Side:志緒


いよいよラスボス戦か。



「愚カ者ガ、地に帰ると良いワ。」


――3S級グリムグリード:冥界の闇魔女



相手は、玖我山に宿ってた熾天使に匹敵するグリムグリードだ……元より負ける気はねぇが、此処が踏ん張りどころなのも事実だからな――気合を入
れろよお前等!!



「「「「「「「「「「「おーーーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」」」」



良い返事だ、俺が言うまでも無く、気合はバッチリだったか。なら、恐れるモンは何もねぇ――最強クラスの戦力が揃ってる訳だからな。


だが……最終ステージにまで来たんだ、アンタもそろそろ正体を明かしても良いじゃねぇか?此処まで来て、正体を隠してる意味はねぇだろうからな。



「其れもそうね……」

「へ?」

「な!?これは、如何言う事だい!?」



フェイトとアルフは、まぁ驚くだろうな?
ローブを脱ぎ捨てた黒衣の魔導師の正体は、グリムグリードになる前のプレシア・テスタロッサその物だった訳だからな?――つまり、この戦いは本物
と偽物のぶつかり合いでもあるってこった。

ま、結果はやる前から分かってる事だけどな。











リリカルなのは×東亰ザナドゥ  不屈の心と魂の焔 BLAZE36
『Liberation Drive』










「アタシは夢でも見てんのかい?……プレシアが二人って、流石にそんなの訳が分からないよ!?
 アタシとフェイトに理不尽な要求を突き付けて来たのが、この化け物と化したプレシアなら、アンタは一体何者なんだ!?全然雰囲気が違うけど!?」

「お母さんが二人になった!?……なんで、如何して?分身の術?~~~全然分からないよ~~~~!!」



まぁ、詳細を知らなきゃそうなるだろうな。
そんな訳だから、説明の方は任せるぜプレシアさん?俺達が説明するよりも、アンタが説明した方が説得力もあると思うからな――頼んだぜ?



「まぁ、こうなる事は予想していたけどね。フェイトとアルフも、先ずは落ち着いて。
 私はプレシア・テスタロッサだけれど、貴女達にジュエルシードの回収を命じていたのも私――正確に言うなら、16年前のヒュードラの暴走事故の際
 に生まれた、私の負の感情を受け継いだグリムグリードと言う方が正しいわ。
 あの事故から生還した後、私はずっとアリシアを巻き込んでしまった事を後悔していたけど、その隙をかのグリードに突かれ、負の感情がグリードと融
 合して、歳月をかけてこれ程までの存在になってしまった――圧倒的な力を持つグリムグリードにね。」


「な、マジかよ!?」

「って言う事は貴女が、僕の本当のお母さん?」



つまりは、此れが真実ってこった。
だが、其れは其れとして、此れだけの戦力が集った今、テメェにゃ万に一つの勝ちの可能性は無いと知りな!!何よりも、X.R.Cとして、これ程までの異
界迷宮を生み出すグリムグリードは放っておけねぇからな?

徹敵的に叩きのめさせて貰うぜ!!



「いわれるまでもないぞ!アイツは、本当はお母さんなんかじゃなくて、お母さんのふりをして、僕を利用してた……ぜったいにゆるさないぞ~~!!」

「あの鬼婆……ガチで、鬼だったって事か。
 だったら、逆に手加減は要らないねぇ?……これまで、フェイトにして来た事を、最低でも10倍にして返させて貰うよ!!」

「ククク、悪イ子ネフェイト?母親ニ刃ヲ向ケルナンテ。
 ソノプレシアガ何ヲ言オウト、オ前ハ、私ガアリシアカラ作リ出シタ、出来損ナイノクローンニ過ギナイ――子ヲ作ッタ存在コソガ親ナノダカラ。」

