Side:志緒


ふぅ……神山温泉も良かったが、この海鳴の温泉も神山温泉に勝るとも劣らない位に良い具合だな。身体の疲れが一気に吹き飛んじまいそうな気がしちまうぜ。
洗面器の風呂で悪いが、お前さんもそう思うだろユーノ?



「はい……お風呂がこんなに気持ちいいと思ったのは初めてです。
 勿論、ひと風呂浴びればサッパリした感じはしてたんですけど、湯に浸かるだけで此処までリラックスできるって言うのは初めての経験です……此れが温泉……」

「まぁ、初体験て言うなら思う存分堪能すりゃいいさ。」

寧ろ、温泉を楽しまないって手はねえからな。――にしても……



「ん?如何かしたかい志緒君?」

「いや……スゲェ傷痕だと思ってな……アンタ、相当な修羅場をくぐって来たんだな士郎さん……」

士郎さんの身体に刻まれた傷痕は凄まじいモンがあるな……ボディガードをやってたって事だから、ある意味では当然の事なのかも知れないが、此処までの傷痕
が残るってのは、相当に危険な仕事もしてたって事なんだろうな。




其れこそ、大怪我をして入院しちまう位の事をな。――或はあの傷痕は、入院するに至った大怪我の名残なのかも知れないけどよ。



「まぁ、大分無茶もしたからね……だけど、そのせいで家族がバラバラになりかけた訳だから、この傷痕は僕自身にとっての戒めの意味もあるんだよ。
 もう二度と、家族を悲しませない、自分の身を亡ぼす様な危険な真似はしないって言うね……修羅場を潜って来たのは否定しないが、今の僕は……ね。」

「あぁ、良く分かったぜ。」

アンタはアンタで考えてたんだな士郎さん。なら、これ以上は俺がとやかく言う事でもねぇな。

此の話は此処までにして、今は温泉を堪能するとすっか!!












リリカルなのは×東亰ザナドゥ  不屈の心と魂の焔 BLAZE16
『ガールズトークとその他諸々』












Side:なのは


え?あう…はぅぅぅ……まさか、私が志緒さんの事を好きだって言う事がバレてただなんて思ってもみなかったよ~!って言うか、何で分かったんですか璃音さん!



「え?言うなら女の勘?
 って言うか、分かり易過ぎだよなのはちゃん?洸君ですら、なのはちゃんが志緒先輩に好意を持ってる事は察してたからね~~~……正に恋は盲目だね♪」

「あうぅぅ……///

「それにしても、なのはちゃんも中々良い趣味だよね?
 志緒先輩は確かにワイルド系イケメンだけど、逆に言えば強面で接し辛そうなのに……なんだって、志緒先輩なの?4年前の事が有ったから?」



其れは、否定できません。
寂しい思いをしてた私に手を差し伸べてくれたのは志緒さんでしたし、バラバラになりかけてた家族が纏まる切っ掛けを作ってくれたのも志緒さんでしたから……だ
から、私の中で志緒さんは特別な存在なんです。



「へ~~~……其処まで一途に思えるって凄いわ……」

「そうですか?……って言うか、璃音さんなら分かるんじゃないですか?」

「へ?」

「私が志緒さんの事を好きな様に、璃音さんは洸さんの事が好きですよね?其れこそLikeじゃなくてLoveの方向で。」

「はい!?///」



あ、赤くなった。此れはビンゴなの!!



「え、あ……ちょ、何で分かったの!?少なくとも隠してた心算なんだけど!?って言うか、予想外のカウンター攻撃に吃驚よ!!」



確かに隠してたかも知れませんけど、璃音さんて洸さんと話してる時が一番楽しそうですし、何て言うかアイドルじゃない、素の自分を出してる様な気がしたんです。
加えて、今日の車の中でも洸さんにやたらとスキンシップしてましたからね?



