Side:???


主を救うためならば、騎士の誇りすら捨てる覚悟で魔力蒐集を行っていたのだが……まさか、これ程までの相手に出会う事になるとは完全に予想外
の事だったな。
或は、主の名に反したことをしている我等への罰か……其れは確かめようもないだろう。

だが――



「俺のダチに手を出しやがって……覚悟はできてんだろうなぁテメェ等!!」



目の前のコイツの実力は本物だ――下手をしたら、戦乱期のベルカであっても生き残る事が出来るかも知れないからな?……コイツは、正に最強
の相手であることは間違いないみたいだから、気を抜く事は出来ん……連戦になって悪いが、力を貸してもらうぞヴィータ?」



「言われるまでもねぇ……誰が相手だろうとも、アタシ達が負ける事は有り得ねぇだろシグナム!!アイゼン!!」

『Jawohl.(了解。)』



「フン……ガキと女に手を上げるのは厳禁だが、この状況下ではそうも言ってられねぇんでな……テメェ等の事、纏めて叩きのめしてやんぜ!!」

「――上等だ!!」

我等も退く事は出来んのでな――貴様の魔力も貰い受ける!!



「やれるもんなら、やってみな……普段の俺ならいざ知らず、今の俺は相当に頭に来てるから簡単に魔力は与えるような事はしねぇ……寧ろ、テメェ
 等がやった事の現実を教えてやるから、覚悟しろ!!」

「ならば、是非とも教えてもらおうか!!」

とは言っても、先程のように簡単にはいかんだろうが、私も騎士として負ける事は出来んのでな――本気で行かせて貰うぞ!!!












リリカルなのは×東亰ザナドゥ  不屈の心と魂の焔 BLAZE44
『Soul to Burn!!』










No Side



警戒をしながら、女騎士――シグナムと鉄槌の少女――ヴィータは、目の前の志緒を見て、改めて目の前の大男は間違いなく『虎』だと思っていた。
だからこそ分かってしまった、志緒の実力がどれ程の物なのかと言う事も。



「行くぜ……オラァァァァ!!!」



――轟!!



「「!!!!」」


そして、志緒が(無意識のうちに)闘気を爆発させたのを見て、女騎士と鉄槌の騎士は思わずつばを飲み込み、そして無意識のうちに半歩だけ後ろ
に下がった。
其れは志緒の闘気に気圧されたという事なのだが――シグナムは、自分が半歩だけとはいえ、退いた事に驚いていた。

シグナムは、自分が数多の戦場をかけてきた騎士だと言う事は理解しているし、並大抵の相手ならば簡単に倒す事が出来ると言う事も知っている。
そんな自分が、目の前の大男の闘気を受けて退いた……つまりは完全に相手の闘気に呑まれたと言う事に驚いていたのだ。


「舐めんじゃねぇ!!」

「舐めてる訳じゃねぇんだが……喧嘩売る相手位選びやがれ、チビガキ!!」



――ドガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!



「が!!……んな、やりやがったな!?」

「先に仕掛けてきたのは、テメェ等だろうが!」


ヴィータもまた、己が気圧された事に驚きはしたモノの、それを振り払うかのように突進!!
が、しかし、超一流の喧嘩屋でもある志緒からしたら、突進からの渾身の一撃は、最も対処しやすい攻撃に過ぎず、逆に突進を真正面から迎え撃つ
形で喧嘩キックを繰り出してのカウンターが炸裂!

パワーと頑丈さには自信のあるヴィータだが、その姿はなのはよりも幼い少女故に、志緒の本気の蹴りを受けては流石に吹き飛ばされてしまう。
だが、ヴィータは兎に角負けん気が強く、誰に対しても強気の態度を崩さない。だからこそ、自分を蹴り飛ばした志緒の事を、一気に気に入らない相
手として認識するのは当然だった。


「オォォラァァァ!!」

「ハァ!!」


再び突撃!今度はシグナムも一緒だ。
幾ら何でも、二方向から同時に攻められたら、双方をカウンターで吹き飛ばす事は出来ないと思ったのだろう――否、其れは実際に正しい。
異なる方向から、全く同じタイミングで攻撃された場合、普通ならば攻撃が直撃しないように2つの攻撃をガードするモノだ――あくまでも普通なら。


「オォォラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

「んな!?」

「何だと!?」



――バキィィィィィィィィィィ!!!!



