Side:なのは
ある日の日曜日。
今日はお父さんがオーナーの少年サッカーチーム『翠屋FC』の練習試合の日。お父さんのチームだから、試合がある時には応援に来てるんだけど、今回は少しばか
リ相手が悪いかな……相手は、去年の県大会を制した少年サッカーチームだからね。
と、普通なら思うんだろうけど、生憎とそうは思えないんだよね。
「相手は、去年の県大会を制した強豪だが、大学選抜チームやプロ選抜チームじゃなくて、お前達と同じ小学生のチームなんだ……勝てねぇ道理は何処にもねぇ!
確かに相手は強いかもしれねぇが、そんなモンはお前達の『勝ちたい』って言う気持ちと、気合で埋める事が出来るモンだ!!
だから、迷わずに思い切りぶつかってこいや!!お前達なら勝てるぜ、絶対にな!!」
「「「「「「「「「「「おぉーーーーーーーーーーー!!!」」」」」」」」」」」
試合前に、志緒さんが気合を注入してたから。
って言うか、時々日曜に姿を見ないと思ってたら、お父さんと一緒に、翠屋FCの指導に行ってたんだね……まぁ、志緒さんだったら、コーチも出来るだろうけど。
「いやはや、自分で声を掛けた手前、こんな事を言うのは如何かと思うけど、サッカーに限らず、少年スポーツの世界には志緒君の様な指導者こそが、真に必要な
のかも知れないね……本気で凄いよ、志緒君は。」
「志緒さんは、最強ですから♪」
だとしたら、此の試合は、若しかしたら若しかするかもね?――試合開始前から、ワクワクして来たの!
リリカルなのは×東亰ザナドゥ 不屈の心と魂の焔 BLAZE11
『異界化~Eclipse~』
そうして始まった試合は、互いに一歩も譲らない一進一退の攻防になって居た。其れこそ、明日の朝刊の地方欄の一面を飾ってもオカシクない位の大熱戦なの!
前半は相手のペースに嵌って、立て続けに2点を入れられたけど、前半終了間際に1点を返して、其のままハーフタイムに。
1点差で迎えた後半は、互いに決定的な場面が無かったんだけど、30分過ぎに、味方からのロングパスを受けた背番号10のストライカー君がドリブルで切り込み、
ディフェンダー2人を躱す妙技を見せて、同点のゴールを叩き込んだ!!
此の試合はロスタイム無し、延長なしのルールだから、残り時間が2分を切った今、引き分けの線が濃厚なんだけど……多分引き分けだけは無いと思うの。
「して、その心は?」
「勝負は決着がつかないと満足出来ないの!」
「お見事、流石はなのはちゃん、分かり易い答えだね♪」
って、何してるんですか洸さん璃音さん!!からかわないで下さい!!いやまぁ、勝負については本音ですけどね?
「ごめんごめん。俺もそう思うんだけど、なのはちゃんが如何思ってるか知りたかったんだ。」
「まぁ、結果は上々だけどね♪」
む~~~……何か納得できないけど、そう言われてしまったら何も言えないの。でも、そろそろ――
――ピピピピピ!ピーーーーーーー!!
って、ホイスッル?
此れは、何らかの事情で試合を止める時に鳴らされるホイッスル?
大抵はファウルのあった時だけど……若しかして!!
「相手が悪辣な反則を仕掛けて来たみたいだね?
まぁ、そうでもしないと勝ち越し点を与えていたかもしれないから、イエローカード覚悟で特攻して来るのはアリだとしても、あんまり好きじゃないかな?」
「つまりは、PKの大チャンス……」
残り時間は、既に1分30秒を切ってる……其れを考えると、此のPKの重みが良く分かって来るよ……決まれば其れが決勝点になるだろうからね。
でも、このPKを蹴る子はファウルを喰らった本人以外には認められていない……だからこそ緊張が走る。大事な闘いだからね。
キッカーの子もかなり緊張をしては居たけれど、これじゃあ、PKを外すかもしれない……幾ら何でも緊張し過ぎなの!!
だけど――
「緊張してる暇が有ったら、気合を入れろや!!