「違う、貴女はフェイトちゃんの母親なんかじゃない。
 家族を定義するのは血の繋がりじゃなくて、絆の繋がりだよ?その絆が貴女の何処にあるの?
 貴女はフェイトちゃんの事を道具としてしか見てなかった上に、フェイトちゃんの純粋な思いをも利用した!貴女が、今更フェイトちゃんの親を名乗るな
 んて言うのは、烏滸がましいにも程があるの!」

「煩イ蚊蜻蛉ネ?……マァイイワ、アリシアヲ眷属ニスルニハ、邪魔者ハ排除シテオカナイトイケナイモノ……人間達ガグリムグリードト呼ビ、恐レル力
 ヲ、ソノ身デ味ワウトイイ。」



テメェこそ、俺達の力を味わいな!
大体にして、テメェなんぞ、あの時の倉敷と比べれば全然大した事はねぇし、こちとらこの程度の修羅場は、杜宮で何度も潜り抜けてるモンだからな!

何よりも、本物のプレシアさんが出張った以上、テメェの消滅は絶対だぜ?――大人しく、年貢を納めやがれ!!








――――――








No Side


戦いの先陣を切ったのは、志緒と洸、空とフェイトとアルフの近接戦闘型チーム。
空とアルフは、プロ格闘家顔負けの戦い方で、異界の闇魔女に拳を、蹴りを叩き込んで行き、洸とフェイトは、得物のリーチの長さを生かして格闘よりも
やや離れた間合いから攻撃し……


「オォォラァァァァァァァァァアァァァァ!!!!」


――ドゴォォォォォォォン!!


志緒は、リーチとか間合いとかそんなモン知らないとばかりに、ヴォーパルウェポンを力任せに振り回し、物理特化上等の力を如何なく発揮していた。
と言うか、幾ら焔属性とは言え、ヴォーパルウェポンを叩きつけた場所で爆炎が吹き上がると言うのは、幾らなんでも凄すぎる事であるだろう。

尤も、其れだけであったのならば、異界の闇魔女の様な強力なグリムグリードであるのならば、対処できただろう。

だが、近接戦闘型が先陣を切ったのならば、其れを支援する為の中距離射撃型、遠距離砲撃型、補助支援型が存在していて然りだ。


「喰らえ~~!ブリリアントレイ!


中距離射撃型の、璃音、明日香、祐騎、クロノが異界の闇魔女の動きを牽制する意味での射撃を行い、補助支援型のユーノがバインドでの拘束を試
みる。



「小賢シイ……纏メテ散レ!!」



とは言え、其処は3S級のグリムグリード。
如何に支援型として優秀なユーノのバインドであろうとも、その身に宿した、圧倒的な力で強引に其れを引き千切り、反撃の広範囲の魔力衝撃波を発
する。

その威力は、なのはのディバインバスターをも凌駕し、直撃を喰らえば一撃での戦闘不能は免れないだろう。(何となく志緒は平気そうだが……)


「させません。結界よ!!」


だが、その攻撃も、美月の張った防御結界によって阻まれ、ダメージを与えるには至らず。
直接的な戦闘能力では、X.R.Cでも下の方の美月だが、逆に補助・支援の能力はX.R.Cの中で飛び抜けて高い故に、美月の防御結界の堅牢さは半端
な物ではないのである。


ディバインバスターァァァァァァァァァ!!!!

サンダーァァァァァァ……レェイジ!!!!


更には、其処に遠距離型のなのはの砲撃と、プレシアの雷が一切の加減なしで炸裂!
嘗て大魔導師と呼ばれたプレシアと、何れ大魔導師と呼ばれるであろうなのはの本気の一撃は凄まじい威力であり、異界の闇魔女を軽々と吹き飛ば
し、相当のダメージを叩き込んだのは間違いないだろう。


「バ、馬鹿ナ……コンナ筈ガ!!」

「ある筈ないか?……だが、コイツが現実だぜ!
 確かに、お前は強いかも知れねぇが、あの時の栞と比べたら全然大した事はねぇし、世界と自分を天秤にかける覚悟をした栞と違って、お前からは、
 何の覚悟も意思も感じられねぇ。
 ドレだけ力が強くても、只強いだけなら、俺達の敵にはならないぜ!!!」