生憎と志緒は普通ではない。
杜宮では、都下の不良チームの間で『戦力比1:5以上』と言われていた志緒は、チーム間同士の戦いが起こった場合、必然的に1人で複数を相手
にする事が多かった。
なので、多人数を1人で相手にする事には慣れており、2人程度なら如何と言う事はない……だから、突撃して来たシグナムの攻撃を左手に持った
ヴォーパルウェポンで受け、残った右腕で、ヴィータに破壊力抜群の右ストレートをカウンターで叩き込んだのだ。

志緒のパワーは、適格者として覚醒する前から、恐竜サイズのエルダーグリードを、ダメージは与えられないまでもグラつかせるだけのモノがある。
その志緒の攻撃を2度もカウンターで喰らったらどうなるか?……考えるまでもない、この一撃でヴィータは完全に気絶し戦闘不能になったのだ。
如何に、戦場を経験してるとは言え、騎士と不良では戦い方が異なる。騎士が己の戦い方に拘るのに対して、不良は素手が基本とは言え、ぶっちゃ
けて言うならば『何でもあり』であり、肉を切らせて骨を断つ事だって厭わないのだ。
その差が、形振り構わない不良の喧嘩殺法がヴィータを沈黙させたという訳なのである。


同時に其れは、シグナムに動揺を与える結果にもなった。
仲間としてともに戦場を駆けて来たからこそ、シグナムはヴィータの実力をよく知っているし、記憶を探ってみても、ヴィータと互角に戦った者は居たが
、ヴィータを倒した相手などいなかったのだから。
そこから導き出される答えは、志緒は此れまで自分達が戦って来た誰よりも強いという事実だ。


「次はテメェの番だ……往生しやがれ!!」

「く!!!」


ヴィータを倒した志緒は、其処からシグナム1人に神経を向け、攻撃を防いだヴォーパルウェポンを力任せに薙ぎ払ってシグナムを吹き飛ばす。
そしてそのまま、得物を右手に持ち替えて力任せの斬撃を一閃!!


「ぐ……!!」


とは言え、其処は歴戦の騎士であるシグナム。
志緒の攻撃が到達する前に体勢を立て直してその攻撃を手にしたデバイス――レヴァンティンでガードするが、その凄まじいパワーを殺す事は出来
ずに、又しても吹き飛ばされてしまう。


「(何だ、コイツの剣は!?
  決して、剣術者として鍛えられた剣ではない……只力任せに、馬鹿でかい剣を振るっているに過ぎんのに、何故私がそんな剣に後れを取る?)」

「ドラァァァァァァァァァァァァ!!」

「(違う……コイツは、技がどうのこうのと言うレベルでは無く、只単純に強いのだ。
  ベルカの戦乱期にも力自慢の奴とは戦った事があるが、その全てが腕力に物を言わせた二流に過ぎなかった……だがコイツは違う!!
  コイツは、理屈も何もが通用しない位に、純粋なまでに強い。ただ只管に強い。まるで、強さが其のまま形になったかのような存在なのだ!!)」



其れからも続く志緒の猛攻を、何とか捌きながら、シグナムは目の前の相手がとんでもない相手であると言う事を、改めて思い知っていた。
只の力自慢ならば、ハッキリ言ってシグナムの敵ではない――例えパワーで劣ろうとも、シグナムは攻守速の全てが95点と言う高い水準で纏めら
れて居るため、総合力で上回る事が出来るからだ。

しかし、志緒のパワーはそうでは無い。
シグナムの総合力を持ってしても、志緒のパワーを上回る事が出来ない――それ程までに、志緒のパワーは純粋な強さを内包していたのである。


「(しかも、コイツは……打ち合う度に、攻撃の威力が増しているだと?……どんな手品か知らないが、厄介極まりないな此れは。)」


加えて、この戦いには、ソウルデバイスの機能も大きな役目を果たしていた。
シグナムが感じていた、攻撃の威力の増大は、志緒の力ではなく、ソウルデバイスが備えている能力である『ブーストコンボ』の力だ。
此れは、ソウルデバイスに標準装備されている能力で、攻撃する度に、相手に与えるダメージが――引いては己の攻撃力が上がると言うモノだ。
本来は、数で圧倒的に勝るグリードを効率よく倒す為に考え出された技術だったのだが、元々パワーでは志緒に劣るシグナムからしたら、有り難くな
い事この上ないモノだろう。

此のまま攻撃防御していたのならば、何れはレヴァンティンも砕かれてしまうのだから。


「(此処は一か八かだ!!)」


最早、正攻法で志緒を倒す事は出来ないと感じたのか、シグナムは此処で一計を案じた。



「オォラァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


其れは、相討ち覚悟の捨て身のカウンター!
志緒の袈裟斬りに対して、シグナムは逆袈裟斬りを繰り出して迎え撃つ!!――そしてその結果は……



――ズバァァァァァァァァァァァ!!!



