Side:アインス


そして、マテリアル達はエルトリアからやってた者達と生きる道を選び、事件は無事に幕を閉じた。
本来ならばエルトリアからやってきた者達の力で、彼女達の事は記憶から記憶から消された筈だったんだが、あの世界から切り離された事が原因
で全て思い出してしまったようだ。



《何て言うか、凄すぎて頭の理解が追い付かないわ。》

《だろうな。私だって無関係の第三者としてこの話を聞いたら、話の半分も理解出来んだろうと思う。》

そして其れから約一ヶ月後、私は主の元から去る時が来た――別れの挨拶こそ出来なかったが、あの半年間は私にとって最も幸福な時間であっ
たのは間違いないさ。



「……悲しくは無かったのですか?」

「まったく悲しくなかったと言えば嘘になるが、私の命が半年だと言う事は分かっていたから『あぁ、遂にこの時が来たか』と思っただけだったよ。
 我が主はきっと悲しんでくれただろうが、その悲しみを超えて最後の夜天の主として生きて行ってくれる事だろう……私の最後の主が彼女で、本
 当に良かったと思っている。」

其れにだ、あの世界から切り離された事で今私は此処に居て、エステルやお前達と触れ合う事が出来ているんだ……そう考えれば、あの世界で
終わりを迎えた事も、悪い事ではないさ。

さて、私が経験して来た事は此れでお終いだ。
まぁ、ザックリとした話だったから聞きたい事も有るだろう?だから此処からは私への質問タイムと行こうじゃないか、遠慮なく質問してくれ。
姫殿下だけでなく、エステルもな。










夜天宿した太陽の娘 軌跡6
夜天と太陽と白き翼が紡ぐ絆』










「ではまずは私から質問させて頂きますねアインスさん。
 マテリアルと呼ばれた方々の容姿は夜天の主とその友人二人を模していたと仰っていましたが、性格なども同じだったのでしょうか?」

「いや、見た目は兎も角性格はまるで違う。もっと言うならシュテルだけは見た目も高町なのはとは若干異なる。
 高町なのはは私――と言うかエステルの様なツインテールの髪型だが、シュテルは肩までのセミロング……姫殿下よりも若干短めの髪型だった
 からね。
 そして、性格だが……分かり易く言うならば王は傲慢不遜な俺様だけど実は臣下思い、シュテルは基本無表情で話し方にも抑揚が少ないが割と
 ユーモアに富んだ事を言ったりするクールなお茶目、レヴィは……賢さを捨ててステータスを全て攻撃力に全振りしたパワーは凄いが頭が弱いア
 ホの子だ。でも可愛くて憎めない、愛すべきアホの子だな。」

「こ、個性的な方々なんですね?」

「うん、アレは個性の塊だったな。」



《って言うかアホの子って何?アホな子とは違うの?》

《似て非なるモノだエステル。アホな子は只のアホだが、アホの子はアホの成分が其の子の魅力になってしまっているような子の事を言うんだ。》

《アホの子は、馬鹿にされる事は少なくて、誰からも好かれるって事?》



あぁ、その認識で大凡間違いではない。
そもそもにして、マテリアル達は敵ではなかった――闇の欠片事件の時は彼女達もまだ不完全だったのか、私達の前に敵として現れた故に敵とし
て滅したが、砕け得ぬ闇事件の時には今言った個性が爆発していて、大凡敵と言う感じではなくなっていたからな。特にレヴィとシュテルは。



「面白い方々だったんですね。」

「因みにエルトリアからの渡航者は、姉の方は触れたら火傷しそうな熱血、妹の方は……ピンクだな。そうとしか言えない。」

「ピンク……?」

《如何言う事よ其れ?》

「髪の毛もピンク、着ている服もピンク、使ってる武器の色もピンク……彼女こそクィーン・オブ・ピンクではなかろうか?否、訳分からないがな。」

何だってあんなに全身ピンクなのか……一つの色に固着するのは麻薬中毒者の症状だと聞いた事があるが、彼女は人間ではないから其れはな
いだろうね。
と言うか、成長する機械ってどうなってるのか……主と一緒に見た映画のサイボーグよりも凄いんじゃなかろうか?あの映画の主演男優と、助演
女優の筋肉は見事だったな。
さて、他に質問はあるかな?