決して、異界の闇魔女が弱いのではない。
実際に、管理局の並の魔導師の小隊が戦いを挑んだならば、瞬く間に決着が付く事だろう。

だがしかし、運が悪い事に、此処に集ったのは並の魔導師を軽く凌駕する存在だらけであった。――要するに、始まる前から勝敗は決していたのだ。
加えて、X.R.Cのメンバーは、杜宮で5S級のXXXグリードと戦い、其れを退けた経験がある故に、今更覚悟なき3S級など、元より敵ではなかった。


「此処が決め時だね!行くよ、洸君!」

「あぁ、一気に行くぜ璃音!」

「「クロスドライブ!!」」


更に此処で、洸と璃音がクロスドライブを発動し、一気に猛攻を掛ける。
洸のレイジングギアのチェーンエッジが異界の闇魔女を斬り裂き、璃音のセラフィムレイヤーから放たれるビームと竜巻が更なるダメージを与えて行く。


「此処だ!!」

「決めるわ!!」


そして、勝負どころと見た洸と璃音は、此処で必殺のXストライクを発動!!
先ずは璃音が縦横無尽に、空を駆け回りながら連続で体当たりを繰り出し、続いて洸がチェーンエッジでの連撃を叩き込み……


「エクステンド……ギア!!!」

「セラフィム……ハーツ!!」


トドメに巨大化させたレイジングギアの一撃と、セラフィムレイヤーから放たれた無数のビームが炸裂!そしてその衝撃で巻き起こる粉塵!!


「ク……マダヨ…アリシアヲ眷属ニスレバオマエタチナド……」


其れでも異界の闇魔女は倒れず、アリシアを己の眷属とすべく、アリシアの身体が納められた培養ポッドに向かうが……既にチェックメイトなのだ。


「そんな事させると思ってんのか?させる筈ねぇだろ!!
 オォラァァァ!!イグニス…ブレイク!!喰らえ、ブラストエッジ!!


一足飛びで異界の闇魔女に肉薄した志緒が、空中斬り→空中イグニスブレイク→ブラストエッジの三連コンボをブチかまして、異界の闇魔女を一閃!
ともすれば、このコンボだけでグリードを葬れそうなものだが、曲がりなりにも3S級が相手ではそう行かないだろう。


「今だ、ブチかませ、なのは!!!」

「はい!!」


だが、さっきも言ったように、既にチェックメイトなのだ。
志緒の強力な三連コンボですら、詰みに持ち込むための一手でしかなく、真なるチェックメイトを宣言するのはなのはなのだ。


「全力全壊!!」

『Starlight Breaker.』

スターライトォォォォォォォォォォォォォォォ……ブレイカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!


「消えなさい、私から生まれた闇よ!」


真なるチェックメイトは、最強の集束砲撃であるスターライトブレイカーと、プレシアの最大級のサンダーレイジ『磔刑』の、暫定最強の複合攻撃!!!

周囲の魔力素を集め、自身の残存魔力の全てを注ぎ込んだなのはの集束砲の破壊力は言うまでもないが、プレシアの磔刑の威力も伊達ではない。
現実に、此れが決定打となって、異界の闇魔女は、その姿を霧散させる事になったのだから。


「蓋を開けちまえばこんなモンか……ハッ、一昨日来な!」

「私達の勝ちです!!」


余りにも呆気ない戦いだったが、黒幕である異界の闇魔女は、此処に討伐されたのだった。








――――――








Side:志緒


ハッ、始まっちまったら呆気なかったな?……元よりアイツ如きに負けてやる心算は毛頭ねぇがな。
何にしても、目的は果たしたから、異界が消滅するのを確認してから、アイツの持ってたジュエルシードを回収してアースラに戻るだけだ……さっさと終
わらせて帰ろうぜ?流石の俺も―――



――シュゥゥゥゥゥゥゥ……



って、何だこりゃあ!?
プレシアさんの身体が、少しずつ光の粒子になって消えて行く!?……何なんだよ此れは!!!



