No Side


時は半年ほど巻き戻り、ジュエルシード事件が解決して1週間ほど経った6月3日。
その日、車椅子の少女は、何時ものように日中を図書館で過ごし、図書館が閉館した後は、商店街で簡単な買い物を済ませてから帰宅の路に付い
ていた。鎖が巻きつけられた不可思議なハードカバーの本を膝の上に置いて。

その途中で、携帯に新規メールの着信が有ったので確認するが、其れは少女にとって予想していた物だった。

メールの差出人は、己の主治医たる女医で、少女の誕生日である明日に、一緒に食事でもどうかと言う内容だった。

正直な事を言えば、少女はこの女医の申し出は嬉しい物だった。
幼くして両親を亡くした少女は、此れまで誕生日を祝って貰う事などなかったのだから、其れを誰かに祝って貰えると言う事は純粋に嬉しい事だ。

だが同時に、親身になってくれてるとは言え、他人である女医に其処まで気を使わせるのは如何なのかと言う思考にも捕らわれてしまう。
子供らしくないかもしれないが、障害を抱えながら、幼い身一つで生きて来た少女は、精神的に同年代の子供よりも、成熟していたのである。


「はぁ……」


受けるべきか、断るべきか……携帯を見ながら、青になった横断歩道を渡り始めた所で其れは起こった。
1台のトラックが少女目掛けて突っ込んできたのだ。

運転手は居眠りしており、少女は車椅子ゆえ即座に回避行動をとることは不可能。

衝突を考えた少女は反射的に目を瞑る………が、衝撃は何時まで経っても襲ってこなかった。不自然な程に。
一体何事かと目を開けた少女は驚愕した。

車椅子は転がっているが…なんと眼下には海鳴の町並みが!それどころか自分が座っているのは三角形の不思議な魔法陣の上…

そしてそれ以上に驚くべき事は、自分が持っていた本が中空に浮いて脈打っている。まるで生きているかのように。


――ビキ…


その脈動は巻かれていた鎖に皹を入れ…


――バキン!


砕く。



『Ich entferne eine Versiegelung.……Anfang.(封印を解除します。……起動。)』


同時に、此れが新章の幕開けでもあったのだった。












リリカルなのは×東亰ザナドゥ  不屈の心と魂の焔 BLAZE42
『Start The Second A's!!』










Side:志緒



気が付きゃ、ジュエルシード事件から、もう半年になるのか……時が経つのは早いモンだぜ――翠屋の衣装も、冬仕様の長袖になったからな。
……まぁ、女子共の冬衣装には四宮が盛大に突っ込み入れた上で、郁島の衣装見て完全KOされた訳なんだが……まぁ、其れは予想してた事だ。

それよりも、今日は大事な日――フェイトの裁判が終わって、こっちに来る日だからな。
クロノ執務官とリニスさんが上手くやってくれたおかげで、フェイトとアルフは1年の保護観察で済んだって言う事みたいだから、其れは良かったぜ。

何よりも、なのはが嬉しそうだからな?



「其れは嬉しいですよ志緒さん!半年も待ってたんですから、フェイトちゃんとの再会は楽しみなんです!!」

「そりゃいい事じゃねぇか?そんだけ楽しみってのは、お前にとってフェイトは大切なダチって事だからな。
 まぁ、其れを言ったら俺もアイツ等との再会は、楽しみで仕方ねぇのは否定できねぇけどよ――俺にとっても、アイツ等はダチ公な訳だしな。」

「ですよね♪」



そう言うこった。
さて、待ち合わせ場所は、此の『海鳴臨海公園』だったが……居たな。



「フェイトちゃん!!」

「なのは!!なのはーーーー!!!」



――ドッゴーン!!!!



「げふぅ!?」



って、再会を喜んでの抱擁のシーンなんだろうが、何だってなのはが打っ飛ぶんだオイ!?てか、完全に目を回してるじゃねぇか!!



「フェイトちゃ~~ん、いたいれす~~~……」

「あり?なのは?おーい、なのは~~~?」

「フェイト、テメェドンだけの勢いでなのはに突進しやがったんだ?コイツが一撃で目を回しちまうなんてのは相当なモンだぜ?
 ……よし、同じ事を俺にやってみな?心配しなくても、俺はなのはの10倍は頑丈だから、目を回す事はねえからよ。」

「そうなの?それじゃあ……シオーーー!!!」



――ドガァァァァァァァァァァァァァン!!!