彼是面倒な事を考える必要は全くねぇ!!その一発に魂を込めろ!!お前ならゴールネットを突き破るシュートが出来る筈だぜ!!]
志緒さんの号令で、一気にチームの緊張が霧散した……私にはそう思えたの。――此れなら、きっと大丈夫だね♪
――ピッ!
ホイッスルと同時に、フォワードの子が助走を付けてボールを思いきり蹴る。
蹴られたボールは一直線に、ゴールの左隅に向かって飛んでいき、相手のゴールキーパーも其れに超反応するかのように横っ飛びする――でも、其のままゴール
左隅に向かうと思われてたボールは、突然強烈な弧を描き、ゴールの略中央へとその軌道を変えて行った。
幾ら何でも、既に横っ飛びを開始していたキーパーが此れに対応する事が出来る筈もなく――
――ズバン!!
ボールはゴールネットを盛大に揺らした!此れで勝ち越しなの!!
「バナナシュートってやつか……漫画とかで見た事はあるけど、リアルでは初めて見たぜ!」
「プロの試合でも、あそこまでカーブしたシュートは見た事が有りません。或は、少年サッカーだからこそ見れた物なのかもしれませんね?」
「案外、志緒先輩のさっきの一発で、潜在能力的な何かが目覚めたのかもよ?」
「待てや四宮、俺は能力開発装置か何かかオイ?」
あはは……でも、志緒さんの一言で、緊張が吹き飛んで気合が入ったのは間違いないと思いますよ?
志緒さんが激を飛ばしてくれたおかげで、最高のシュートが打てたんだと思いますから、祐騎さんの言う事も、あながち間違いじゃないですよね璃音さん?
「確かに、志緒先輩は其処に居るだけで頼りになるし、異界攻略の時だっていつもアタシ達の事を最前線で引っ張ってくれたからね~?
やっぱり、伝説の不良チームのリーダーを務めてたって言うだけあって、周囲を引っ張ってったり、仲間の緊張を解したりとか言うスキルに長けてるのかも?」
「うふふ、特に年下や後輩の面倒見は物凄く良いんですよ?」
「おいコラ、良い人みたいに語ってんじゃねぇ北都。俺は、杜宮学園最強の不良とか言われてる位が丁度良いんだよ。
其れよりも、今は試合だろ?残り時間は……あと40秒って所だな。」
雑談してる間に、何時の間にか残り時間は1分を切っていたんだ!
でも、残り40秒なら護り切れない時間じゃない!!今だって、相手のミドルシュートをガッチリキーパーがキャッチしたし……って、そのボールを思いきり蹴ったぁ!
まさか、残り時間が既に30秒って言う所でのカウンター!?此れは流石に予想してなかったの!!
だけど、其れだけに効果は抜群!!虚を突かれた相手は、対処が一瞬遅れ、最前線のストライカー君にパスが通り、其のままドリブルで切り込んで、ペナルティエリ
アからシュート!!
鋭角に放たれたボールは、吸い込まれるようにゴールに突き刺さり、此れで4対2!!残り時間15秒で2点差……此れは、決まったね!
――ピピー!!
そして、相手の攻撃が始まって少し経ってから試合終了のホイッスルが鳴り響き、翠屋FCは県大会優勝の強豪チームに見事勝利したの!
お父さんがコーチとオーナーを務めてるって言う事で、何度か試合は見た事が有ったけど、今日の試合は今まででも最高の試合だった!!此れは、祝勝会だね♪
――――――
Side:志緒
強敵に勝ったって事で、現在翠屋では盛大な祝集会の真っ最中ってとこだな。
まぁ、県大会優勝って言う強豪チームに、試合終了間近の2得点なんて言う劇的な勝利をした訳だから、祝勝会が大盛り上がりになるのは当然か……でもって、其
れを見越して、大量のシュークリームを用意してた桃子さんは、流石としか言いようがねぇだろ。
尤も、そのお蔭で俺達もこうして祝勝会に参加させて貰ってる訳なんだがな。
「あ、あの!」
「ん?……お前はPKを蹴った……やるじゃねぇか、良いシュートだったぜ?