「矢張りこうなってしまったわね……覚悟はしていたけれど。
 私の負の感情に憑りついたとはいえ、彼女と私は表裏一体――何方かが消滅すれば、残された片方も存在する事は出来なくなる。
 つまり、アレを倒すと言う事は、同時に私が消滅すると言う事でもあったのよ。」



何だと!?
って事は、アンタはアイツを葬ったら自分も存在できなくなるって言う事を承知で、戦いに臨んだってのか!?…ドンだけの覚悟を決めてたんだオイ!
其れに、こんな所で消滅しちまって、アンタは其れで良いのかプレシアさん!!



「本当なら、私は16年前にアリシアと運命と共にしてはずなのに、此処まで生き長らえてしまったら、もう充分よ。
 それに、アリシアの事を16年も待たせてしまったからね……アイツの眷属となる前に、取り戻す事が出来てよかった。
 そして、フェイト、アルフ……アイツは消え、私も今消える。だから、貴女達を縛るものは何もないから、せめて自由に生き、そして幸せになってね?」



「……それが、貴女の本音なんですねプレシア?」



っと、此処で新たな奴が現れやがったな?
茶髪のセミロングに、ベージュのローブ……何モンだコイツは?



「「リニス!?」」

「…確かに私はリニスですが、貴女達の知る山猫の使い魔であるリニスではなく、私は生身の人間です。プレシアの助手と言う意味では同じですが。」



リニス?……如何やら何か有りそうだな。



「本当に、呆れたマスターですよ貴女は。
 幾らあれを倒すと言っても、貴女が共倒れになっては意味がないでしょう?――と言うか、貴女が消えてしまったら、此の子達はどうなるのです?」

「元より、此れは変える事の出来ない運命なのよリニス。
 私とアレは表裏一体。何方かが消えてしまったら、残された片方が存在する事が出来ない――元より覚悟をしてた事なのよ、此れはね。」



プレシアさんの助手か。
しかし、プレシアさんは俺達の想像を超えた覚悟を持ってたって事か……アンタは、終わりを求めてたんだなプレシアさん。
16年前に一人娘を失ったにもかかわらず、自分は生き延びちまった……其れも、あのクソッ垂れの力が有ったからこそだから、アレを倒せば、本当の
意味でプレシアさんは解放される訳か……



「待たせたわね、アリシア……16年間も放っておいて悪かったわ。
 だけど、其れも此れで終わりよ……さぁ、一緒に逝きましょう?……尤も、貴女の魂は既に輪廻の輪を潜ったのかもしれないけれどね……」


――ピキ、ピキ……!


って、此処で地割れだと!?
コイツは即戻らないとヤバそうだが……アンタは本当に、此処に残るんだなプレシアさん?



「確認不要よ。この子の身体と魂は私が連れて行く。――これが、私の人生だったのよ。……さよなら、次代を担う者達よ……」

「おい、待て!!プレシア!!」



止めとけクロノ。間に合わねぇよ……それ以前に、プレシアさんの覚悟を無駄にすんな。



「幸せになりなさい、フェイト……皆も、フェイトの事をお願いね…」



アリシアの身体の入った培養ポッドを抱えながら、一層大きくなった地割れの隙間にその身を投げただと!?――其れがアンタの選択って事か。
なら、其れには応えてやんぜ……アンタの覚悟ってモンを見せて貰ったからな。

フェイトの事は俺達に任せて、アンタは愛する娘と一緒に極楽浄土で暮らしな……16年の空白を埋める意味でもな。



――シュゥゥゥン



完全に消えちまったか。
だが、アンタは間違いなく最高の母親であったと思うぜプレシアさん?――ま、今はゆっくり休みな、此れまで全力で頑張って来たんだろうからな。












 To Be Continued…