Side:志緒


杜宮学園を卒業して3年、調理師の専門学校を卒業して1年か……思った以上にあっという間だったが、其れだけ充実した時を過ごしたっ
て事なんだろうな――充実してる時ほど早く流れるって言うからな。

此の3年間の間に、俺は調理師の免許を取得したが、嘗てのX.R.Cのメンバーも夫々が結果を残してるな?
玖我山は押しも押されぬSPiKAのセンターになっただけじゃなく、近頃はソロ活動でも人気を集めてるし、郁島は空手の大会を総なめにし
ただけじゃなくオリンピック日本代表に選ばれてる。
四宮は持ち前の頭脳で色んなアプリやらセキュリティソフトを開発して儲けまくってる傍ら、データ面で郁島のトレーニングをサポートしてる
みてぇだしよ。

柊はネメシスのエージェントとして働く傍らで、何と教員免許の取得を目指してるってんだから驚きだな。
んでもって北都は今や北都グループの総裁の座に就いて其の力を発揮して、文字通り日本経済を支えてるか……風の噂じゃ、総理大臣
以上の権力を持ってるとか……本気で、アイツは敵に回したくねぇな。

だが、それ以上に驚いたのは時坂だぜ。
まさか、卒業と同時に玖我山の専属マネージャーになるとは思ってなかったぜ?……まぁ、玖我山が色々と画策したんだろうがな――ア
イドルとマネージャーの熱愛なら、芸能界では珍しい事でもねぇからな。


ま、夫々がテメェの道を進んでるってのは悪い事じゃねぇ――寧ろいい事だぜ。
かく言う俺も、専門学校卒業後は、バイトじゃなくて、オヤッさんの店の正社員(そう言うのが適当かは分からねぇが)になって、高校の時
以上に働かせて貰ったし、蕎麦打ちまで教えて貰ったからな。

こう言っちゃなんだが、俺の打った蕎麦は、オヤッさんには及ばなくとも、そんじょそこらの蕎麦屋の蕎麦には負けねぇって自負してるぜ!
だから、もう少し修業すれば店を継ぐ事だって出来る筈だ!


と、そう思ってったんだが……まさか、オヤッさんからこんな事が提案されるとは思わなかったぜ。













リリカルなのは×東亰ザナドゥ  不屈の心と魂の焔 BLAZE116
『新たな物語の始まり、StSへの序章』











んで、何の用っすかオヤッさん?其れに女将さんも……お二人が、そんだけ真剣な顔してるって事は、只ならぬ事だって思うんすけど…



「ん~~……如何切り出したもんか……まぁ、めんどくせぇのは俺の性に合わねぇな!
 単刀直入に言うぜ志雄!――お前、この店と暖簾分けする気はねぇか?」

「暖簾分けって、本気かオヤッさん?」

暖簾分けってのは、ある意味で後を継ぐ以上の事だろ?
オヤッさんが護り続けて来た看板を、分化させる訳だからな……其れ以前に、俺なんかがオヤッさんの店の暖簾分けをして良いんすか?
こう言っちゃなんですけど、俺の蕎麦の腕前は、オヤッさんの足元にも及ばねぇっすよ?



「か~~、何言ってやがる志緒!テメェはとっくに俺を越えてるだろうが!
 確かに蕎麦打ちに関しては粗削りな所があるが、其れが逆に蕎麦が持ってる野性味を引き出してるんだぜ?
 客があんまりにもお前の蕎麦を褒めるんで、俺も食ってみたんだが……お前の蕎麦には、俺の蕎麦とは違う力強さがある!――なら、
 暖簾分けをしてお前の味を伸ばしてやる方が良いに決まってるだろ!」

「そう言って貰えるのは嬉しいっすけど、暖簾分けしちまったらこの店は……」

「俺の代で終わっちまうってか?
 だが、そうだとしてもお前が居りゃあ、この店の味は無くなるこたぁねぇ――何よりも、お前は杜宮だけじゃなく、もっと広い世界に羽ばた
 くべきだぜ志雄?
 俺が一代で作り上げた味を、オメェがもっと広い世界に伝えてくれるってんなら、職人としてこの上ない幸せってもんだ。」



オヤッさん……俺が後を継ぐってんじゃダメなんすか?
俺がこの店を継げば、オヤッさんの一代で終わる事は無くなるでしょう?この店は、杜宮の人達に愛されてんだから失くしたらダメなんす
よ!!
大体、日本中何処を探しても、高校生が下校途中の寄り道に使う蕎麦屋なんて此処だけなんですよ!?そんな貴重な店を失くすなんて
のは絶対ダメっすよ!
何よりも、其れ以前にこの店は商店街唯一の飲食店なんだから失くしたら色々と支障が出るんじゃねぇっすか!?(肉屋は総菜は売って
るが、飲食店じゃねぇからな。)