大事な場面で、アレだけの事が出来たって言うのは上出来だ。此れからも頑張んな。」
「は、はい!!それと、ありがとうございました!!
あの一言が有ったからこそ、俺は思い切りやれたんです!!本当に、ありがとうございました!!」
大した事はしてねぇよ。其れに、俺が何を言おうとも、あのゴールはお前が決めたもんだ、だからそいつを誇れや。
あそこでの追加点がなかったら、最後のカウンターだって無かったかも知れないんだからな……お前は、良くやったぜ。今は祝勝会を楽しみな。
「はい!」
「いや~……本気で、子供には大人気っすね志緒先輩?
こんな事言うのは失礼かもしれないっすけど、志緒先輩で野郎か子供には大人気っすよね……代わりに、同年代の女性にはモテないって言うか……」
「まぁ、女子高生とかからしたら、志緒先輩みたいなタイプは暑苦しいんじゃないの?」
「ま、否定はしねぇけどな。」
学園でも、X.R.C以外の女子から話しかけられたことなんざ殆どねぇからな。俺は、そう女受けするタイプじゃねぇんだろうさ。
確かに、俺も男だから、女に興味がないと言ったら嘘になるが、だからと言って誰彼構わず尻尾振るような軽い女なんざ、寧ろこっちの方から願い下げだぜ?
こんな事言うのは似合わねぇかも知れないが、男ってのは『コイツとなら地獄まで一緒に行ったって良い』と思う女と一緒になってこそ本当じゃねぇのか?
オヤッさんが言ってた事なんだが『男は女の魂に惚れ、女は男の生き様に惚れる』って事らしい……つまりはそう言う事なんじゃねぇのか?間違っちゃいねぇだろ?
「至言っす志緒先輩。此れからは、師匠と呼ばせてください!」
「女は男の生き様に惚れる……為になりました志緒先輩!アタシも、此れから師匠と呼ばせてください!!」
「丁重にお断りするぜ、時坂、玖我山。俺は、師匠なんて呼ばれる器じゃねぇからな。」
「「残念。」」
コイツ等は全く……だが、こうして後輩と触れ合うなんて事は、BLAZE時代の俺だったら絶対に無かった事だから、こう言うのも新鮮だぜ。
――で、如何したなのは、柊?難しい顔をしてるが……
「えっと、なんかジュエルシードの反応を感じたんですけど、凄く弱くて気のせいかなって……」
「私の方も、サイフォンが異界の反応をサーチしたので……ですが、矢張り反応があまりに弱くて……」
ジュエルシードと異界だと?
もし気のせいだとしても、可能性が0じゃない以上は捨て置く事は出来ねぇだろ?……何処から、その反応をキャッチしたか分かるか?
「多分……」
「あの男の子で間違いないと思います。」
アイツは……ゴールキーパーを務めてたガキか。
祝勝会中に何か起きたらその場で対処して、何も起きなかったら少しばかり監視した方が良いかもしれねぇな……何が起きるか分からないから、余計にな。
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そんな訳で、祝勝会は無事終わり、現在俺達は件のガキを着かず離れずの距離で追ってるんだが……まさか、同年代の女子と一緒とはな。
適当な雑談をしてるみてぇだが、ありゃ誰が如何見ても互いに互いを好きあってるんじゃねぇのか?2人とも、雑談しながらも何処か態度がぎこちねぇ感じだからよ。
「その可能性は、否定できませんね。」
「純愛最高ーーー!」
「俺は、純愛以外の恋愛など認めない!!」
「……何て言うか、ノリが凄いですね?洸さんと璃音さんて?」
「まぁ、あいつ等は戦闘スタイル的にも相性がいいからな……自然と仲良くなるんだろうさ。」
玖我山が時坂に惚れてるのは、俺達の間ではバレバレだし、時坂も時坂で満更じゃねぇみたいだからな――コイツ等は、此れ位のノリが丁度良いんだろうよ。
しかしまぁ、今時のガキはませてやがるな?小学生の分際で本気の恋とは、恐れ入るぜ。
「あ、あのさ……その、今日勝てた記念て言う事じゃないけど、これ、貰ってくれない?君に、貰ってほしいんだ!!」
「え?……良いの?……綺麗な石…まるで宝石みたい――ありがとう、大事にするね♪」
「お、おう!!!」
って、ちょっと待てや。今あのガキが渡したアレは、如何見たってジュエルシードじゃねぇのか?如何だ、なのは?