がっ……此れは、チビのクセにトンでもねぇパワーを秘めてるじゃねぇかオイ?俺だから耐えられたが、なのはが喰らったら目を回しちまう訳だぜ。
とは言え、此のままってのはアレだから、起きろなのは。


――ペチペチ


「あふ?……あれ、私は一体…?確かフェイトちゃんと再会した筈なんだけど……」

「ゴメン、なのは!嬉しくて、つい本気でとつげきしちゃった♪」



コイツ、絶対に悪かったとは思ってねぇな?
まぁ、嬉しさ余ってだから酌量の余地はあるし、何よりも心底悪気の欠片も無い満面の笑みで言われちゃ、怒る方がバカくさくなっちまうってもんだ。



「うぅん、私も嬉しかったから大丈夫だよフェイトちゃん。――改めて、久しぶりだねフェイトちゃん!」

「うん!ひさしぶりだね、なのは♪それと、シオと、コウと、ユウキと、アスカと、リオンと、ソラと、ミツキも!!」

「あぁ、久しいな。」

「元気そうで、安心したぜフェイトちゃん?」

「ま、なのはとの再会シーンはリテイク物だったかもだけどね。」

「無事にこっちに来られてよかったわ。」

「うんうん、元気なのは良い事だね♪」

「フェイトちゃん、郁島流習ってみませんか?」

「あらあら、其れは凄い事になりそうですね♪」



……何やら、一部突っ込み所のあるセリフが聞こえた気がしたが、お前さんがこっちに来られてよかったぜフェイト?尤も、その為にハラオウン親子
が、大分頑張ったのは想像に難くねぇがな。

で、裁判の結果は『保護観察』って事だったから、観察官としてリンディさんもこっちに来てる訳だ。

さてと、感動の再会は結構だが、なのはとフェイトはこの後学校があるからその準備をしねぇとな?
俺と時坂と郁島はフェイト達の引越しの手伝いで、北都と柊と玖我山と四宮は何時も通り翠屋で勤務だから、バッチリ気合い入れて行くぞお前等!



「はい!って、何で私はこっちなんでしょうか?」

「そりゃ祐騎よりも、空の方が引越しの手伝いとしては戦力になるからだろ?
 運動神経は兎も角として、パワーとスタミナは空の方が祐騎の5倍はあるだろうからな――杜宮学園の全校生徒合わせての握力と背筋力2位は
 伊達じゃねぇよ。」

「私そんなだったんですかぁ!?……因みに一位は?」

「志緒先輩に決まってんだろ?
 てか、握力、背筋力、ボール投げ……力がモノを言う種目に関しては、志緒先輩がぶっちぎりだからな?」

「あ、納得しました。」



そんなに凄い結果だったのか俺は?
まぁ、俺自身も自分の力がトンでもないレベルだってのは承知してるから、今更パワー系の種目でどんな結果が出ても驚かねぇけどよ。








――――――








Side:なのは


と言う訳で学校の朝のHR。
何時もなら簡単な連絡事項を伝えて終わりなんだけど、今日はそうじゃないの――何故なら!



「今日は、皆に新しいお友達が来ました。さ、入って来て。」

「いやっほー!!!」



――ガラーン!メシャァ!!



フェイトちゃんがこのクラスに転向して来るから!!
――って、思い切り開かれた引き戸が、その勢いのまま壁にぶつかって、跳ね返る事も出来ずにクラッシュしたの!!!この身で味わったからだけ
ど、本気でフェイトちゃんのパワーって言うのは同い年の女の子とは思えないの……



「あり?こわれちゃった……ま、いっか♪
 はじめましてー!僕は、フェイト・テスタロッサ!よろしくね、みんな!!!」

「此れは……見た目からは想像も出来ないパワーを持った、おバカ系僕っ娘キター!!!」

「おバカ系僕っ娘?馬鹿言ってんじゃないわ!あの子は『愛すべきアホの子』よ!そんな事も分からないの?マッタク、此れだから男子はダメね。」

「そんな事は如何でも良い!重要なのは、あの子が超絶美少女だと言う事だ!
 高町、月村、バニングスに続く4人目の超絶美少女……聖祥の美少女四天王の誕生だろ此れは!!」

「「「「「それだぁぁぁぁぁ!!!」」」」」



うん、それ以上にクラスの皆がフェイトちゃんを受け入れてみてくれたみたいだけど、なんかちょっとベクトルがおかしくないかなぁ?
って言うか海聖美少女四天王って何?ちょっと、思考が暴走してるみたいだから……少し頭冷やそうか?



『Divine Buster.』



――ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!




「「「「「なわらばぁぁぁ!?」」」」」

「取り敢えず静かにしたので、HRを進めて下さい先生。」

「……高町さん、今の桜色の光線は一体……」

「かめ○め波みたいなものです。
 高町の血筋は色々と人間辞めてるので、頑張ればこれくらいは出来るんです。お兄ちゃんとお父さんは、光の速さで動く事が出来ますからね?」

「其れなら仕方ないわね♪」



って、納得しちゃったの!……先生も大概だなぁと思うの。
でも、どんな形でアレ、フェイトちゃんはクラスの皆に受け入れて貰えた訳だから、きっと楽しい学校生活が送れるんじゃないかって思うよ?