「あっちゃ~~~……なのはちゃんに気付かれたとなると、明日香と美月先輩は絶対に気付いてるわよね~~……マダマダ演技の勉強はしないとダメだわこれ。」

「精進あるのみですよ璃音さん♪」

「そうよね~。もっとこう、ドラマとかのオファーが来るくらいにならないとダメよね!!
 ……さてとなのはちゃん、こうして目出度く、お互いに思い人がいると分かった所で、其れはお互いに誰にも言わないようにするとして――ぶっちゃけた話しになる
 んだけど、一体なのはちゃんは、具体的に志緒先輩の何処に惚れちゃった訳?」

「へえ!?」

「なのはちゃんと志緒先輩が出会った時の事は、志緒先輩本人から聞いてるからアレなんだけど、その時なのはちゃんて5歳だった訳でしょ?
 こう言っちゃなんだけど、志緒先輩って大柄で強面で口数少ない上に表情もあんまり変わらないじゃない?5歳の女の子からしたら、結構怖かったと思うのよ?」



まぁ、志緒さんは確かに強面ですからね。
でも、本当に怖くておっかない人だったら、夕暮れの公園に1人で居る子供の事の事なんて気にもかけないだろうし、声をかけるなんて事もないと思うんですよ。
ましてや、その子供の話を聞くなんて言う事も――挙げ句の果てには、その話を聞いて『自分が何とかしてやる』とか言いませんよ。

でも其れは結果論で、何て言うかちょっと怖そうだとは思ったんですけど、絶対に悪い人じゃないとは思ったんですよ志緒さんの事は。



「つまり、感覚的に志緒先輩の人柄を察したって事?」

「そうかも知れませんね?
 あのあと、居なくなっちゃうまでは私の幼稚園の送り迎えとかもしてくれましたし、その幼稚園でも園児達に何時の間にか大人気になってましたから♪」

「その頃から子供には人気あったんだ?
 杜宮商店街の子達にも慕われたし、自分が昔お世話になってた孤児院にも行ってるみたいだし――志緒先輩って、見た目によらず子供の世話好きなのね。」



かも知れません。
で、そんな志緒さんを見てるうちに、何時の間にか好きになっちゃって……会えなかった4年の間に、その思いは薄れるどころかもっと強くなっちゃったみたいで…



「乙女だね、なのはちゃん!本気で純情可憐過ぎるわ!!
 9歳って言う歳の差は大きいけど、こんな良い子に思われてるなんて、滅茶苦茶果報者じゃないの志緒先輩って!!――なのはちゃん、アタシは応援するよ!」

「ありがとうございます璃音さん!……じゃあ今度は、私のターン!!」

「攻守交替ね?って言うかまさかの遊戯王!?」



ブラック・マジシャン・ガールの可愛さは神級だと思います!!
じゃなくて、璃音さんは何で洸さんの事を好きになったんですか?それこそ、洸さんて確かにイケメンの部類かもしれないですけど、高校生としては『割と良く居るタ
イプ』の男子生徒ですよね?良い人だって言うのは分かるんですけど……



「ん~~~……まぁ、出会いが強烈だったってのがあるかな?
 その日はサイフォンの時計が何でか狂ってて、レッスンに間に合わないかもって思って焦ってて事務所のIDカード落としちゃったのよ。
 で、其れを拾って、アタシに届けてくれたのが洸君だったの。
 まぁ、その時はアイドルの常套句として『お礼にサインしてあげようか』って言ったんだけど……普通の男子高校生だったら、此処でどんな反応するかな?」

「名の知れたアイドルからそう言われたら喜びますよね?」

「でしょ?だって言うのに、その時の洸君てば『いや、別に良い。アイドルとか興味ないし』とか抜かした訳よ!!
 しかも、SPiKAの名を聞いても『そう言えば聞いた事が有る気がする』とか言ってくれて……その事に関しては、今思い出しても腹が立つわ!!」



洸さん、流石に其れは無いですよ……でも、だったら余計に何で……



「初対面の印象は最悪だったけど、其の後何度か偶然会う機会があってね。
 ある時は駅前の電器屋で探してたCDを一緒に探してくれたり、ブティックでトークステージでの衣装を選んでくれたり、不良に絡まれてた所を助けて貰った事もあっ
 たわね……ホント、初めて会ってから色んな事が有ったわ。
 ちょっとぶっきらぼうで、でも誰よりも優しくて、困ってる人を放っておけない洸君に惹かれてる自分が居る事を自覚するのに時間はかからなかったかな。」

「洸さん、狙った様なタイミングで現れてますね……」

「其れでも偶然て言うんだから凄いわよ。
 で、決定打だったのは私の夢を話した時かな?『世界中の人達をアタシ達の歌で笑顔にする』って言う、青臭くてバカみたいな夢でも洸君は応援してくれたんだ。
 お世辞とか建前なんかじゃなくて本気で。『スゲェな、頑張れよって』……完全にやられたわよ。
 そして極め付けが、アタシの中にいたグリムグリードが暴走して起こされた異界化ね。
 アタシも異界化に巻き込まれて、そして此れだけの事をしてしまったのが自分だったって言う事に絶望して、天使型のエルダーグリードにやられる寸前だった。」



だけど、やられなかったんですよね?



