Side:アインス


期せずして空中庭園で姫殿下とのランチタイムとなった訳だが……この空中庭園は実に見事だな?高さだけならばスカイツリーには及ばないのだ
けれど、此処からの眺望は正に絶景だ。
王との全域が此処から見渡せるとはな……正直に驚きだよ。



《ホントよね……グランセルの街が一望できるとは思ってなかったわ――流石は王城、ハンパないわね?》

《この眺望と王城はあまり関係ないと思うのだが……》

《其れはアレよ、その場の空気とノリと勢いってやつよ♪》



身も蓋も無いなオイ……まぁ、此れがエステルの魅力でもあるのかもしれないがな。
……さて、空中庭園に来たので、昼食にするとしようか?――本日の弁当は私が作った……平民の食事故に姫殿下の口には合わないかも知れ
ないが、御賞味願いたい。



「綺麗なお弁当ですね……遠出をするときにランチボックスを造って貰った事は有りますけれど、こんなのは初めて見ました。
 お米を握ったモノに、唐揚げに卵焼き……唐揚げと卵焼きは大好物です。」

「そうか、ならば頑張った甲斐があったな。」

唐揚げは前日からワインと塩と胡椒で作ったつけ汁に浸しておいて肉を柔らかくして置いたし、卵焼きは出汁を利かせてハチミツで色の鮮やかさを
演出したからね。
取り敢えず、唐揚げと卵焼きが好物で助かったな。










夜天宿した太陽の娘 軌跡5
ランチタイムは平和っぽい』










そんな訳で始まったランチタイムなのだが……



「此れは、此のおにぎりと言うのはとても美味しい物なのですね?初めて食べました。」



姫殿下は、おにぎりを気に入ってくれたみたいだ――具材を考えに考えた甲斐があったと言うモノだ……この世界には、梅干しも昆布の佃煮もな
かったからおにぎりの具には可成り手間取ったからね。

だが、其れもサモーナの塩焼きの解し身とイクラの塩漬けなんかを使って何とか出来たけれどな。



《そう言えば、あのイクラの塩漬けって……》

《カシウスの酒の肴をちょいと拝借した。姫殿下に食して頂けるなら、イクラとしても本望だろう。》

《まぁ、ヒゲ親父よりも、可憐なお姫様に食べて貰う方が喜びそうね。》



いやはや、実の父親だからこそかもしれないが、エステルは大分カシウスに容赦がないな?……まぁ、此れもまた親子の一つの愛情の形である
のかも知れないけれどね。



「あの、アインスさん、この白い具材は何でしょう?」

「あぁ、其れはブルマリーナを焼いて解したモノをマヨネーズで和えたものだ。私の世界ではツナマヨと呼ばれていた物で、おにぎりの具材としては
 可成りの人気があるんだ。」

「マヨネーズ?」



あぁ、そう言えばこの世界にはマヨネーズは無かったんだった……だから手作りしたのだしね。
マヨネーズと言うのは、卵に油と酢、そして塩を乳化するまで混ぜた調味料だ。生の野菜に付けたり、蒸かしたジャガイモを潰した物に混ぜ合わせ
て使うと非常に美味だ。
因みに、マヨネーズを炊いた米に絡めて、其れを鍋で豚肉と葱と卵と一緒に炒めると凄く美味しいぞ。



《アインス何それ、スッゴク美味しそう!!》

「其れもとても美味しそうですね?何と言う料理なのでしょう?」

「チャーハンと言う。そしてチャーハンもおにぎり同様に、具材を変える事で無限の味の可能性を広げる事が出来る料理だ……私個人としては、豚
 キムチチャーハンが好きだな。」

「ふふ、何時の日か食べてみたいモノですね?」

「ならば、城のお抱え料理人にマヨネーズのレシピとチャーハンのレシピを渡しておくとしよう……キムチに関しては、材料があるかどうか分からな
 いから、カレーチャーハンのレシピがベターだな。
 この世界にもカレーはあるみたいだし。」

「カレーですか……そう言えば食べた事は有りませんね?スパイシーな辛味が止み付きになると聞いた事があるのですけれど……そう言えば、グ
 ランセルにある喫茶店では大層美味しいコーヒーとカレーを提供していると聞きました。」


《はぁ!?カレーを食べた事ないなんて、人生半分損してるわ!!》

《まぁ、あまり王宮で出せるメニューではないだろうな……もしもカレーがドレスに付着したら大変な事になるからな――カレーの染みは頑固だから
 ね――我が主も、ヴィータがカレーうどんの汁を服に飛ばすたびに文句を言っていたよ。》

《貴女の主って子、主と言うよりもお母さんね?》

《お母さんか……言い得て妙だな。》

しかし、姫殿下はカレーを食べた事が無いのか……ならば尚の事、カレーチャーハンのレシピは城のシェフ達に伝授せねばだな?
本物のカレーライスと比べれば、偽物にも等しいカレーチャーハンだが、カレーチャーハンにはカレーライスにはない独特のパラパラ感と香ばしさが
あるから、きっと気に入って貰えるだろうしな。

「姫殿下、偶には女王陛下に我儘を言ってみたらどうだ?お忍びで城下町に出る事位は出来るだろう?」

「そうかも知れませんが、お祖母様に負担をかけたくないんです……其れに、私の我儘でお祖母様を困らせたくありませんから……」



あぁ、そう言う事か……女王陛下に負担をかけたくないから、自分が我が儘を言う訳には行かないと……そうだな、其れは間違ってないようん。
間違い無くお前は良い子だが、だからこそ敢えて言おう……