「む……言われてみりゃそうか?」

「そうっすよ!
 其れに、俺はまだオヤッさんとおかみさんに世話になった恩を返してねぇんです……俺が出来る最大の恩返しは、今よりももっと料理の
 腕を上げてこの店を継いで、そして更に先まで伝えていく事なんすよ。
 こう言っちゃなんすけど、調理師専門学校に進んだのも、その為っすから。」

「恩返しだなんて、そんな事は気にしなくていいのよ志緒?
 貴方には貴方の道がある――恩返しだなんて言って、私達の為に貴方の人生を使う必要なんて無いのよ?」



そうじゃねぇんすよおかみさん。この店を継いで、更に続けて行く事が俺のしたい事なんです。
勿論、恩返しってのは嘘じゃねぇっすけど、高校の時からこの店で働かせて貰って、色々教えて貰って行く内に、俺は『何時かこの店を継
ぎたい』って思うようになったんです。

だから、ある意味で一石二鳥なんすよ、この店を継ぐってのは。
俺の望みも叶えられるし、オヤッさんとおかみさんへの恩返しも出来るっすから……だからオヤッさん、暖簾分けじゃなく、俺にこの店を継
がせて下さい!



「……志緒、オメェ其処までこの店の事を……」

「あらあら……如何やら志緒君の勝ちみたいですねアナタ?」

「だな……俺としては、お前を杜宮に縛りつけちまうと思ったんだが、お前はそう思ってなかったって事か。
 なら、暖簾分けは撤回だ!いずれお前には、この店を継いでもらうぜ志雄?その為にも、完璧にこの店のそばつゆの味を覚えな!!」

「ウッス!了解っす!!」

自慢じゃねぇっすけど、オヤッさんの店で働かせて貰って、調理師の専門学校に通って、俺の舌は可成り鍛えられたから、オヤッさん自慢
のつゆの味も、直ぐに覚えて見せるっすよ。
オヤッさんが独自に編み出した、繊細かつ力強いつゆの味を再現できなかったら、店を継ぐ事なんて出来ねぇからな!








――――――








Side:璃音


さてと、今日もSPiKAのライブは大入りね?
SPiKAとしての人気もさることながら、アタシとハルナとレイカはソロ活動もしてるし、アキラとワカバもデュオとして活動してる事で、ファン層
が厚くなってるのは間違いないわ。

まぁ、それでもアタシの人気がダントツトップなのは間違いないわ。
SPiKAとアタシとハルナとレイカ、そしてアキラとワカバのユニットの新曲を同時リリースしたけど、ランキングではアタシのCDがミリオンセラ
ーでトップだからね?
更にダウンロード販売でもぶっちぎりだってんだから驚きだわ。



「璃音……何で貴女其処まで凄いのよ?3年前は、そんなに差が無かったのに……」

「愚問よレイカ……恋する乙女は無敵で最強なのよ?
 好きになった人には、自分の一番カッコいい所を見て欲しいでしょ――違うかしら?」

「違わないわね……って、若しかしてアナタ、彼をマネージャーにしたのって!!」

「さぁて、如何だろうね~~?」

洸君に、アタシのカッコいい所を一番近くで見て欲しいって思いは有ったけどね。――まぁ、洸君が見てくれてるって事で気合が入りまくっ
てこの結果になってるのは否めないけどさ。

フフフ、悔しいレイカ?悔しかったら、彼氏の1人でも作ってみなさいよ!――尤も、洸君以上の人なんて滅多にいないだろうけどね!(洸
君以上だと、志雄先輩だけど、志雄先輩はなのはちゃんが予約済みだしね。)



「ぶっ殺すわよ璃音?」

「やってみろ、クローン風情が。」

「誰がクローンよ!!」



いやぁ、レイカのセリフ的にこう返すのが適当かなって。――KOF'99のK'vsクリザリッドの対戦前デモは、主人公vsラスボスとして素晴らし
いんだよ。



「はいはい、其れ位にしておきなさい?
 其れにお客さんからのアンコールが出てるから、其れには応えないとでしょう?――アンコールは、任せて良いかな璃音?」

「OK、任されたよハルナ。」

アンコールって言うのは真のフィナーレだから、其処はバッチリ占めてだからね。――でもアンコールのラストの方には皆も来てよ?
全員揃ってのフィナーレがSPiKAだからね。

其れじゃあ行ってきます!!