《アインス、アタシも質問。
 闇の書の一件の時の最後の敵である『闇の書の闇』ってどんな見た目だったの?》

「え、闇の書の闇だと?」

「アインスさん?」

「あぁ、スマナイ姫殿下。エステルが闇の書の闇の見た目について聞いて来たのでね。しかし、闇の書の闇か……どう説明したモノかなアレは。」

「闇の書の闇……夜天の魔導書を闇の書へと変えた防衛プログラム『ナハトヴァール』の暴走体でしたっけ?どんな相手だったのですか?」



姫殿下も興味があるか。
だがなぁ、アレは何と言うか説明に困る見た目だ……え~とだ、丸太の様に太い足が三対六本あって本体はガッチリとした感じで頭は鋭い牙が何
本も生えた……何だろう、爬虫類?恐竜?蛇とも違うよなあれは?
……鋭い牙が何本も生えた厳つい顔の禿げオヤジだ!



《何よ其れ!?》

「何ですか其れは?」

「まぁ、そう来るよな……だが本気でそうとしか言いようがない――あぁ、目の部分は金属のような物質で覆われていたな……今更かも知れない
 が、アレは果たして生物なのか機械なのか判別に迷う感じだ。」

背中には金属質の輪があったし、本体からは独立した砲台があったからね……極めつけはアレだ、本体の中央部には目隠しをされた女性が手足
の自由を奪われた状態で存在していた事だな。
今にして思えばあれこそがナハトヴァールの本体だったのかも知れないね。
まぁ、此れだけでも充分インパクトがあるのだが、私と主の石化の槍で石化した状態から無理矢理再生した姿は……スマン、言いたくない。アレは
本気でダメだ。思い出しただけでも吐き気がするからな。



「そ、其れはすさまじそうですね……」

《貴女が吐き気がするって相当よね其れ。》



どんな世界を探してもアレ以上に醜悪な存在は無いと言えるレベルだ……リンディ提督から聞いた話では、アースラの前に転送された時には、其
れをも上回る醜悪な肉塊になっていたらしいがな。
さて、何時までも私だけが姫殿下と話しているのも悪いから、変わるぞエステル。



――バシュン!



「へ?ちょっとアインス、行き成り変わらないでよ!!」

「髪の色が……貴女はエステルさんですか?」

「はいぃぃぃ!?は、はい、エステル・ブライトです!えっと、初めましてクローディア姫殿下……!!」



エステル……怖いもの知らずのお前でも姫殿下の前では流石に緊張してしまうか――対面の為の空気は作った心算だったのだが、行き成り変わ
ってしまっては驚いてしまったか。
まぁ、頑張ってくれエステル。此れも人生経験だ。



「はい、改めて初めましてエステルさん。クローディア・フォン・アウスレーゼです。
 そんなに緊張しないで下さい。私とエステルさんは同い年なんですから――なので、アインスさんの様に敬語などはなしで普段のエステルさんで
 接してくれませんか?」

「へ?でも……其れって何か問題になるような気がするんですけれど……」

「私が良いと言ったのならばお祖母様が異を唱えない限りは誰も何も言いませんから。
 何よりも、エステルさんとアインスさんには、私と友達になって欲しいと思ってますから……アインスさんの話を聞いてとても魅力的な方だと思いま
 したし、その途中でアインスさんが教えて下さったエステルさんの事も良い人だと思いましたので。
 エステルさん、私とお友達になって頂けないでしょうか?」

「あんですってーーーー!?」



……まぁ、其れは驚くだろうな。
一般平民が一国の姫殿下と友人関係になるだなんて言う事は普通なら絶対に有り得ない事だからね……まぁ、断る理由もないから友達になって
も良いんじゃないかエステル?
未来の女王陛下の友人なんて、早々得られるポジションでもないし、お前としても同い年の友達は居た方が良いと思うからね。



《だけどアインス、アタシと姫殿下じゃ身分が!!》

《身分など、友達になるには必要なモノではない。
 我が主の友人であるアリサ・バニングスと月村すずかも所謂上流階級のお嬢様だったが一般階級の我が主や高町なのはとも普通に仲の良い
 友人として付き合っていたからね。
 身分の差など実に下らない――大事なのは、お前が姫殿下と友達になりたいか如何かだろうエステル?》

《アインス……そうね、その通りだわ。》

「姫殿下、少し驚いたけど貴女がそう言うなら普通に接させて貰うわ。
 其れでアタシと友達になりたいって事だったけど、其れは全然OK!リベールの姫殿下が友達とか、滅多にある事じゃないって言うか、アタシ以降
 あるかどうかも分からないから!
 アタシ達は友達よ姫殿下!!」

「クローゼ……」

「え?」



なんだ?



