Side:洸


――Pipipipipi……


「洸ちゃん、朝だよ?もう起きないとダメだよ?」

「んあ……栞……何時もありがとな。」

あの夏休みもあっという間に終わって、今は2学期……今日も今日とて栞が起こしに来てくれてる訳で、きっと美味しい朝飯も用意されてる
事だろうな。
俺にとっては、この上なく有難い環境だが、だからと言って何時までも其れに甘えてる事は出来ねぇ。

璃音からストレートな思いをぶつけられたからって訳じゃないが、俺自身がそろそろ一歩踏み出さないといけないからな……栞との、心地
良い微温湯みたいな関係に一区切りつけねぇとな……



「……洸ちゃん、如何かした?何か、考えてたみたいだけど。」

「ん?大した事じゃないから、気にすんな栞。」

俺は確かに栞の事も好きだが、璃音の事も好きなのは間違いねぇ……だからこそ迷っちまうぜ……どっちを選ぶべきなのかってな。



『いっそ両方ってのは如何だ?』

『却下だ、シューティングソニック!!』

『みぎゃぁぁぁぁぁ!!』



……何だ今のは?オレンジの髪を逆立てた奴が、白銀の龍に撃滅されてたが……気にしたら負けだな。――だが、俺は如何すれば良い
のかは皆目見当が付かねぇ……此処は年長者の意見を聞いてみるに限るな。











リリカルなのは×東亰ザナドゥ  不屈の心と魂の焔 BLAZE113
『Love&friendship&longing』











そんな訳で、俺はどうすればいいでしょうか志雄先輩?男として、中途半端な事だけはしたくないんで、宜しくご指導ご鞭撻のほどを!!
マジ頼みます志緒先輩!!



「頼まれたからって、如何にか出来る訳でもねぇが……大事なのはテメェの心だぜ時坂?」

「俺の心っすか?」

「そうだ。
 お前は倉敷や玖我山の事を如何思ってんだ?其れを考えりゃ、自ずと答えは出て来るもんだと思うがな?」

「其れはそうなんすけど、だから迷ってんすよ俺は……」

栞の事も璃音の事も、好きかって聞かれたら、そりゃ勿論好きっすけど、何つーか栞は幼馴染だから大切だし、璃音の事も仲間として大切
な上に、向こうの世界でハッキリ気持ち伝えられちまったんで、何つーか意識しちまってる訳っすよ?
璃音には、バッチリお返ししてるっすからね。



「何方か1人ってのは難しい……と言うか、どっちかを選んじまったら倉敷と玖我山の友情に罅が入るんじゃねぇかって懸念してるって部分
 もあるって感じだな?」

「鋭いっすね……」

「まぁな。
 だがな時坂、そいつは杞憂ってもんじゃねぇか?
 男女関係云々で罅が入って壊れちまうような安い友情程度で、倉敷を取り戻す為に力を貸したりはしねぇだろ玖我山も?――この際、当
 たって砕けろで、両方にテメェの偽らざる気持ちってのを伝えてみちゃどうだ?」

「俺の偽らざる気持ち……」

「まぁ、やるだけやってみな。」



……ウッス、やってみるっすよ志雄先輩。
どっちを先に……やっぱり此処は、栞の方からだな。――璃音にも、栞との関係に決着を付けてから答えを出すって言っちまったからな。








――――――








Side:璃音


只今昼休み、場所は食堂なんだけど……ねぇ明日香、ぶっちゃけ周りの視線がウザい。アイドルとして、見られるのには慣れてるけど、流
石にこの無遠慮な視線にはムカつく。主に男子の。



「まぁ、仕方ないんじゃないかしら?
 自分で言うのもなんだけど、色々と話題の帰国子女と、大人気アイドルグループのメンバーが一緒に居れば注目されると言う物よ。
 ……で、何か相談事があったんじゃなかったの璃音さん?」

「ん~~……洸君の事でね。」

「時坂君の事で?」



うん。
ほら、向こうの世界のバレンタインに、アタシは洸君に『本命』を渡して思いを伝えて、洸君もホワイトデーの時に『必ず答えを出す』って言っ
てくれたんだけど、こっちに戻って来て彼是2週間以上経つのに、まだ答え貰ってないんだよね~~?
これって、暗にダメだったって事なのかなぁ?



