く行かなかったその時には
『永久凍結』と言う最終手段も残されている訳だからね。

上層部の石頭共は私が何とか押さえつけるから、2人は彼等のサポートを頼む。
誰も犠牲にせずに闇の書を処理する――限りなく低い可能性の成功に、賭けてみようじゃないか。クライド君なら、きっとこの選択をしただろうしね。
只1人の犠牲も出さずに、闇の書を処理する……前代未聞の試みだろうが、老体に鞭打ってでもやり遂げる価値はあるだろう。

ふふ、高幡志緒……不思議な青年だ。
彼の言う事には根拠も何もないが、不思議とそうだと思えてしまう力がある――きっと、これからの時代は、彼のような若者が引っ張って行くべきな
のだろうね。

ならば私は、去りゆく老兵として、せめてもの事をしなければならないだろうね――永き時紡がれてきた呪いを、此処で断ち切るその為にもね。








――――――








Side:なのは


さてと、レイジングハート達が治って、志緒さんも退院って言う事で管理局に来たんですけど……大丈夫ですかマリーさん?なんか、疲れてるみたい
ですけど、ちゃんと寝てますか?



「あはは、大丈夫大丈夫……何とか期限に間に合ってよかったよ。
 其れよりもなのはちゃん達は大丈夫なの?」

「はい、もうバッチリです!!!」

「まりょくりょーも、前より増えてるって言ってた!」

「俺の方も、リンカーコアってのは完全に治ってるし、身体の方も前よりも強くなってるって事だったからな。」

「若さだねぇ……志緒さんの場合はそれだけじゃないかもだけど。
 んん、其れは其れとして、なのはちゃんとフェイトちゃんの相棒は、2人の意見も聞いて可能な限り強化もしておいたから――細かい変更点につい
 ては、本人達から聞いた方が方が良いかな。」



ですね。ってアレ、レイジングハート、形が……



『It's after a long time, master.Did it probably become fashionable?(お久しぶりですマスター。お洒落になったでしょう?)』

「うん、可愛い♪」

「ばるでぃっしゅも!」

『Yes sir.』


「デバイスがパワーアップしたってか……其れは良いんだが、なんだって時坂達まで此処に居やがるんだ?翠屋での勤務は如何したぁ!!!」

「いや、俺等も呼び出されたんだよ志緒先輩。『渡しておきたいものがある』って言う事でさ。」



うん、確かにコウさん達が何で居るのかは気になったんですけど……渡しておきたいモノって何なんですかマリーさん。
態々呼び出したって言う事は、相当重要なモノなんですよね?



「うん。
 入院中の志緒さんのサイフォンを解析させて貰って、ソウルデバイスの特性を調べさせて貰って、ソウルデバイス起動時に自動でバリアジャケット
 を展開するアプリを開発したんだ。
 其れを皆のサイフォンに転送しておいた方が良いと思ったから、皆に来てもらったんんだ。」

「バリアジャケット……そいつは助かるぜマリー。
 防護服があれば、この前みたいなダメージを受けることも少なくなるだろうからな……身を護る鎧って言うのは必要だって教えられたからな、この
 前の一件で。
 バリアジャケットが展開できるってんなら、今度はこの前みたいにはいかねぇぜ!!!」



バリアジャケット――!!確かに其れは、有った方が良いですね。
尤も、志緒さんがバリアジャケットを装備したら、鬼に金棒の如く、全世界の何処を探しても勝てる人が居ない気がするんだけどね?……下手したら
この間の人達だって、勝てるかどうか分からないからね。

でも、此れなら今度はきっと大丈夫だね!!



『フェイト、ちょっといい?』

「ん?どったのあるふ?」



ん?アルフさんからの通信?何かあったんですかアルフさん?



『今日ね、リンディ提督と待ち合わせしてたんだけど、何時まで待っても現れなくて、おまけに連絡も取れないんだ……フェイト、何か聞いてない?』

「聞いてないよ何も、聞いてないけど……此れは若しかして――!!」



考えるまでもなく、リンディさんの身に何かあったよね?
マリーさん、スミマセンが直ぐにリンディさんの魔力を探って下さい!!可能な限り、急いでください!!出来るなら、光以上の速さで!!!



「了解!!5分で……否、2分以内にリンディ提督の居場所を突き止めるからちょっと待ってて!!」

「お願いします!!」

まさかとは思うけど……あの人達は、今度はリンディさんに照準を合わせたとでも言うの!?……だとしたら、絶対に見過ごす事は出来ないの!!
もしそうだとしても、リンディさんの魔力は絶対に奪わせない!!

だって、リンディさんに何かあったらクロノ君が悲しむし、私達が嫌だから!!――だから、絶対にリンディさんの魔力は奪わせないの!!!








――――――








No Side


同じころ、海鳴の一画には闇の書の守護騎士であるシャマルが展開した結界が現れていた。
魔力を持たない者では認識できず、魔力を持つ者でも内部に入り込む事が困難な結界の中で、守護騎士の将であるシグナムは、眼前のビルの前
で黄昏ていた。

何かを考えてたのだろうが……


「あぁ、貴女が彼女達のリーダーよね?」

「!?」

「少しお話し、宜しいかしら?」

「話?」


突如現れた、菱井色の髪の女性――リンディの登場に少しばかり虚を突かれる形になった。まして、話を良いかと言う姿勢が、余計にシグナムを混
乱させたのだろう……戦場で相見えたその時は、戦うだけだと思っていたのだから。


「闇の書のプログラム……自らの意思と実態を持った守護騎士『ヴォルケンリッター』。
 貴女達は、一体何を目的として闇の書の完成を目指しているのかししら?それを、是非とも教えてほしい物なのだけれど、駄目かしら?」


しかし、対峙したリンディは、口調こそ穏やかだが、放たれた言葉には凄まじいまでの重みが内包されている。
それこそ、一般人ならばこの重みだけで失神してしまうかも知れないのだ――がしかし、相手は闇の書の守護騎士の将であるが故に、この程度で
は気圧されはしない。


「貴女と闇の書にどんな関係が有るのかは知らないが、我等には我等の目的がある。故に、貴女に話す事もない。」

「……私が、11年前に闇の書のせいで家族を失った人間だとしても?」

「なに……?」


あくまでも、冷静に返すシグナムだったが、リンディからの予想外の一言にはその身体が固まってしまった。
理由は言うまでもない――目の前にいるリンディは、11年前に闇の書に家族を殺されたのだと、そう言っているのだから。

方や家族の無念を果たそうとする、翡翠髪の女性と、それに対するは濃い桜色の髪を、三つ編みで編み込んでポニーテールに纏めた女騎士だ。


その両者の睨み合いは、中空で見えない火花を散らしているかのようだった。











 To Be Continued…