刹那の差で、シグナムの剣が志緒を一閃した。
尤も、其の後手でシグナムも志緒の一撃を受けて地面とキスする結果となったのだが、この一太刀を入れたのは大きいだろう――だがしかし………


「やってくれるじゃねぇかテメェ……今のは流石に効いたぜ……?」

「なんだと……!?」


其のカウンターを喰らった志緒の胸元は大きく斬り裂かれ、其処からは夥しい量の鮮血が流れ出していた。
当然シグナムは困惑する。自分達は非殺傷設定で戦っていたのだから、相手を傷つける事は無いと、そう思っていたのだから……だが、現実に志
緒は血塗れ――そこから導き出される答えは一つだけだった。


「貴様……其れは防護服ではないのか!?」

「防護服だと?……生憎と、俺はそんな上等なモンは持ってねぇ……武器は持ってるが防具はねぇって所だな。」

「何だと……!!!」

「まぁ、そんな事は如何でも良い…てか、この程度は怪我の内に入らねぇよ――余計な事を考える暇が有るなら、戦いに集中しやがれってんだ!」

「貴様、不死身か!!」

「さて、如何だろうな!!!」


志緒は防護服が無いと言う事だ。
其れはつまり、受けたダメージが其のまま100%肉体に伝わると言う事であり、だからこそ、志緒はシグナムの攻撃を受けて、大怪我を負ったのだ。


「オラァァァ!!イグニス……ブレイク!!!

「チィ……レヴァンティン!!」

『Jawohl.』


それでも、志緒は止まらない。
己が最も得意とする剛撃スキルの『イグニスブレイク』を発動し、シグナムを休みなく攻めたてる。
シグナムも其れを何とか防いではいるモノの、圧倒的に強い、純粋なパワーを相手にしているのであれば、これ以上の不利は有り得ないだろう。


だがしかし、この戦いは唐突な終わりを迎える事となる。


「え?」

「な?」


圧倒的なパワーにものを言わせてシグナムを攻め立てていた志緒が、行き成り膝を着いて座り込んでしまったのだ。
一体何事かと思うだろうが……答は至って単純明快――早い話が、あまりにも派手に出血して、其処から碌な処置を行わなかった志緒は、血液不
足に陥って、動く事が出来なくなったのだ。

だが、其れは騎士達にとっての好機ほかならない。


「如何に強くとも、やはり人間ではあったか…許せなどと言う気はないが、此れも我等の主の為……恨んでくれて構わんが、其の力、貰い受ける!」


だから、シグナムはそれに乗った。
普段ならば、騎士であることを考えて、こんな事はしないが、今回は事が事だけに、シグナムとしても苦い決断をせざるを得なかったのだろう。



――キュゴォォォォォォォォォォォォォ……



「が!!……ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」


動けなくなった志緒から、容赦なく魔力を蒐集し、手にした魔導書のページを埋めていく。
そして、以下に志緒とは言え、血が足りなくなった状態で、更にリンカーコアの魔力を一滴残らず吸い出されたとあっては堪らない……重ね掛けされ
たダメージの前に、ついに志緒はダウン!!


「防護服がない事に救われたが…もしも防護服があったのならば、負けていたのは私の方だったか――否、試合には勝ったが勝負には負けたか。
 私は終始圧倒されていたのだからな。
 ……今は未だ止まる事は出来んが、主はやてを救う事が出来たその時は、如何なる罰でも受けよう――その時は、貴様の剛力で叩き伏せてくれ
 構わん……私達は、そうされるだけの事をしたのだからな。」


志緒の魔力を蒐集したシグナムは、ヴィータを回収すると、其れだけを言い残しその場から去っって言った……








――――――








Side:洸


クソ!何だって気付く事が出来なかったんだ、こんな近くで結界が発生してた事に!!
――いや、璃音ですらついさっき感知した位だから、俺が気付けないのはしょうがない事なのかもしれないけど、高町家を中心に発生したって事は、
志緒先輩となのはちゃんが巻き込まれたって事だ!
あの2人がそう簡単にやられるとは思わないが、どうにも嫌な予感がするぜ。



「洸君?」

「アンタは……リンディさんか!」

確認するまでもねぇけど、リンディさんも結界を感知してここに来たんすよね?



「えぇ……それと、アルフの散歩に出かけたフェイトの魔力が行き成り消えたから、気になってね……」

「って、フェイトちゃんも居るのかよ!!」

まぁ、あの子だったら居てもおかしくないけどな………にしても、何処に――って、居た!!!
ベンチに3人が、志緒先輩となのはちゃんとフェイトちゃんが!……何だよ、寝てるのか3人とも?



「寝てる……違うわ、此れは気を失ってる。
 3人とも無傷に見えるけれど、此れは一度それなりのダメージを受けて、其の後で治療が施されたと見るべきだわ――特に志緒君の場合は、死に
 直結するような、危険なダメージを受けたみたいだしね。」

「んな、マジっすかリンディさん!?」

なのはちゃんとフェイトちゃんは未だ分かるとして、人類史上最強と言っても過言じゃない志緒先輩が瀕死レベルのダメージを受けたって、マジかよ。
だとしたら、この3人を襲った相手は一体何者なんだ?

X.R.Cの部長として、色んな事件に係わって来たが……如何やら、今回の、此の3人を襲った襲撃事件は、一筋縄じゃ行かないみたいだぜ――!












 To Be Continued…