Side:アインス
エステルと人格交代した直後にクローゼとエンカウントした訳なんだが……
「其れで、ロレント周辺の水場ではこ~~~んなに大きなリベールブナが釣れる事があるのよ!初めて釣り上げた時は、自分の目を疑ったわ!」
「推定で100リジュのリベールブナですか……其れは確かに目を疑ったでしょうね――其れも相当に。」
「うん、相当に疑ったわ!!」
「疑われた事にいじけたのか、右目が鼻になってますよエステルさん。」
「え、マジで!?」
「ふふ、嘘です♪」
「あんですってー!!?」
平和だ。実に平和だこのやり取り。
エルテルをからかうクローゼと、クローゼにからかわれたエステルと言う構図なのだが、其処に不快感は微塵も感じられない――クローゼだけでな
く、エステルもまたクローゼの言った事を冗談と捉えているからだろうな。
こんなやり取りが出来るのもまた、友人関係であるからなのかもしれないね。……何にしても、私とエステルにとって、クローゼが大切な友であると
言う事は間違い無いな。
夜天宿した太陽の娘 軌跡8
『平和な一時に忍び寄る影』
エステルがクローゼと話しているのを聞いてるだけでも私も楽しいのだが、何と言うかもっとこう、娯楽が欲しいな?
私は読書をしているだけで十分楽しめたが、まだ6歳のエステルとクローゼはそうも言うまい……今は楽しく話をしていても、話のネタは何れ尽きる
モノだからね。
テレビゲームは無理だとしても、カードゲームやボードゲームの類でもあれば良いんだがな……
「そう言えばエステルさん、アインスさん、この間城を訪れた外国の方が持って来て下さったボードゲームがあるんですけれど、良かったら其れで
一緒に遊びませんか?」
「外国のボードゲーム?何それ、面白そう。」
っと、此処でタイムリーな話題が出たな?
グランセル城は申請すれば誰でも見学する事が出来るとの事だったが、リベール以外の国から来た人でも其れは適応される訳か……これ程まで
に開かれた城は、覇王陛下と聖王陛下が共に暮らしていた頃のあの城位だと思っていたが、如何やらそうでもないらしいな。
しかし、外国から来たボードゲームとは、私も興味があるな。
「アインスも興味があるって。」
「其れは良かったです。」
私が知っているモノかも知れないし、私が知らないこの世界特有の物かも知れないからね――で、クローゼはメイドを呼ぶと、件のゲームを持って
来てくれるように頼む。
命じるんじゃなくて頼む……うん、其れが正しいな。
如何に姫殿下とは言え、今はまだ6歳の子供なのだから、如何に使用人とは言え年上の相手には頼むのが常識だ……自分は王族だから偉いっ
てふんぞり返ってる生意気なクソガキも中に入るからな。
と言うか居たなぁ、過去に私の主となった王族の中にそう言うガキンチョが……私の主でもないくせに、親の七光り振りかざして私や騎士達を家来
みたいに扱うのが。
……余りに度が過ぎたので、主に全部話して許可を貰った上で二度とそんなふざけた態度が取れないように全員でみっちりと『教育』してやったけ
れどね。
さて、メイドさんが件のゲームを持って来てくれたが……此れは、双六のようだが?
「クローゼ、これって何?」
「バトル双六と言うボードゲームらしいです。
プレイヤーは夫々ダイスを振って、出た目の数だけ駒を進めてゴールを目指すんですけど、途中途中にあるモンスターマスにはダイスの目に関
係なく止まって、戦闘に勝たないと先には進めないんです。」
「戦闘って、どうやるの?」
「各プレイヤーにはパワーとスキルのチップが1枚ずつ配られ、更にゲーム開始前に引いた『サポート札』によって夫々のチップにプラス補正が入る
んですけれど、戦闘には其のチップを使うんです。
各モンスターには夫々パワーとスキルの値が設定されていて、たとえばパワー3、スキル4のモンスターと戦う場合にパワーで戦う場合は、スキ
ルのチップでモンスターのスキルの値を隠すんです。
そして、其の後でダイスを振り、出た目の数がパワーの値以上であれは撃破、パワーの値未満なら敗北となり、チップを裏返します。戦闘は勝利
するまで繰り返され、全てのチップが裏側になったら1回休みと言う事になります。」
ふむふむ、只の双六ではなく、サポートカードの性能と、モンスターとの戦闘で如何に効率よく勝つ事が出来るかが大事と言う訳だね?単純にダイ
スの目だけでは決まらないという事か。
其れだけでも面白い事だが、駒の形も色々あって楽しそうだな?
エステルはどの駒にする?
「アタシは……そうね、この大きな剣を持った戦士にするわ!なんだかとっても強そうだし!」
「では、私はこの魔法使いの女の子にしますね。」
……何だろう、この駒には物凄く見覚えがある気がするぞ?
ぶっちゃけて言うのならば、エステルの駒はバスター・ブレイダー、クローゼの駒はブラック・マジシャン・ガールだよな?……いや、偶然だ。偶然で
ある筈だ。
こんな共通点がある筈が……
「サポートカードは……アタシは白い龍!!」
「私は黒き魔術師です。エステルさんにはパワーチップ2枚とスキルチップが1枚、私にはパワーチップ1枚とスキルチップ2枚の補正が入ります。」
あったっぽいなオイ!!