「そんな事は無いと思うけれど、時坂君も迷ってるんじゃないかしら?
 バレンタインの時の反応を見る限りは満更でもないんでしょうけど、栞さんの事を考えると答えを出すのが難しい……璃音さんに答えを返
 す為には、栞さんとの関係に一区切りを打たないとならないから……」

「あ~~……確かに洸君もそんな事言ってたけど、アタシとしてはどんな答えであっても、早く回答が欲しい感じ。
 向こうではそうでもなかったけど、こっちに戻って来てから結構影響が出てるのよ……本番では兎も角、練習やリハでミスを連発しちゃっ
 て、ムカつく事にレイカからは『恋煩いでもして鈍ってるんじゃないのかしら?』とか言われる始末!
 オッソロしくムカつくけど、ある意味事実だけに否定しきれないのが尚ムカつく!!」

「……其れは大変ね……」

「そう、大変なの!ワカバやアキラにも心配されちゃってるから、復調の為にも答えが欲しいのよ……」

こんな事言ったらアレだけど、明日香の術で洸君の事操って答えを出させる事って出来ないの?感情の捏造とかじゃなくて、行動を起こさ
せるとかそんな感じで。



「出来ないわよ流石に……私を何だと思ってるのかしら?」

「何って、スタッフオンリーで施錠されてる部屋に、普通に入り込む事が出来る上に、記憶の消去とかも出来るんだから、人一人操る事位
 出来そうじゃない?」

「……言われてみると、否定が出来ないわ。
 まぁ、時坂君を操る事は出来ないけど、貴女のモヤモヤも今日で終わるんじゃないかしら?――昼休みに入ると同時に、時坂君が栞さん
 の事を屋上に連れて行ってたみたいだから。」



マジで!?
って言う事は、栞との関係に決着を付けるって事なのかな?……少し怖いけど、でも大丈夫!
どんな結果になっても、アタシと栞の友情は壊れないし、洸君との関係がギクシャクする事だってないと思ってるから!!――所で、前から
聞きたかったんだけど、明日香ってば洸君の事如何思ってる訳?



「私?私は……そうね、言うなれば時坂君は、最も信頼できる『相棒』って言う所かしら?
 友人以上ではあるけれど、恋人未満には届かないレベルね……正直な事を言うなら、時坂君に異性としての感情は湧かないわね。」

「あ~~……ハッキリ言うね。」

でも、そうなると明日香はライバルになり得ないか。……美月先輩は分からないけど、あの人は多分洸君の方が退くだろうからねぇ。
何にしても、最速で今日の放課後に答えは出る可能性がある訳か……楽しみな反面、ちょっと怖い気持ちもあるわね此れは……








――――――








Side:洸


取り敢えず栞を屋上に連れて来た訳だが、さて如何切り出したもんか?(何やら冷やかしてくれてやがったバカは、じっちゃん仕込みの鉄
拳で黙らせたけどな。)
如何切り出すか……えぇい、彼是考えんのは面倒だ!!栞、俺は――



「洸ちゃんストップ。」

「へ?」

「洸ちゃん、其れを言う相手は私じゃないよ……うぅん、私に其れを言ったらダメだよ。」

「栞?」

ダメって……如何してだよ!俺は決して遊びで言おうとしてるんじゃない!ましてや、ガキの頃の冗談でもねぇんだぞ!!



「うん、分かってる。分かってるけど……洸ちゃんは、その気持ちが本当に自分のモノだって、自信を持って言う事が出来る?」

「え?」

「『倉敷栞の死が無かった事になっていた10年間』……夕闇の使途となった私が吐き続けていた嘘。
 其の10年は、『私の望む形』で進行していた……その中には、洸ちゃんが私を好きになってほしいっていう思いもあった――だから、洸
 ちゃんのその思いは、私の願いによって作られた物かも知れないんだよ?」



んな……そんな、そんな事ってあるのかよ!!
あの白い神獣をぶっ倒して、お前は因果が紡ぎ直されて完全復活したんだ!だったら、お前が嘘を吐き続けてた10年もリセットされた筈じ
ゃねぇのかよ!!