「改めて宜しくね、フェイトちゃん♪」

「うん!」



なんだか、今まで以上に学校が楽しめそうな気がして来たの♪








――――――








Side:クロノ


「お待たせしたわね、2人とも。」

「いえ、僕もエイミィも今来たところですから、気にしないで下さいレティ提督。」

フェイトとアルフの裁判が終わり、保護観察の為に母さんと共に地球に向かったその日に、僕とエイミィは、母さんの友人であるレティ・ロウラン提督
からの呼び出し受けていた。

本来なら、レティ提督に僕達を呼び出す権限は無い(母さんの配下と、レティ提督の配下は異なるから)んだが、母さんとレティ提督は、局内でも同じ
派閥に属する同志だから、其処は暗黙の了解なんだろうな。

で、今日は如何言ったご用件でしょう、レティ提督?



「其れは……先ずは此れを見てくれるかしら?
 ここ最近頻発している、魔導師を狙った強盗事件の現場写真よ――被害者は、何れも管理局のA級以上の魔導師か、或はA級以上の判定を受け
 ている一般の魔導師なの。」

「一定以上の力量を持った魔導師を狙った強盗事件ですか?」

「そう。
 そしてこの事件の被害者は、全て同じものを盗まれているのよ――魔導師の力の源である『リンカー・コア』をね。」

「「!!!」」


リンカー・コアの強奪だなんて、其れはもう普通の強盗事件じゃない!
そもそも、魔力の源であるリンカー・コアを奪うなんて……それは、其れはまるで、忌まわしき『アノ』ロストロギアが過去に引き起こした『絶望』の前
触れその物じゃないか!!

いや、或は其れその物なのか此れは!?

また活動を始めたって言うのか……11年前に僕の父さんを奪った最強にして最恐で最凶で最悪のロストロギア『闇の書』が、今この時代で再び!

もしそうだとするならば、此れは只の強盗事件&魔導師襲撃事件では済まないだろうな……








――――――








Side:志緒


呼ばれて、教室に入る際に、引き戸を思い切り引き飛ばして、そんでもって壊しちまうとは、中々にショッキングな登場をしやがったなフェイトは?
だが、其れでクラスに馴染めたんなら良かったじゃねぇか?ちょっと違うかも知れねぇが、怪我の功名ってやつだぜ。



「フェイトちゃんがあの性格だから、クラスの皆も遠慮なく接する事が出来たのかもしれません。」

「愛すべきアホの子は、学校でも健在って事か……さて、行くぜなのは!!」

『ふっ!はぁ!テイヤァァ!!昇龍!!』


――キュピィィィン!


『真・昇龍拳!!』

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

『KO!Ryu Win!』

「あ~~~、負けちゃった~~!」

「ハッ、俺のリュウに勝とうなんてまだまだ早いぜ。」

んで、俺となのはは只今『STREET FIGHTERⅢ 3rd Impact』で対戦中。戦績は五分五分だが、俺がリュウを使った時には絶対に勝ってるな。


現在高町本家に居るのは、俺となのはと恭也さんと美由希だけで他は翠屋で働いてる真最中だ。
『今日は遅くなりそうだから』って事で、桃子さんが俺を先に上がらせてくれたんだが…要は、なのはの相手をしてくれって事だったんだろうな多分。
恭也さんと美由希は、剣の稽古に精を出してるから、なのはの相手をしてる暇はねぇからな……ま、子供の御守は慣れてるから良いけどよ。

さて如何するなのは?もう一戦行くか?



「もう一戦で!今度は私の持ちキャラの『ケン』で行かせて貰います!!」

「なら俺は、今度も『リュウ』で相手になってやるぜ?ライバル対決の方が燃えるからな。ライバル対決を始めようじゃねぇか――」



――キィィィン!!



と思ってたら、行き成り世界がセピア色に変わりやがった……何だこりゃあ?



『Master.』

「レイジングハート!……此れは、若しかして封鎖結界!?――なんで、こんな物が……」



封鎖結界だと?ジュエルシード事件の時に、外部に被害が出ないようにユーノが張ってた結界みたいなもんか?……だとしたら、フェイト級の力を持
ってる奴じゃなきゃ、外から入る事も、中から出る事も出来ねぇって事か。

恭也さんと美由希の気配は感じねぇから、完全に俺となのはを狙って来たって事か?……上等じゃねぇか、この野郎。

現実世界に被害を出さないように、封鎖結界を張った事は褒めてやるが、俺となのはを狙ったのは最悪の悪手だったって思い知らせてやるぜ!!
BLAZEにも、そしてX.R.Cにも退くって言う言葉はねぇ――何処の誰かは知らないが、迎え撃つぜなのは!!



「はい!」



何処のドイツかしらねぇが、俺達に戦いを挑んだ事を後悔させてやんぜ!!――精々覚悟を決めときな!!












 To Be Continued…