エステルが引いたサポートカードは青眼の白龍、クローゼの引いたサポートカードはブラック・マジシャンじゃないか此れ!!……この世界と私が
居た世界は、何処かで共通点があるのかもしれないね。
ともあれ、これで準備は整ったな。
《エステル、ゲーム開始前に言うべきセリフを教えてやる。クローゼにもそう言ってくれるか?》
《了解。》
「えっとねクローゼ、アインスがゲーム開始の前に言うべきセリフを教えてくれるって。」
「ゲーム前に言うべきセリフ、ですか?」
《其れって何なのアインス?》
《デュエル!と高らかに叫ぶ、其れだけだ。そして、自分の番が来たらこう言うんだ……私のターン!とな。》
「デュエルって言うんだって!其れから、自分の番が来たら私のターンって言うんだって!」
「そうですか……では、始めましょうかエステルさん!」
「行くわよクローゼ!」
「「デュエル!!」」
エステル(アインス):パワー3、スキル2
クローゼ:パワー2、スキル3
……なんだか余計な事をした気がしなくもないが、ゲームは楽しんでこそだからね――ゲームを最高に楽しむためであるのならば、楽しむ為のエッ
センスも必要だからな。
以下、ゲーム中のエステルとクローゼだ。
「アタシのターン!ダイスロール……3マス進んで。ラッキー、追加で2マス進むわ!!」
「此れは微妙なマスに止まりましたね?ダイスの目が3以下ならその数だけ戻り、4以上ならその数だけ進むですか……進むか引くかは半分の確
率の博打――その運を引き寄せてみせます!」
「モンスターのパワーの値は2!そしてアタシが出したダイスの目は6!敵をぶった切って先に進むわ!!破壊剣一閃!!」
「パワー値5、スキル値4の強敵ですが、私はスキルで勝負を挑みます……私のダイスの目は5です。
よってモンスターを撃破。ブラック・バーニング!!」
「だ~~!ミミックのマス~~!強制的に1回休み~~!!!」
「ダイスを2回振れるとは言え、パワー9、スキル8ってどんな難敵ですか此れ……5の3……負けてしまいましたか。」
「って言うかゴールに居るラスボスのパワー&スキルがどっちも11って酷くない!?最低でも1回目のダイスロールで5以上を出さないと負け確定
じゃないのよ!!ふざけんじゃないわよ此れ!!」
「1度目は6ですが……2回目は3でしたか!」
……如何やら、ラスボスが可成り強敵みたいだな……エステルもクローゼも、中々倒せずに何度も1回休みになっているからな。
とは言え、此のままでは決着が付きそうにないのでな……少し変わってくれエステル。
《え?うん、分かったわアインス。》
――シュゥゥゥゥゥン……
「エステルさん?……いえ、アインスさんですね?」
「そうだ。此処からは私が相手だクローゼ。」
そして、今はエステルのターンだったのだから、ダイスを振る権利は私にある訳だ……行くぞ、ダイスロール!!……先ずは1回目で出た目の数
は6!
そして、2回目のダイスロールで出た目も6……よってその値は12となり、ラスボスのステータスを上回った!!
行くぞ!バスター・ブレーダーで攻撃!破壊剣一閃!!
――ズバァァァァァァ!!
バスター・ブレーダーがラスボスを蹴散らして、私の勝ちだ。
《アタシもクローゼもめっちゃ苦労したのに、其れをこうもアッサリと倒すとは凄いじゃないアインス!!……でも、なんか美味しい所を持っていかれ
た気分。》
《そう言うなエステル。私達は一心同体なのだから、私の勝利はお前の勝利でもある――私達の勝利だよ。》
《あ、成程!確かにそう言えるわね!!》
……納得してしまったよ。まぁ、エステルは此れで良いんだろうなきっと。
「負けてしまいましたか……ですが、とても楽しかったです。また今度、一緒に遊んでくださいますか?」
「確認など必要ないし、友人であるのならば、共に遊ぶのは普通の事だから遠慮するな――ロレントに戻ったらそうは行かないが、グランセルにい
る間は、お前と居るようにするからな。」
「~~!!///こ、光栄ですアインスさん。また、一緒に遊んでください。」
了解だ……と言い終わる前にクローゼは行ってしまったか――エステルよ、クローゼの顔が若干赤かったように思うのだが、アレが一体何だった
のか分かるか?
《逆に聞くけど、アタシに分かると思ってんの?》
《スマン、聞いた私が悪かった。》
次の機会があれば聞いてみても良いかも知れないね。
だが、クローゼが居なくなってしまったのでは、折角のボードゲームを楽しむ事も出来ん……仕方ない、また図書館に行って本を読み漁るとしよう
かな?
カーネリアの続きも気になるからね。
「失礼、少々相席宜しいかな?」
そう思って席を立とうとした瞬間に真正面に座ったこの男は何者だ?……服装から軍人である事は分かるのだが、一体何者だ?其れに、如何し
て態々私との相席になったんだ?
「其れは、君と話をしてみたかったからだよ、不思議なお嬢さん。
髪の色を自在に変える事など、普通は絶対に不可能だが、君は其れを私の目の前でしてくれた……見られていた事には気付かなかったかも知
れないけれどね。」
「!!」
私とエステルが人格交代をする所を見られていた訳か……少し迂闊だったかもしれんな――滅多にない遠出と言う事で、私も浮かれていたのか
も知れないな。
まぁ、人格交代其の物は見られて困るモノではないのだが、だからと言って簡単に見せて良い物でもないけれどね。
「だが、先ずは名乗っておこう……私はリシャール。アラン・リシャールだ。」
「アインスだ。」
リシャールとやらが自分の名を名乗ってたから、私も自らの名を名乗ったのだが……リシャールとの邂逅が名前の交換で終わるとは思えないから
少しばかり話をするか。
其れに、お前には私に聞きたい事が相当あるだろうからね。――腹を割って話しをさせて貰うぞ。
To Be Continued… 
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