「今までの事が走馬灯のように思い浮かんで、でもその中に洸君が居て……アタシは無意識のうちに洸君に助けを求めてたんだ。
 普通に考えれば来てくれる筈はないけど……でも洸君は来てくれたんだ。猛然と天使型のエルダーグリードに突進して、一撃で其れを倒しちゃったんだよ。
 カッコつけすぎだよって思ったけど、だけどその時の洸君は実際凄くカッコ良かった――きっと其れが決定打だったんだと思うわ。
 加えて、絶望しきってたアタシに洸君は前に進むための光を持って来てくれた……SPiKAの仲間達からのメッセージって言う光を。
 あれがなかったら、アタシはあそこで終わってかもしれないわ……だから、アタシにとって洸君は光なんだよ。そして、私の一番好きな人なんだ。
 まぁ、アイドルと一般人だから叶わぬ恋かも知れないけど、だからって諦める心算は毛頭ないわ!!寧ろ絶対に洸君を振り向かせてやるって思ってるからね!」



!!か、カッコイイです璃音さん!!
でも、其れだったら、私も志緒さんに思いを伝えた方が良いのかな?
住む世界が違うから、何れ別れの時は来るけど、だからって此の思いを打ち明けなかったら絶対に後悔しそうだから……機会が有れば、思いを伝えてみようかな?



「その意気だよなのはちゃん!」

「璃音さん、互いに己の恋を実らせましょう!!」

「勿論よ!!」


――ガシィ!!



こうして、私と璃音さんは大親友になりました。
因みに温泉後の飲み物は、私はコーヒー牛乳だったんだけど、璃音さんはまさかのドクターペッパーでした……其れは、絶対に風呂上りに飲む物じゃないと思うの。








――――――








Side:志緒


夫々適当に過ごして、そんでもって何時の間にやら夕飯の時間だな。
夕飯は宿泊する旅館でって事だったんだが……此れは幾ら何でも凄すぎじゃねぇのか?

船盛の刺身が一人一つってだけでも相当だが、それ以外にも天婦羅の盛り合わせに特産牛の石焼、極上の鯛めしと至れり尽くせりだぜ……ドンだけの値段なのか
は、恐ろしくて考えたくもねぇな。

だが、こんな機会はめったにあるもんじゃねえから、有り難く堪能させて貰うとすっか。特に天婦羅の出来具合は、俺にとってもいい勉強になるぜ?……オヤッさん
から天ざると特上天丼を任されるように成らなきゃ蕎麦打ちは教えてもらえねぇだろうからな。

ま、其れは其れとしてコイツが最高に旨い事は変わらねぇな。
季節の魚の刺身は鮮度が抜群で、醤油を付けるのが勿体ねぇ感じだし、天婦羅もまた素材の味が生きてるぜ――料理の味は神山温泉以上かもな。



「ムグ!?」



って、如何した郁島?



「ん~~~!!ん~~~~~!!!!」

「若しかして、お約束的にのどに詰まらせたって言うの?ゆっくり食べないからそうなるんだよ……」

「そんな事を言ってる場合じゃないですよ祐騎さん!!下手したら窒息死なんですから!!空さん、お水です!」

「む~~~!(ごくごくごく!!)……はぁ、助かりました……って、アレ?」



如何した郁島?