「私の事はクローゼと呼んでください。
 クローディア・フォン・アウスレーゼ……名前の最初と最後を繋げてクローゼです――新しく私の護衛部隊に入ったユリアさんが付けたあだ名です
 けれど、私は其れを気に入ってますので。」

「クローゼ……分かった、此れからはクローゼって呼ばせて貰うわ。」



クローゼか……良い名だな。
臣下から贈られた名か……主から名を贈られた私とは真逆なんだなクローゼは。



その後はエステルとクローゼの話に花が咲き、クローゼはエステルが暴露したカシウスの彼是に涙を浮かべて笑っていたな……まぁ、『酔っぱらっ
たカシウスがボディペイントをして炎のリンボーダンスをした』なんて聞かされたら笑うなって言うのが無理だし。
そもそも何してんだあの親父は。
取り敢えず、エステルとクローゼが良い友人関係になれたみたいで良かったよ――もちろん私とクローゼもだけどね。

さてと、空中庭園のひと時を終えて女王宮に戻って来た訳なのだが……女王宮に戻ったらクローゼは女王と共に退出したか――退出する際に向
けて来た笑顔が印象的だったな。
そして、残されたのは何やら難しい顔をしたカシウス……何かあったのか?



「お父さん何かあったの?アインスも何かあったのかって言ってるんだけど?」

「あると言えばあったが、詳しい事は言えんな……流石に最高機密をばらす訳にはいかんからな――まぁ、一つだけ確実に言えるのは、女王陛下
 直々に仕事を受けたので、一週間はグランセルに滞在する事になってな。
 お前達の事を如何するか考えていたんだ。」



仕事か……一週間は長いが、だからと言って私達だけ自宅に帰る事も出来まい?……ロレントから家までの道中には魔獣も少なくないからね。
と言うか、既にお前にはグランセルでの生活をする為の何かが出来ているんじゃないのかカシウス?



「お父さん、アインスがめっちゃお父さんの事疑ってる――アタシ達は如何すればいいのかしら?」

「バレてたか……女王陛下にお願いして、ゲストルームを一部屋貸してもらった。俺との相部屋になるが、別に構わんだろう?ベッドは別だしな。」

「うん、問題ないわ。ベッドが同じだったら速攻でブッ飛ばしてるけどね。」

「レナとは一緒に寝てたくせになんで俺とは嫌なのかねぇ……所詮父親は母親には勝てないって事か……父親ってのは肩身が狭いモンだな。」



……其れは、仕方ないとしか言いようがない。母親と比べて父親は肩身が狭い物さ――特に子供が女の場合はな。
だが、王城で生活するなどそうそう体験できる物ではないから、一週間の王城生活を満喫しようとしようじゃないか?この城は広いから色々と探検
しても面白そうだからね。



「そうね、色々と楽しめそうねアインス♪」

「……オイ、問題だけは起こしてくれるなよ?幾ら女王陛下が俺の事を信頼してくれてるとは言え、擁護できる範囲には限度があるからな?」

「分かってるわよお父さん!!」



分かっているよカシウス。問題行動を起こす心算は無いから安心しろ――尤も、城を探索したいと言う欲求を抑え込む事は出来そうにないけどな。








――――――








Side:クローゼ


はぁ……何と言うか不思議な人ですねアインスさんは。
エステルさんのもう一つの人格との事でしたが、彼女からはエステルさんの別人格以上のモノを感じました――アインスさんの過去を聞いたかもし
れませんが、アインスさんの事はとても尊いと思いました。

「アインスさん……」



――ドキン……



「~~~!!///」

な、名前を呟いただけでこんなに胸がドキドキするとは、私は如何してしまったのでしょうか?……まさか、私はアインスさんの事を……そんな、ま
さかあり得ませんよね。
だって私もアインスさんも女の子同士なのですから……だからこの気持ちはきっと、一時の気の迷いの筈……きっとその筈ですね。










 To Be Continued… 





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