「間違いない……アレはジュエルシードなの!
翠屋で感じた反応が弱かったのは、活性化しきって居なかったから……だったら、今の内に封印しないと――!!」
「待って!!」
如何した柊?
目の前にはジュエルシードがあるんだ、何とかして回収するしかねぇのは分かるだろ……なんだって、止めやがったんだ?事と次第によっちゃ、容赦しねぇぞオイ?
「サイフォンのアプリで感知した異界の反応が強くなってるんです――あの子達を中心に!」
「なんだって!?マジかよ明日香!!」
「大マジよ時坂君……しかもこの反応はフェイズ2……エルダーグリードが迷宮の奥で待って居るレベルだわ!!」
ソイツは大事じゃねぇか!
って、ちょっと待てや……其れだけの異界の反応がアイツ等からするって言う事は……まさか!!
――ピキ…ピキ……ギィィィィィィィ!!
「「!!?」」
空間に亀裂が入って、ガキ共を飲み込みやがった……イクリプスが、発生しやがった!!目の前には、禍禍しく赤く輝くゲートが、亀裂の後で現れやがったからな。
行き成りの展開だが、此処は行くしかねぇだろ!!
「行くに決まってんだろ志緒先輩?コイツをこのまま放置する事は出来ないし、飲み込まれた子達も助けないとだからな……行こうぜ、志緒先輩!!」
「言われるまでもないぜ時坂!!」
異界化が起きたら、即時対処するのが俺達X.R.Cの活動目的だからな。
それは、こっちに来たって変わる事はねぇ!!!目の前で、異界が発生したなら、其れをぶっ潰してやるだけだ――行くぞ、お前等!!!
「「「「「「「おぉーーーーーー!!」」」」」」」
「良い返事するじゃねぇか……じゃあ早速…「待ってください!!」……なのは?如何した?」
「私も連れて行ってください!!ジュエルシードを封印する事が出来るのは私だけですから、だから連れ入って下さい!!
志緒さん達は、今からその真っ赤なゲートの向こう側に行こうとしてるんでしょ?…なら、尚の事一緒に行かないとダメなの!!お願いです連れて行って下さい!」
なのは、このゲートが見えるって言うのかよ……如何やらなのはも『適格者』だったか、あるいはそれに準ずる何かだったって事みてぇだな。
良いぜ、付いてこいや。
どの道ジュエルシードの封印は、なのはじゃないと出来ねぇんだから、連れて行く心算では居たからな。……この際だし、今更別に構わねぇだろ柊?
「暫定的ではありますけれど、同行を許可します。ジュエルシードの封印は、現状ではなのはちゃんしか出来ないから、居るに越した事は無いですので。」
「なら決まりだな。攻略開始だお前等!!速攻で終わらせるぞ!!」
「「「「「「「おーーーーーー!!」」」」」」」
さて、久々の異界攻略と行こうじゃねえか?全力でやってやるぜ!!
――――――
――異界:漆黒の小迷宮
Side:なのは
門を潜って辿り着いた先には、異様な光景が広がっていた。
床も壁も天井も、全てが黒く塗りつぶされた異常その物の光景……此れが『異界』!!何て言うか、物凄い威圧感を感じるけど、此処で立ち止まる事は出来ない。
だって、この異界の最深部に捕らわれた2人を助け出して、ジュエルシードを封印しないとだからね――行きましょう、皆さん!!
「行きます!」
「さぁ、行くぜ?」
「レッツゴー!」
「攻略開始だね?」
「始めましょう。」
「私の出番ね?」
「さぁて、やるか!!」
いざ、異界迷宮の攻略開始なの!!高町なのは……全力全壊で行きます!!異界だろうとなんだろうと、志緒さん達と一緒なら、絶対に攻略出来るだろうからね!
To Be Continued… 
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