「この馬鹿チンがぁ!」

「え?アインスさん?」

《ちょ、如何したのよアインス!》



如何したもこうしたも有るか!
姫殿下の考え方は間違ってはいないが間違っている!!女王陛下に負担をかけたくないと言うその考えは尊いものだと思うが、だからと言って自
分のやりたい事を我慢するのは間違ってる!
と言うか、姫殿下はまだ6歳の子供なんだから、少しくらい我が儘を言っても許されると思うぞ?女王陛下だって、孫のちょっとした我儘を頭ごなし
駄目だとは言わないだろう?
もっと自分の意見をハッキリ言えるようにならないと、将来大変なんじゃないか?――お前は、将来の女王陛下な訳だからな。



「私が、女王に?」

「姫殿下の父君と母君は他界しているのだろう?先程そう言っていたしね。
 となれば、王位の継承権は女王陛下の直結の孫である姫殿下が第一位となるのは当然の事……なれば、自分の意見と言うモノはハッキリ言え
 るようになっておいた方が良い。
 少なくとも、今は子供らしい我が儘を少しは言っても罰は当たらんと思うぞ?……エステルなんぞ、我が儘ではないが自分の思った事は遠慮しな
 いでズバズバ言うからな?
 あまりにもズバズバ言うから、時としてカシウスが『勘弁してくれ』と泣きを入れる事も珍しくない。」

《いやぁ、お父さんのお酒の飲み方は流石にね……シェラ姉も一緒になると手が付けられないし。》



それ以前に未成年が飲酒するな、そして其れを見過ごすななのだけれどね。



「自分の思った事は正直に、ですか……そうですね、其れも必要な事であるのかも知れません。
 もう少し、自分の意見や考えを言えるように頑張ってみます……少しずつですけれど。」

《その意気よ姫様!頑張って!!》

「頑張れ。エステルもそう言っている。」

「はい、頑張ってみます。
 ですが、其れは其れとしてアインスさん……先ほど言っていた事――貴女がこの世界の住人ではなく、更には人ではないと言う事が如何言う事
 であるのか教えていただけませんか?貴女に興味が湧きました。」

「そう来たか……ならば、話すとしよう。
 少しばかり長くなるが付き合ってくれ。」

「はい、お付き合いさせて頂きます。」








――――――








Side:カシウス


はぁ、姫殿下とエステル……いや、人格交代をしてたからアインスが空中庭園に行ってしまったが大丈夫かねぇ?姫殿下に無礼を働いてないと良
いんだがなぁ?
エステルはあの性格だし、アインスは冷静な部分があるが少々一般常識に疎い所があるから非常に心配だ……何よりも、アインスの奴は姫殿下
の手の甲に口づけをするなんて事をしやがったからな?
マッタク、何処で覚えたのやらだ。

「して陛下、此度の謁見は如何なる要件があっての事ですかな?」

「其れは……カシウスさん、此れを。王国軍が集めた資料です。」

「此れが何か?……む、コイツは……?」

なんだこれは?……此れは、まるで先の戦争が誰かの思惑によって引き起こされたみたいじゃないか?……いや、実際に戦争とは無関係な第3
者によって引き起こされたのかも知れん。
ですが、此れを私に渡したと言う事は……そう言う事なのですな陛下?



「えぇ……軍を退役した貴方にこんな事を頼むのはお門違いだと言うのは理解していますが、軍を退役した貴方だからこそ、一切の柵に捕らわれ
 る事なく動く事が出来る。
 遊撃士のルールは、軍のルールに比べれば遥かに緩い訳ですから。」

「ですな……しかしまぁ、戦争とは全く無関係の第3者によって先の大戦が引き起こされたと言うのならば遺憾極まりありませんなぁ?
 あの大戦が無かったら、レナは死なずに済んだわけですからな……分かりました、コイツの事を調べてみるとしましょう……ですが、幾ら私でも個
 人の力では限界がありますので、協力者がいるとありがたいですな?」

「ならば、王族親衛隊の若きエースであるユリアを連れて行くと良いでしょう。
 彼女にとっても、貴方との任務はいい経験になるでしょうからね。」



王族親衛隊のエース……其れは、楽しみですな。
何にしても、あの大戦を引き越した元凶が居ると言うのならば、俺はそいつを許す事だけは絶対に出来んだろうな――そいつが居なければ、レナ
が死ぬ事は無かったし、エステルが悲しむ事も無かったのだからな。








――――――








Side:???


くくく……ハハハハ……あ~~っはっはっは!!
やったぞ、遂に完成した!私の右手となる最高傑作が!!……此れから働いて貰うよヨシュア――否、執行者No.ⅩⅢ『漆黒の牙』よ!!



「分かった……僕は何をすればいい?」

「そうだね……先ずは起動試験として先の大戦で放浪兵となった者達を全て殺して来たまえ――何、君ならば大丈夫だ。だから、安心して全て皆
 殺しにするんだ、良いね?」

「……了解した。」



そうだ、それで良い。
そして此れはまだ序の口だ――君の本当の任務は他にあるのだから、もっともっと働いて貰うよヨシュア?……君ならば、私が理想として描いた
『超人』になれるかも知れなからね。

……良い頃合いだから、そろそろ彼も招き入れようとしようかな?……彼の中にある修羅は途轍もない力を秘めているし、ヨシュアが此方にあるの
ならば、彼を引き込む事は簡単だからね。
とは言え、準備は冷静かつ慎重に行わねばだ……途中でばれて止められましたなどと言う事になったら笑えないからね。

何にしても君には活躍して貰うよヨシュア……君程の最高傑作は、もう出来ないかも知れないからね……ククク、どうなるのか楽しみだ!!










 To Be Continued… 





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