「アンコールをありがとー!
 其れじゃあ、アンコールにはこの歌で応えようかな?アタシのボーカル最新曲『Lucia』――聞いてください。」



アタシがステージに躍り出てアンコールに応えると、其れだけで会場は大盛り上がりになったけど、アンコールのイントロが流れ始めると、
途端に静かになった……なら、この静かになった会場を沸かせるのがアタシの仕事だね!!


――yeal'd f'ielin gley'd spielruus yawais mu^el-luites felmaarh(夜天の花嫁よ、もう世界は終わっている。)
   sial fi-defen dizlintal ras ruustal lee-ya, lee-yuer(愛しい人と眠りましょう、永遠の『夜』の中で……)

   閉ざされた瞳 月はただ蒼く この夜を染めて行く
   取り戻すたびに 喪う答えを 一人求め続けて
   心を閉ざしても 瞳を逸らしても 止められない痛みなら 引き裂かれようこのまま
   Lucia 零れ落ちる 世界に残された此の場所で 君は笑っていた 最後の約束を果たすようにずっと……

   頽れた翼 風はただ紅く この夜を駆けて行く
   抗いのたびに 刻まれる傷を 一人隠し続けて 
   祈りを重ねても 願いを繋いでも 変えられないさだめなら 貫かれようこのまま
   Lucia 零れ落ちる 光に照らされた此の場所で 君は歌っていた 最後の悲しみを抱きしめてずっと……

   月はただ冷たく 断たれた 刻のしじまに揺れる
   消えぬ罪を抱いて うつろう 夢に乱されるまま…・・・

   Lucia 零れ落ちる 雫を唇に受け止めて 君と共に在ろう 終わらぬ夜のまどろみの中ずっと……




アタシの新曲『Lucia』は大歓声だね!
はやてちゃんとリインフォースをイメージして作ったんだけど、結構大当たりだったみたい。歌の後半では、ハルナ達もステージに上がって
一緒に歌ってくれたからより盛り上がったからね♪


そんな訳でライブ終了!どうだった、洸君?



「流石だぜ璃音、凄くカッコ良かった。
 こんなカッコいい姿を間近で見れるなんて、此れもマネージャーの特権ってやつか?」

「そうだよ?リョウタ君が見たら、血の涙流して羨ましがるんじゃないの?」

「否定できねぇ……俺が璃音のマネージャーになるってのを聞いた時には、殺意全開で木刀で殴りかかって来たからなぁ?――まぁ、じっ
 ちゃん直伝の合気投げでブッ飛ばしたけどよ。」

「うわぉ、洸君グレイトォ……」

まぁ、其れ位じゃないとリョウタ君の暴走は止められないだろうからね……リョウタ君、君はファンとしては最高だけど、アタシの特別な人に
なる事は出来なんだよ……其処は、既に洸君が占めてるからね。



――地獄に堕ちろ!このラブコメ野郎!!



「……今、何か聞こえなかった?」

「いや……気のせいって事にしておこうぜ?」



うん、其れが良いかな?
其れよりも、ライブでお腹減っちゃったから、何処かで食べてこうか?――とは言っても、この時間だとアクロスタワー周辺の店は何処も満
員ポイんだけど……如何しようか?



「なら、商店街の蕎麦屋に行こうぜ?
 あそこなら多少混んででも待つ事はねぇだろうし、何よりも腹が減ってる時には志緒先輩のカツ丼が一番だからな!!」

「おぉ、其れ賛成!志雄先輩のカツ丼は日本一だからね♪」

其れじゃあ早速、出発進行――



――ピキィィィン!



……え?此れは、この感覚は――時が、止まってる!?洸君、此れは――!!



「あぁ、異界に関する何かが、其れもデカい事が起きたに違いねぇ――そうだろレム!」

『ふふふ、久しぶりだね?
 確かに君の言う通り、大きな事が起きた――そして、その結果、この世界と向こうの世界は再び繋がった……だから、進むと良い。
 この先の道を切り開くのが、君達の役目なのだからね――』




レム……異界の子。
3年ぶりに有ったけど、まるで変って無かったわ……まぁ、あの子は人非ざる存在だから当然かもしれないけどね。
だけど、この世界と向こうの世界が繋がったって言う事は、3年前の時みたいに、杜宮と海鳴が再び繋がったって言う事でしょ?……だっ
たら無視する事は出来ないよね?

行こう、洸君!!



「おうよ!異界と聞いて黙ってたんじゃ、X.R.Cの初代部長の名が泣くからな!」

「そう来なくっちゃ!」

正直な事を言うと、どうして再び杜宮と海鳴が繋がったのかは分からないけど、なのはちゃんの世界が、アタシ達の力を必要としてるんだ
って事は分かるわ。

なら、其れには応えるのが礼儀でしょ?――行くわよ、もう一度あの場所へ!!なのはちゃん達の世界へ!!










 To Be Continued…