「確かに因果は紡ぎ直されて、私は復活したけど、私が死んでからの10年が本当の意味でなくなった訳じゃない。
 因果の紡ぎ直しは、いわば上書き保存みたいなものだけど、それは表面上のモノだから、私が作り上げた嘘の10年が無かった事になる
 訳じゃないの……特に、人の感情は。
 だから、洸ちゃんのその思いは、私が都合良いように書き換えたモノなんだよ。」

「そんな……!!」

「其れに、洸ちゃんだって気付いてる筈だよ?……自分が本当に好きなのは誰なのかって。」



俺が本当に好きな人、だって?



「よく思い出してみて。
 私が居なくなってた2週間、一番洸ちゃんの事を気にかけてくれてたのは誰だった?――知らず知らずのうちに、洸ちゃんはその人に惹
 かれてた筈だよ?」

「俺を気にかけてくれてた人……?」

栞が居なくなってた2週間は、確かにX.R.Cのメンバーは勿論だが、トワ姉や吾郎先生も俺の事を気遣ってくれてたが……一番俺の事を気
にかけてくれてたのは――







『はい、ライブの特Sチケット。必ず見に来なさいよ?』







――璃音じゃねぇか……!!
ライブの特Sチケットなんて、幾ら何でも簡単に融通できるもんじゃねぇ……相当無理したのは考えるまでもねぇじゃねぇか!!――其れ以
前に、アイツはX.R.Cの活動の時でも、自分から俺とのチームを希望して、そんでその度に俺を元気づけてくれていた……

そして極めつけは、向こうでのバレンタイン……本命を貰って、俺も満更じゃなかったからな。


……ハハハ……馬鹿か俺は。答えなんてとっくに出てたのにな。
其れなのに俺は、栞との心地い関係を手放したくなくて、自分を誤魔化してたってのかよ……マジで、笑う事しか出来ねぇな此れは。



「答えは、出たみたいだね洸ちゃん?」

「あぁ、漸く分かったぜ、俺の気持ちってのがな。
 ありがとうな栞……其れと、ゴメンな――お前の思い、俺は受け止めてやれなかった。」

「うぅん、良いんだよ洸ちゃん……頑張ってね?」

「おう!!」

漸く気付いたぜ、自分の本当の思いってやつにな。
なら、今度は此の思いを璃音に届けねぇとだ……俺の偽らざる思いを璃音にぶつけるのが、璃音に対しての答えだと思うし、俺のマジの気
持ちを気付かせてくれた、栞への感謝と謝罪になるだろうからな。

大分待たせちまったが、あの時の答えを出すぜ璃音!!








――――――








Side:栞


『……良かったのかい?君が受け入れれば彼は……』

「うぅん、此れで良いんだよレム。」

洸ちゃんが私を好きになってくれたら、其れは確かに嬉しいけど、私の望むように操作された感情が残ってる上で、私と結ばれたとして、果
たして、其れで洸ちゃんは幸せなのかな?
私は、洸ちゃんに幸せになってほしいから……洸ちゃんの隣にいるのは、私じゃないよ。



『運命と言うのは残酷だね……もしも、10年前の災厄が無かったら、君達は間違いなく結ばれていた筈さ。
 だが、あの災厄のせいでそれはないモノとなってしまった……にも拘らず、君は彼の幸せを選んだ――君の思いは、尊い位に純粋なモノ
 だと思うな、僕は。』

「純粋じゃなくて不純だよ。」

所詮は、私の我儘だったんだからね……だから、此れで良かったんだよ。



「――此れで良かったってんなら、何でテメェは泣いてんだ倉敷?」

「……高幡先輩?」

泣いてなんか……泣いて……アレ、おかしいな……如何して、涙が止まらないんだろう?――洸ちゃんの幸せを、心から望んでいた筈な
のに、どうして……



「其れだけテメェが、時坂の事を好きだったってこったろ?
 時坂に大層な説教をしてたみたいだが、蓋を開けてみればテメェもそうだったって訳か…お前も、本気で時坂の事が好きだったんだな。」

「……そう、みたいです。」

「そうか……おし、オヤッさんの店に寄って来な。
 元気の出るモン食わせてやっから、其れを食って暗い気持ちなんざ吹き飛ばしちまえ――何よりも、お前が暗い顔してたら、其れだけで
 時坂は大慌てだろうからな。」



其れは、言えてるかもしれませんね。

……初恋は失恋に終わったけど、洸ちゃんと凛音さんは失敗しないでね?……私が望むのは、洸ちゃんの幸せ、只それだけだから。


――頑張ってね、洸ちゃん。










 To Be Continued…