「あれ?ヒック……ほえ?」

「此れはまさか……なのはちゃんが空に渡したコップの中身は水じゃなくて酒だったって言うある意味のテンプレ展開か此れ!?」

「マジかよ……」

だとしたら偶然とは言え、トンでもねぇな?
酒でリミッターが解除された郁島を抑えるのは容易じゃねえが、此処はやるしかねぇんだろうよ……そう思っていたんだが――



「祐騎君!!」

「はいぃ!?」



何でこうなっちまったんだろうな?
俺達の目の前に展開されてるのは、正座させられた四宮と、其れを上から目線で見てる郁島……室内とは言え、郁島のオーラがハンパじゃないぜ。



「如何して、如何して祐騎君は気付いてくれないんですか、私の思いに!!私は、こんなにも祐騎君の事が好きなのに!!」

「はぁぁ!?」




……まてや、何か雲行きが怪しいぞ?
まさかとは思うが、酒が入った事で、本能が理性を超越しちまったとでも言うのか?……だとしたらあり得ない事じゃないんだが、問題は四宮がどんな答えを出すか
だろうな……まぁ、バッドエンドだけは無いだろうと信じてぇところだが……



「いや、言い分は分かったけど、僕と郁島じゃ釣り合わないって!!」

「そんな事は如何でも良いんです!!大事なのは、私が祐騎君の事を好きだって言う事なんです!!
 釣り合うとか釣り合わないなんて言うのは、マッタク持って如何でも良い事なんです!!私は祐騎君が好きなんです!!祐騎君は私を如何思ってるんですか!」

「直球過ぎるでしょ其れ!?」



……コイツは如何やら腹括る必要がありそうだな四宮?
こう言っちゃなんだが逃げ場はねぇし、俺も時坂も助けてやる心算はねぇからな?……テメェの偽らざる思いをぶつけてやんな。

幾ら酒の力を借りてとは言っても、郁島はテメェの思いをブチ当てたんだ、其れに応えないってのは漢として、人としてトンでもねぇ事だから中途半端な事だけはする
んじゃねぇぞ四宮?



「あ~~もう!!分かってるって!!てか、此れってどんな羞恥プレイだって!!っていうか、こんなにストレートに思いぶつけられたら断れないじゃん!!
 まぁ、僕も郁島の事は嫌いじゃないし……僕で良いなら好きにしなよ!!」

「……ダメです。」

「何が!?」

「其れじゃあだめなんです!!嫌いじゃないは好きとは限りません!!!
 私は、祐騎君の気持ちが聞きたいの!!事務的にじゃなくて、祐騎君の本音が聞きたい……其れもダメ?」



……どうやら、郁島の方が一枚上手だったみたいだな四宮?覚悟決めて本音を暴露しろや。



「あぁもう!!僕だって郁島の事は好きだからね?
 いっつもいっつもお弁当を作って来て、休み時間の度に訪ねて来て正直ウザったいって思ってたけど、だけど僕の中で郁島の存在が大きくなって行ったのは否定
 しないよ……僕で良ければ、喜んでお付き合いさせて貰うさ。」

「ふふ、ありがとう祐騎君♪」(コテン)



で、寝ちまったか。
だがまぁ、頑張れよ四宮?郁島の相手ってのは、多分結構大変だろうからな?



「祐騎、空を泣かせたら許さないぜ?」

「ちょっと待って洸先輩!其れ色々オカシイから!!」



前途多難みてぇだが、精々頑張んな。
お前と郁島……思ってた以上にお似合いだからよ。








――――――








Side:なのは


怒涛の夕ご飯から十数分!……空さんが祐騎さんの事を好きだったって言うのには、流石に驚いたの。まさか、空さんがあそこまでの思いを秘めてるとは思わなか
ったからね……恋は盲目とは、良く言ったモノなの。



「でも、ある意味で事実だよ?」

「人間誰しも、夢中になってる何かがあるからな……まぁ、四宮も此れで少しは生意気な部分が埋まるだろうよ。」



それはまぁ、確かに。祐騎さんは素直じゃないですからね
でも、きっとこの旅行は、只の温泉旅行と言うだけでなく、自分の思いを見つめ直す機会であったのかもしれないね。



――キィィィィィン……!!



加えて、狙ったかのよなうなタイミングで発動しましたねジュエルシード!!
こうなった以上は、生温い事なんて言ってられない―――全力全壊で封印するまでです!!一緒に来て下さい、志緒さん、璃音さん!!



「OK!任せなさい!!」

「腹ごなしの運動には丁度良いぜ……一気にやってやろうじゃねぇか!!」



お願いします!!

きっと、此のジュエルシードの反応の先にはあの水色の髪の子が居る……この間は負けちゃったけど今度は負けないよ!貴女を倒して、お話を聞かせて貰うから!















 To Be Continued…